ワイルドハント異伝   作:椿リンカ

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※タツミ視点ではありません
※第三者視点


加害者の事情なんて被害者には関係ねぇ

エリオットはランとセリューについて、帝都にある廃墟までやってきた。

 

この廃墟は元々貴族が管理していたものだったが、現在では持ち主のいない場所となっている。

場所も中々に広く、ロビー部分は古くなって吹き抜け状態になってしまっていた。

 

「(おおっ、ここはもしかしてランがチャンプに奇襲しかけた場所か?)」

 

エリオットは物見遊山であたりをきょろきょろと見回していた。

転生した年月があるため、忘れている部分ももちろんあるが・・・それでも彼は彼で、この”アカメが斬る!”の作品を気に入っていたのだ。

 

だからこそ、彼は興奮していた。

 

・・・これから自分はチャンプを足掛かりに、ランたちと共に悪役キャラクターをどんどん殺して、安全に暮らして、英雄になるんだ、と。

 

 

 

そんなエリオットとは対照的にセリューとランは黙って歩いていた。

コロもセリューに並ぶように歩いている。

 

・・・不自然なまでに会話がないことにエリオットは気が付かない。

 

「なぁなぁ、ここすっげぇ奇襲するのにいいよな。まずはあれか?俺がチャンプを連れてきて、お前らが奇襲するってか?」

 

自己陶酔と興奮がない交ぜになったエリオットは、ランとセリューに話しかける。

だが、彼らは「その話はあとでゆっくり」と返答するだけであった。

 

「・・・その前に質問があります」

 

セリューが静かにエリオットへと顔を向けた。

 

「エリオットさんは、帝具をいつから持っていたんですか?」

「へ?なんだよいきなり・・・」

 

「・・・いえ。私は帝都警備隊時代にコロと適合したのですが、帝国の外に出た帝具と巡り合った話が聞きたかったんです。ね、コロ」

「きゅきゅー」

 

セリューに問われ、エリオットは「おう、そうかそうか!じゃあ教えてやるぜ!」と彼女の質問に答え始めた。

 

 

「俺はな、家から出てすぐにこれを手に入れたんだよ」

 

 

その言葉にセリューが一瞬、顔を伏せた。だが、すぐにエリオットへと顔を向き直した。

 

彼は腰に下げていた自らの帝具を見せつけるように差し出した。

 

「この【百風千嵐 芭蕉扇】はな、風を操る帝具なんだぜ」

「・・・そうですか」

 

「おう!こいつのおかげで大抵の危険種や盗賊は一網打尽にできるんだぜ!」

「・・・一網打尽、ですか」

 

エリオットの自慢の帝具だからだろうか、自信満々にセリューに見せつけた。

 

「・・・もっとよく見たいので、私が持ってみてもいいですか?」

「いいぜ!」

 

セリューに言われるがまま、エリオットは彼女に帝具を渡した。

彼女を疑うこともなく、エリオットが意気揚々と態度になっている中、ランが「少し、いいですか」と話しかけた。

 

「なんだよ」

「貴方はずっと、チャンプと一緒にいたんですよね」

 

「そうだけどよ・・・でもほら、仕方ないだろ?あいつは俺じゃ勝てない体格だしよ。仮に殺しても俺が一人でやっていけなかったし。何度も言ってるだろ?」

「・・・」

 

ランは何も返さない。その様子にさすがにエリオットは気が付いたようだ。

 

「な、なんだよ・・・どうした?まさか計画をやめるわけじゃないよな?」

「いいえ、やめません」

 

ランはきっぱりとそう言い切ると、パン、と拍手をした。

 

乾いたその音が、やけに廃墟内に響く。

 

なぜそんなことをやったのかとエリオットが問う前に、彼の体は何かに抑えつけられた。

 

「ったぁ、な、なんだよ!!」

 

エリオットが辛うじて周りを確認すると・・・自分を取り押さえてるのはどうやら大人の男が複数人、それに廃墟の影や通路からぞろぞろと男性や女性、時には老人や若者がやってきた。

 

 

 

「彼らは、貴方の兄に犯し殺され、貴方に見殺しにされた子供たちの遺族ですよ」

 

 

 

セリューがエリオットに冷たく言い放つ。

 

その言葉に、エリオットの顔は真っ青になった。

 

「・・・エリオットさん」

 

ランは組みふされたエリオットの前へとやってくる。言葉を発せないエリオットの前で彼はしゃがみ込んだ。

 

「私はこの国を中から変えるつもりでした。ですが、チャンプを追いかけてやってきた遺族の方々と話して・・・貴方と話をして、決めたのです」

 

とても冷たい目で、彼はエリオットへと話しかけた。

 

 

「チャンプへの復讐のために・・・我々は貴方に、チャンプが子供たちにしたのと同じことをする、と」

 

 

その言葉にエリオットは息を呑んで「やめろっ・・・」と小さく呟いた。

 

「やめろ!やめてくれっ・・・俺は、俺は仕方なかったんだよ・・・!!」

 

「やめません」

 

ランは冷たく言い放つ。遺族たちの憎しみの籠った視線がエリオットを静かに見つめた。

恨み言も何も、彼らは言わない。ただ、憎悪の感情をこめて、エリオットを見つめ続ける。

 

「セ、セリュー!お前、こういうことはだめだろ!だから止めろよ、な?」

 

セリューへと助けを乞う視線を向けるが、セリューは冷たく彼を見下ろした。

 

 

「・・・貴方にも、この国にも、正義を執行する価値がありません。悪を止めないあなたを助ける意味がありません」

 

 

「・・・助けろ、助けろっつってんだろおお!!!お前は!お前は正義が好きなんだろ!だったら助けろよ!てめぇはこんなことしないだろ!!!」

 

 

エリオットの荒げる声に、セリューは何も返さない。

 

代わりにランは「エリオットさん」と声を掛ける。

 

「自分の家庭環境や体質についてずっと語ってくれましたね」

 

彼は一呼吸おいて、エリオットへと伝えた。

 

 

 

「貴方それは・・・ただの言い訳で甘えで、子供じみた我儘です。どんな理由があろうとも他人を傷つけて虐げていい理由にはなりません。それに、貴方が止めなかったことをそれで良しとするわけがないでしょう」

 

 

 

その言葉を皮切りに、廃墟にエリオットの悲鳴がずっと響くこととなる。

 




ロッドバルト「次回からタツミ視点に戻りますよ。・・・えぇ、なんです?あぁ、エリオットさんですか。さぁ、どうなるでしょうね」

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