転生提督・副官のマルタ島鎮守府戦記   作:休日ぐーたら暇人

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彼女の前には苦労ばかり。
(主に後ろ盾が原因である)


105 ギリシャ海軍士官

数日後 ギリシャ共和国首都アテネ ギリシャ国防参謀本部内

 

 

 

「よかった、いや、本当によかった」

 

 

「先日のニュースでマルタ島鎮守府の映像を観たが…いや〜、まったく、敵いませんな〜」

 

 

「艦娘達は強力な戦力。これは間違いない」

 

 

「まったくだ。彼女達が居ればクレタ島奪還も間違いありませんな」

 

 

国防参謀本部内の一室で先日のマルタ島鎮守府の演習映像を見た陸海空軍の関係者が我が事の様に話す。

しかし……その中でマルタ島鎮守府へ研修名目での派遣が決まっている女性士官アテネ・ステファノス中尉は困惑していた。

 

 

「ですが…果たして上手く行くでしょうか?」

 

彼女の疑問の声に全員が反論した。

 

 

「何を言うかね、中尉? マルタ島鎮守府の戦力によって短期間で地中海の半分以上を奪還出来たのだぞ?」

 

 

「そうだ。しかも、先の作戦においては鎮守府の残存兵力のみで倍以上の逆襲を跳ね返したそうではないか」

 

 

「まったく心配は無い。先は明るいぞ」

 

 

「…………」

 

違う、問題はそこじゃあ無い…と内心思いつつ、ステファノス中尉は周りの人間の無駄な発言を聞いていた。

 

 

 

数日後 マルタ国際(ルタ)空港内

 

 

 

「んで、その士官様はいつ来るんだ?」

 

 

「ギリシャから直でこっちに来るからね。もう少しかな」

 

先程まで近寄って来ていた子供達の相手をしていた天龍の問いに高塚は腕時計を見ながら答えた。

 

 

「それにしても、今更人を寄越すなんて…ギリシャも死にたいみたいね〜」

 

 

「あ〜、龍田さん…その発言、ヤバイよ」

 

高塚の答えに龍田が何時もの微笑みのまま物騒な事を言い、先日改二になった木曽が苦笑いを浮かべながら言った。

 

 

「ゴホン…まあ、言いたい事があるのはわかるし、俺もあるが…派遣されてくる士官には何の責任も…皆無って訳じゃあないが…無いからな。下手に刺激するなよ」

 

わざとらしい咳払いを一つして、周り…特に龍田…を抑える高塚。

なお、高塚以外の3人は普段の服装(艤装は外している)だが、服の下には護身用も兼ねてベレッタ92拳銃(レナータが伝を使って多数調達してくれた)を携帯していたりする。

高塚は陸自の制服に制帽(服の中に9㎜拳銃)である。

 

 

「へいへい」

 

 

「は〜い」

 

 

「…了解です」

 

 

「龍田、お前が心配だよ」

 

3人の返事の内、龍田の返事に心配をする高塚。

そうこうする内にステファノスが高塚達に気付いて声を掛けた。

 

 

「マルタ島鎮守府の方ですね? ギリシャ海軍より派遣されましたアテネ・ステファノス中尉です」

 

 

「マルタ島鎮守府警備担当の高塚健治憲兵少佐だ。まあ、階級は気にしないでくれ。只の厄介払い兼戦死昇任の前借りだ」

 

 

「は、はぁ…あっ、よろしくお願いします」

 

高塚の差し出した右手に同じく右手を出して握手しつつ、頭を下げるステファノス中尉。

 

 

「ちなみに、本来ならウチの提督と副官も来る予定だったんだが…いかせん、先の一戦の件やら、演習映像やら、打ち合わせやら、何やらで鎮守府につきっきりでね。すまない」

 

 

「いえ、わざわざ一尉官の為にありがとうございます」

 

 

(一尉官か…どうせなら、無理矢理にでも二階級特進させて、佐官クラスにしてから派遣すれば体裁も整うのに…ギリシャも末期バカになったか?)

 

ステファノスの言いように高塚は自分も似た様な境遇な具合で派遣された為、内心ため息を吐く。

こう言った場合、末期バカは(何時も以上に)タチが悪い。倫理・理性・理論で説いても『屁理屈』によって『論破した様にする』。

だが、それがどれほど馬鹿げた事かを高塚は知っている。それによって、特に戦場や戦略を決める場において結果的に時間空費と選択肢の減少を生み出す……高塚はそれで多くの血を見た事もあるからだ。

今のギリシャの状況も国家財政破綻と言うところに深海棲艦の侵攻と言うダブルパンチが来たから…と言う理由は分からなくもない。

しかし、高塚から見れば同族嫌悪を見せられている様だった…朝鮮半島の分裂国家と自国の陸軍(旧陸自)を。

 

 

「ふむ…あまり階級については云々しない方がいいな」

 

 

「はい?」

 

 

「いや、なに、貴官なら階級を盾にして云々は無いと思うが、マルタ島鎮守府…特に私を含めた幹部クラスは逆に階級を気にしていないからね」

 

 

「あ、あぁ、なるほど」

 

高塚の言葉が理解出来たらしく、苦笑いを浮かべて頷くステファノス。

それを見て、とりあえず高塚はステファノスを人物的に安心する。

 

 

「少佐、目的は達成したし、早く戻ろうぜ」

 

 

「もう、天龍ちゃんたら〜、今日は間宮最中の特売日だもんね〜」

 

 

「おい!」

 

あぁ、そうだった、今日は間宮さんが伊良湖ちゃんと一緒に間宮最中を売り出すと張り切っていたんだ、と高塚は思い返す。

漉し餡、粒餡は言うに及ばず、アイスはバニラ、抹茶、クッキークリームの他にレナータのイタリア艦隊調理班達が手作り創作アイスを作って挟む為に艦娘達も密かに楽しみにしている。

どうせ、最近は戦力回復期間の為、昼休みに暇をしている艦娘や人間も多い。よって、順番取りは重要になってくる。

 

 

「……私も食べたいです」

 

ステファノスの言葉にそれを聞いて高塚を含めた出迎え組は一瞬キョトンとするが直ぐに笑みを浮かべる。

 

 

「なら、早く帰りますか」

 

そう言って高塚は早足に歩き始めた。

 

 

 

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