転生提督・副官のマルタ島鎮守府戦記   作:休日ぐーたら暇人

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高塚メインのお話。
前話に出た『岡山市占拠事件』がメイン。


127 非正面戦 5

翌日 マルタ島鎮守府 間宮(開店前)

 

 

 

「…つーことで、この情報は現在、民兵隊とイタリア警察等により裏取り中だ。なお、俺は8割がた確実だと見てる」

 

昨日の夏春麗の情報を関係各所に伝え、裏取りを任せ、更にその情報を『対処部隊』の摩耶・天龍・龍田・木曽・川内ら艦娘達と富山・小倉・練馬ら警備隊の『駐屯地娘』を集めて説明していた。

 

 

「『蛇の道は蛇』…だからですか?」

 

 

「皮肉な事にな…それは置いといて、今回の件は前々から言う通り、市街地戦、或いは屋内戦になる事は確実だ。よって、近々、屋内戦…CQB訓練を民兵隊、海兵隊、カラビニエリの協力を受けて実施する…なお、自衛隊方式はほぼ通じないと思え。何故なら、相手は自衛隊とは違う。闘争や抗争、暗殺等々に慣れたプロだ。警衛が実戦なんて軽々しい事を言う程に甘くは無い状況を潜り抜けてきた人間達だ」

 

 

龍田の言葉に肯定する高塚。

そして、それに続く言葉は後半になる程、重く鋭いものになっていた。

 

 

「つっても、相手はマフィアだろ?」

 

 

「はぁ、何を言ってるんですか。日本のヤクザも政治家との関係もあったんです。イタリアマフィアなんて、国内どころか、国外にも関係があるんですよ? しかも、傭兵や暗殺者を雇うなんて朝飯前でしょう」

 

富山の言葉に対し、大宮が何時もの口調で鋭く言う。

 

 

「大宮、意外に物知りだな」

 

 

「意外は余計です。そもそも、今回の一件は特防科員としては貴重な実戦なんですから」

 

 

「あぁ、そうだったな…にしても、一番頭が痛い問題が身内ってのがな〜」

 

 

「アレか? 『現代軍の実戦経験』云々の話か?」

 

 

「まことにもってその通りだ。確かに自衛隊を含め、一部を除いた大半の国が実戦経験が無いに等しい。ISISが出るまで小規模のテロ・武装集団とのドンパチは経験してるところは多いが、残念ながらウチはそれすら無いからな」

 

 

「でも、最近は在日米軍とも実戦訓練はしているから、それについては問題無い、と言うのが陸自上層部の主張ですよね?」

 

高塚のぼやきに天龍がその核心を言い、それを皮肉そうに高塚が肯定すると練馬が言った。

 

 

「うーん、まあ、その意見に間違いは無いんだが…うーむ…」

 

 

「あらあら、一番の『実戦経験者』もお困りの様ね」

 

その声に顔を向けるとウォースパイト、フッド、ヴァリアントの3人が居た。

 

 

「あれ、オールドレディ…開店まで時間がある気がしますが…?」

 

 

「あら、今日は間宮スイーツ新作の試作品を頂く事になってるの。憲兵さんもそれが狙いだと思ってましたわ」

 

 

「……あー、そうだった」

 

悪い癖である、『1つの事に集中する為に他の事を忘れる』を発動していた事に高塚は内心溜息を吐く。

 

 

「そう言えば高塚少佐、少佐って初期迎撃戦時のボコボコ劇は聞いたけど、他の話はしないよな?」

 

 

「いや、他って言っても、憲兵なってからは馬鹿な奴らをシバイてただけであってだな…」

 

 

「あら、ゼネラル・高塚、嘘は言ってはダメよ。『2度の地獄』を見た『岡山の死神』である事を隠す必要も無いのでなくて?」

 

 

「あはは…お戯れはやめて頂きたい、オールドレディ」

 

摩耶からの問いに高塚は『大した事はしてない』と答えるも、そこは情報通の英国艦娘のウォースパイトの言葉に苦笑いを浮かべる。

 

 

「あぁ、それなら米軍の尋問資料に記載されていたものですね。あるテロリストが『あれは悪魔だ! 死神だ!』と言い始めたので米軍が言い始めたとか…自衛隊も『某自衛官』とか『某陸士長』と暈して書いていたのは高塚少佐だったんですか」

 

この中で一番内容を知っている大宮が納得した様に(そして、意地悪そうに)言った。

 

 

「なんだ、なんだ、少佐殿! 『死神』なんて渾名があるなら、堂々と名乗ればいいじゃんか!」

 

 

「だから、あれはアメさんが勝手に言い始めたんだよ」

 

 

「まあ、報告書と米軍の尋問資料等々を読めば高塚少佐がそれを言いたく無い理由は察しますがね。あと、陸上自衛隊が極端に隠そうとするのも」

 

 

「少佐、ここまできたら少しでも話してくれ。脱線しかけてる『実戦経験』の話も兼ねてな」

 

天龍の羨ましそうな声にツッコミを入れ、ある程度知っている大宮がある意味煽り、木曽が話を戻そうとする。

 

 

「やれやれ…詳細なんて語ってたらキリがないから、概要を簡単に言うが…『初歩訓練しただけの歩兵』と『何も知らずに乗り込んだ装甲車輌』が屍の山を築いた…それだけさ」

 

 

「………ごめん、少佐、アッサリと言う割には存外ヤバイ事言ってるし!」

 

先程までの陽気な雰囲気とは一変、絶句する面々を代表するかの様に富山が言った。

 

 

「いや……そもそもな話、ホントなら岡山は牽制だったんだぞ? 深海棲艦の出現でアメリカの介入は無いと踏んだ北朝鮮が同じく対応で隙の出来た日本に工作員を送り込んで鳥取市を掌握して一発逆転狙いの『同盟国』作りをやろうとしたんだからな。更に対馬海峡迎撃戦で自衛隊は被害甚大と報道されて、正に千載一遇のチャンスだったしな。まあ、鳥取の本隊は工作船に人員や武器弾薬を載せて向かってたら、自分達の有利になる筈だった対馬海峡突破部隊の駆逐艦に襲われて、警察に保護され、更に先に来てた奴らも警察が手配して捕まえたけどな」

 

 

「それを知らない牽制隊の岡山市占拠隊が武器弾薬が少ない中でやったら、警察よりも自衛官の被害がヤバかったなんて話ですからね。一般隊員だけでなく、格闘記章やレンジャー記章持ちも大半が死傷しましたし」

 

高塚の言葉につけか加えるかの様に大宮が言った。

 

 

「ちょ、ちょっと待って! なんでそんなに被害拡大してるのよ?」

 

 

「狭い路地に誘い込まれ、ブービトラップや頭上からの手榴弾・火炎瓶攻撃。屋内で適合しない武器を使用し、更に狙撃やブービトラップによる死傷率増加。支援する筈の戦車や装甲車が弱点の上方や側面に何の対処もせずに市街地へ入った事によるRPG攻撃による損耗。挙句は『治安維持』名目による出動で武器使用を制限され、工作員と判明後も政治的理由を含んだ為に13旅団や中部方面が制限排除に動かなかった事……原因もキリがない。記章持ちの被害が増えた原因はアメさん曰く『自衛隊の格闘は基本を重視するあまり、応用や牽制と言った事が不得意。地形・地物を近接格闘戦でも考慮しない。挑発に耐性が無い為、直ぐに引っ掛かる』なんて尋問報告書に書かれてたそうだ」

 

 

練馬の質問に高塚は平然と答えた。

そこまで言った時、滝崎が入って来た。

 

 

「あっ、高塚。松島宮がお呼びだよ」

 

 

「りょーかい。じゃあ、ちょっと行ってくるわ」

 

そう言って退出した後、大宮が切り出した。

 

 

「ちなみに、高塚少佐がなんで『死神』なんて言われたか知ってますか?」

 

 

「あれだろう? 工作員をヤリまくったからだろう?」

 

さも当然と答える天龍。

 

 

「それはあってます。ただ、高塚少佐はあの時、対馬海峡迎撃戦の後だったので、旅団は『精神安定休暇』を出し、少佐本人は休日外出中…つまり、巻き込まれた形です。なのに『死神』ですからね、変と思いませんか?」

 

 

「変も何も、少佐は少佐だろう?」

 

摩耶の返答に質問した大宮が『やれやれ』と溜め息を吐き、言った。

 

 

 

「米軍の尋問報告書にこうあります。『テロリスト曰く、『赤い目をした奴が瞬く間に数人を倒した』と震えながら証言した』と」

 

 

 

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