転生提督・副官のマルタ島鎮守府戦記   作:休日ぐーたら暇人

128 / 131
前後編の2話編成です。
高塚の陸自批判入り…。


128 閑話『怨嗟が故に』 前編

数日後 マルタ島鎮守府 高塚執務室

 

 

「将校自ら、場を壊すのは容認出来んな」

 

そう言って高塚はジロリと筑波を睨む。

 

 

「ですが、艦娘が我々に対して色目を…」

 

 

「イタリア艦隊の人間が艦娘に声掛けまくってるのは日常として、陽炎達がフランス艦隊の士官や兵と間宮でお茶するのが色目を使ってるのか? しかも、エミール・ベルタンが居る中でか?」

 

 

「それでも彼女達も軍人で…」

 

 

「なら、気晴しと交友を深める為に間宮でお茶くらいはいいだろう? そもそも、フランス側からのお誘いだったそうじゃないか? それに彼女達は『兵器』の枠組みにあるだけで『人間』と寸分違わないんだぞ?」

 

 

「しかし…」

 

 

「お前さん、問題ばかりおこすなら叩き出すぞ」

 

筑波の言葉を制し、一層ジロリと睨む高塚。

流石に不味いと思ったらしく、筑波は黙る。

 

 

「着任して数日で医務室の深海棲艦をヴェスタルの制止を振り切り尋問しようとしたり、鳳翔や酒保で艦娘が居る事にケチつけたり、飯についてどうのこうの言ったり…問題をおこし過ぎてる。医務室でエンタープライズにデコピン一発で済んだのは彼女の良心だ。下手したら、家族に等しいヴェスタルの制止を振り切るお前を空爆で殺したとしても、多分、俺は事故死扱いで報告するがな」

 

 

「なんでですか!?」

 

 

「お前さんがやってる事の方が問題だからだよ。お前さんが深海棲艦や艦娘に否定的なのは理解するが、それに他人を…特に他国人を巻き込むな。悪意に満ちた一個人の我儘を聞く程、俺は寛容的でな無いからな」

 

 

「ではお聞きしますが、3佐は深海棲艦を憎くは無いのですか!?」

 

 

「あぁ、憎く無い」

 

 

「………はぁ!?」

 

余りにもアッサリした即答に暫し間が空いてる反応する筑波。

 

 

「どうせ、対馬海峡の一件を引き合いに出すんだろうが、残念ながら甘いな。あれはウチら自衛隊のミスが招いた結果だ。既にある程度とは言え艦種が判明していた時点で陸戦用防御陣地など、なんの役にも立たない事は第二次大戦中の史資料を漁ればよかったし、欧米では対砲レーダーの存在から同一陣地での砲撃はあのアメリカ軍すら砲兵同士の撃ち合いではしない。故に砲陣地の強化・擬装は余りしていないのが現状だ。そんな中でバカみたいに擬装網絶対・砲兵陣地強化絶対に動く自衛隊の古臭いやり方が犠牲の原因だ。つまり、温故主義が招いた結果だよ」

 

 

「あ、貴方は…貴方は同僚の死が味方が原因だと…」

 

 

「あぁ、だから、俺は中央から嫌われてる。幹部になり、憲兵隊に行っても同じことは言い続けてきたからな。まあ、岡山市の一件もあるから、余計だろうな。しかし、君のその口ぶりから察するに、君は深海棲艦に近親者を殺されたかな? そうなら…」

 

 

「お話は終わりの様ですね! 失礼します!」

 

そう言うと筑波は慌てながらも敬礼して退出しようとする。

 

 

「言っとくが、放り出さないのは君が磨けば光ると見ているからだからな……聞いてないか」

 

退出しようとする筑波の背中を見ながら言ってはみたものの、聞いていないと判断した為に高塚はあきつ丸と神州丸に聞いてみた。

 

 

「やれやれ、軍団長の苦労がわかる。私心を入れ過ぎるのは指揮統制上禁忌。特に現場指揮官になると、自らが死ぬならともかく、部隊の全滅を招く恐れがあると言うに…あっ、軍団長の差配にある私心は違うからな」

 

 

「大丈夫、大丈夫。そこら辺は理解しているつもりだ」

 

神州丸の言葉に高塚は苦笑いを浮かべながら言った。

 

 

「あはは……ですが、高塚殿、このままと言うのはどうかと…」

 

 

「あぁ、わかってる。皮肉な話だが、彼を面接で海軍から陸軍に配置を変えた面接官に礼を言いたいよ。多分、あのまま海軍将校になってたら、間違いなく、ブラック提督として俺が捕縛に行っていたところだ。兎にも角にも、筑波の経歴を調べよう。あれで将校枠に入り込めたのは多分、何かしろで深海棲艦に家族を殺されたからだろう。それを見ない事には判断がつかん」

 

あきつ丸の言葉にそう言って高塚は業務パソコンに正対した。

 

 

 

暫くして

 

 

 

「で、何の用だ?」

 

 

「済まん。海軍のお前なら、なんか知ってないかと思って」

 

そう言って高塚は滝崎に筑波の経歴書を渡しながら頭を下げる。

 

 

「ふむ…ん、『サン・ロイヤル号襲撃事件』? かなり初期の事件だな?」

 

 

「あぁ、故に陸自からのアクセスだと概要説明の数行で終わっちまう」

 

 

「だろうな。一応、正式な報告書は出てるが簡易的に『深海棲艦に襲われた』だからな。しかし、よかった。これなら、俺も調べた事がある」

 

 

「ん? 『調べた』?」

 

 

「あぁ、と言っても、深海棲艦の行動パターンを把握したりとかする為の調査だったから、ある程度しか覚えてないが」

 

 

「いや、それでもいい。それで?」

 

 

「うん、九州博多から中国の青島への航路客船『サン・ロイヤル』が数隻の駆逐艦と2隻の軽巡に襲撃を受け撃沈された。夜の襲撃だった事と襲撃から沈没までが急激だった事からか、救命ボートと飛び込んで助かった人間以外は全員死亡している」

 

 

「航路図で見る限り、サン・ロイヤルが途中で引き返してるのは?」

 

 

 

「警戒中の中国海軍がレーダー探知で深海棲艦の集団を確認した為、通報を受けたウチも航行船舶に引き返す様に警報を出したんだが…多分、別部隊に捕捉されたんだろ」

 

 

「なるほど…」

 

 

「ふむ……筑波君はこの一件で両親を亡くしているのか…ん、妹は昏睡状況下で発見され、今は入院中か」

 

 

「あぁ…まあ、これだけあれば、深海棲艦を恨むわな」

 

 

「わからんでもないが…深海棲艦を殲滅なんて、不可能に近いぞ」

 

 

「だな。海で地球の約7割が構成されてる。これで殲滅するなら、核で地球を自爆させるか、それが嫌なら、世界中の国の国家予算全てを軍事費に使ってでも1つづつ潰していくか、だな」

 

 

「どちらをとっても、本末転倒だな。皮肉だが、核兵器の出現で殲滅戦争による自滅に気付いて外交戦に舵をきった事の証明をしているみたいだな」

 

 

「あぁ。殲滅戦争やって、唯一の家族である入院中の妹を死なせましたなんて、自殺もんだ」

 

 

「「まあ、どっちにしても難しいよな、これ」」

 

ハモる2人だった。

 

 

 

次号へ




ご意見ご感想をお待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。