「ごめん、ルイズ。早速だけどタバサの用件を片付けてくる」
「ああ、例の件ね。分かったわ。許可してあげるけど、あんまり無茶しないでよ」
最近ごたごたしてるからそんなあっさり許可は下りないと思ってたんだけど、まあいいか。
「助かる。それととうとうタバサが女の子として見て欲しいって言ってきた。俺は少なくとも憎からず思ってるから構わないけど、ルイズとシエスタには言っておこうと思ったんだ」
「そう、前にも言ったわよね?私が一番ならそれでいいって。それにあの娘の髪の色。ガリアの王族の血筋でしょ?娶れば繋がりが強くなるわ。シエスタには言っておいてあげる」
「ああ、一応出発前にこちらかも軽く話しておく。それに女の子のことは女の子に任せたほうが良いと思うし、よろしく頼む」
「わかったわ。無茶はしないでよ」
「ああ、行って来る」
準備は整っている。行くか。
「待ったか?」
「ううん」
シエスタに報告した後待ち合わせ場所に向かったら、タバサがシルフィードを背に本を読んでいた。よく見たら恋愛小説だ。こういうやりとりでも書いてあったのだろうか?
「知らせは届けてある。むしろジョゼフは面白がっている節があった。あっさり了承されたから今から行っても大丈夫」
「なら行こうか。それからジョゼフを断ずるのはタバサに任せる。だけど、憎しみの連鎖を止めるには一族郎党を皆殺しにするか、自分自身が止まるしかないんだ。そこだけは覚えておいてくれ」
「・・・・・・分かった」
そのまま俺達はシルフィードの背に乗り、トリステインを後にした。と、思ったらタバサが俺の前開きのコートの内側にもぞもぞと入り、上のボタンを留める。
「・・・・・・ダメ?」
そんな可愛い顔されたら断れないじゃないか。
「しょうがないな。眠くなったら前みたいに寝てても構わないぞ」
「ううん、今日は寝ない」
そこはかとなく漂う甘い匂いを感じ取りながら、タバサの頭に手を置きガリアに向かった。
「おかえりなさいませ、シャルロット様」
見張りの衛士からタバサは本名で呼ばれていた。
タバサはこくりと頷き、俺を指差す。
「私の従者」
「左様でございますか。かしこまりました。どうぞお通りください」
あっけなくグラン・トロワに通された。
「
「通せ」
玉座まであっけなく素通り出来た。
「おお、これはこれは我が愛しき姪よ!この度はいかなる用件かな?」
かなりオーバーリアクション気味にハイテンションで芝居がかったしぐさをするのはゼロの使い魔公式チート、躁鬱病を患い昼行灯を演じながらも、遊びの片手間で全ての政治の配分などをこなしてしまい自虐っぽく「無能王」と自他共に称するジョゼフ1世だ。
「簡潔に話す。この私の従者が面白い話を持ってきた。私はただ運んだだけ」
氷のような無表情で言ってのけるタバサ。相当嫌なのだろう。
「つれないなシャルロット。余は悲しい!だが、まあいい。許すのも叔父としての度量だろう。して、従者よ。面白い話とは?」
「従者とは・・・・・・まあ、よろしいでしょう。情報は行っていると思いますが、お初にお目にかかります。別の虚無の使い魔をしております。サイト・ヒラガと申します」
ジョゼフは俺の自己紹介にシッシッと嫌そうに省かせようとした。
「ああ、そういうのはいい。構わん。して、用向きを話せ」
「では、まず、陛下が虚無の使い手だと仮定してのお話です」
「ほう」
うー、胃が痛くなりそうだ。
「陛下は弟のオルレアン公と確執があったとか。まあ、それは私にとって関係が無いのでこの際構わないでしょう。それより、虚無の魔法には思いいれのある品物から記録を読み取る魔法があります」
「続けよ」
「その魔法の名は
「ふむ、興味深い話だ。いいだろう。ミューズ!余のミューズよ!」
そうジョゼフが呼ぶと柱の影から悪の幹部っぽいお姉さんが出てきた。ぶっちゃけ好みではある。が、略奪愛とか好きじゃないんでこの際スルーだ。
「余は今から「香炉」を使う。もし、その者の言うことが嘘であるのならば始末せよ」
「仰せのままに」
ジョゼフにかしずき、そのジョゼフが部屋から出て行った後シェフィールドはこちらを睨んだ。
「・・・・・・ガンダールヴ!よくもやってくれたわね!」
「はて、水源に何か細工してた不埒者を斬らせたりしましたが、もしや貴女でしたか?」
「そんなことはどうでもいいのよ!私に何か魔法をかけたでしょう?今すぐ解きなさい!」
「存じませんね。もしや目の下のくまと関係が?あれは私の恋人に危害を加えるものに制裁を与えるために持たせたものだったのですが」
「それを認めたらどうだと言うの?」
「まあ、少々落ち着いてください。何も解かないとは言ってないのです。せめて陛下をお待ちしましょう。それまで安眠でもしますか?」
「信用できないわ。それに私はジョゼフ様の忠実なる僕。もしジョゼフ様ががっかりする内容だったらあなた達を始末する必要があるもの」
「そうですか。それでは結果が出るまでお待ちを」
それからしばらくし、隣の部屋からうめき声や号泣しているような声。謝罪の言葉が聞こえた。
「結果が出たようですね。タバサ、君には従姉妹は居るか?目の前のこの人もだけど、ジョゼフを殺すということは禍根を断つためにこの人たちも手をかけなければならない。これが最後だ。よく考えておくように」
相変わらず氷のような無表情でタバサは頷く。
隣の部屋が静まり返った後、ジョゼフが出てきた。
「おお、シャルロット・・・・・・俺はなんと言うことを・・・・・・」
そこには先ほどのテンションとはまったく違い、消沈した態度で部屋から出てきた。
「ジョゼフ様!」
どことなくふらついているジョゼフにシェフィールドが駆け寄る。
「大丈夫だ、それよりシャルロットに話がある」
「何?」
「今更謝罪してももう遅いだろう。だから、俺の首をやろう。ガリアもくれてやる。いや、お前の手に渡るべくして渡るのだろうな」
「・・・・・・どういう風の吹き回し?」
「俺は真実を知ったのだ。俺はそばでシャルルを支えていければよかった。本音を打ち明ければよかったのだ。それを俺は毒矢でお前の父を・・・・・・」
あー、こりゃ欝モードですわ。まあ、回復する時間があれば回復するんだけどね。タバサ次第か。
「父様の本音を聞かせて」
「お前の父は本当は王になりたかった、と。魔法しか勝てず、それ以外全て上を行く俺に嫉妬していたと。俺は王になどなりたくなかった。無能と蔑まれていた俺はシャルルこそが王だと考えていた。だが、父が次の王に命じたのは俺だった・・・・・・それでも祝福するシャルルを俺は撃ったのだ」
「分かった。首を差し出して」
「よかろう」
「ジョゼフ様!」
「来るな、ミューズよ。これはけじめなのだ。そしてシャルロットを恨んではならぬ。そして、イザベラにも恨むなと伝えよ。これは余の最後の命令だ」
「ジョゼフ様・・・・・・」
タバサはその身の丈以上の杖にブレイドを唱え、振り下ろし――。
ガキン!とジョゼフの顔のすぐ隣を打った。
「タバサ、それが君の答えか?」
「そう、これが私の答え。昔はイザベラ姉さまも優しかった。その関係は父様とジョゼフに似ている。ここでジョゼフの首を獲ったら、憎しみが続く」
「そうか。なら、今からタバサじゃなくてシャルロットだな。おいで」
タバサもといシャルロットは大事な杖を落とし、俺の胸に飛び込んだ。
「う、ふぐ、うぐ、うう」
「よしよし、よく頑張った」
ジョゼフは呆然としている。
「シャルロットはこういう決断をしました。よって貴方は償うべきです。そう、残りの生涯をかけてでも。死に逃げるよりはるかに辛いものですが、そのほうがシャルロットの為にもなるでしょう」
「ああ、分かった。感謝する。ガンダールヴ、サイト・ヒラガよ」
「嗚呼、ジョゼフ様・・・・・・良かった」
「シェフィールドさん。貴女にかけた呪いも解いておきます。俺の目を見てください」
「分かったわ」
「よし、シャルロットの母も治療中です。これにて一件落着ですかな」
泣きじゃくるシャルロットを優しくなで、そう締めた。
前話のフルメタルな海兵の雰囲気とは打って変わってしんみり路線。イージーモードになったのはまだジョゼフが遊びの段階から抜けてなかったからです。だらだらしてたら本気になってた。