タルブの村で一泊泊まった後、翌朝タバサと二人でシルフィードに乗って学院に向かっていた。
「そうそう、タバサ。これが終わったらタバサのお母さんの所へ向かう予定だけど、予定の問題は無い?」
「問題ない」
そう言いながらシルフィードと共に空を飛びながら干し肉をもぐもぐしていた。どうやら足りなかったらしい。
「分かった。一応方法を伝えておくけど、聞いた症状は昔大事にしていた人形をタバサだと思い込んで不安定になっているんだね?だったら薬で安定させると共に、除々に症状の方向性を変えていく方向で行こうと思う」
「続けて」
「うん、つまりね、さらに矛盾しない範囲で新しい認識を埋め込むんだ。人形をタバサと認識しているなら、また新しく逆にタバサをタバサと認識する誤認術式を施術する。これを繰り返すことによってまずはタバサを認識することが出来るはずだ」
眉間にしわを寄せているタバサを敢えて無視し、続ける。
「そうすればまず、人形と違いタバサは言葉が発することが出来る。それで少しずつタバサが話しかけ、現状を認識させて昔飲まされたと言う薬の効果を緩和していくんだよ。もちろんその間の安定剤はこちらでも作れたから定期的に処方する。ただ、俺が度々タバサの実家にお邪魔すると、その薬を飲ませた奴に睨まれるだろう。そうなれば治療どころじゃなくなるから、最低限の検診以外は控えて、薬を食事に混ぜて飲ませたり根気良く治療を行う負担はタバサと実家の人に強いると思う。そこは許して欲しい」
そう言って頭を下げた。
「顔を上げて」
タバサを見ると、責めている訳ではない、そんな表情をしている。
「あなたがこの前の任務でギーシュにギアスのようなものをかけたのは知っている。禁呪指定されているけど、あんな使い方があるなんて知らなかった。だから、それであなたの力を信じられる。薬に関しても、時折あなたの主と授業を受けたり、図書館で薬草の本を読んでいるのも見ていたから下手なものを作らないと言うのも分かってる。それに、今までずっと治療法を探しても全く良くならないどころか色々な人も匙を投げたけど、今聞いたこと、そして確認したことからあなたの事を信じられる。許す許さないは無い。むしろ感謝する。ありがとう」
なんかやっぱりストレートに言われるのは俺は弱いみたいだ。キュルケの事を笑えないな。
「あー、それは治療の経過を見てからにしてくれ。ゼロ戦を飛ばさなければならないし、それを学院に持って帰るならオールド・オスマンに話を付けておかなければならないから」
「分かった。でも、恩義を感じているのは確か。地下水は用事のついでに手に入れたようなものだし、まだまだ返しきれていない。私の力が必要な時は言って。それと、もしあなたがいいのならこんな貧相な身体も捧げる」
なんかいたたまれなくなってきたな。
「タバサ」
タンデムでタバサの後ろに乗っている状態なので、そのまま頭を撫でる。
「そういうのは女の子なんだから大事にしなくちゃダメだ。君は可愛いんだから余計に。でも、妹が欲しかったんだ。友達と言うよりそんな感じで接しても良いかい?」
こんな可愛い妹が居たら爆発するかもしれない。
「うん、分かった、「兄さん」」
表情は薄いけど、確かに照れながらこちらを見てそうタバサは言った。
「よろしくね」
頭をやさしく抱き寄せて額に接吻する。その意味は親愛。
「コルベール先生、とうとう調合してもらったものを使うときが来ました」
ガソリン缶は異臭が面倒な為、コルベールの小屋の脇に固定化をかけ、シートを被せて保管してあった。
「そうか、「えんじん」を使うからくりを見つけたんだね。アレ以外にも頼まれていたものは出来ているよ」
そう言って差し出されたのは分割された棒、先にクランクが付いている。俺はまだネジ切りが出来ないため、それを教えてもらっている段階なのだ。ミニエー銃が未だ存在しないこの世界ではネジも規格化されていないため、使いどころは難しいが、一から作るのであれば把握出来る。
「ありがとうございます。一応オールド・オスマンにも話を通しておいてください。門が広いので、ひょっとしたら道を滑走路の代わりに使うかもしれませんし、いくら固定化をかけられているとは言え、野ざらしはよくないから最初は間に合わせのシートをかけますが、出来れば格納庫を作る許可も欲しいので」
「うん、伝えておこう。楽しみにしているよ」
こうして無事ガソリンを調達し、タルブの村まで戻って来た。しかしレビテーション万能だな。樽5つ分の重量プラス荷馬車を支えきれるとは。しかも一度かけてしまえば維持は地下水が代行してくれるため、長時間でも問題は無い。もし弾が余ったら機銃を取り外して無双できそう。
「よし、シエスタ、教えたとおりにクランクでプロペラを回してくれ。今回の初めての飛行は「平民のみ」でやらないと意味が無いからね」
一応シエスタの両親を通してゼロ戦が飛ぶことを言ってある。どうせ信じないだろうけど、騒音で出てくるはずだ。そうすれば信じざるを得ないだろう。それによってこれから村人に話すことにも説得力を持たせられる。
「はい、分かりました、サイトさん!いきます!」
シエスタは勢い良くクランクを回し、景気良くエンジン音を鳴らす。シエスタは騒音で聞こえないだろうからと、先に指示していた通り脇に避難している。じゃ、飛んでみますか。
最初は慎重に、それから宙返りから急降下など、ガンダールヴの技能に任せ色々と試してみる。発砲は今回は見送りだ。この先の戦争でワルドは居ないけど、それでも竜騎士と戦艦を相手にするのなら弾を温存しておくに越したことは無い。それ以外の武装も付けるけど。
ゼロ戦が飛ぶ音を聞きつけて、何事かと出てくる村人たちが居た。シエスタの家族もその中に居る。これでシエスタの曽祖父の汚名は雪いだだろう。
性能の確認が終わり、再び草原に下りたら一同、特にシエスタが興奮した面持ちでいた。
「ほんとに飛んだ!すごいです、サイトさん!」
「では約束だったからね。一番に乗せてあげよう」
そのことに抗議の声を上げるルイズ。
「待って、ここはご主人様である私が一番でしょう?」
「主・・・・・・これはまだ「シエスタの家の私物」なのです。貴族の権利を履き違えないでください」
「うっ、分かったわよ。ごめんなさい、シエスタ」
「いえ、いいんです。ミス・ヴァリエール」
反省しているようだ。うん、よかった。
「では、次に乗る人がクランクを機体の後ろで回してプロペラを回してください」
そう言うと珍しいもの好きのキュルケとシエスタに対抗心を燃やしているルイズが口論し始めた。しばらく放っておこう。
そうして決着が付いたのか、ルイズがクランクを持って機体後部に引っ掛けている。
「いくわよ!」
そうしてプロペラを回し、シエスタが怖がらない程度に遊覧飛行を行い、シエスタが感想を述べてきた。
「すごいです、サイトさん!今回竜に乗せてもらったけど、寒くないし、竜よりずっと速い!」
無線も無事だったのでこうやって会話できるが、おい馬鹿やめろ、俺のトラウマを刺激するな。
「そ、そうか。これの最大速度は音より速くなった気がするからね。ただ、そうすると燃料がもたないからまた機会があればね」
こうして順番にゼロ戦に乗せていった。ルイズは座席に座りながら口数少なく何か考えているようだった。キュルケだけ膝の上に座ろうとしてたので、おとなしく後部座席に座ってもらったが。まあ、その分トークをしたよ。タバサはスリリングな操縦法を好んだ。竜だと振り落とされることが確定する奴だ。
全ての希望者を乗せた後、草原に人が集まっていた。
「な、なあ、これ、竜の羽衣だよな?」
シエスタの父親が聞いてくる。
「もちろんです。これは生き物で言うところの空腹だったんですよ。それで飛べなかったんです」
「そうか・・・・・・じいさんの言ったことは間違いじゃなかったのか」
なにやら遠い目をしている。
「竜の羽衣が飛ぶ所を見れたし、そいつの腹を満たせるのはサイト、お前くらいだろう。貰ってやってくれ」
一応墓石の前で読んでみたからそういう空気は出ていたんだが。
「分かりました。謹んでお預かりします。そして、もし出来るのなら俺の国の今の陛下にお返ししておきます」
この辺りであの話題を切り出すか。
「それでは皆さん、これから大事な話があります。アルビオンに行って来て、実際に感じた大事な話です。村の偉い人は集まってください」
「それなら村長の家に行こう」
「はい、そちらでお話しましょうか」
そこでこれから戦争が始まること、そして、アルビオンの戦艦が攻めてくる一番確率の高い場所がここタルブだと伝えておいた。最初は信じたくないといった顔をしていたが、今回の件で信頼とインパクトを与えた俺の言葉は通り、不審なものをみたらすぐに避難し、俺はゼロ戦ですぐに駆けつけると約束した。
ついでにスパークリングワインの交渉を済ませ、初期投資として宝石を3つ渡し、出来たら優先的に俺のところへ送ってくれるように頼んだ。そろそろ本格的に炭酸に飢えている。方法は最初は瓶で2回発酵させ、その際に炭酸を閉じ込めると言うもの。軌道に乗ったら販売の半分とワインが俺の下に送られてくることとなった。投資もしたし、この時代観だとそれでも税としては普通なんだよな。
さあ、これから学院へ帰ろう。結構飛ばしたから残りの燃料が怪しいけど、最悪レビテーションをかけながら飛ばすとしよう。
この後タバサの実家のオルレアン家に行くんだけど、まさか詳細な描写が10巻とは思わなかったよ・・・・・・眠かったので読み飛ばしてる場合もあるかもだけど。