転生提督・副官のマルタ島鎮守府戦記   作:休日ぐーたら暇人

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……また、意味のわからんタイトルに…。
なお、今回約3500字です。少し長めです。

では、どうぞ。


122 非正面戦 1

翌日 早朝 マルタ島鎮守府一角

 

 

日が昇り始め、朝靄が漂う中、高塚は迷彩服姿に工廠妖精達が伊勢・日向の主砲の残鉄から作ってくれた軍刀を腰に携えていた。

周囲へ感覚を研ぎ澄ませるかの様に目を閉じ、スッと柄に右手を添える。

そして、カッと目を開くと居合いの様に素早く抜いた。

 

 

「えいっ!!」

 

気勢ある掛け声と共に抜刀からの一撃目の逆袈裟斬り。

 

 

「やあっ!!」

 

二撃目に袈裟斬り。

 

 

「でぇいっ!!」

 

三撃目、横一文字斬り。

 

 

「とうっ!!」

 

四撃目に突き。

 

 

「チェストォォ!!」

 

最後の五撃目に示現流とまではいかないものの、縦一文字斬りで閉める。

そのまま、息を吐きながら軍刀を鞘に納めた。

 

 

「きゃあっ!!」

 

 

「なんだ?」

 

悲鳴が聞こえのでそちらを向くと、近くの農園から採れた野菜とそれを入れた籠を抱えながら五月雨が尻餅をついていた。

 

 

「大丈夫か、五月雨?」

 

 

「あっ、はい…ごめんなさい、邪魔したみたいで」

 

 

「いや、一通り終わったところだ。五月雨は農園の野菜を採りに来たのかな?」

 

 

「はい! でも、憲兵さんは毎朝こちらに?」

 

 

「いや、今日はちょっと早く目が覚めてね。いつも、起床ラッパの後なんだが…野菜は台所か、鳳翔さんのところだね? 持って行くの手伝うよ」

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

「いやいや、驚かせたみたいだし。それに一足先に朝飯を確認出来るからね」

 

そう言って高塚は野菜籠を持ち、五月雨と共に台所へ足を向けた。

 

 

 

滝崎執務室

 

 

 

「滝崎、お呼び出しって要件なんだ?」

 

 

「おう、高塚、新メンバーの本土からのテコ入れ組と新規建造組の紹介を、と思ってさ」

 

滝崎から電話で呼び出された高塚が来てみると、ズラリと並んだ艦娘達を横目に滝崎が言った。

 

 

「テコ入れ組が鹿島、神威、秋月型3人、神風型5人の10名。新規建造組が阿賀野、天津風、夕雲、清霜の4名。済まないが…」

 

その滝崎の言葉を遮るかの様に執務室のドアが開き、香取と酒匂、朝顔を中心とした関係メンバーが殺到し、ワイワイガヤガヤとした後、全員を連れて行ってしまった。

この嵐の様な状況に滝崎は口を出す暇もなかった。

 

 

「……早いな、おい。あれ、高塚は…」

 

 

「……痛ててて…ドアに後頭部ぶつけたし…」

 

ドアの陰から後頭部を摩りながら高塚が出てきた。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「島風が開けたドアが後頭部直撃さ。まあ、大丈夫だ…それより、メインが居なくなったな」

 

 

「あぁ…仕方ない。茶でも飲みに行くか」

 

 

「そうだな」

 

そう言って滝崎はドアを閉め、行き先明示版の『間宮』の欄に赤色磁石を置いて、高塚と共に間宮へと足を向けた。

 

 

 

廊下

 

 

 

「にしても、73APCは大丈夫だったのか?」

 

 

「装備一覧目録に書き加えるだけだったからな。古いのシュレッダーにして、チョチョイと書き加えただけさ」

 

 

「ホントに慣れたな」

 

 

「仕方ないさ…だが、工廠ヤバ過ぎだろう。ホントに其の内、MBTを作っちまうな」

 

 

「やれやれ、MBTを作る工廠なんて、本土に帰ったらテンヤワンヤの大騒ぎだ」

 

 

「まったく、艦娘用の装備品レベルでなく、本格的な物だしな。73APCも幻の20ミリ機関砲搭載型まで作るぞ、あのままだと」

 

 

「お前さんが作れ、って言うのと違うのか…まあ、いいが」

 

そんな事を話していると、廊下の角からキョロキョロしながら筑波が曲がってきた。

そして、高塚を確認した瞬間、小走りで駆け寄って来た。

 

 

「あっ、少佐、少しよろしいですか?」

 

 

「なんだ、筑波。73式APCの件なら処理済みだぞ」

 

 

「はぁ? 73式APC? なんのことでですか??」

 

 

「いや、知らないなら、それでいい。で、要件は?」

 

 

「あっ、はい、実は……場所を変えませんか?」

 

そう言いながらチラチラと滝崎を見る筑波。

 

 

「なんだ、滝崎に聞かれると何か不味いのか?」

 

 

「はあ、まあ、その、色々と…」

 

気まずそうに応える筑波に高塚はポンと手を打つ。

 

 

「よし、間宮行くぞ。ほら、付いて来い」

 

 

「それは名案だ」

 

 

「へ、はい!?」

 

高塚と滝崎により、間宮へ強制連行される筑波だった。

 

 

 

 

間宮 座敷席

 

 

 

「で、滝崎に聞かれたくない要件ってなに?」

 

間宮に頼んで座敷席を使わせてもらい、注文の品が待つ迄の間、高塚は話を進めようと筑波へ言った。

 

 

「え、えっと…あの、漏洩の…」

 

 

「筑波、内部に漏れるなんて事を一々気にしても仕方ないぞ。駆逐艦や軽巡には耳の言い奴もいるし、どうせ、その『要件』とやらもいつの間にか知る人は知る事になんるだ」

 

 

「それに外部に漏れる可能性はない。君は知らないだろうが、間宮さんは艦(ふね)の時は通信傍受によって電信関係規制係…今ふうに言う保全係もやっていたんだ。自らのテリトリーである間宮の店内に盗聴器、並びに外部盗聴装置からの受信盗聴をさせる程、あの貴婦人はヤワではないよ」

 

 

「つーか、数日前に抜き打ちの盗聴器点検やったからな。ほれ、早う話せ」

 

まるで筑波の逃げ道を閉ざすかの様な2人の言葉に唖然としつつ、筑波は話始めた。

 

 

「これは陸自…陸軍上層部から内々に、との言い付けを含まれて受けた事なのですが…」

 

 

「俺を通さない、って事は公式に残すのは『面子』的に不味い事か…或いは俺が嫌われてるからかね。まあ、派遣隊司令の筑波に回してくる辺り、後者かもしれないが」

 

 

「…えっと、私もケータイの国際通話で指示されたので…」

 

 

「「いや、どっちかってと、そっちがヤバくね」」

 

2人のツッコミに筑波は困惑しつつ、話を続ける。

 

 

「その…大雑把に話しますと、マルタ島鎮守府で情報収集を行ってほしい、との事です」

 

 

「情報収集? 何の?」

 

 

「はい…これは未だ公式にされておりませんが、友人同士の日本人女性2名がイタリアでの消息を最後に行方不明になっておりまして…」

 

 

「いや、待て。それはどっちかと言うと外務省とその出先である大使館とかの仕事だろう。なんで個人経路を通してウチに来るんだ? なんか有るなら先に言っておかないと後でややこしいぞ」

 

 

「まあ、公式に出来ない理由が個人経路を通す理由と直結してそうだがな。で、情報収集の理由は?」

 

高塚・滝沢の言葉に筑波は『秘密にしろって無理じゃない?』と此処に居ない誰かに言いたそうな顔をしてから口を開く。

 

 

「はあ…その行方不明の方の一方はヨーロッパ諸国で大使経験のある外務省キャリアの御息女、もう一方が陸自上層部幹部の姪御さんだそうです」

 

 

「「あぁ、なるほどね〜」」

 

筑波の言葉で全てを察せた2人。

 

 

「行方不明になっても中々仕事しない事を知ってる外務省キャリアの父親が友人の親戚に陸自筋が居たから御協力願った、ってとこかな」

 

 

 

「妥当な線だな。しかし、それはそれで外務省から抗議は来ないのか? 明らかに外務省と一部政府筋が嫌がりそうな事だが?」

 

 

「それに関してですが、今回の一件に関して外務省は黙認するそうです。実は御息女のご両親は両方共に父親は外務省現役幹部、故に外務省を黙らせる事が可能で、また、姪御さんの父親は経産省キャリアで御息女の父親と同期の親友、母親方の父親が政府筋に関係を持つ実力者だそうです」

 

筑波から関係者の裏筋を聞いた高塚と滝崎は……

 

 

「……つまり、そう言ったところを黙らせられる方々の親戚か…確かに真剣にもなるわな」

 

 

「それに、そこまでくると防衛省も知らぬ存ぜぬ、とはいかんだろうしな。多分、こんな事は今後ほぼないだろう」

 

 

「皮肉な利害の一致だな。さて、行方不明の件だが、イタリアで消息不明である事を考えたら…」

 

 

「『定例パターン』だな。ほぼ間違い無いだろうね」

 

そう言った頷き合う2人に疑問符を浮かべながら筑波は聞いた。

 

 

「あの『定例パターン』とは?」

 

 

「ん、イタリアマフィアに連れ去られてた、って事」

 

 

「はぁ!? そんな、マフィアが連れ去っても、リスクしかありませんよ!」

 

そう言った筑波に滝崎は『甘い甘い』と言いたげに首を横に振ってから言った。

 

 

「イタリア周辺を含めた地中海の大半が安定化してきたからね。マフィアも商売を再開しだしたんだろう。なにせ、軍や警察より怖い深海棲艦が最大のリスクだった訳だからな」

 

 

「女が金を生むのは裏世界を含めた第三世界では常識だからな。溜まっていた分、需要もパンパンにあるだろう。どれだけ人身売買を規制しても需要があるならやっている。日本人が忘れがちな海外の基礎知識ってやつだ」

 

 

「アジア女性、しかも、日本人の単独旅行なら連れ去るなんて簡単だ。しかも、高値取引間違い無しで目星を付けただろうしな」

 

 

「まあ、まずはそうで有ると裏付けが必要だけどな。つー事で筑波、足取りを含めた現段階での全情報を出せ。そっから情報収集だ」

 

 

「それはいいですが…そこからどうするんですか?」

 

 

「まずはレナータとカラビニエリに事情を話す。まあ、滝崎から話せば色々含めてレナータがF35で大統領府まですっ飛んで行くだろうけど」

 

 

「あはは…やるだろうけど、まあ、いいか」

 

 

 

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