転生提督・副官のマルタ島鎮守府戦記   作:休日ぐーたら暇人

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離島棲鬼が来ます。
(そのまま過ぎる)


110 離島棲鬼

とある日 某所 深海棲艦地中海方面艦隊司令部

 

 

 

「………随分と楽しそうね、捕虜組は」

 

マルタ島鎮守府に収容された捕虜達が艦娘や人間達と遊んでいたり、寛いでいる数枚の写真を見ながら泊地棲姫は意外とも呆れとも(とりあえず安心はしている)取れる呟きを零す。

 

 

「まあ、こっちの意思を知る前からこんなんだったから、今更な気もするがな、マルタ島鎮守府は」

 

 

「含みがあり過ぎね、レ級」

 

報告しに来たマイペースなレ級に離島棲鬼がツッコミを入れる。

 

 

 

「まあ、向こうの話はいいとして、離島棲鬼、わざわざ私とレ級を呼んだのは何の用なの?」

 

 

「簡単な話よ。次のステップへ行く為にレ級の上級者な私がマルタ島鎮守府へ行く事を許可してほしくてね」

 

 

 

 

2日後 マルタ島鎮守府

 

 

 

「で、レ級はヲ級の他に誰を連れてくるんだ?」

 

 

「「さあ??」」

 

埠頭でレ級達を待つ松島宮と滝崎、高塚の3人。

昨日、ヲ級からの艦載機から通信筒を受け取り、レ級達の来航を知り、準備した上でこうして待っていた。

 

 

「あくまで『3人』って書いてあったんだから、人型の誰かだろう?」

 

 

「ヲ級な訳ないから…戦艦か巡洋艦か…まあ、推測の域でしかないがな」

 

そんな会話を交わしながら待っていると…レ級がヲ級ともう1人を連れてやって来た。

 

 

「オヒサ〜、早速飯クレ〜」

 

 

「何時も通り過ぎるマイペースだな、レ級」

 

 

「まあ、レ級だからなんだろうな。ヲ級も元気か?」

 

 

「ウン、元気ダヲ」

 

 

「で、レ級、誰を連れて来たんだ?」

 

松島宮がとにかく話を進めるべく、レ級に訊く。

 

 

「ドウモ初メマシテ、地中海方面艦隊ノ離島棲鬼デスワ」

 

 

「「「あ、どうも、どうも………はぁ!!?」」」

 

普通の対応をしようとして、脳内で整理した瞬間、気が付いた3人だった。

 

 

 

暫くして……

 

 

 

「アラ、ココノスイーツモ美味シイノネ」

 

 

「気に入っていただけてよかったです」

 

レ級とヲ級を高塚に任せ、松島宮はエーディット達への説明に戻った為、滝崎が離島棲鬼の相手をしている。

 

 

「……レ級カラ聞イタトオリノ人間ネ」

 

 

「レ級から…本人はなんと?」

 

 

「『アノ憲兵ノ親戚ダケアッテ、能力ハ中々アル』ト。マア、今日初メテ会ッテ、ソノ点ハワカッタワ」

 

 

「なるほど」

 

そう言って滝崎は注文したアイスコーヒーに口をつける。

 

 

「ソレト…貴方ハ一度コレグライノ事ヲ経験シテイルカラ自信ハアル。デモ、過信ハセズ、慎重ニ、カツ冷静ニ、マタ、因縁モ背負オウトシテルワネ?」

 

離島棲鬼のその言葉に飲むのを止めて、テーブルに置く滝崎。

周囲はレ級の来訪を知って、早めに間宮に来た艦娘達が居るので、何時もの時間帯としては客数は多く、故に離島棲鬼に向けられている目も多い。

よって、滝崎も見られているのだが、そこは余り気にしてはいない。

 

 

「…その事は誰にも言われますね。特に熟練者には」

 

 

「ウフフ、下手ナ褒メ言葉ト受ケ取ッテオクワネ」

 

俗に言うゴスロリ調の衣装にしてはさすが『鬼』と呼ばれるだけあって冷静に見ている事に滝崎は内心苦笑を浮かべる。

 

 

「では、そのついでに…何故、鎮守府へ?」

 

 

「レ級ノ上級者トシテ、『レ級ノ報告ガ上前デナイカ』ヲ確認スル為…ソルト私、甘イ物ガ好キナノ」

 

 

「なるほど…後で、何か包みましょう」

 

 

「アラアラ、其方ノ手配リモ早イノネ」

 

 

「性分…ですから」

 

苦笑いを浮かべながら答えた。

 

 

 

その日の夕方 某所 深海棲感地中海方面艦隊司令部

 

 

 

「ただいま」

 

 

「お帰り……随分と大荷物ね」

 

ヲ級を伴い帰ってきた離島棲鬼に泊地棲鬼は2人が持つ荷物の量を見て言った。

 

 

「本当は例の『副官』さんのお土産の予定がアーダコーダあって増えてしまったの…はい、これは泊地棲鬼の分ね」

 

そう言って離島棲鬼はボンと袋の1つを泊地棲鬼の前に置く。

 

 

「なによ、これ?」

 

 

「名前やら何やらは伏せたけど、貴方も甘い物が必要でしょう? 向こうの間宮羊羹だけの筈だったのだけど、周りの皆さんのお裾分け品」

 

 

「……複雑な気持ちになるが、ありがとう」

 

 

「いえいえ、どういたしまして。そう言えば、武闘派脳筋の戦艦棲鬼を知らない? 酒好きを教えたら、余り物の日本酒とブランデーを頂いたの」

 

 

「戦艦棲鬼なら、またブツブツ言ってそこら辺を歩いていたぞ。あと、喧嘩になるから、その表現はやめなさい」

 

 

「忠告ありがとう。さて、私もちょくちょく、マルタに行こうかしらね。アソコの間宮スイーツ、色んな国の人や艦娘が居るせいか中々独特なのよね」

 

「……はぁ、好きにしろ。仕事をしてくれるならな」

 

 

「うふふ、ありがとう。さっそく、今度の試作品の品評にも呼ばれてるの。今から楽しみね…あっ、そうそう、報告と言えば、マルタの首脳陣、レ級の言葉通り、信用出来るわ。ただ…」

 

 

「ただ…なんだ?」

 

 

「そう、ただ…例の副官さん、結構遣り手よ。おかしな風に聞こえるでしょうけど、提督と副官さんは『大戦』を経験してるわ」

 

 

「…待て、ならば、レ級と話が食い違う。あの『大戦』は70年も前の…」

 

 

「誰も『現世で経験した』なんて言ってないわ。多分、現場から報告のあった、『戦艦に『加賀』が居る』と関係があるのよ。あの鎮守府だけ特殊なのね」

 

 

「……うーむ、なんか、頭痛くなってきた」

 

 

「なら、間宮羊羹でも食べて、休む事ね。じゃあ、私は戦艦棲鬼と会ってくるわ」

 

鼻歌を歌いながらレ級を伴い出て行く離島棲鬼。

その後、泊地棲鬼は溜め息を吐きながら間宮羊羹の包みを剥がし、食べてから小さく「…確かに美味い」と呟くのだった。

 

 

 

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