だまして悪いが調子が良くてな。悪いが更新させてもらう。
「宝探しに行きましょう」
なんか唐突に切り出してきた。キュルケ。俺は今ギーシュと訓練中で、模擬戦の決着が着くのを見計らっていたようだ。
「宝探しねえ、そんなものは大概がハズレと相場が決まっているのではないのかね?」
ギーシュが胡乱気にしている。
「確かにハズレが多いのは確かだけど、中には当たりがあるかも知れないわ! (これを機にダーリンを奪い取るの! ヴァリエールだけじゃなくて最近メイドが接近しているし、タバサもなんか怪しいわ。ツェルプストーが恋愛で遅れを取るなんてあってはならないのよ!)」
キュルケは宝探しをタネに何か別のことを考えているようだけど、まあ、多分問題は無いだろう。
「わかったよ、キュルケ。ただ、主も一緒だけどいい? それと、調理役にシエスタってメイドの娘を連れて行きたいんだけど」
「それなら僕はモンモランシーを連れて行きたい! お宝の場所は大抵猛獣や獰猛な亜人の住処だからね。いいところを見せるんだ!」
(まあ、ヴァリエールが付いてくるのは予想してたけど、メイドは想定外ね。だけど調理役は必要だわ。ダーリンはなんでも出来そうな気がするけど、そんなダーリンが調理役が欲しいって言っているんだもの。ここで拒否しても良いことは無いし、何より味気ない保存食とか我慢したくないわ)
「ええ、分かったわ」
「猛獣や亜人がいるのなら、先にそこの領主に取り次いで討伐の名目も貰おう。そこそこお金になるから、もしハズレでも苦労に見合った額がもらえる筈だよ」
「さすがダーリン、抜け目が無いところも素敵!」
「ギーシュはこの前の雪辱を晴らす機会だ。貴族は領地の平和を守るのも仕事のうちだし、課外授業ってことで許可を貰ってくると良い。もしダメだったら直接オールド・オスマンに許可を貰いにいくと良いよ」
「モンモランシーの事に頭が一杯でそこまで気が回らなかったよ。それなら一粒で三度美味しくなるね。分かった。参加者が決まったら僕からまとめて許可を貰ってこよう。危険な地域ならポーションの原料も手付かずだろうし、モンモランシーの喜ぶ顔が見えるようだよ」
「当たりもあれば一粒で四度よ。タバサも参加する予定だから、移動中の足に関しては心配しなくて良いわ」
「よし、ならうちのご主人とシエスタを誘ってくる。トレジャーハンティングだ。楽しもう」
「いいわよ」
まさかの1秒了承。
「主はもう少し考えてから返事するかと思ったのですが、今回で何かやりたいことでも?」
まあ大体予想は付くがね。
「ええ、見た目は失敗魔法より煙が無くなっただけだけど、少しルーンを唱えただけであの威力だもの。把握しておくに越したことは無いわ。それに、今まで馬鹿にしてきたツェルプストーを見返すチャンスだわ。あいつの見る目がなかったらいつもの失敗魔法って言われるかもしれないけど、仮にもあの歳でトライアングルよ。
それとタバサだっけ? あの子くらいしか気が付かないだろうけどね。と笑うルイズ。
「それなら、追加で調理役にメイドのシエスタを連れて行ってもいいですか? 私の身体も一つしかないので、戦闘をこなしながら料理は作れません」
「・・・・・・・・・・・・いいわよ」
自己顕示欲がある一方でキチンと計算も出来るようになったか。原作とは別方向の成長を遂げているな。乖離してきているが、ロマリアが介入してきているお蔭で1ヶ月程の休戦が設けられ、現在トリステインとレコン・キスタの間で交渉が行われている。内容はウェールズを引き渡すか否か。アンリエッタはそんなこと絶対にNOだろうから、マザリーニ枢機卿が遅延工作をしつつトリステイン空軍とアルビオン空軍が連携できるように訓練中の期間を可能な限り伸ばしたいと言うのが本音だろうと呼び出されて会話した時に雰囲気で察したが。あの人本当に苦労人だな。大した忠誠心だ。
「後ギーシュからはモンモランシーを誘いたいと言っておりました。彼女にも少し面識はありますが、ポーション作りの原料を護衛付きで手に入れられる絶好の機会です。おまけにトライアングルクラスとそれを倒したとされる使い魔が一人、来ないと言うはずは無いと思います」
護衛代としてポーションの原料の半分はいただくけど。
「分かったわ。他には無いかしら?」
「以上です。近々レコン・キスタが攻めてくると思います。力量を把握する良い機会です。今回の小旅行で迎撃に備えるのがよろしいでしょう」
つい、最後に「そちらにとっても悪い話では無いと思いますが?」とネタ振りしそうになった。こんなのハルケギニア人はおろか今の日本人にすら通じねえよ。
ただ、そのことを聞いてルイズが貴族としての顔つきになる。
「そう、なら、亜人ごときで遅れを取るわけにはいかないわね」
その顔は貴族としての義務と、今までの鬱憤を文字通り「死ぬほど」叩きつけられる相手を得た暗い喜びが交じり合った。正直言ってヤンデレちっくな顔をしていた。
その後はシエスタを誘いマルトーさんにシエスタを借りていくと報告し、予定の日が来た。
「それでは皆さん、基本的な作戦は今まで通りに行きましょう。戦闘中のんきに会話している余裕は無いので、よろしくない状況に陥った場合は先ほど言ったとおりにお願いします。特に主とミス・モンモランシ」
今回はサプライズのため亜人を爆殺するまでは秘密にしておけと命令されたので今もこんな扱いだ。
「平民に指図されるのは癪だけど、あのフーケと互角なんだものね。聞いてあげるわ」
「僕が居ればそんな状況にはならないよ、モンモランシー!」
「最近平民と何かやってるみたいだけど、どうだか」
いつもの調子でギーシュとモンモンはじゃれあっている。
「亜人は耳を落とすからあまり顔は狙わないようにするわ」
「これが終わったら約束を果たしてもらう」
トライアングルの火力では直接顔を狙うと炭化して証明にならない為、四肢や胴体を狙おうとするキュルケに小声で確認をするタバサ。
「サイトさんの勇姿、マルトーさん達にも伝えられるようにしっかり目に焼き付けます!」
「たかが亜人ごとき、今の私の敵じゃないわ」
相変わらず健気なシエスタと、最後にさりげなくデスノボリを立てるルイズ。フォローが大変になるからやめていただきたい。
「では、各々油断なきよう。参りましょうか」
俺はデルフリンガーと地下水を抜き、オークの住処となっている廃村へ突撃した。
「出て来い! お前らの大好物の人間が来たぞ!」
囮兼威力偵察の為、大声で叫びながら最初の一匹に飛び掛る。
「ぷぎぃ!?」
尻に地下水を刺され、短い悲鳴を上げるオーク。こっちではオーク「鬼」と付くらしいが、角なんぞ見当たらないので俺はそのままオークと呼んでいる。ちなみに煮てアクを取ると意外と食えないことも無い。
「ひでえなマスター。オーク鬼の尻に突き刺すなんて」
突き刺されたオークは濁った発音で軽口を叩く。
「どうせ生き物なんざ極論で言うとクソの詰まった血袋だろ。どこを刺しても変わらんし、後で洗浄してやるさ」
「頼むぜ」
いちいち話している暇は無いと言った口で悠々とオークを支配した地下水と会話する。地下水は刺された尻からその本体を、オークの大きな手のひらの中に刃ごと握りこむように掴んだ。
「前回はマスターの身体で系統魔法が使えるか試したくらいだったからな。今回は派手に暴れさせてもらおうか」
オークを操った地下水は反対の手に握った棍棒で、早速2匹目のオークの頭を潰した。ついでに言うと、地下水で魔法を使うと己の力量プラスドットレベルの魔法が撃てる。つまり平民でもいけるのだ。俺の場合魔術を使うので、火力の高いドットのような状態になった。烈風と呼ばれる前、騎士見習いだった頃のカリンちゃん状態だ。この状態でデルフで魔法をまとわせたら「相棒、これ以上は破裂しちまう!」とか抜かした。改造して元素の兄弟レベルでも吸い込めるようにしなくては。「斬る」のではなく「叩き切る」のは刀ではなくデルフリンガーの役割なのだから。
3匹目のオークの棍棒を持った腕をデルフで肘から断ち、流れのまま脇差を逆手に抜き放ち交差する際にその喉を掻っ切る。哀れなそいつは残った手で喉を押さえてこちらを見るも、声帯からは風の通るような音しかしない。
腕と喉を切られ、前のめりになったオークをデルフを握った拳に魔力を流し、背中に思い切り打ち付けた。
「メガトンパンチ!」
ガンダールヴにさらに魔術による身体強化で人為的な火事場の馬鹿力で殴られたオークは勢いよく目の前の別のオークに抱きつく形になった。
「エオルー・スル・フィル・ヤルンサクサ・・・・・・エクスプロージョン!」
それを見ていたらしいルイズがスペルを序盤途中で止め、2匹が重なったところでその足に向かって杖を振り下ろした。
真の爆発魔法がオーク2匹の足を中心に胸元まで爆風で消し飛ばし、肉片と砂埃が飛ぶ。
「フレイムボール! なによヴァリエール。あなたの失敗魔法ってもう失敗魔法と言うよりそれそのものが固有の魔法じゃない。わけが分からないわ」
「・・・・・・ジャベリン」
キュルケが戦慄した声で吐露し、視界の端でタバサが同意の頷きをする。その間も杖を新しい敵に向け、獲物を探す姿が素晴らしい。
「僕も負けていられないな。メルダー!」
ギーシュは前回で反省したのか、盾役にステップを踏ませちくちく攻撃する傍ら、身軽な攻撃役が木の上から落下しオークのうなじにショートソードを深々と突き刺す。他のゴーレムが見えないことから、残りはモンモランシーを守っているようだ。
「あ、珍しいの見つけたわ」
存外ギーシュの力を信じているのか、マイペースに薬草などを採取しているらしい。モンモン、お前それでいいのか・・・・・・。
「これで、最後!」
最後まで気配が残っていたオークの首を飛ばし、噴水のような血を浴びる前にバックステップで風上に離脱する。そういやあのデブ最近仲間に入りたそうな目でこっちをみてたな。おっと、残心残心。
「ふぅー」
「サイトさん、すごい!」
戦闘前にギーシュと相談して、補佐役のケンプファープッペを1体護衛に付けていたシエスタが興奮した面持ちで抱きついてきた。
「鍛えてますから」
もう近くには敵意を持った相手が潜んでいないことを確認し、いたずらっぽく仮面の鬼さんをリスペクトする。
「相棒、あっちで地下水の奴が操ったの介錯してたぜ。いちゃつくのはいいけど拾いに行ってやんな」
「了解、シエスタ、もう危なくは無いけど、血だまり踏んづける必要も無いからちょっとここで待ってて」
「よう、色男。待ちくたびれたぜ。でも、たまにはこういう力任せなのもいいな。だからこれ以上文句は無いぜ」
「待たせたな。オークの尻に刺されたまま鞘に突っ込まれるのも嫌だろう。しばらく布巻いておくからそれで我慢してくれ」
鞘は地下水が俺を認めた後作った。話せはするが、鞘の部分を他人が持っても操れないようにしてある。柄を握った奴のことなんざ知らん。適当におしおきしておけと命じてある。
「では皆さん、剥ぎ取りしましょうか。お腹も空きましたし、その後ご飯にしましょう」
「へえ、美味しいわね」
「そうだね、でも食べたことが無い味だ。何の肉を使っているんだい?」
「オーク鬼の肉です」
『ぶふぅ!?』
モンモンとギーシュが噴出す。
「じょ、冗談です。罠で捕まえたウサギの肉です」
「オーク肉も案外いけるもんだぞ。ただ、その前のアク取りが面倒なだけで」
皆で和気藹々と鍋を囲んでいた。鍋も食器もギーシュ製の土鍋と深皿である。地味にラインになっているので生成したものに泥や砂も混じっていない。器用だしな。土鍋の形はシエスタのリクエストだ。
「それで、その、サイトさん、どうですか?」
「ああ、美味しい、それに懐かしい味だな。髪の色といい、シエスタと俺には共通点が多いんだな」
「そうですか・・・・・・お揃い、エヘヘ」
「シエスタ、お代わり頂けるかしら?」
「サイト、よそって!」
シエスタのストロベリーな空気を変えるためにキュルケがお代わりし、無意識に便乗してルイズも俺に要求してきた。
「はいはい、いっぱい食べる貴女達も好きですよ?」
その分動ければ特に文句は無い。
「それにしても、お宝はことごとくハズレだったね。経験も積めるし、サイトの根回しのおかげでそれなりに稼げているから別にいいが。それよりモンモランシー! 僕の活躍を見ていてくれたかい?」
「ええ、それはたまに貴方達が訓練してるのを見ていたから、サイトの人外じみた動きに付いていけていたし、信じていたわ。おかげで秘薬屋だと大分高いのも仕入れることが出来たし」
ギーシュよ、ある程度許されてはいるが、もう少し攻め方を工夫しないとモンモランシーからは都合の良い男で終わるかも知れんぞ。
「それで、残ったものはまだあるのか? キュルケ」
「ええ、ダーリン。1枚だけあるわ。なんでも「竜の羽衣」って言うらしいけど」
「えっ」
「何、シエスタ、あなた知っているの?」
ようやくアレが来たか。アレの為に先回りでコルベール先生には石炭を元にガソリンのサンプルを渡して作ってもらったからな。今はギーシュに個別に錬金し、溶かして柔らかくして混ぜた金属を溶解中に錬金しなおして作った金属缶に詰めてある。樽だと揮発して危ないんだよ。
「なんでもひいおじいちゃんがそれに乗ってタルブの村にやってきたそうです。ひいおじいちゃんはそれに乗って帰ろうとしたけど、ダメだったみたいで、結局村に住み着いたらしくてそれでも貴族様に頼んで固定化とかをかけてもらって保存しています。でも、飛べないし、おばあちゃんとかは拝んでいる人も居るけど・・・・・・」
「そう、大変だったみたいね」
「いえ、「竜の羽衣」以外ではとっても働き者で良い人だったそうです。私が生まれた頃にはもうよぼよぼで働けなくなっていたけど、それでも村の皆に慕われていて、小さい頃に死んじゃうまで私も遊んでもらったりしました」
「それじゃ、最後に見るだけ見て帰りましょうか。ダーリンのおかげで案外稼げたし」
「私の家の私物なので、管理出来る人になら譲ってもいいかなってお父さんと話してみます」
「分かったわ。あなたたちもそれでいい?」
キュルケの問いにそれぞれ同意し、鍋の残りをかきこむのだった。
初めてまとまった戦闘シーンを描写したのでは無いのでしょうか。
ルイズが恍惚のヤンデレポーズしてるところをちょっと見てみたいかも。