さて、オリヴァーさんをお見送りしたわけだが・・・これから俺は何を手伝えばいいのだろうか。
「ドロテアさん!俺、頑張りますんで。なんでも言ってください!」
「おお、いい返事をするのぅ。威勢が良いな」
そう言いながらドロテアさんは研究所の中を紹介してくれた。
「妾は基本的に人間の若さや寿命を延ばせる研究をしておってな。ただ、生物同士の合成なんかもやっておる。いわゆるホムンクルスというやつじゃ」
「合成って・・・生き物を掛け合わせるって、具体的にどうするんですか?」
「基本的には素体となる生物に違う生物を掛け合わせてな・・・このへんの仕組みは説明しても分からないじゃろうから省略するぞ。まぁ、錬金術はそういうこともできる」
「へぇー、そっかぁ」
生き物同士を掛け合わせるって、なんかすごいな・・・
人間の不老長寿ってものを研究してるのは医者っぽい気がする。でも、生物を掛け合わせるっていうのは科学者な感じだなぁ・・・
「ふふふ、大臣から支援を得たからのぅ。素材も十分じゃ」
「へぇ、素材って危険種とか・・・」
ドロテアさんに尋ねようとした俺は、大きなガラスの水槽に入った生き物に目が留まった。見たことがない生き物だが、人間のような姿かたちをしている。
まさかとは思うが・・・
「どうした?」
「あはは・・・」
「あぁ、この研究素体か?囚人を使ったんじゃが、Dr.スタイリッシュとの共同研究でのぉ」
「やっぱりか!!!」
嫌な予想が当たったじゃないか!人間使ってるって本当かよ!?
「なんて酷いことしてるんですか!」
「・・・まぁ、そうじゃなぁ。一般倫理からは外れておるの」
ものすごくあっさり返された。というか、答えを想定していた感じにもとれる。
「じゃがな、科学も医療も、下手をすれば食料の歴史も人間の犠牲は付き物じゃろ」
「そ、そんな・・・」
「毒のある食べ物がどう食べれるかとか、人体の仕組みなんかもそうじゃ。そもそも、妾の研究の内容を大臣も支援しておる。人間を使っても良しと言われたんじゃからな」
「・・・・・・でも・・・」
普通は人間を使います!っていうのは、反対するものだ。そもそもそんな提案されたら断るものじゃないか?
それで支援しているのだから・・・・・・シュラさんやリンネさんの父親である大臣は、やっぱり良い人ではないんだな。
・・・税金が重いと思ってたし、街でも暗い顔をした人を見かけたことがある。やっぱり、国を運営している役人たちが腐っているってことなんだろうか。そんなの許せないけど、リンネさんみたいな人も頑張っているんだよな・・・
「お主もそんな顔をするでないわ」
「でも・・・」
・・・やっぱり、ワイルドハントにいる人は悪人だらけだとリンネさんが言っていた通りだ。でも、普通に話したりしている分には全然優しいんだよな・・・
「無理に理解せんでもかまわん。妾のような研究職は疎まれることも慣れておるしな」
「・・・」
「まぁ、田舎から出てきたばかりの青臭い子供には刺激が強かったみたいじゃからな~?」
「こ、子供って!子供扱いしないでくださいよ!」
そんなこんなで、ドロテアさんの仕事の手伝いをすることになった。
俺が任されたのは上層部へと出す研究レポートや報告書を種類ごとに分けることだ。どうやら支援してもらう代わりに研究内容や進捗状況を報告しなければいけないらしい。
イェーガーズ所属のDr.スタイリッシュさんとの共同研究もしているからか、この帝国でやっていた科学的な研究なども調べて自分の研究に生かそうとしているらしい。
「なんというか、書類が多いですね・・・」
「妾からすればこの国の技術には興味があるから仕方ないじゃろう。妾の研究にも生かせそうじゃからな!」
「あぁ、そういえば不老長寿の研究でしたっけ・・・」
不老長寿、か。
御伽噺では聞いたこともあるけれど、そういう研究を真面目にしているのは不思議な感じがする。
「・・・なんでドロテアさんは不老長寿の研究をしているんですか?」
「ん?そりゃあ、美しいままで長生きしたいからな!」
「ドロテアさん、美しいというよりは可愛いほうだと思いますけど・・・」
俺がそう訂正するとドロテアさんがこちらを見て数秒ぐらい固まっていた。
え、俺何か言ったかな・・・?
「・・・お主、存外たらしの才能があるの・・・」
「たらしってなんですか!?」
「それはともかく、妾は長生きしたくてのぅ。さすがに不老不死は無理じゃが、長生きできそうな方法を探っておる。」
「長生き、かぁ。俺にはなんか想像しにくいなぁ」
そもそも俺が年老いてからのことなんて考えたことなかった。せいぜい十年先ぐらいなら妄想しないこともないけどさ。
「ドロテアさん、すごく若いように見えるんですけど、年をとってからのことを考えてるんですね」
「・・・遠回しに皮肉に聞こえるのじゃが」
「え?」
「いや、お主は気にするな。いいな?」
ドロテアさんに念を押されたので、素直に「はい・・・」と頷くことしかできなかった。
ロッドバルト「さぁ、次回以降もドロテアさんの研究棟でのお話が続きます。これぐらいはサービスですね。それでは」