その日の夜 マルタ島鎮守府イベントホール
「では、『マルタ島安定化おめでとう!』の宴会を始めます。松島宮、一言」
「飲め! 食え! 騒げ! 以上だ!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「おお!!」」」」」」」」」」」」」」」」」
「………勝手にしてくれ」
松島宮の一言で一気に呆れて脱力してしまい、なるようになれとばかりに放置する事にした滝崎。
まあ、今回は無礼講の宴会であり、堅苦しいのは一切取っ払うのだから、別段問題はないのだが…。
「さてと……よっと」
料理・飲料はバイキング式になっており、滝崎は好きなだけ取って盛り付けた皿とお茶を持って会場の隅っこに腰を降ろす。
会場は既に各々が好き勝手に飲み食いする場に変化しており、よく見ると妖精達も所々で料理や飲料に手を付けている。
しかし、そんな事にいちいちツッコミを入れる時間でもないし、入れる気もない滝崎はお茶を近くに置いて料理に手を付ける。
「……ふむ、やっぱり鳳翔さんが作った料理は美味いな」
事前に日本から空輸させた材料を鳳翔さんや間宮に提供しただけあって美味い事に間違いはない。
なお、材料は松島宮がツテを使って揃えた物ばかりだ。
(そう言えば、重巡や軽巡はギリセーフは居るが…駆逐艦は酒なんて飲んで無いよな?)
容姿的に年齢制限に引っ掛かる可能性のある駆逐艦達に飲酒の心配が出てきた事に気付いた滝崎。
会場内を密かに見渡すと……駆逐艦は料理やスイーツに夢中であり、酒などに目を向けてはいない。
(……ちょくちょく、間違って酒なんて飲まない様に注意をはらっておこう。せっかくの宴会なんだしな)
そう思ってから滝崎は視線を料理の方に戻す。
「なーんや、副官。こんな隅っこで縮こまって?」
そう言われて視線を上げると龍驤が居た。
何時もの格好、だが、頭のバイザーと飛行甲板は居室に置いて来たのか、持ってはいない。
「前に出たり、騒ぎの真ん中に居る性分じゃあ無いんでね」
「まあ、確かに副官は昔からそうやったね」
そう言いながら龍驤が隣にペタンと座る。
「そう言えば、自分、角田中将の代わりになってますか?」
「…あぁ、ウチが着任した時に言うてたあれやな…そんなん、見た通りやって」
そう言って背中をバシバシ叩かれる……何気に痛い。
「松島宮を上手いこと動かしつつ、副官としてあちこちで調節しとるやんか。しかも、異国の地中海やで? 充分過ぎるよ」
「ありがとうございます」
龍驤の批評に滝崎は素直に礼を言う。
「それはそれとして……あの旗艦ヲ級…レキシントンやったな? あれ、大丈夫なんか? エンタープライズの嬢ちゃんみたいな様子やけど?」
「懐かしい話をだしますね…まあ、どちらにしろ、慣れてもらわないと…陸風やフェニックス達も居ますし」
「やっぱり、副官は『様子を見ます』やねんな。また、エンターの嬢ちゃんみたいに殺されかけんとってや?」
「……確かに。あれであちこちに心配されたな…えぇ、気を付けます」
「ほんま、舵取りを間違えんとってや。じゃあ、別んとこに行ってくるわ」
そう言って龍驤は再び宴会の中に入って行った。
その背中を見送り、再び料理に箸を伸ばした時、ニュッと影が掛かった。
「龍驤と話されているのを見ましたので」
「あぁ、霧島か。どうした?」
「レキシントンの事です」
そう言って滝崎の隣…龍驤が座った方の反対側…に座る霧島。
「よろしいのですか、あのままで?」
やっぱりか…と思い、お茶を一口飲んでから口を開いた。
「アメリカ艦だからな。最初はギクシャクするだろう。陸風とかは…ある意味例外だ」
「そうですが…場合によっては深海棲艦より厄介な問題になりますよ?」
「引き込んだ者が爆弾…深海棲艦とは違い、味方だから処置に困る、と?」
滝崎の言葉に霧島は眼鏡を直しながら頷いた。
「霧島、君も部隊長なら解ると思うが、指揮官が仲間を信じなければ何も始まらないし、何も進みはしないぞ」
「それは解ります。ですが、それによって提督や副官の身に何か発生したらどうするのですか?」
「……そうだな、松島宮なら、俺が全力で守る。俺に向くなら…まあ、我が身の浅はかさを嘲笑いながら逝くとするか」
「そんな…その程度で終わる問題ではありませんよ」
「あぁ、わかってる。だけど、厄介者だろうとなんだろうと、俺は皆を信じるし、それが故に出来る限りの事はするよ。なにせ、皆は仲間だからな」
「ほうほう、では、副官はレキシントンを監視する意図は無い、と言う事ですね?」
………いつの間にか青葉がいた。
「レキシントンの監視より、お前を監視するよ、パパラッチ青葉」
「『パパラッチ青葉』は私の固有名詞ですか!?」
「名前を付けてるだけマシだ。そのうち、お前を『パパラッチ』って呼ぶ奴が増えるよ」
「何気にもっと酷くありませんか!?」
「なら、『ソロモンの狼』の方がマシだろう? アメリカ艦は顔を青ざめて逃げるぞ」
「取材出来ませんよ、それ!!」
「仕方無いさ。諦めろ」
そう言って滝崎は再び料理に箸を伸ばした。
その頃………
「貴女が空母レキシントンね?」
そう言ってレキシントンに声を掛けたのは松島宮だった。
「提督の松島宮ね…ウェークと言い、珊瑚海と言い、上手くやってくれたわね」
「誉め言葉…として受け取っておこう。まあ、滝崎の助言お陰なんだがな」
「あの副官ね……本当に余計な事をしてくれたわ」
「それはお互い様だ。そして、あれは戦争だ。仕方あるまい」
「そうね……我が祖国は勝つわ」
「その『勝つ』為にどれだけの非道をおこしたか…そして、その非道を繰り返したか……知らぬのは仕方無いな」
滝崎から聞いているだけに松島宮の言葉は的確である。
しかし、レキシントンはそんな未来と歴史を知らないので、松島宮はわざと言葉を濁した。
しかし……少しレキシントンは空気を読めていなかった。
「まあ、何かあればあの副官に手を掛ければいいだけね」
……ポロリと出たレキシントンの本音を松島宮は聞き逃さなかった。
「……先に言っておこう、レキシントン」
静かにそう言うと松島宮はいきなりレキシントンの左横の壁に手を置き、普段は見せない様々な気を込めた鋭い眼孔でレキシントンを睨み付ける。
「ッ!?」
「貴様がどう思うかは勝手だ……だがな、提督として、誰かに手を出してみろ……特に滝崎に危害を加えたら、あいつが笑顔で許しても、私が許さん…再び深海棲艦に戻し、挙げ句は戻っても奥底が忘れられないぐらいの方法で戻してやる……いいな?」
「………イ、YES」
何時の間にか若干の震えをおこしながら、レキシントンは絞り出す様に答えた。
「私が言いたいのはこれだけだ。後は軍規とかに触れなければ好きにやってくれ。じゃあ、楽しみなさい」
そう言って普段の様子に戻り、手を振ってその場を立ち去る松島宮。
対し、レキシントンは壁をズリズリしながらペタンと座り、一言。
「……何よ、あれ…提督も副官も猫被ってるの? 恐ろしい2人だわ」
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