数日後 マルタ島鎮守府
「……動けないな」
そう言って滝崎はポイッと書類を机に投げる。
書類は派遣部隊の艦艇整備具合の報告なのだが、一度本国か近隣駐在基地に寄港する為、出払っている。
そんな中で、レナータのイタリア艦隊は既に修理・点検・補給が完了していたが、スペイン、フランス、イギリスはまだ時間が掛かるとの事だった。
「まあ、どうせ、クレタ島攻略にはそれなりに準備いるからな…仕方ないけど」
「まったく、それを理由にギリシャを含めた各国と調整するつもりか?」
「深海棲艦側、正確には地中海方面軍が停戦を申し出てきたんだ。最高レベルの慎重さで話を進めないと…クレタ奪還を機に移行出来る様にしないと世界規模で停戦と講和に持っていけないしね」
「やれやれ、降って湧いた話を短時間で青写真を思い描けるお前の頭は今も変わらないな。もっとも、あの時は流れなんて知っていた様なものだしな」
「あはは……まあ、今回は向こうも動いてくれたからね。話が出来るだけでもだいぶんマシさ」
「まったく……で、もう一つの案件は?」
「……とても難しいよ」
『もう一つの案件』…言わずもながら、レキシントンの事である。
「あれも放置出来ないからな…難しいよね…」
溜息を吐きながら、滝崎は言った。
「……あまり、根を詰めるなよ」
そう言ってエーディットは滝崎の背中に抱き付く。
「……なに?」
「癒しとタキザキ成分補給」
「またかよ…勝手にしてくれ」
「うん、勝手にする」
……滝崎は暫く抱きつかれた。
その頃………
「うーむ…意外だな」
「マルタ政府からの提案が?」
「あぁ、そうだ」
協議の為、首都バレッタに来ている松島宮、高塚、大淀、木曽、ウォースパイトの5人。
協議を終えて、5人は高塚の運転する高機動車に乗り、帰路についていた。
「艦娘の外出がすんなり受け入れられたと思ったら…鎮守府の一般公開を提示してきたからな…まあ、交換条件みたいな物だが、別に悪い気はしないが」
「まあ、マルタ島共和国も地中海解放後に向けて動き出した…って考えれば当然でないかな」
「ですが、突然の提示に高塚少佐が『警備態勢を考えねばならないが』と言い含めつつ、積極的に賛成意見を表明するとは思いませんでした」
同席していた大淀が言った。
「まあ、楽しい事は好きだし」
「あら、ジェネラル・タカツカとしてはそう言って来た事を利用する気でしょう? 解放後に向けて動くなら、それに乗じて此方の提案を聞いてもらえるように自然的に持ってくる。流石ね」
「うーむ、さすが、オールド・レディー。見破られていましたか」
ウォースパイトの言葉に滝崎はカラカラと笑いながら答えた。
「はあ、お前と言い、滝崎と言い、ああ言った時の対応力は高いな」
「あはは…でもさ、こう言った事は早めに準備しておかないとさ…政治的・外交的決着はつけれても、個人の心理的・感覚的決着の類は時間が掛かる。いま、動かないと余計に時間を掛けてしまうなら、向こうの思惑有り気な提案にも乗って、こっちが利用出来る様にしないとさ」
「……そうだな。まあ、その件についての枠組み作りはお前や、滝崎の方がお似合いだがな」
「うわ、否定出来ない……てか、同志、確かに『足が必要だから、調達出来ませんか?』って相談したけど、なんでこうなるかな…」
苦笑いする高塚の視線の先には日の丸と『マルタ島鎮守府』と描かれたが描かれたMi-17 ヒップHが待機していた。
「ちなみに『足』の具体的な事を言ったのか?」
「あぁ、UH-1か、最低限数人乗れたらいいヘリで、って言ったんだが…あれ、20人ぐらい載せれるんだよな、完全武装で」
「……ロシアの民兵隊だからではないか?」
「…かな…あはは…」
苦笑いしながら、高塚はMi-17へと車を走らせた。
その頃 マルタ島鎮守府 工廠
「えっ、ウチの改二が可能なんか?」
「えぇ、まあ、前回の戦闘で龍驤さん以外にも改二改装可能者は出てきてますんで、順番はどうなるかはわかりませんが…練度的に大丈夫です」
明石に呼ばれてやって来た龍驤は練度が一定値に達した為、第二改装を受けれる事を聞いていた。
「うひゃ〜、うち、ちょっち嬉しいわ〜。でも、他の改装者って誰なん?」
「とりあえず、那智さん、足柄さん、摩耶さん、鳥海さん…と古参組が割と多いわね」
龍驤の問いに夕張が答えた。
「他にも改装者や装備転換が必要な方々もいるけど…まあ、準備期間中だし、提督達も事を急ぐ気は無さそうだし、大丈夫、大丈夫」
「いや、別に期間の事は心配してないんやけど…ふふーん、嬉しいな〜」
そう言って龍驤は喜んでいた。
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