転生先が平賀さんな件   作:スティレット

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 出来れば毎日更新したいなって思ってたけど、最初のうちは隔日だったり不定期だったから、長い目で見たらあんまり変わらないのか(白目)


一見地味に見えるものほど重要である

 いよいよ学院も夏季休暇。ラグドリアン湖の件の後帰ってきたキュルケとタバサにも水兵服を渡そうとしたが、彼女達にはこれと言ったものを贈ったことがなかったし、これから戦争や襲撃などに巻き込まれる可能性を考慮し、タバサにはソードブレイカーは無骨だったので飾り紐付きの十手を、キュルケにはパーカッション式リボルバーを贈っておいた。俺は純度だけは無駄に高い錬金が出来るので、それを図でギーシュにイメージを伝えて製作したものだ。純度の高い金属を俺が錬金し、ギーシュが粉末にした炭から炭素を少しずつ添加し、形を成型する様は師弟の相槌に似ている。特に銃はまだこちらは先込め式の単発銃なのだ。いちいち俺が雷管を錬金しなければいけないが、再装填なしでの6連発は破格だろう。唯一シエスタには水兵服だけになってしまうが、彼女は戦闘中まともに動けないだろうとの事で、首に下げる安全祈願と日本語で読めるお守りを贈った。中には一定以上の攻撃力をもつベクトルを一度だけ弾く護符と、同封した俺の髪の毛に魔力を込め、攻撃した相手に呪いをかけるようにしてある。これらはそれぞれ使い方を教えた。それでタバサは十手を使った対短剣用の訓練を、キュルケは銃の撃ち方を俺に求めてきた。各々は「俺からの贈り物」の他に添えた意味である、身を案じている部分や、特にキュルケは時代を先取りした新機構に「二人だけの秘密」で舞い上がり(共同制作のギーシュはノーカウントらしい)、不覚にも唇を奪われた。悪意の無い行為には術式が反応しないのだ。

 

「才人、王宮から新しい命が届いたわ」

 

 日本のことで盛り上がったついでに日本語講座をした際、ルイズとシエスタは俺の名前を正確に発音出来るようになった。ルイズは貴族の長ったらしい名前を覚えたりするので苦労は無さそうだったが、シエスタが曽祖父の国の発音と言うことで頑張っていた。そういや錬金で短期熟成させている八丁味噌、そろそろ様子を見ないといけないな。米は着いた当初から持っていた種籾を育て、麦飯に粟や稗を混ぜるからむしろ健康に良いんだが。

 

「へえ、どんなの?」

 

「なんでも殿下達が下々の意見を尋ねても、耳障りのいい言葉しか上がってこないから私たちに直接聞いて来てって。それに並行して街で情報収集よ。でも、私に街娘の変装なんて出来るかしら・・・・・・」

 

 ルイズが不安げに俺を見てくる。ふむ。

 

「なら、元貴族か侍従見習いと言う事にしておこう。難易度は後者の方が高いが、その分成功したら見返りも大きい」

 

「そう、無理に全部完璧にする必要も無いわね。街で行動し次第、どちらかは決めるわ。なら、次の問題ね。どうやって情報を得ましょうか?」

 

 確かに公爵家の令嬢が平民の生活想像しろって言うほうに無理がある。

 

「そういう時は同じ平民に聞いてみるのが良いんだよ」

 

 

 

「王家からのご命令ですか。才人さんもルイズ様も大変ですね」

 

 と、言うわけでシエスタに相談しに来た。彼女なら打ち明けても他人に漏らさないだろうと思ってのことだ。ルイズとシエスタは姉妹のように振舞いだしてからは呼び名が変わっている。

 

「あ、なら、私の親戚が酒場兼宿屋を営んでいるんですよ。紹介状を書きますから、そちらで働くというのはどうでしょう?」

 

「うん、いい提案だね。酒場での情報収集は定番だ」

 

 主にロールプレイングゲームで。

 

「でも、どうしましょう。才人さんとルイズ様の関係は兄妹で通すには流石に無理がありますが」

 

「別に実の兄妹じゃなくていいよ。義理の兄妹で。それでも追求されたら元貴族の令嬢と従者って設定にすればいい。乳母の関係で面倒見てるって事で」

 

「分かりました。それで行きましょう」

 

 元々小説や物語が好きなシエスタは乗り気だ。

 

「それが妥当なところね」

 

 ルイズもうなずく。ノープランで街に出たらルイズの潜在的なギャンブル狂の血が騒ぐかもしれないからな。極力賭場は避ける方針で行こう。これがタバサだったら180度方向転換してるんだけど。

 

 

 

 トリスタニアへは今回学院の馬が使えないため、ルイズを抱いてフライで街の前の目立たないところまで飛んだ。ルイズには今回貴族を示す五芒星のマントを脱いでもらった。あれを着てたら本末転倒である。街へ着いたら財務庁で手形を金に変える。全部で400エキュー程だ。

 

 その金でルイズに変装してもらうため、街娘の服を見繕う。

 

「分かってはいるんだけど、いざ着てみると地味すぎて不満が出るわ」

 

 俺はコートの下がYシャツにベスト、スラックスと言う商人と言ってもなんとか通る格好のため、強いてあげるならば特徴的な刀を置いて来ている事くらいか。

 

「今回ばかりは仕事だと割り切ることだ」

 

「それはそうなんだけどぉ」

 

 ルイズがうーっとうなる。これは慰めろと言う合図だ。

 

 仕方が無いので苦笑しつつ頭を撫でる。ルイズはもっと撫でれと無言で俺の手を掴む。猫みたいだ。

 

「ここで嘆いてばかりも居られないわ。確か「魅惑の妖精」亭って所だったわね。行きましょう」

 

 持ち直したルイズはシエスタに伝えられた大雑把なルートを先導しだした。

 

 

 

「いらっしゃいませ、ようこそ、魅惑の妖精亭へ!」

 

『ようこそ、魅惑の妖精亭へ!』

 

 俺達と対峙したのは筋肉モリモリマッチョマンの変態、もとい、雇い主となる予定のスカロン氏だ。チャームポイントは胸元の開いたサテン地からのぞく胸毛と、鼻の下と立派に割れた顎からおしゃれに生やしたお髭。その攻撃力に俺は思わず精神防壁を作動させる。ルイズは隣で硬直しているが、今度ルイズにも防壁が要るか聞いてみよう。

 

「はじめまして、シエスタから話を伺ってきました。サイトと言います。こちらはルイズ。ぶしつけで申し訳ないのですが、こちらで雇っていただけませんか?シエスタからは手紙を預かっています」

 

 自己紹介にスカロン氏は反応する。

 

「まあ、あなたがあのサイト君ね!おじいちゃんのおうちから取り寄せた新しいワインは大好評よ!」

 

 おや、予想外のところで知名度が上がっている。

 

「アレを飲んだのですか。好評のようでうれしいです」

 

「それじゃあシエスタから預かった手紙を見せてもらってもいいかしら?」

 

 その無駄にくねくねするのをやめて欲しい。

 

「はい、どうぞ」

 

 王家からの命令書や身分の保証書はルイズ、シエスタの手紙は俺が預かっていた。

 

「どれどれ・・・・・・・・・・・・ふむふむ、分かったわ。あのシエスタがねえ。元気そうだしまんざらでも無さそうだから結構なこと。トレビアン」

 

 そうして読み進めていくスカロン氏は読み終わった後笑顔で俺に顔を近づけて―――。

 

「私は貴族様ともよくお話するからあなた達の関係にも反論は無いわ。だけどね・・・・・・私の娘を誑かしたらタダじゃおかないよ?」

 

 裏声混じりのオネエ言葉から、後半ドスの効いた地声を発した。

 

「はい、わかりました」

 

 だが待って欲しい。酒場の看板娘なら誑かす側だろうに。その言葉を飲み込んで返事をした。

 

 

 

 一応酒場で働くと言う事でルイズと接客パターンは組んである。その一、その華奢な体躯を武器にその手の嗜好の客にアピールする。ポイントは精一杯背伸びする女の子だ。その二、元貴族と言う設定で無理無く、淑女のような振る舞いでアピールする。これは対貴族や豪商用だ。その三、これだけはリスクが高いのであまり使わせたくないが、女王様のように振舞ってもらう。本来俺以外に触れられたくないと言ったため、必要以上に触れてくる客用だ。客が怒って帰るリスクもあるが、虚無に目覚めてから覚醒したヤンデレの風格がそれを黙らせ、むしろ目覚めさせる可能性がある。いや、高い。訓練の時ルイズとマリコルヌが対面したが、そのまなざしと少なげな言葉だけでマリコルヌが嬉しげに痙攣してた。

 

 俺はシエスタの手紙にでも書いてあったのか、戦闘力と身体能力を見込まれて力仕事だ。身体のあちこちに武器を仕込んでいるとは言え、それを出すより身に着けたままのグローブの方が早い。まあ、本格的な戦闘でも無い限りガンダールヴが無くても身体強化術でも十分補えるし、各所に武器を仕込んではあるが。

 

 店のフロアでは従業員の女の子達の『はい、スカロン店長!』の声に「違うでしょおおおお!店内ではミ・マドモアセルと呼びなさいと言ってるでしょお!」と絶叫が聞こえる。ルイズは俺に暗示による精神防壁を所望したのでかけてやったが、大丈夫だろうか?

 

 俺には今裏方くらいしかやれることが無いと割り切り、食材の入った箱を運んだり、たまに皮むきを頼まれるのでガンダールヴによる無駄に洗練された無駄の無い動きで芋を一瞬で剥いたりと、てきとーにこなしていた。

 

「あなたがシエスタのいい人?」

 

 荷物も運び終わったので一息ついてると、黒髪のそこそこ可愛い女の子が声をかけてきた。

 

「君は?」

 

「あたし、ジェシカ。シエスタの従姉妹よ」

 

「そうか、俺はサイト、よろしく。ところで君はフロアに出てなくてもいいのか?」

 

「いいのよ。あたしはスカロンの娘だもん」

 

 黒髪だから察したが、声をかける必要性を感じなかったため放置してた。スカロン氏に誤解を持たれたくも無かったし。

 

「あたしはパパに店の女の子の管理を任されているの。だからあの娘について聞くのも仕事の内だと思わない?」

 

 いらずら気な目で俺を見るジェシカ。

 

「いいけど、それで、何が聞きたい?」

 

「ずばり聞くわ。あの娘とあなたってどういう関係?義理とは言え兄妹なんて雰囲気が違いすぎて無理があると思うの」

 

「関係も何も、見ての通りだよ。まだちょっと甘え癖が抜けてない義理の妹。可愛すぎて嫁に出すのが忍びないのが俺の悩みだ」

 

「あはは、あなた面白いわ!そういうことにしておいてあげる。なんか芋剥きがすごいって聞いたからまた今度見せて?」

 

「いいとも。でも、あんまり俺が君と仲良くしてるとスカロンさんが不安らしいんだ。程々にしておいてくれると助かる」

 

「考えておいてあげるわ」

 

 あけっぴろげでサバサバしてるのが好印象な女の子だった。好奇心が強すぎるのが玉に瑕かな。

 

 

 

 ルイズは原作よりはかなり効率的に稼いでいた。平民相手でも笑顔。目の奥に冷たい光があるが、それでも笑顔は笑顔だ。貴族相手にはスカートを摘まんで一礼する。公爵令嬢だけあってその気品は一級品。後は無駄に話さず、時折憂えた顔で同情心とチップを引き出す。その両方とも、最近の戦争の話などを振ってきちんと情報収集しているようだ。ここ数日、たまにフロアを見た感想だ。たまに度が過ぎる客が出てくるが、そこでルイズの態度が豹変する。虫けらを見るような目で的確に相手の心をえぐるのだ。隙を突いてルイズの接客(ちょうきょう)が始まる。終わった頃には哀れな豚が一匹出来上がっていた。

 

 そして最悪の日がやってきた。

 

「妖精さんたち、いよいよこの週がやってきたわ!」

 

『はい、ミ・マドモアゼル!』

 

「チップレースの始まりよ!」

 

 そこでスカロン氏は語りだした。なんでも、400年前お忍びで当時絶世の美男子と呼ばれた王様が、魅惑の妖精亭に来たとか。その当時はそんな名前の宿屋ではなく、「鰻の寝床」亭だったらしい。そこで宿の娘と王様は恋に落ちた。だが、身分違いの恋に両者涙を呑み、王様はせめて最後のプレゼントをと「魅惑の妖精のビスチェ」を仕立てて贈ったと言う。そこで俺は一足先に裏方に言っておけば良かったのだ。

 

 スカロンがばっと服を脱ぐと、そ の 魅 惑 の 妖 精 の ビ ス チ ェ を 着 て い た 。

 

 俺がアルビオンに赴いた際、一番最初に殺した傭兵以来の衝撃が直撃した。一度「魅了に類するレジストに成功しました」と脳内で表示されたが、むしろそれが悪い方向に働いた。あちこちの毛がもっさもっさの筋肉モリモリマッチョマンが明らかな女性向け、しかもかなり際どいビスチェを着ているのだ。魅了されてようやくプラスマイナスゼロ。レジストに成功しているためマイナスに振り切れている。その精神ブラクラになんとか根性と暗示で耐え切り、その日は忘れるように仕事に明け暮れた。

 

 その日、全てを忘れるようにルイズを可愛がり(猥雑なものは一切無い。いいね?)翌日、吹っ切れた頭で仕事に取り掛かった。

 

 ルイズはこの短期間でリピーターを獲得していた。その分類は二つに分かれる。同情して可愛がりに来る客と、言葉責めに嵌って貢ぎに来る豚だ。

 

 前者は貴族が多いため、当然多めのチップを落としていく。そして王宮などでの愚痴を吐いていく。これが重要な資料となる。後者はその絶対零度のまなざしと言葉、あわよくば手をあげてもらおうと必死で気を引く。こちらも貴族ほどではないにしろ、多めのチップを落としていく。踏みつけられて喜ぶ豚に冷たい言葉を投げかけ、「汚物に触った」と限界になったところで俺に慰めてもらうために裏口まで来るの繰り返しだった。

 

 そしていよいよチップレースの最終日。

 

「第三位はジャンヌちゃん!92エキュー45スゥ3ドニエ!」

 

 ジャンヌと呼ばれた女の子が会釈し、周りが拍手した。

 

「第二位、期待の新人、ルイズちゃん!120エキュー72スゥ61ドニエ!」

 

 ルイズが優雅に一礼する。新人がここまで稼いだのがすごいのか先ほどより大きな拍手が響いた。

 

「そして第一位は、私の不肖の娘、ジェシカ!160エキュー21スゥ54ドニエ!」

 

 歓声が沸いた。ジェシカはこの日のために用意した深いスリットがセクシーな服を着て一礼した。

 

「さあ、泣いても笑っても今日で最後。でも、今日はティワズの週、ダエグの曜日。月末だからお客さまがたくさんいらっしゃるわ!頑張ればまだまだ巻き返せるかも。上位は狙えるわ!」

 

『はい、ミ・マドモアゼル!』

 

 みんなで元気よく返事したところで、また今日も一日の始まりとなった。

 

 

 

 今日のルイズは色々な意味で張り切っていた。ちらっとみただけでもその様子が分かるほどだ。特に豚に対する言葉が容赦ない。もう用は無いといわんばかりの扱いに豚は有り金を限界まで吐き出す。

 

 一方ジェシカも凄かった。特にすごいのはそのパターンだ。時には他の女の子に目が行ってるのを見て本気で嫉妬しているように見せ、時には甘える。とにかく本気で惚れていると錯覚させるのが上手い。回転率を上げ、貰うもの貰ったら撤収するジェシカを見ていると女性に幻想を抱いている男性は女性不信に陥るかもしれない。

 

 レースは熾烈を極めた。特にルイズとジェシカ。両者共にその姿は北風と太陽。だが、ルイズの場合、後者の太陽はともかく北風は極寒のブリザードだ。それに付いて行くリピーターもすごいと思う。

 

 だが、それに水を差すものが居た。

 

「これはこれは、ようこそチュレンヌ様。魅惑の妖精亭へ」

 

 マントを着けお供を伴いでっぷりとした中年の貴族が店内を見回した。

 

「おほん!店は流行っているようだな?店長」

 

「いえいえ、今宵はたまたまでございまして、いつもは閑古鳥が鳴くばかり。近々娘と共に寺院へ首を吊る許可を貰おうかと思っていた次第でございます」

 

「何、今日は客として参ったのだ。そのような言い訳はせんでもいい」

 

 ありゃダメだ。たかるだけたかってツケを踏み倒す輩だ。

 

「お言葉ですが、本日はこのように満席となっておりまして・・・・・・」

 

 スカロン氏が申し訳無さそうに言う。

 

「わたしにはそのように見えないのだが?」

 

 その言葉にお供は軍杖を抜き、威嚇する。客は逃げ出した。

 

「あの貴族は何?」

 

 ジェシカにたずねる。

 

「徴税官のチュレンヌよ。管轄の店に来てはたかって銅貨一枚払ったことが無いんだから!」

 

「分かった。ルイズ、身分証を出す準備をしておいてくれ」

 

 返事を待たず、ゆらりとチュレンヌとやらの前に立つ。

 

「なんだ貴様は?このわたしを徴税官と知っての狼藉か?」

 

「そんな事はどうでもいい。重要なことじゃない。そちらこそその無法、自覚はあるのか?」

 

「ええい、ごちゃごちゃと、やれ、お前達!」

 

 お供が俺に向かって呪文を唱える。

 

「メーガートーンーパンチ!」

 

 貯めを作りながら丁度複数人が重なるように移動。一撃で吹き飛ばし、呪文を唱えていた奴らがまきこまれる。

 

「ギガトンパンチ」

 

 ゼロ距離で魔術によって帯電した左拳を腹に叩き込む。喰らった相手はその場で崩れ落ちる。

 

「リアルではモンクタイプ!」

 

 そのまま残りをまとめて左右のラッシュで昏倒させ、徴税官のみが残った。

 

「お前調子ぶっこき過ぎてた結果だよ?」

 

 チュレンヌに挑発的にそう言うと、激昂した様子で杖を向けていた。

 

「おのれぇ!そこになおれ!」

 

「なおるのはあんたよ」

 

 右手に杖を握り、左手に許可証を持ち、読めるよう突きつけた。

 

「で、殿下の許可証?」

 

「そうよ、木っ端役人。このことは報告させてもらうわ。私の魔法の餌食となるか、それともあいつにぼこぼこにされるか、選びなさい」

 

「どうか、命だけは!」

 

 権力、そして相手もメイジだったと言う事には勝てなかったらしい。

 

「今日見たことは忘れてあげる。だからあんたも忘れると誓いなさい。そして有り金全部置いて、出頭しなさい。そうしたら許してあげるわ」

 

「はい、誓います!始祖と王家に誓って、口外いたしません!」

 

 そしてチュレンヌは財布を放り出して逃げていった。取り巻きは簀巻きにして杖を取り上げておこう。誰も見てないところで慰謝料も貰っておくか。

 

「すごいわ、ルイズちゃん!」

 

「もう最高!胸がすっとしたわ!」

 

「サイトさんもかっこよかった!」

 

 俺たちは女の子にもみくちゃにされた。ちょっと待ってくれ。そこの取り巻きが起きてくる前に簀巻きにしなくちゃいけないんだ。

 

「あー、今回のことは出来れば黙ってて欲しい。お代はチュレンヌのあの顔と言う事で」

 

『はい、わかりました、サイトさん!』

 

 最後まで息ぴったりだね、君達。

 

 

 

 チップレースはチュレンヌの置いていった財布によってルイズが一位となり、幕を下ろした。そのルイズだが、俺は部屋から出されてから顔を合わせていない。

 

「もったいないわねえ、魅惑の妖精のビスチェが着れるのは今日だけだって言うのに」

 

 レース優勝者は一日ビスチェを貸し出されるのだ。ビスチェにはサイズ補正の魔法がかかっているらしく、着用者の体格に合うようになっているらしい。

 

「あいつなりに何か考えがあるんですよ、きっと」

 

「サイト君は本当にあの娘が好きなのね。お仕事もきちんとしてたし、チュレンヌもこらしめちゃうし、シエスタが好きになるのも無理は無いわ。けど、うちの娘はあげないわよん」

 

「はは、むしろ俺なんかにあの娘達が惚れてくれたのが不思議なんですけどね」

 

 その父と母を兼ねた言葉にそう返すのが精一杯だった。人格だけ見るといい人なんだよ。スカロン氏。

 

「サイトさん、ルイズちゃんが呼んでるわ!」

 

 女の子がそう俺に伝える。

 

「はい、わかりました。では、ミ・マドモアゼル、席を外します」

 

「今日はもうあがっていいわよー」

 

 スカロン氏の意味ありげな言葉にも特に疑問を挟まず、俺たちが泊まっている部屋まで来た。

 

 トン・トントントンといつもの調子でノックする。

 

「入っていいわよ」

 

 部屋を綺麗にし、テーブルに平民にしては豪勢な料理があり、魅惑の妖精のビスチェを着たルイズが居た。

 

「ど、どうかしら?」

 

 ここでボケに走るのも無粋だな。それにレジストも切る。

 

「こんな歓待をしてもらってその上そのビスチェ、俺のためだけに着てくれたのか。うれしいよ」

 

「今回いっぱい、いっぱい頑張ったんだから。王家の命もあったけど、それより私を支えてくれるって言うあんたのために、頑張ったんだから」

 

「うん、そうだね。本当に頑張ってたね。お疲れ様。でも、それを着てるってことで、俺はあえて暗示を切った。どうなってもしらんよ?」

 

「いいの、ご馳走もジェシカに教わってつくったんだから、まず食べましょう?そうしたら、学院で出来ないこと、今日全部使って、して?」

 

 どうにかご馳走を食べ終えた俺は、色々な意味で激しく燃え上がった。




 何故か前前回と同じくらいの長さに。

 抽出や錬金などはドットでも使えるため、地下水さん大活躍。彼は退屈が嫌いな上、新しい知識を目の当たりにして作業中サイト君とよくおしゃべりしてます。反面デルフは聞き流して寝てたり。雷管はキュルケの健康を考えたサイト君が水銀よりベンゼンを採用。どちらかと言うと硝煙もあんまり体に良くないと思うんですが。

 コルベール先生の買ってきた石炭をコークスにして返し、そこから材料を得ているので足りない材料は先生のツテでまかなっています。

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