「さて、それじゃあお主の血を少しだけもらうぞ」
ウェイブとクロメが帰った後、当たり前のようにドロテアさんに言われて俺は硬直した。
血をもらう?俺の?
いやいやいや、なんでだよ!なんでそうなるんだ!?「さて」って言ってるけど、話の切り替えできてないし、そもそも俺の頭がついてきてない!
「え、えっと・・・なんか研究するとか、検査とかですか・・・?」
「いや、言ったじゃろ?サンドイッチの代わりがあると」
んんんんんんんんん????
・・・え、つまりどういうことだ?
「じゃからな、サンドイッチの代わりにお主の血を吸っても良いか?」
「えっ?」
「妾の帝具は“血液徴収アブゾデック”というものでのぅ。ほれ、牙の帝具なんじゃ」
「は、はぁ・・・」
ドロテアさんが口の中をあけて牙を見せてくる。口の中に取り付ける帝具もあるのか・・・いや、そうじゃない。なんでドロテアさんの帝具の説明が、俺の血液を吸うってことになるんだ?!
「相手に噛みついて血を飲む攻撃方法でな。怪我の治療や一時的な強化もできる優れものじゃ」
「・・・あの~、それがなんで俺の血を吸うってことになるんですか?攻撃方法なんでしょう?」
「うむ、普通はの。ただ、血液にも味というものがあってな・・・まぁ、腹も満たせるし、どうせならお主のも吸ってみたいと思っただけじゃ」
「お断りします!!!」
なんでそうなるんだよ!?っていうか、噛みつかれるのはさすがに痛そうだから断るしかない。
「むぅ・・・意外とケチじゃな」
「ケチとかじゃなくて、それなら俺、別の料理作りますよ!買い出しに行ってでも絶対に作ります!!」
「その必要は無いぞ」
俺がドロテアさんに直談判していたら、聞き覚えのある声がした。
「おぉ、リンネとシュラか」
「リンネさんにシュラさん・・・」
「・・・来るつもりは無かったが、愚弟が引っ張ってきただけだ」
「んだよ、折角羅刹四鬼から土産もらったんだぜ?みんなで食べようと思ってな」
リンネさんとシュラさんが研究室にやってきた理由。
・・・どうやら、大臣の警護をしている羅刹四鬼という人たちからお土産をもらってきたらしい。それで、すぐに痛みそうなものだったから、宮殿に来ているワイルドハントのメンバーで食べようということになったとか。
「ほぉ!これはロマンガニか。帝国におる蟹じゃろう?」
「そうそう、けっこう蟹みそが美味いんだよなぁ」
「・・・タツミ、調理を頼めるか?」
「はい!えっと、普通に茹でてきますね!」
とりあえず普通に茹でたらいいよな。確か調味料はあったはずだから、それも準備しておこう。
手際よく準備して、俺が茹で上がった蟹を持っていくと・・・研究所にやってきた来客者がいたようだ。
「ですから、ワイルドハントの大半の経歴は悪そのものです!そんな人間をなぜ採用したんですか!」
・・・確かDr.スタイリッシュのところで出会った、セリューさんだっけか。
ものすごい勢いでリンネさんにつっかかってる。優しそうな人だと思っていたが、なんというか鬼気迫るものを感じさせた。
シュラさんは居心地が悪そうにしてたし、ドロテアさんは面白おかしそうに見守っているようだ。
シュラさんはなんでかわからないが、ドロテアさんは止めようぜ!?
・・・セリューさんに対して、リンネさんはとても静かに佇んでいた。
なんというか、セリューさんがこういうことを言うのを予想してたような感じ・・・だろうか。なんとなくだが、俺にはそう見えた。
「帝国の暗殺部隊の連中も殺害した民間人の死体を強姦しているという報告もある。エスデス軍も敵側の民間人の凌辱をしているそうだ・・・セリュー・ユビキタス、我々を責めるならば己の上司や同僚を顧みてから言いたまえ」
リンネさんはセリューさんにそう言って、厳しい視線を向けていた。
なんだよそれ・・・!!
・・・帝国軍はそんなことまでやってるのか・・・?!
「そっ、そんなこと・・・そんなことをやっているはずがありません!でたらめです!!」
「・・・それならば同僚や上司に尋ねればいい。嘘を吐けるような人間ではないからな、あいつらは」
リンネさんがそう答えると、セリューさんは研究所から飛び出していった。
「・・・あ、あのー」
「すまないな、騒がしくした。どうやら俺がここにいることを知って、直談判しに来たらしい」
そう答えて、リンネさんは椅子に座りなおした。
「あの、さっきのって・・・」
「気にするな、それがこの帝国の現状だ」
そう短く答えられてしまうと、あまり突っ込んで聞けない。
「・・・そ、それよりもよ!早く蟹食おうぜ!なぁ、タツミ!」
「えっ、は、はい・・・」
「そうじゃぞー、他の奴らには秘密じゃな」
シュラさんとドロテアさんはさっきの空気を払しょくするように、俺が持っている蟹を代わりにテーブルに運んでくれた。
俺もそのまま、とにかく蟹を食べて会話をすることに集中した。
・・・リンネさんが「お前にはここが合わない」みたいなことを言っていたことが、少しわかった。