仕事で山籠りをしていたので……ケータイの充電も出来ないし、触る暇も余りなかったので。
では、マルタ島周辺海域安定化から一晩経ってからをどうぞ。
翌日……マルタ島鎮守府 イベントホール内
「以上、本日の区分は先の通りだ。じゃあ、松島宮、一言」
マルタ島排他的経済水域確保完了から一夜明け、本日の区分割りを発表した滝崎は松島宮へバトンタッチした。
「うむ…昨日はご苦労だった。と言うわけで、今日は午前中に課業を終え、午後からは宴会だ! 無礼講で騒いでよい!! 思いっきり楽しんでくれ!!! 以上!」
松島宮の言葉に歓声と拍手が巻きおこる。
「…………以上、解散」
その歓声の中、滝崎は内心苦笑しながら解散を告げた。
暫くして……滝崎の執務室
「う〜〜ん……どうするかね…」
執務室の執務机に載せられた書類を見て滝崎は呟く。
毎日、戦闘や食事などの時間を除いた時間を書類処理に使った為にその量は少なく、20分程で終わる量であった。
「まあ、さっさと終わらせますか」
そう言って書類執務をパッパと終わらせていく。
そして、ちょうど20分が経過し、最後の書類を『処理済み』の入れ物に放り込んだ瞬間、執務机の内外線対応電話が鳴った。
「はい、こちら副官執務室の滝崎です」
『滝崎副官ですか? 大淀です』
電話の相手は大淀だった。
「大淀か。こちらの感度良好。用件は?」
『工厰の明石から連絡が入りました。新しい艦娘が完成したので、副官へ挨拶に来ます』
『了解。ところで、松島宮への挨拶は済ませたのか?』
『いえ、実は…イベントホール内で宴会のセッティングを…』
「わかった。ならそっちは後回しにしておくよ。じゃあ」
そう言って受話器を戻し、暫く待つとドアがノックされた。
「どうぞ」
「どうも〜、失礼します、青葉です〜。何か一言お願いします!」
……これを聞いて滝崎は思わず顔を机に伏せる。
それも当然、艦娘の中で1・2を争う問題児と言われる青葉だったからだ。
「あれ〜? 滝崎副官、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃあないよ…つーか、なんで名前を知ってる、パパラッチ青葉?」
「パパラッチ青葉って、酷くないですか!?」
「事実だろう! じゃあ、本人はどう思ってるんだ?」
「どんな秘密も暴くスクープ記者青葉です!」
「パパラッチじゃあねえかよ!!」
「あっ、ちなみに副官の事は前の『もう1つの記憶』で知ってますので」
「さいですか…もう、どうでもいい」
これ以上、何を言っても泥沼化するので打ち切る事にする滝崎。
「それにしても、地中海ですか〜…ヨーロッパ…ふふふ、楽しみです!」
「……松島宮め、トンでもない奴を引き込んできたな…はぁ……行くぞ、青葉、鎮守府を案内してやる」
結果論とは言え、何とも言えない艦娘の出現に呆れの苦笑を浮かべつつ、滝崎は制帽を被る。
「何かスクープは有りませんかね?」
「そんな事を期待するな」
その後、滝崎は青葉を引き連れ鎮守府内を案内(青葉の寄り道に付き合いながらだが)し、最後に……工厰の前に来た。
「工厰…建造なんてしてましたっけ?」
「いや、してないよ。ただ、用件は別だ」
そう言って滝崎はお構いも無しに工厰へ入っていく。
中では工厰妖精達が動き回り、明石はデスクワーク、夕張は工厰妖精への指示担当らしく、指示を出していた。
「あら、滝崎副官。フェニックスとセントルイスの報告は…」
「それは昨夜の内に確認した。今回来たのは…あっち」
そう言って保護カプセルに収容されている艦娘を指差す。
この艦娘は霧島隊が最後に敵空母部隊の旗艦ヲ級を撃沈した時にドロップした子だった。
「あぁ…大型艦で回収した艤装から空母タイプ、と言うのは解ったんだけど…後は本人から聞かないと」
「……確かに、正解は本人に聞かないとな…でも、臆測は出来る」
そう言って保護カプセルの横に置かれた艤装に近付き、検分していく滝崎。
飛行甲板、後ろに聳え立つ大型煙突に比べれば小さい艦橋、そして……ウェンチェスタライフル。
「その子、そのライフルで艦載機を打ち出す仕様みたいですよ」
ウェンチェスタライフルを見ていた滝崎にいつの間にか横に来ていた夕張が言った。
「でも、臆測って…」
「実は昨日、龍驤に呟かれたんだ。『なんであの旗艦ヲ級はバレアレス隊に戦力を集中したんかな?』って。まあ、俺も気になってた事なんだけどね。でも、昨日寝る前に一連の事を考えてみたら、あるキーワードが出てきた」
「「キーワード?」」
明石と夕張が同時に呟き、青葉はそれを嬉々としてメモ帳にメモしている。
「前の夕張隊への襲撃は『輸送船団』、今回のバレアレス隊は『神鷹と祥鳳』。この2つのキーワードが交わる唯一無二の海戦の戦没艦と言えば…」
「あっ! まさか!?」
同じ艦隊に居た夕張はこの話に直ぐに思い当たる節を見付けた。
そして、その答えも……。
「そう…私の名前はレディー・レックス…レキシントンよ」
いつの間にか開いていた保護カプセルの中から出て来た艦娘……空母レキシントンが自ら名乗った。
「レディー・レックス…世界四大空母の一角にして、アメリカ最初の戦没正規空母」
「本当の珊瑚海海戦なら、祥鳳を沈めれたのに…第四艦隊が邪魔さえしなければ…」
「想定通りにいかないのが戦争だ。そして、それは数多にある歴史の1つに過ぎない」
もし、ここに祥鳳が居れば確実に一戦が巻き起こるであろう空気が拡がる中、滝崎とレキシントンが対峙する。
「えーと…これはスクープですかね?」
「何を暢気な事を言ってるんですか、青葉さん! と言うか、止めて下さい!!」
暢気な青葉の反応に夕張が前に押し出す。
「なんで私が!?」
「いま、止められる人は艤装を着けてる青葉さんだけなんです!!」
明石は非戦闘艦、夕張は艤装を外している為に止められない。
故に残るは艤装を着けている青葉のみである。
「空母、しかも、レキシントン型なんて荷重です! 戦闘力は元巡洋戦艦のレキシントンに軍配が上がりますよ!!」
「今は艤装無しよ!!」
「いや、無茶苦茶です!!」
そんな青葉VS夕張&明石の論争(?)が繰り広げられる中、工厰のドアが開いた。
「副官、資源補充の報告が……ひっ!?」
入って来た陸風が青葉を見た瞬間、顔が恐怖で引き吊った。
「どうしたの、陸風?」
「あ、あ…あぁ、そ、ソロモンの狼! 重巡青葉!! 単装砲ちゃん! 殺っちゃってー!!」
「なんでいきなり殺意を向けられるの!?」
夕張の質問に答えるかの様に叫びながら、陸風は随伴していた5体の単装砲ちゃんに攻撃命令を下し、訳も解らぬまま反論する青葉。
そして、横でおきようとする戦闘(?)に……
「…………やめた」
そう言ってレキシントンはそっぽ向いた。
「こんな地中海のど真ん中で暢気に漫才紛いな事をやる奴らなんて勝手に滅びるわ」
「おやおや、何かご存知な御言葉で」
「あら、当然じゃない。驕れる者は滅びる…歴史の必須よ」
「確かに……その言葉を戒めとして受け取っておくよ。陸風、レキシントンさんを部屋にご案内してくれ」
「単装砲ちゃん…えっ…あっ…は、はい!」
青葉に向けられていた単装砲ちゃんを慌てて引っ込め、陸風はレキシントンに頭を下げると案内を始めた。
「ありゃ〜、あれは大丈夫ですかね?」
「君よりはマシだと思うがね」
青葉の一言に滝崎はそう呟いた。
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