転生先が平賀さんな件   作:スティレット

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 こりゃ楽勝だなって思ってたら、唐突にスランプ状態に陥って焦りました。初心に帰ることと、皆さんの評価でなんとか持ち直しましたが。


はじめてのしんだん

 それは城だった。

 

 屋敷と言うにはあまりにも大きすぎた。幾つもの尖塔があり、立派で、堀に囲まれ、それはまさしく城であった。

 

 俺の脳内でそんなナレーションが思い浮かんだ。初めてドラゴン殺しの詳細知ったときあらためてあの人は人外と戦うのにそれに並ぶ尖り方してるんだなって思ったよ。片方義手だから実質片手で支えてるんだし。

 

 と、凄いし憧れるけどああは絶対なりたくない人を思い浮かべながらやってきましたルイズの実家。堀の跳ね橋の鎖を引くのは両脇に配置されている20メイル級のゴーレム。非常事態になったらこいつらも戦うのかな。

 

 跳ね橋をゴーレムが降ろす様子を見ていると、ばっさばっさと大きなふくろうが飛んできた。

 

「ご苦労様、トゥルーカス。父さまと母さまは?」

 

「旦那さまはお戻りになられておりません。奥様は晩餐の席で皆様をお待ちしております」

 

「ふくろうがしゃべってお辞儀した!」

 

 エレオノールとふくろうのやり取りに、気絶から回復したシエスタがまた気絶してしまった。この娘学院でしゃべる使い魔とか見た事無かったっけ?

 

「そう、分かったわ」

 

 跳ね橋が降りきったので馬車は俺達を乗せごとごととヴァリエールの城に入った。

 

 

 

 三姉妹を待ち受けていたのはストロベリーブロンドの髪を結い上げた見た目40代で通用する貴婦人だった。だが、決して夫の帰りを待つのではなく、むしろ戦場で一番に切り込みそうな眼光をしている。

 

 ヴァリエール公爵夫人にして、三姉妹の母、烈風の二つ名を持つカリーヌだ。

 

 そんなカリンちゃんが成長した姿を見て、色々と感慨深い気持ちになった。マンティコア隊の隊長で、「鉄の規律」を作ったと言う逸話もあることから、騎士見習いをしていたときサンドリオンこと公爵の部屋でらくがきしてた娘とは思えない。おまけに性別詐称するためにボクっ娘だったし。

 

 一方ルイズとシエスタはカチカチだ。特にシエスタはカリンちゃんの眼光に慄き、できるだけその視界から逃げるように俺の後ろで控えている。ルイズはまだ家族と言うだけあってマシなようだ。俺?あの過去知ってたらむしろ生暖かい視線になるから表面上無表情だよ。

 

「母さま、ただいま戻りました」

 

 エレオノールが代表して挨拶すると、カリンちゃんがこくんと頷き晩餐会の開始となった。

 

 晩餐会は30人ほど居る給仕がそれぞれ世話をし、俺とシエスタは外様で平民扱いなので後ろに控えている。

 

「母さま、2つ用件があります。他にはルイズの使い魔に聞くことがありますが、それはいいでしょう。ルイズが戦争に行くと言ってるのよ!馬鹿なことだと分からせるために言ってあげて!」

 

「馬鹿なことじゃないわ!きちんと勝算があっての事なの!」

 

 エレオノールの言うことにルイズが反論し、ちらっとこっちを見てきたので一歩だけ前に出、挨拶する。

 

「初めまして。恐れながら自己紹介します。ルイズ・フランソワーズ様の使い魔となりました、サイト・ヒラガと申します。この度は我が主が私を召喚し、系統に目覚め、いくつかの任務を成功させ、主がアンリエッタ王女殿下からの信頼をいただき女官となっております。今回の戦争への参加も、主の系統の力と私に備わった使い魔の力をあてにしてのこと。主、どうぞ、ご発表ください」

 

 公爵が居ないがそのまま流れで話を振る。

 

「私は最初の任務の報酬で、才人の推測でとある宝物の貸与を申し出ました。それは水のルビーと始祖のオルゴール。始祖ヴリミルが残したとされる遺物よ。指輪を嵌め、いつものように魔法の練習をしようと集中していたわ。すると、音の鳴らないはずのオルゴールから旋律が聞こえたの。それが私の系統。虚無よ」

 

「嘘!?」

 

 エレオノールが驚愕し、給仕もざわめく。一方カリンちゃんは微動だにしない。

 

「そうですか。話は食事が終わってからにしましょう」

 

 カリンちゃんは俺とルイズをやや剣呑な目で見つつもそう締めた。

 

 

 

 もう一方の「カトレアを診る」と言う用件は公爵が帰ってきてから許可を取る形となり、俺には平民にしては上等な部屋があてがわれた。やっぱり根回しは大事だね。納戸とかだったら嫌だし。

 

 持って来た荷物の中から武器を点検し、デルフリンガーに明日役に立ってもらうため以前施した改造の調整をする。

 

「調子はどうだ?デルフ」

 

「いいぜ。相棒が「出口」を作ってくれたおかげで破裂する心配もねえしな」

 

「そうか、それはよかった。非常事態には地下水にも出張ってもらうが、よろしく」

 

「ああ、馬車に揺られてるだけよりよっぽどいい」

 

 調整が終わる頃にドアをノックされ、シエスタがやってきた。

 

「こんばんは、才人さん。ここ、迷路みたいですわ」

 

「やあ、いらっしゃい、シエスタ。もう城だからね。初見じゃ迷うと思うよ。シエスタは大丈夫だった?」

 

「ええ、なんとか才人さんのお部屋まで辿り着きました」

 

 そういうシエスタはなんかいつもと様子が違う。手には酒瓶を持っていた。

 

「晩酌か?」

 

「はい。ここの人に「長旅お疲れ様」って。私も少しくらいならいいかなっていただきました」

 

 はて、壜一本が少しなのだろうか?どうでもいいか。

 

「じゃあ、シエスタ。俺にも分けてくれないか?つまみならチーズ、干し肉、ナッツくらいなら非常食で持ってる。二人で食べよう」

 

「話がわかりますわ、才人さん。では遠慮なく」

 

 シエスタは持っていた壜をぐびぐびと飲み干して、シャツの中からもう一本を取り出した。この流れはまずい。

 

「容れるものは用意するから、ついでに氷を浮かべて冷やして飲もう。そのほうが美味しいよ」

 

 地下水を抜き、錬金を唱えて石造りの床からゴブレットと氷用の容器を生成。魅惑の妖精亭に居た頃から練習していた腹話術による同時詠唱で、水と風のスペルを唱え氷を作る。最初から氷の魔術を使ってもいいが、練習にね?攻撃用じゃないので程々大きさで容器に移し、ゴブレットに入る大きさに砕く。

 

「出来たよ。これに氷を容れて、はい、乾杯」

 

「乾杯です。才人さん」

 

 匂いから薄々気づいていたが、これ蒸留酒じゃないか。身体強化術で肝臓とか強化しておこう。

 

 そうして酔えば酔うほどべらんめえ口調になるシエスタと酒を酌み交わすのであった。

 

 

 

 さりげなく酒を注ぐときに氷を溶かしながら薄くしたり、つまみと化した非常食で時間を稼いでいたらようやくシエスタがつぶれた。あちらはつまみに手を付けずのハイペースだからな。

 

 やれやれとベッドにシエスタを運んで、ちょっと外の空気でも吸ってくるかと出ようとしたところに今度は寝巻き姿のルイズが訪れた。

 

「才人、父さまが帰ってきてからちいねえさまを診てくれる予定だったけど、ちいねえさまが苦しそうなの!お願い、出来るのならなんとかして!」

 

「分かったよ、ルイズ。だけど、その前に一旦落ち着くんだ。君はエレオノール様と御母堂を呼んできてくれ。今回デルフの出番になるかもしれないから、夜更けに刃物を持ってうろうろしてたら要らぬ疑いをかけられるだろう。それと今から診断して状況を判断するって事も伝えるんだ」

 

「分かったわ」

 

「なら、御母堂、エレオノール様の順で案内を頼む。あの方は嘘をつかなければ余計な説明は必要無さそうだし」

 

「ええ、ちいねえさまをお願い」

 

「よし、行こう」

 

 予定より早くなってしまったが、まあいい。デルフと地下水を装備しなおし、ルイズの後に続いた。

 

 

 

「カトレア様が苦しんでいるとの事で、主の命により、今から診断することとなりました」

 

 俺はカリーヌに言葉少なく説明し、後は目で語った。対するカリーヌは「もしものことがあれば杖を向ける」と目で語っていたが、やることは変わらないので負けずに見つめ返し、納得してもらう。一方エレオノールは理論的な説明を求めてきたが、実際やるほうが早いし、説明してる時間が惜しいのでカリーヌに目配せして一言「エレオノール」の言葉だけで了承させた。

 

「あら・・・・・・みんな、心配させてごめんなさいね?」

 

 カトレアの部屋へ行くと咳き込み疲れたのかややぐったりした様子のカトレアが居た。

 

「お待たせしました。主から貴女のことは聞いております。診断いたしますので、背中を向けてください」

 

「そう、ならお願いね」

 

 以上に察しがいいカトレアに背中を向けてもらい、デルフを鞘ごと逆手に持つ。

 

「カトレア様の様子は主とエレオノール様に馬車の中で申したように、精神力の流れが澱む寸前で停滞しています。しかし、魔法などでそれを放出しようにも、発射口であるカトレア様自身が耐え切れません。よって、私が仲介し、このデルフリンガーに精神力を吸ってもらいます」

 

「それがメイジ殺しの由来の一つと言うわけね」

 

 いや、ワルド(偏在)を倒したのはリボルバーだし、アルビオンで活躍したのは主にスナイパーライフルと埋火だから。タルブはゼロ戦でシューティングしてただけだし、一番はっちゃけてた時は素手と言う始末。面倒だから黙っておくけど。

 

「では、失礼」

 

 背中ごしに心臓の位置に手を当て、流れを見る。うわ、こりゃ血管も参ってるな。

 

 その膨大な精神力を切れる寸前まで吸い出す。そうすると、デルフの延長した柄頭に小さな透き通った石が出来た。

 

「まさか「魔石」が出来るほどとは・・・・・・私自身も吸い出すこと自体は出来ますが、最悪の場合その場で魔法を発動させないといけませんでした」

 

「その魔石とは?」

 

 今まで見守っていたカリーヌが質問する。

 

「精神力を集めた石のことです。魔法に加工する前の精神力なので、属性がついておらず、よって、私は魔石と名付けました」

 

「それよりちいねえさまは大丈夫なの?」

 

 気絶するほど吸ってないから大丈夫なはず。

 

「ええ、私は大丈夫よ。ルイズ。サイト君、ありがとう。こんなに身体が軽いのは生まれて初めて」

 

 その様子に一同ほっとした雰囲気。

 

「精神力は吸い出しましたが、これは根本的な解決とは言えません。それに血管や細胞、つまり身体のあちこちが悲鳴を上げているので、自然治癒力を上げる薬湯を処方します。即効性はありませんが、魔法に拠らないのであちらを立てればこちらが立たずと言った事態にはならないと思います。材料は恐縮ですが、今から言うものを集めてもらえますか?」

 

「ええ、総力を挙げて集めさせるわ」

 

 エレオノールの力強い一言。

 

「では、これで精神力の放出に耐えられる発射口を作ってもらいます。その間、わが国で学んだ系統魔法ではない魔術を御母堂とエレオノール様に伝授いたしますので、後日練習してください。今後長くて半年おきにならおふた方でも耐えられると思いますので。心配ならば一日ごとにしていただいても結構です。ただし、精神力を吸いすぎるとカトレア様が気絶する上、その場で魔法を使うなりして消費しなければならないため、お気をつけ下さい」

 

「それって先住魔法じゃないわよね?あれを使う人間なんて異端よ」

 

「いえ、今のところ当てはまる魔法は使っておりません。術式が違いますゆえ。おまけに、これは平民(・・)にも扱えるようになります。本来は正式の許可を頂いてから伝授する予定でしたが、ここだけの秘密と言うことで」

 

 その後、研究者の目つきになったエレオノールに寝かせてもらえず、その当日に羊皮紙に呪符まで作って魔術を伝授するのであった。




 私が一番好きなのは騎士見習い時代のカリンちゃん。ストーリーに影響しない範囲にしとかないといけないかな。才人君のキャラだけは崩さないようにせねば。

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