今は放課後。アーサーはといえば、麗しのルルーシュ・ランペルージ氏を一目見に行った。
彼とは後で、学園の外れの建物で落ち合う予定だ。あの辺りなら普段から人通りも少ない。私とアーサーが結びつけられて、猫持ち込みを咎められるなんてことにはならない、はずだ。多分。
私がここに来たことに、特に理由はなかった。ただ、来たことで、部長の様子はなにとなく察することができた。随分と筆がのっているらしい。部屋の外にまで聞こえる高笑いが怖い。
「ああ…これは酷い」
部室前に放り出されたらしい連絡用のホワイトボードには、本日入室禁止の旨と昨日の私のメッセージへの返事があった。
己が昨日書いた『自重』の字の下には部長の筆跡で力強く『しない』と書き足されている。いや本当自重して下さいよ部長。
まだ見ぬスカーレット・ピンパーネルに、私はまともであれと切に祈った。
さて、アーサーとの待ち合わせの時間も近くなり、まったり階段をのぼりはじめる。
何も、最上階で待ち合わせなんて しなくていいと思うのだけれど、ナントカと煙は高いところが好きという言葉に漏れず アーサーは高いところが好きらしく、昨日の探検で見つけた、屋根に繋がる窓のあるこの建物がいいとのことだった。
普段この建物の鐘の音は聴いたことがあったにしても、中になんて入ったことがなかったから、今はちょっぴり冒険気分だ。誰もいないようで、しんとした空間に自分の足音だけが響く。
どれくらいの段をのぼったろうか、もう数えるのもやめてからしばらくして、階段が途切れた。代わりに梯子が上に続いている。ここから鐘の方へ出られるらしい。
梯子にはのぼるかどうか少し迷って、結局やめた。アーサーが屋根から来るとしても、鐘があるところまでは一度この辺りを通ることになる。ここで待っていても合流には問題ないだろう。
窓を開けて外に顔を出せば、吹き込む風が肌をなぜた。その心地よさに気を緩めた時、ことは起こった。
―― こちら生徒会長のミレイ・アッシュフォードです。 ――
突然耳に飛び込んだ威勢のいい会長の声に、私はびくりと肩をはねさせる。しかし、本当の衝撃はこの後だった。
―― 猫だ! ――
「……猫。」
嫌な予感しかしない。
―― 校内を逃走中の猫を捕まえなさい! ――
私はこめかみをおさえた。アーサーには、誰にも見つからないようにと強く言い含めていたはずなのに、どうやら見つかるどころか、追いかけられるようなドジを踏んだらしい。しかし、あの生徒会長に目をつけられるなんて、また厄介な。
生徒会長のお祭り好きは有名だ。遊び心のある人で、あの融通のききっぷりには演劇部は非常にお世話になっているけれど。悪ノリが過ぎることが玉に瑕だと思う。
さて、私はこれからどう行動しようか。
―― 部活は一時中断! 協力したクラブは予算を優遇します ――
この一言で、私の次に起こす行動はアーサー捕獲の方向になった。彼には演劇部予算の尊い犠牲になってもらうのだ。
彼は約束には律儀であるから、待ち合わせ場所に来たところを捕まえて突き出すことにしよう。
―― そしてぇ ――
まだあるのかと私は耳を澄ませる。続いた言葉は、私の思考を止めさせるのに充分な衝撃を抱えていた。
―― 猫を捕まえた人にはスーパーなラッキーチャンス! 生徒会メンバーからキッスのプレゼントだー! ――
『きっす』…?
「生徒会、カレンさん、ルルーシュ・ランペルージ氏、キッス…うっ頭が」
例の一件を思い出した私は、その場に崩れ落ちた。いくら立ち直ったつもりでも、ショックなものはショックであって、キーワードすら鋭いナイフとなり容赦なく柔なハートに刺さってくる。とてもつらい。
数分経って、ようやく放送の内容に理解が至る。――アーサーを捕まえれば、もれなく生徒会役員の誰かのキッスが着いてくる。
私はカッと目を開いた。
―― 猫をー! 猫を捕まえたら所有物は私に私に私にげっふげふ ――
「ええ会長、お待ち下さい。アーサーは必ず私めが貴方様のもとへ」
舞台の上で台詞を口上するがごとく、劇調がかって私は言った。数秒前の落ち込み様は、今頃星の彼方だろう。
はてさて、今か今かと私が待ち構えていれば、何やら珍妙な仮面を被ったアーサーが窓から飛び込んでくる。
「御機嫌ようアーサー、気分はいかが?」
ガシッと捕まえ、仮面を剥ぎ取った。
所有物…ってこれかしら? 所有というより装着してるけど。ともかく、これをアーサーと一緒に届ければミッション・コンプリートだ。
「変な仮面ね。どこかで見たことがないこともないような気のするようなしないような」
〈ゼロの仮面だ〉
「へー、よく出来た模造品ですこと。再現率高いんじゃない?本物の形詳細忘れちゃったけど」
〈本物だ〉
「まっさかぁ。なんで本物がこんなところにあるのよ」
ちゃんちゃらおかしいことをアーサーが言うので、私はつい笑ってしまった。
笑いながら私は、手にした仮面を弄り遊び始める。ひょっこり飛び出たボタンがあったので、ぽちっと押した。
「おおー、こうして外せるようになってるのねえ」
よく出来ている。小道具の参考にでもさせてもらおうかしら。
〈ルルーシュ・ランペルージの部屋で見つけた〉
「なん、ですって」
もしや、まさか、ルルーシュ・ランペルージ氏は、ゼロの隠れファンだったのか!
「どうしよう…趣味悪いと思ってた仮面すら良く見えてくるわ」
これが恋の魔法! なんて言っていたらアーサーに呆れた目を向けられた。何よ、いいのよ、恋は盲目。きっとそういうものだから。
「しかしこれ、自作したのかしら…」
そう思うと感動に手が震えてくる。はあ、力の入りようのわかるクオリティ、彼のイメージに違わず実際器用なのだなとときめいてしまう。
それにしても、ゼロに対してなかなか社会的には批判の目が向くところ、彼がゼロの隠れファンだなんて。ダークヒーローに憧れるお年頃なのかもしれない。男の子だもんね、けどこの歳になって表にして言うのはきっと恥ずかしいよね、黙っておくから安心して! なんて、心の中で叫んでおいた。
〈おい、本物だと何度言えば。ルルーシュ・ランペルージがゼロの正体なのだ〉
「はっ、本物のはずないでしょって。現行犯ならまだしも、仮面一つで判断するのは早計というものよ」
ぺちんと額の模様に向かってデコピンしてやれば、アーサーは悔しげに唸った。
〈うぐぐ〉
「それより、実際彼を見た感想をききたいわ。私の麗しの君はどうだった?」
〈……あれは、簒奪者の目をしているな。気に入らん。〉
「ええ? 私は革命者の目をしていると思ったのだけれど」
意見が割れるなんて、珍し…くもなかったか。アーサーとは味の好みで喧嘩しっぱなしだ。
「まあいいわ、帰るわよ」
お前は帰れないだろうがな、アーサー! さーあ生徒会室に直行だ!
なーんて、思っていたら。階下から足音と人の話し声が響いてきた。
私は、階段を降りようとしていた足を止めた。
「なななな、なんでルルーシュ・ランペルージ氏の声が聞こえるのかな? それにスザク君のも」
息を荒げそうになるところを必死に抑え、耳を澄ます。自分の呼吸音で麗しい声を掻き消すわけにはいかない。そして彼の言葉は、一字一句聞き漏らすわけにはいかない。
〈ここに向かっているのだろう〉
アーサー、念話邪魔!
ルルーシュ氏は、スザク君に古い話を持ち出すな、だとかスザク君が体力馬鹿だとか言っていた。確かに、聞こえてくる二つの足音のうち、一つは止まる気配もなく近付いてくるけれど。これがスザク君だろうか。
そこまで考えたところで、アーサーの言葉の内容にまで意識が向く。ここに、向かっている?
「は? なんでルルーシュ・ランペルージ氏とスザク君がここに来るのよ!?」
〈追われていたんだ〉
「もっとそれ早く言ってよね! あああ、ええと、逃げる場所、逃げる場所…」
鐘にまでのぼる梯子か、屋根に出る窓しかない。抜け道なんてないので、私には上にのぼるほかないのだ。上にのぼったところで、追い詰められるのを先延ばしにすることしかできないのだけれど。
屋根の上は少々怖かったので、梯子をのぼることにした。アーサーに仮面を被し、肩に乗せては駆け上る。ハシゴの先は、吹き抜けて青い空、そして鐘。
何だか、煙突掃除屋にでもなった気分だ。チムチムニィ。
下の方では、スザク君が到着したらしい声がする。早い。次いで、ルルーシュ氏も着いたらしい。彼らは、窓から屋根をつたいこちらに登ってくる気のようだった。勇気ありすぎるわ。
アーサーを囮にして、私は鐘の後ろから彼らの様子を伺う。――ルルーシュ氏が、バランスを崩したのが見えた。
悲鳴が聞こえる、野次馬がいるらしい。けれども私は、この状況でも不思議と落ち着いていた。取り乱しもせず、考える。思い出すのは、昨日の朝、スザク君に言われた言葉。
――それくらいの高さじゃ、余程打ち所悪くなければ死なないのにね。
確か、そう。私が窓から飛び出しそうになったことを話した時、彼は確かに、そう言っていた。
でも、もし当たりどころが悪かったら?
そもそも、死ななかったにしてもここから落ちれば怪我の一つや二つは免れないよね?
なら放っておけないじゃないかと思うと同時に、私は屋根を駆け出していた。ルルーシュ氏の名を呼ぶスザク君を追い抜き、そのまま飛びつくようにルルーシュの手を掴む。
ああこの手洗えない。私が至福の気持ちでいたところ、スザク君が叫んだ。
「無茶するなぁ!」
その言葉には、少しの呆れが混じっている。そうして彼に腰のあたりを抱えるように引き上げられるのに、私は状況を理解した。
私の両手はルルーシュ氏を掴んでいる。急傾斜の屋根の上に腹這いで止まっていられるはずもなく、スザク君に支えられているから、私は落ちずに済んでいるわけだ。
そうか、何だか飛べる気でいて。彼を掴んだその後のことはちっとも考えていなかった。スザク君がいなければ、私もルルーシュ氏と一緒に転がり落ちているところだったのか。
「いやあ、助かったよスザク君」
「その言葉は、本当に、この状況から、助かってから、言ってくれる?」
「それは失敬」
二人分の体重はきつかろう、それを片手で支えているのだ。ここは少しでも負担の軽減をしてあげないと。
自分にできることは何かと考えた私は、ルルーシュだけでも引き上げ屋根に乗せてしまおうと腕に力を込めた。
「動かないで」
「ゴメンナサイ」
スザクからストップがかかり、私は身体を止める。
「腰を支えておくから、屋根にゆっくり足をつけて、そう。そのままルルーシュのこと、引っ張れる? 僕も一緒に引くから」
「やってみる」
「じゃあ、せーのでいくよ。せーのっ」
カラーンと、まるでタイミングを合わせたかのように鐘が鳴る。にゃあん? なんてとぼけた鳴き声が聞こえた。お気楽アーサーめ。
ともかく、無事に。ルルーシュ氏と私は助かって、私達は屋根の上から建物内まで戻ることができた。
「で、どうしてあんなところにいたの?」
「知り合いか、スザク」
「うん、昨日知り合った。友達だよ」
あっ、泣いてもいいかな。スザク君の友達認定が嬉しすぎて辛いや。
「ここには、その、えへへへへ」
笑って誤魔化す作戦を実行したが、ルルーシュ氏に物凄く怪訝な顔をされた。
「もしかして、また飛べる気がした、とか?」
ナイス、救いの手だよスザク君! 私はこくこく頷いた。
「飛べた?」
スザク君の問いに、私は笑って答えた。
「人に空は飛べないね」
私がそう答えた頃。にゃあん、とまたひとつ鳴き声が聞こえたかと思えば、その鳴き声の主が鐘に繋がる梯子を落ちてくる。
「あっ、猫」
スザクの上げた声に応えるように、私はアーサーを捕まえ抱き上げた。
「確保しましたっ!」
「だね」
私は背筋を伸ばしてから、確保をアピールするように、二人の目前にアーサーを掲げる。二人はそれを見て、ふっと安心したように息をついた。
それから、ルルーシュ氏は柔らかな表情で、私とスザク君に告げた。
「俺は少しやることがあるから、二人は先に行ってほしい」
「やること?」
首を傾げるスザク君に同じく、私もきょとんとしておく。演劇部で鍛えた演技力は伊達じゃないのだ。
「……見ていないのか」
ぼそり、と呟かれたルルーシュ氏の言葉にも、私は聞いていない振りをした。
そう、私は何も聞いてない、私は何も見ていない。いやもう本当に、特に仮面なんてものは一切見てないから、安心して回収するといいと思うな!
一方そのルルーシュ氏の呟きを拾ったスザク君は、不思議そうに問いかけた。
「何かあるの?」
「いや、大したことじゃないんだ」
「スザク君」
彼らの話を断つように、私はスザク君に話しかける。
「会長さんが待ってるよ、行こう」
「あ、うん」
彼はルルーシュ氏を気にしながらも、私についてくるように階段を降りはじめた。
「会長さん喜ぶかなぁ」
〈おおお~エレイン貴様謀ったなこの薄情者ーっ〉
「おっと」
私の腕の中で暴れだし逃げそうになったアーサーを、スザク君はひょいとつまみ抱えた。
「駄目だろう、暴れちゃ」
〈ぬおー!お前は先日のっ。小僧、またしても邪魔するか!〉
「おーよしよし」
うにゃんにゃと怒りの猫パンチがスザク君に繰り出されるが、スザク君は軽くあしらってしまう。
〈ぐっ…俺は、無力だ…〉
「はっはっは」
「どうしたの急に笑い出して」
「いやなんでも」
スザクに不審がられたことをおしゃべりなアーサーのせいにして、私はアーサーを睨んだ。とばっちりだと抗議の念話が飛んでくるが、あーあーきこえない。
建物から出て、私達は人々集う庭へと出た。すぐさま人が駆け寄ってくると思われたそれは、猫を抱えているのがスザク君だったからか、どこか戸惑い迷う様子である。英雄の凱旋だぞ! もっと熱狂したような歓迎ムードでいいと思うのだけど。
思い切ったようにシャーリーが、一歩前に出てきては、スザク君に礼を言った。それを切っ掛けに、周囲の者達も彼を讃え歓迎する雰囲気になってゆく。――ピンときた。これは皆に避けられていたスザク君が、一気に友達を増やすことになるイベントだ!
「わ、私も…」
お友達欲しい、とスザクの方へふらふら歩みかけた私の頭をぺちりとはたいて止める者がいた。アナだ。その側にはカレンさんの姿もある。
「あんたはお荷物だったでしょ」
「そうでした」
悲しきかな、屋根上では戦力にすらならなかったのだ。
「でも、とにかく無事でよかった」
そう言ってふわりとカレンさんが優しく微笑む。天使か。
「ところでさあ。エレイ~ン? 誰とキスするつもりだったの?」
「きす…生徒会メンバーとキス…」
アナの言葉で、ふっと真顔になる。
――そうだよ、キッスだよ。
まるでフラッシュバックでもするように、その時私の脳裏に浮かんだのは、ほんの数日前に考えた、それもほんの気の迷いとも思える内容で。
「……カレンさん、カレンさんって生徒会メンバーだよね?」
「えっ、待ってまさか」
カレンさんの肩に、私は手を掛ける。げっ、とアナが数歩下がり、周囲ではキマシタワー!とざわめきが起きた。
艶やかに、恐ろしいまでに美しい微笑みを浮かべることを意識して、カレンさんの頬をなぞる。頬がほんのり熱いのは、間接キッスが目の前だからだろうか。
カレンさんの表情が引き攣り、彼女が悲鳴をあげたところで、私はトントンと肩を叩かれた。後ろを振り向けば、スザク君と車椅子の少女がいる。確かこの少女は、ルルーシュ・ランペルージ氏の妹様、ナナリー・ランペルージ氏。その妹様が手をこまねくので、一体何かと私が顔を寄せると。
ちゅっと頬にキスが落ちた。
――かわいいキッスを貰ってしまった。
私はキスの落とされた頬に触れる。妹様は、にこにこと穏やかに微笑んでこちらを見ていらっしゃる。そんな妹様に、なんだかふわふわとした気分になる。
(ルルーシュ氏の妹様となると、ルルーシュ氏と親は同じ、つまり同じ血の流れる…同じ? つまり妹様とルルーシュ氏は、同じ?)
私が正気だったなら、混ぜるな危険、明らかに同じにしてはいけないものだとの判断ができたのだろうが、この時の私は真っ当な思考を放棄していた。
上ってきた熱に顔をぽっと紅く染め、私はその場にへたり込む。
あの、あのルルーシュ氏の妹様、ひいてはルルーシュ氏からの頬キッスである。(違う) 一生分の運を使い果たした気さえする。空が綺麗ですね! 私死んでもいいわ。
ただ、心残りがあるとすれば――
私はカレンさんをちらりと見る。
(……間接キス、できなかったな)
じっとその唇を見つめていると、カレンさんは逃げるように人波に隠れてしまった。残念。「あんたそういう趣味だったの」とアナの言葉が聞こえたが、一体どういう趣味のことを言っているんだろう? これがさっぱり分からない。余談だが、この後からカレンさんにはやんわりと距離をとられるようになった。何故だ。
「エレイン、いつもお世話様ね」
「ああ、会長さん。皆さんも。いえ、お世話になっているのはこちらです。どうされました?」
ミレイ会長に声を掛けられ、そちらを振り向く。先程まで、アーサーを抱えたスザク君と話をしていたと思うのだが。
「ちょーっと聞きたいことがあってね」
ミレイ会長はそう言い、真面目な顔をする。まさか私が飼い主とばれた? それとも部費の予算優遇の件?
「猫を捕まえる時、その猫何か持ってなかった?」
「いえ、何も」
ゼロの仮面なんてどこにもありませんでしたよ?
「そう。……あーっ、ルルーシュの恥ずかしい写真ーっ」
「ポエム手帳!」
「ラブレター…」
生徒会の皆様は、どうやらアーサーがそんなものを持っていたと想像していたらしい。なるほど、それで追われていたわけか。別に学園に猫を持ち込むことが禁止されていたわけではなかったのだ。私はほっと息を吐く。これで万が一飼い主だとばれてもセーフだ、セーフ。
その後、アーサーは奇しくもルルーシュ氏の妹様によって「アーサー」と名付けられ、どういうわけか生徒会で飼われることになった。……うちの猫だとは言い出せない空気になってしまった。
そうして、私が空を飛び損ねた件は幕を引く。
(エレイン・アーキンの日記 8)
二人目の友達ができた。堂々断言できてしまう。相手も公認なのだ。何て素晴らしい。
ほら私はぼっちじゃないんだぞー! と思っていたら、スザク君は持ち前の人の良さと明るさで、すぐに友達を増やしてしまった。いや、良いことなのだが、良いことなはずなのだが。そうか、彼が私と友達になり得たのは、彼の力が大きかったのか。
友達といえば。ルルーシュ氏はスザク君が転校してくる前から、彼と友達だったんだろうか。7年前がどうだとか、スザク君が言っていた気がするのだけれど。出会う前から友達だとか、スザク君の力凄まじいな。それとも、既に出会っていたのだろうか。…普通に考えて、出会っていたとみるべきだわよね。会わずに友達になってたとかいうんなら、私は血の涙を流すわよ。
7年前。その頃日本はブリタニアの属国になっていたろうか? エリア11の発足年は、いつだったか。自分のことすら朧げなのに、世界がどうとか思い出せないわ。考えるのをやめる。
ルルーシュ氏に飛びついたことに関しては、冷静じゃなかったのね、なんてアナに言われたけれど。至って冷静だったわよ、私は。