その頃……マルタ島鎮守府
「川内達が間に合ってくれたか…扶桑達も合流したし、大丈夫だろう」
97艦攻から送られてきた映像からスペイン艦との合流とそれに伴う戦闘の様子を見て松島宮は呟いた。
「あぁ、夜間哨戒の後の戦闘だから、川内達に悪い事をしたな…まあ、そうなったのは君が原因だけど…」
「まあまあ…あれは結果オーライと言う事でだな…」
「結果オーライの一言で済むと?」
滝崎が軽くジロリと睨むと松島宮が苦笑いを浮かべる。
川内型三姉妹は扶桑達が建造されたその日に松島宮が建造した物だ。
ただ、完成完了が真夜中であり、偶々起きていた松島宮は敢えて秘密にしようとした。
だが、川内が『夜戦』と言って騒いだので滝崎にバレ、さんざん怒られたのだが…。
「しかし、スペインが密かに日本へ研修を申し込んでいたとはな。で、あのイージス艦がその研修士官に率いられていたとは」
「それも、研修目的は『艦娘の運用ノウハウを学ぶ為』か…それをマルタの僕達に押し付けるとはね。まあ、日本よりは近いマルタがいいよな」
「そうだが…しかし、どんな人間が来るかは知らないが、イザとなったら突き返してやるか」
「おいおい、外交問題になるぞ……まあ、確かにイザとなったら丁重にお帰り願うが…さて、スペインのお方がたをお迎えしますか」
そう言って滝崎はスクリーンをチラリと見た。
お昼頃……マルタ島鎮守府 鎮守府内埠頭
川内達夜間哨戒隊と扶桑達偵察隊が帰還したと同時にイージス・フリゲートのバレアレスが接岸した。
そして、バレアレスから1人の士官が降りて来た。
「スペイン海軍研修員兼イージス艦バレアレス艦長で少佐のバトル・カルメンです。本日よりこのマルタ島鎮守府において研修を命じられました」
「日本海軍地中海方面艦隊マルタ島派遣部隊司令、少将の松島宮だ」
「同所属副官、大佐の滝崎だ。よろしく」
互いに敬礼をして自己紹介を終える3人。
「少将と大佐ですか…もう少し高位な人間の方がよろしかったかしら?」
「派遣に伴う2階級昇進だ。特に地中海と言う事で体面を整えただけだからな。あまり階級は気にしないでいい」
「まあ、下手に高位よりは同年代の方が気が楽だよ。それでカルメン少佐、あの子はスペインの艦娘かな?」
「はい、バレアレス、来なさい」
扶桑達に頭を下げていた艦娘…バレアレスがカルメンに呼ばれてやってきた。
「初めまして。カナリアス型重巡洋艦二番艦バレアレスです。よろしくお願いします」
「うむ、よろしく。しかし、スペインも艦娘の開発に成功していたのか」
「あぁ……えっと…実はちょっと違いまして…」
「……何が違うの?」
バツの悪そうな表情で言ったカルメンに滝崎が訊いた。
「えっと…実はバレアレスは…その、偶然のドロップで生まれた艦娘で……スペインが開発した物ではないんです」
「「……え?」」
再び暫くして……食堂
「バレアレスはスペインを出発して…5日程経った時、偶々発生した戦闘で撃沈した重巡洋艦の浄化体なのよ」
場所を昼食の為に食堂へ移し、松島宮と滝崎はカルメンの話を聞いていた。
「なるほど…しかし、それなら、他の深海棲艦とも戦闘を行っている訳だな?」
「えぇ、駆逐艦とね。単独だったから、主砲で沈めてたけど、重巡洋艦となると話は別ね。対艦ミサイルを3本使ってしまったわ」
「8本の内の3本ならな…しかし、重巡洋艦では仕方ないな」
「えぇ、私もそう思うわ…それで撃沈したら、バレアレスが浮かんできたの。まあ、彼女を救助した後が大変だったけど」
「『艦娘だから』かな?」
「……そうね、私は別に気にしてないけど、生で触れるとなるとね…でも、狭い船の上だと、皆慣れてしまって、今は普通よ」
「それはよかった…ちなみに、君の乗艦件だが、燃料補給は可能だが、弾薬は時間がかかるそうだ」
「そう…まあ、仕方ないわね」
カルメンがそう言った時、明石がやって来た。
「提督、副官。バレアレスの診断は終わったよ」
「ご苦労様。それで?」
「異常無しの健康体よ。なんなら、今から出撃させてみる?」
「おいおい…と言うことだ、カルメン少佐。艦も艦娘も人も、ゆっくりと休んでくれ」
「ありがとう。それと、どうせ年代も近い訳だし、普通にカルメンでいいわ」
「では、私も松島宮、こいつは…適当でいいな」
「なんでそうなるかな?」
次号へ
ご意見ご感想をお待ちしております。