「買い物に行くわよ」
唐突にうちのご主人がそんなことを言い出した。8日目。ああ、今日は虚無の曜日か。
「かしこまりました。しかし主様。何故急に?」
あえて必要だとすれば爆発に巻き込まれる衣類くらいだと思うが。
「信賞必罰よ。態度はともかく、あんたのお蔭で色々やりやすくなったのも事実だから。立派な主人はきちんと使い魔の功績を認めるものよ」
ああ、ここに来てからポイントを稼ぎつつ、ノブレス・オブリージュを叩き込んだ甲斐があったか。元々貴族の誇りは持っていたようだし。
「分かりました。評価頂き光栄です。では、参りましょうか」
俺たちは馬を借りて街へ繰り出した。
一年ちょっとぶりの馬は疲れるな。しかしやっぱり「馬」は武器判定に入らないか。蹄とか立派な凶器なんだけどヴィンダールヴ枠だし。
「何ぼーっとしてるのよ。ここはスリも多いんだから、気をつけなさいよね」
俺たちはブルドンネ街の中、人ごみをかき分けながら進んでいた。
「大丈夫です。悪意には敏感なんで」
そういう俺の反対の手には既に3つ袋がある。スリ返したものだ。今日もガンダールヴは絶好調。術式も問題なく起動している。最近学院で闇討ちとかで揉まれてきた所為か敵意にも敏感になってるので、色々と精度が上がってきてる気がする。
「油断していると平民メイジとか出てくるんだから、盗まれるんじゃないわよ」
「分かっていますよ。世の中あぶれ者はどこにでも居ますからね」
そんな他愛の無い会話をしながら、俺たちに絞られている視線から撒かないように意識しつつ、性懲りも無くスろうとしてきた悪漢どもから時にナイフで切れ目を入れたりして財布を盗む。今のところこういうことでもしないとまとまった収入が入らないし、スネ傷連中だから問題は無い。
「まずはクックベリーパイを食べに行くわよ。食べながら何が欲しいかくらいは聞いてあげる。でも、まだあんた認めていないところもあるんだからあまり高いのはダメだからね」
「分かっていますって」
今必要なのは、鍛冶道具とクロスボウ、後は弓矢と火薬か。ギーシュが錬金出来そうだが、銅か鉛と鉄も仕入れないとかな。あ、デルフリンガー忘れてた。
脳内でつらつらと列挙していきながら相槌を打つ。もう俺のこういった態度に慣れてしまったのか、ルイズからも特に何も言われない。締める所は締めてるからな。
今日はいつもの格好に当然色々仕込んであるコートを着ている。ルイズの財布が一番大きいためコートの内側の腰に縛り付けてあるが、スった財布は次々に内ポケットに入れる。外のポケットは暗器や弾薬入れになっているのでいざと言う時、取り出しにくいから却下だ。
こうしてのんきに街を歩きながらルイズの目的地に着いたので、店に入り次第ルイズの椅子を引いてから許可を貰って相席する。しかしこれから裏通りを歩くと考えると食欲が減衰するんだよな。食べるけど。
まだ視線の気配が切れていないことを確認して、懐の財布を目立たないように均し、俺の成果にあきれた表情をしているルイズと相談することにした。
「主よ、武器とそれを作る道具が欲しいのですが」
「は? あんたカタナとか言う剣2本持っていたじゃない」
ナイフは常に闇討ちの返り討ちやルイズの見えないところでさっきも使ってたから知らないんだな。
「私が言っているのは飛び道具の類です。しかし、そう言うものは消耗品が大半なので、自力で生産出来る道具があればもっと安くつきます」
「確かにあんた意外と手先が器用だものね。ポーション作りも上手いし」
金属の類は学院の炉を使わせてもらおう。ギーシュに頼んで形状を大雑把に変化させた後削れば良いし。どっちもダメだったら弾頭だけは簡易炉をバーナーで温めて鉛を溶かすか。マスクって持ってきてたっけ。
「そういうわけで、鍛冶屋と武器屋をお願いします。後、申し訳ないのですが、今回荷物がかさばるので荷を積みに往復する間、どこかで腰を落ち着けて待っていて下さい。なので主の買い物から先に済ませましょう」
「しょうがないわねぇ」
原作と違ってギーシュ戦では無傷で勝利したため、ルイズの懐には余裕がある。そんなわけでしばし思いつきなショッピングに付き合わされた。ただ、荷物で両手がふさがると護衛の意味が無いので背負い紐を用意してもらったり後日届けてもらう形に落ち着いた。
長い買い物に付き合わされた後、鍛冶屋に寄ってから道具一式、金属、発破用火薬などは後日学院宛に届けてもらう形を取り、武器は背負って帰ることにした。
「はぁ・・・・・・」
「ため息をついていては幸せが逃げると言いますよ。主」
「それってダーリンの国のことわざ?」
「・・・・・・」
途中痺れをきらせたキュルケがタバサを伴って突撃してきた。どうせ儀礼用の大剣を買ってくるなら有効に使ってやろうと言う我ながら下種い待ち伏せだ。
「せっかく良い気分で買い物が終わりそうだったのに、最後の最後であんたの顔見たらため息くらいつきたくなるわよ」
「辛気臭いわねぇ」
ルイズ は 若干 の スルースキル を 手に入れた。
なんか原作より余裕あるんだよな。こいつ。
「まあ良いわ。そっちの子はともかく、せめてツェルプストーは出来るだけ静かにしてて。これ以上私の休日を壊さないでよ」
「や~ん、ダ~リ~ン、ヴァリエールがいじめる~」
「路地裏は危険だし不衛生ですのでおいたはダメですよ」
腕に抱きついてきたキュルケをいなしながら歩く。ルイズは怒りをこらえながらも心底うぜぇって表情を我慢せずに出しながら歩いている。淑女の顔じゃない。
「ピエモンの秘薬屋が確かこの辺りだったはず」
辻を奥に行った後、剣の形の看板を見つけたのでゾロゾロと入る。
「おや、貴族の旦那。うちはまっとうな商売をしてまさあ」
「客よ」
「客だ」
ほぼ異口同音で口にする。値引き交渉が当たり前の店なら逆にぼったくるのが前提の値段だっておかしくない。舐められないためにも必要だと思った。
「振るのは、そちらの旦那の方で?」
「そうだ」
「旦那の体格だと・・・・・・これくらいのがよろしいかと」
原作より筋肉付いてるからな。レイピアじゃなくてサーベルが出てきた。
「もっと大きくて立派なのがいいわ」
「主、私はある程度目利きできますし、買うものは決まってますので。親父、クロスボウと短弓。後力自慢でもやっと引けそうな強弓、他には投げナイフのような投擲武器と銃用の火薬をくれ。矢筒とベルトもセットでな。準備してる間は適当に見させてもらうがいいか?」
「旦那は戦争にでもいくつもりで?」
「そのうち行くかもな」
そんなやり取りをした後店主が注文した品を取りに奥に引っ込んだ後、タルに入った中古品を一本一本取り出して重心を確かめる。ここまで人数が居ると振って確かめられないが十分だ。後は呪詛などが残留していないかくらいか。
「あんだぁ、坊主?」
お目当てを引き当てたが寝ていたらしい。機嫌が悪い。
「ほう」
「インテリジェンスソード? でもボロボロじゃない。もっと良いのにしなさいよ」
「ダーリン、確かに珍しいけど、それだけじゃない? 最後だけは不本意だけどヴァリエールに同意よ」
「いや、主よ。こいつは良いものだ。お前、名前は?」
「人、じゃねえな。モノに名前尋ねる時はまず自分からって教わらなかったか? 坊主」
「サイトだ」
「ふん・・・・・・なんでえ坊主、おめえ「使い手」か」
「そうらしいな」
「そういうことなら話は早え。俺を買え」
「そういうわけです。主。こんな見た目だと値切りもしやすいでしょうし、これにします」
「どういうわけよ。まあ、あんたにはカタナがあるし、おまけってことにしといてあげるわ」
「ありがとうございます」
「ヴァリエールずるい! あたしもダーリンにプレゼントする!」
「では、ミス・ツェルプストー。このスパイクシールドをよろしいでしょうか? これなら攻撃にも使えますし」
「ああん、そんな他人行儀はやめて! あの夜みたいにキュルケって呼・ん・で?」
どうやら攻めるのは慣れていたけど攻められるのは慣れていなかったようで、本格的に火を点けてしまったらしい。
「ではお友達から始めましょうか。キュルケ」
「サイト! あんた何ツェルプストーと友達になってるのよ!」
「良いではないですか。主よ。昨日の敵は今日の友とも言いますし。ただしそこから先は知りませんが」
最後の辺りはルイズの耳元で小声でささやくように言うと、戦慄した表情でこちらを見ていた。失礼な。
「お待たせしました、旦那。ん? デル公、お前またお客様に喧嘩売っていたのか?」
丁度いいところで店主が出てきた。
「ちげーよ。この坊主が俺様を買うんだよ」
「そういうことだ。頑丈そうだがそれ以外はここまで錆びていると落とすにもかなり苦労するな。もはや鈍器か。と言うわけで安くしてくれ」
「言うじゃねーか坊主! このデルフリンガー様の真の姿を見ても驚くなよ!」
「だったら錆くらい落としとけよ」
「へえ、そういう事なら構いませんが、エキューで100でどうでしょう?」
「いや、これなら新金貨でなら100が妥当だろう。鈍器だし」
「鈍器言うな!」
「まあいいでさあ。これだけ大口のお客様だ。サービスしまさあ」
「ああ、感謝する。それじゃ、持って来てくれた得物を見せてもらおうか。あんたもこんな小僧が注文した弓を引けるかくらいは興味あるだろう?」
「そうですね。この強弓を眉一つ動かさずに引けたらもう一つサービスしまさあ」
「いいだろう。見ていろ」
案の定、強弓はガンダールヴの力で軽々と引けた。しかし練習しないとダメか。これで100や200軽く放てないと。
ルイズは目を見開き、キュルケは瞳にハートマークを写し、タバサは若干警戒の表情を浮かべ、デルフリンガーはカカッと笑い、店主は驚愕する中交渉は成功したのでそ知らぬ顔で帰路に着くのだった。
この小説を執筆するきっかけになったシャットダウンで全てパー事件の当初、これの他に候補としてまどか☆マギカで「小島戦士アクア☆ビットマン」というカオス小説を書こうか迷ってました。やらずによかった。
武器屋の帰りのサイト君は超不幸な方の黒の剣士ばりの重武装です。