翌日 マルタ島鎮守府
「総員提督注目。敬礼」
滝崎の号令にブリーフィングルーム(ホテル内のウェディングホール)に集まった艦娘達とカルメン、バレアレスのスペイン組が松島宮に顔を向け敬礼を行う。
「おはよう。休め、早速だが、ブリーフィングと編成を発表する。滝崎」
「では…扶桑艦隊、川内艦隊は昨日はご苦労様。既に聞いたと思うが、昨日のバレアレスとの接触に伴う戦闘においてマルタ領海の艦隊はかなりの戦力を消耗したと思われる。よって、本日は残存戦力を撃滅し、マルタ領海を奪還する」
周囲を見渡し、艦娘達の顔を見る。
皆、真剣な顔つきだ。
「うむ、では、お復習(さらい)だ。昨日の戦闘で敵は2つの主力級戦力が存在している事がわかった。北に戦艦を含む艦隊、南に重巡洋艦2隻を含む艦隊だ。便宜的に北の艦隊を呼称『甲』、南の艦隊を呼称『乙』とする」
滝崎の背後にあったスクリーンが起動し、マップと艦隊を示す赤点が写し出され、2つの艦隊に印付けと呼称が付けられる。
「甲はもちろんだが、乙の戦力も無視出来ない。よって、この2個艦隊を同時に潰す。編成は次の通りだ」
画面が変わり、編成表が写し出された。
「甲に対しては昨日の扶桑隊に那珂を追加。乙は川内を追加した鈴谷隊にあたってもらう。夕張隊は昨日同様、護衛任務にあたってもらう」
「あの、副官、私は何を?」
そう言って控え目に手を上げたのは神通。
「神通はバレアレスの教官だ。補助に秘書艦の五月雨をつける。いいな、バレアレス?」
「は、はい!」
滝崎に話を振られ、バレアレスは緊張した面持ちで返事をした。
「編成は以上だ。質問が無ければ、準備出来次第出撃だ。質問は?」
………………………………
「……無い様だな。では、提督」
「うむ…昨日の戦闘で残存戦力も相当なダメージを負っているだろうが、油断は禁物だ。無理や無茶はするな、負けてもいいから全員帰還せよ。以上、解散!」
「提督に敬礼!」
全員が立ち上がり敬礼、直った後、解散となった。
鎮守府前のビーチ 訓練場所
「では、訓練を始めます」
「は、はい!」
神通に連れられたバレアレスが神通い言われて返事をした。
「なお、副官からは連携訓練に重点を置いてやってほしい、との事です」
「連携訓練…ですか?」
「はい。聞けば貴方は戦闘の経験はありますが、複数の艦娘と組んだ艦隊戦の経験が殆どない。そうですよね?」
「はい、通常軍艦との合同戦闘が多かったので…艦娘同士となると…」
「そうですか…わかりました。では、連携と艦隊運動を私…軽巡洋艦神通が教官を勤めます」
「よ、よろしくお願いします」
そう言ってバレアレスは頭を下げる。
それを隣に居る五月雨は「大丈夫かな…」と心中で呟いた。
30分後……提督執務室
「………だ、大丈夫ですよね? バレアレスは?」
執務室の窓から訓練中のバレアレスを見たカルメンが2人に訊いた。
「さすが『鬼神通』…容赦がないな」
「大丈夫だよ。『華の二水戦』を率いた『鬼の水雷戦隊長』の神通だ。加減は心得てるよ」
「そ、そうなの…でも、大丈夫なの?」
視線の先にはゼイゼイと息を切らせながらも、神通の指示に従いながら必死に五月雨の動きに付いて行こうとするバレアレス。
ちなみにやっているのは水雷戦隊の十八番である統制雷撃運動である。
「……明らかに神通がさせてるのは駆逐艦の動きだな」
「あはは……まあ、大丈夫だよ…きっと」
そう言って苦笑いを浮かべる滝崎。
ただ、神通を信頼しているのも確かだし、その方針や経験を知っての上で任せているのも事実だ。
滝崎
「あとは…バレアレスが途中で逃げ出さないか、だけど…」
「そうなったら、私が連れ戻してやるわ。まあ、そうはならないと思うけど」
「そうなってほしくないな。今は猫の手も借りたい状況だしな」
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