今日から何日かはドロテアさんの実験場での手伝いをすることになった。
いつもお手伝いをしているオリヴァーさんが、リンネさんの頼みで少しばかり詰所や研究所に戻る暇がないらしい。オリヴァーさんも仕事熱心な人で、帝都での情報屋代わりに動いたり、監視の仕事もこなしているそうだ。
だからこそ、今回は試験雇用されている俺が、オリヴァーさんの代わりにドロテアさんのお手伝いをするってことになったのだ。
ドロテアさんとは会話したことがあるものの、彼女は宮殿で研究所まで作ってもらっているせいか、あまり詰所よりも研究所に入り浸っている。
西の国からやってきた錬金術師?って奴らしいが・・・具体的になにをどうやっているのか知らないんだよな。そもそも錬金術っていうのが良く分からない。一体何なんだろうか・・・
・・・えぇい!本人から教えてもらって、交流を深めればいい話だ!
帝国の宮殿敷地内、研究所まで侍女の人に案内してもらった。侍女の女性は父親が皇帝陛下の教育係を勤めているとかなんとかで、宮殿の中ではある程度信頼されているそうだ。
「宮殿内は決して一人で出歩かないように。ワイルドハントの見習いとはいえ、見慣れない方にすぐに絡まれる将軍や兵士の方々もいますし、不審者と勘違いされると牢獄送りになりますから」
「分かりました、肝に銘じておきます」
そういや、リンネさんやシュラさんたちも注意してたなぁ
一人で歩き回ることは今まで無かったけど、これ以上に気を付けよう。さすがに牢獄に入るのは勘弁したいところだ。
・・・でも、やっぱ宮殿内もどっかピリピリしたところがあるよな
・・・前々から感じてたけど、帝国のお偉いさんたちって相当問題がありそうだ。
だからと言って、今の俺がどうこうできるわけじゃないけれどさ。ただ、闇雲に訴えかけても聞いてもらえそうにないことだけは分かる。
とにかく今は、俺にできることをやって、故郷の仕送りをするのが先決だ。
「今日から数日の間、ドロテア様をお願いしますね」
研究所でドロテアさんとオリヴァーさんと合流すると、オリヴァーさんに深々と頭を下げられて頼まれた。なんというか丁寧に対応されるとちょっと照れるなぁ。
「はい!どんと任せてください!」
「ふふ、やっぱり頼りになりますね、タツミ君は」
「やっぱり・・・?」
「あっ・・・いえ、なんでも」
オリヴァーさんに“やっぱり”頼りになると言われて、ちょっと嬉しくなった。本人はちょっと誤魔化そうとしてるのが気になるけど・・・試験雇用の身の上だから必要以上に褒めたらダメってことか?
「それではドロテア様、数日間はタツミ君に任せますね」
「うむ。妾もこやつには興味があったからな」
そんな会話を交わし、オリヴァーさんが首に着けている首輪に触れて帝具の力を解放させた。真っ黒な煙に包まれていくオリヴァーさんの姿が、人の形から獣へと変わっていく。
煙が無くなると、彼の姿は狼のような獣姿になっていた。黒い毛並みが印象的で瞳も深紅のように真っ赤になっている。
「おおおお!!かっこいいです!それも帝具ですか!?」
「えぇ、帝具“餓狼変化フェンリル”の能力です」
「いつみてもいいものじゃなぁ」
毛並みも艶やかだが、触るとふわっふわしている。普段は大きくて生きている獣に触れる機会は無いし、そもそもそんな獣は危険種ばかりだ。
「本当にすごいですね、帝具って!」
「ふふふ、そうじゃろう?オリヴァーの帝具は特に毛並みもふわふわで妾も気に入っておるんじゃ」
獣姿になったオリヴァーさんを触ると、確かに手触りが良い。野生の危険種だと泥とかついてただろうけど、あくまで帝具で姿を変えたオリヴァーさんだからだろう。
・・・そういえばこれって服とかどうなってるんだろうか?
破けたわけでもないみたいだし、でも服は見当たらないし・・・
「あの、オリヴァーさんにドロテアさん、オリヴァーさんの服ってどうなってるんですか?」
「すみません、わかりません」
「妾も良く分からん」
「分からないのに使ってるんですか!?」
なんかそれ怖くないか!?
「帝具は基本的にオーパーツじゃからなぁ」
「お、おーぱーつ・・・、ですか」
「大昔に作られたもので、しかも現代に残っておらぬ技術や素材が使われておるのじゃ。科学で解明できんこともあるぞ」
「へぇ・・・」
そういやぁ、リンネさんの帝具も時間を巻き戻すとかなんとかだったっけ
「ようするに考えるだけ時間の無駄じゃ」
ううん?!そこまで言うかな!?
・・・いやでも、深く考えてはいけないのかもしれない。そもそもそこまで考えるのは得意じゃないし、研究を本職にしているドロテアさんが言うのだからよっぽどなんだろう。
「とにかく行ってきますね」
「おお、そうじゃったな」
「それじゃあオリヴァーさん、お仕事頑張ってきてください」
オリヴァーさんを見送ったし・・・よーし。どんなことを手伝うかは分からないが、精いっぱい頑張るしかない!
期待と不安を胸に、俺はドロテアさんの研究所の手伝い任務に挑むのだった・・・