壁に×印をつけるだけの簡単なお仕事   作:おいしいおこめ

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03 猫は気まぐれ

「ただいま」

 

 一人では広すぎるその家で、誰もいない廊下に向かってエレインは帰宅を告げる。もちろん、それに返事をする者はいない…はずだった。

 

〈早かったな、今日は通常授業だろう。何かあったのか〉

 

 脳内に直接響くような、その独特の聞きなれた声にエレインは おやと片眉をあげた。

 

「アーサー。帰ってたの」

 

〈つい先ほどな〉

 

 二階への階段の手摺りの上を優雅に歩いてきた『彼』は、すたんとフローリングの床に着地し、ナーオと一声鳴いた。

 

 『彼』はアーサー。猫であり、もう一人の私である。

 

 

 

 ×

 

 

 

 さて、どこから話そうか。

 これについては、どうにも現実離れしたファンタスティックなものなので、正直話したところで信じてもらえるとは思えないのだ。

 私だって、自分自身が疑わしく、何が本当で何が幻想なのかわからないのだから。

 

 私には、遠い前世の記憶がある。

 それは、まだブリタニアが神聖ブリタニア帝国ではない頃、ブリタニアの英雄として剣を抜き戦い、ブリタニアを治める王として生きた記憶だ。

 その者の名こそ「アーサー」。神聖ブリタニア帝国の歴史学では教えられない、古い古い時代の王である。

 いや、教えられたには教えられた、か。この神聖ブリタニア王国が興る随分前、皇歴500年ほどの頃だったか? 現在ではE.U.が支配する小さな島国ブリテンを統治していた者として、「アーサー」は名を残している。

 「アーサー」はブリタニア皇族の系譜の一員だともいわれているが、少なくとも私の記憶では、そんな血が自分に入っているとは聞いたことがなかった。まずブリタニア皇族なんてものを知らなかった。

 多分、考えるのは野暮なのだろう。

 

 まあ、こんな風に話しはしたが、私の記憶も割とおぼろげなものであるし、その扱いは別に気にならない。あくまで過去は過去、前世は前世というやつで、「アーサー」は『エレイン・アーキン』ではない。記憶を思い返すことだって、懐かしさというよりは、他人の記憶を覗き見ているような、そんな感じがする。

――と、『エレイン・アーキン』は考えている。

 

 『アーサー』はそうではないらしく、ブリタニア皇帝には、やれ傲慢だの、やれ悪君だのと文句をたれている。

 そう、その『アーサー』こそがこの黒猫。右目に濃い黒縁があるのが特徴だ。

 一体どういうことかといえば、彼もまた、私と同じくアーサー王としての前世の記憶を持っているのだ。ただ、彼は前世を前世と思ってはおらず、今世は前世の延長だと考えているようで、故に、彼は自らを『アーサー』と名乗っているし、私も彼を『アーサー』と呼ぶ。

 『アーサー』と「私」は、考え方も、知識量も、前世の記憶の濃さも全部違う。ここまで違えば、それこそ、他人も一緒なくらいに。

 

 きっと、その情報量を全て押し込むには私一つの身体では足りず、私の身体からは『アーサー』が追い出され、彼は猫の身体を借りる形になったのだ、というのは彼の弁だが、実際のところどうしてこんな風になっているのかはわからない。彼だって、気付けば猫だったらしいのだ。全くもって謎である。

 

 ちなみに、猫の声帯では人語を発することはできないらしく、アーサーは念話を使う。これは誰とでもできるというわけではなく、彼が私と同じ波長だから可能なのだとかなんとか言われた気がする。

 残念ながら私は、念話は専ら受け取ることしかできないので、彼との会話は側から見れば私が一方的に猫に話しかけている危ない図となる。つらい。

 

 まあ、これが受け入れ難い方には「エレイン・アーキンには虚言癖があり、猫と会話する妄想をよくしている」とでも思って貰えばいいだろう。

 

 私は、『エレイン・アーキン』は、そんな秘密…ともいえない事情を持っている。とはいえ、私は別に伝説の剣を抜いたわけでも、魔術が使えるわけでも、古の魔王の血を引くわけでもない。ただ、ちょっと遠い前世の記憶があるだけで、ただそれだけで。私はごく普通の人間で、特別なんかじゃないのだ。

 

 

 

×

 

 

 

 ここ数日のアーサーの外出の理由は、近頃世間を賑わす「ゼロ」とかいうテロリストを気にしてのことだったらしい。猫という身を存分に活かして、洩れ聞き盗み聴いて情報を集めてきたようだが、その肝心の「ゼロ」とやらの素性は結局わからなかったそうだ。何でも、仲間相手にも常に仮面を付けっぱなしで本名も名乗らないんだとか。たいそう悔しがっていた。

 

 普段は現皇帝の悪口文句しか言わないのに、皇帝へたてつくこの手の輩を嫌うから不思議だ。反皇帝派とは気が合いそうなものだけど、どうにもそれは違うらしい。アーサーはブリタニア大好きっ子だから、きっと無闇に民が争ったり死ぬことに耐えられないんだろう。

 

 彼の言う『ブリタニアの民』は、このブリタニアという土地で息づき暮らす人たち。「ここ、アーサーのおさめてたブリテン島じゃないよ」と言えば、ルーツがあるならそれは国に同じだとか何とかいう。なんとも規模の大きな考え方だ。それが彼の彼たる所以、いわゆる王の器というやつなんだろうか。

 

「そういえば、アーサー。あなた、その足の包帯どうしたの?」

 

〈まあ、少し、な〉

 

「少しって…何よ」

 

〈心やさしき乙女に手当てをして貰った〉

 

「いや、だからその怪我の理由を」

 

〈だというのにあの小僧、折角の乙女との触れ合いを邪魔しおって〉

 

「おーい、きいてる?」

 

〈ゆ゛る゛ざん゛!!〉

 

 アーサーは、まるでそのうらみの相手の顔を引っ掻くかのように、爪研ぎ板をバリバリと引っ掻いた。

 

〈おっと、忘れるところだった。どうして今日はこんなにも帰宅が早かったんだ?〉

 

「自分は答えないくせ、ひとには訊くのね」

 

〈答えたくないからな! だがお前は洗いざらい吐けよ〉

 

「横暴だわー」

 

 肩を竦めながら、私はアーサーに、今日の私のうっかりを話した。ルルーシュ・ランペルージ氏の名前が出た時点でアーサーは苦い顔をし、私が混乱と勢いのままに窓枠に足を掛けたあたりで、毛を逆立てふしゃあと鳴いては爪研ぎ板を引っ掻いた。あの板、そろそろ買い換えないといけないな。

 

〈だからやめておけと言ったんだ、お前に恋はまだ早い〉

 

 にゃにゃにゃ、とまくしたてるアーサーの毛並みを私はこねくり撫で回した。

 

「奥さん寝取られた人間が何言ってんの」

 

〈ぐおおおおおおお〉

 

 ばたばたと悶え転げたアーサーをみて、そしてその指摘は多大なるブーメランであることに気付いて、私も一緒になってカーペット上を転げた。私が恋愛ごとに駄目になるのは前世からだったか。つらい。

 

 

 カーペットを暫く転げていたところ、制服のポケットから携帯が落ち、あろうことか私はそれを転げた勢いで蹴り飛ばしてしまった。部屋の壁に、いい音をたててぶつかった携帯に、壊れていないかおそるおそる近付く。手に取ろうというところで、携帯から着信メロディが流れた。

 壊れてはいなかったらしい。電話の主は――アナだ。

 

 躊躇いながらも、鳴り続ける着信音を無視できなくなって通話ボタンを押す。アナの、私の名を繰り返し呼び叫ぶ声が聞こえた。少し、涙声だ。「どうしたの」ときけば、猛獣が唸っているかのような泣き声をあげながら、彼女は謝りだした。聞き取るのも困難な言葉を断片的に拾ってそれらを整理すると、アナは、私の自殺騒動の原因を自分が作ったものだと思い、自責の念に堪えられなくなったらしい。

 やはり、数日前の私との衝突を気にしていたのだとか、カレンさんという新たなライバルの存在で発破がかかればいいと思っていたのが、噂の事実確認が甘く、カレンさんが実際にルルーシュ氏とき、き、きっすを、していたという事実を私に知らせてしまうようなことになってしまった、だとか。私に、恋を諦めて欲しくない、だとか。そんなことを、散々言われた。

 

 思いついたことを思いついた端から考えなしに叫び出しそうになるのを堪え、深呼吸をした。不思議なもので、冷静じゃない人間を相手にしていると、自分が冷静でいられるような気がする。ところでカレンさんとキスすれば私はルルーシュ・ランペルージ氏と間接キスできるんじゃないか? あっ冷静じゃなかった。

 

「別に、私が馬鹿やっちゃっただけのことで、アナのせいじゃないわ。気にしないで、あのときの私は冷静じゃなかったの」

「それは私が」

「でも、それは私自身の自制の効かなさが原因。死にたかったんじゃないの、本当に」

 

 アナの言葉を遮って、言い切る。ここは本当に、はっきりさせておかなければいけない。あれは、決して死にたかったのではないのだ、私は生を諦めてなどいなかったのだ、ただちょっとどうにかしてた、それだけだ。

 もしかすると、無意識に死のうとしてたのかもしれないが、表の意識に浮上してこなかったんだから、きっと大したことなんてないんだ。本当に、本当に。なんというか、改めて考えてみると、自分のことながら謎すぎる。

 

「噂が本当だったって件は、事故みたいなものだし。まあ、だから、自分を責めないで」

「でも」

「でもじゃない、アナがそんなじゃ私が気負うんだよ。重いの嫌い」

「……うん」

 

 ぐずぐずと音をさせていたアナは、そこで酷い音をさせて鼻をかんだ。……通話口から離れてかんでほしかった。

 

「ライバルは私の発破にはならない。自信を喪失していくだけだから、これ本当に」

「うん、よく分かった。ごめん」

「朝の件は…私も、悪かった、かも」

 

「私が、自分の感覚を基準に考えて言いすぎてたよ」

「それは思う、けど私も強情なのかも。いや、だからって譲れる気はしてない。こればっかりは、許して。

だって叶えられるわけないんだもん。そんなのを頑張れなんて酷いじゃん、諦めたいって思うに決まってる!」

 

 いっそ、諦めさせてくれと思う。本当に、本当に、この恋が諦められるなら。そう思う度、胸が締め付けられるような、苦しみと苦さが押し寄せる。

 あれ、すごく、泣きたい気分だ。

 

 そんな私の気も知ってか知らずか、すすり泣きにまで落ち着いたアナはぽつりと呟いた。

 

「……あんたの分かりにくさ、知っていたつもりだったけど、相当だわ。エレインが、恋愛ごとに自信持ててないっての、今やっと分かった」

「それ、は」

 

 そう、なのだろうか?

 びりびりと、何かが震えたような気がした。

 アナに指摘されて、初めて気付いたというか、本当にそうなのかまだ半信半疑だというか。心当たりがあるような、ないようなというやつだ。アナの言葉を鵜呑みにしたくない、私がこんなに苦しんでいるのを、簡単に分かってたまるかというのもあるかもしれない。

 

「恋愛ごとに、私は自信を持てていない、のか」

 

 確認するかのように、口にする。アナはパズルのピースを埋めるように、ぱちりぱちりと私を当ててはめていく。

 

「まるで、何かあったみたいに、怖がって尻込みしてる。自分が好かれるわけないみたいなとこがある」

 

 恋愛ごとに自信なんて、確かに私が持てるわけはなかったけれど。

 

「別に、それが諦める理由じゃないし。恋してる私、馬鹿みたいなんだもん。惨めで馬鹿なのは嫌なの、諦めたいの」

「馬鹿みたい、って……惨めって、よく言うわ。あんなに幸せそうにしておいて?」

 

 その言葉に、反論はできなかった。

 彼が好きだというそれだけで、私は簡単にも幸せな気持ちになれてしまう。それは、紛れも無い事実だった。

 

「どうして惨めだと思うのか、考えたことある?」

 

 考えたことはなかった。それには答えず、今更に考えだし、その場で思いつくことを並べる。

 

「……自分が、彼を好きなように。同じくらい好かれたいと思ってる自分が、馬鹿みたい。もし好きになってもらえたらと期待する自分が馬鹿みたい。返ってくるわけないのに、こんな思いするくらいなら、好きでいたくない」

 

「好きでいたくない…そう。本当に?」

 

 ひとつひとつ、確認事項を順番に確かめるようにアナは訊く。

 

「苦しい、だってこんなにも苦しんでる! 私は、こんな気持ちを味わうくらいなら、恋なんてしたくない。この好きって気持ちが綺麗なままで、諦めたいよ」

 

 諦めたいんだよ、と繰り返し口にした。ああ、胸が痛い。

 

「諦めたいの?」

「諦めたい、諦めたいよ。何度も、同じこと言わせないでよ…苦しいじゃんか」

 

 こんなにも、こんなにも苦くて苦しい。

 

 

「じゃあ、諦めるの?」

 

 

 アナの声が、どこか遠く聞こえた。首の後ろが痛むような感じがした。ひゅう、と息が漏れる。言葉は、出なかった。

 

 諦める。そう、この苦さも、あの甘さも、全て捨てて、好かれない自分を認めて、報われないことを思い知って。血も何も通わないで、冷たくなって、さよならして。

 

「あ、諦められるなら、諦めてるよ馬鹿ぁ!」

 

 気付けば叫び出していた。隣にいたアーサーが、なんだなんだとそばに寄ってきたのを足で追い払い、尚も叫ぶのをやめない。己の中の激情そのままに、言葉を吐き出していた。

 

「できるわけないじゃんか、何言ってんの、捨てられるわけないじゃんか、そんなの死んでるのと一緒じゃんか、私は死にたくない、諦めたいのに諦めたくないからこんなに苦しんでるんだよ!」

 

 叫んだ自分に、数拍おいて唖然とし、叫んだ内容に、また呆然とした。

 

「……ははっ。あー、もう。ばっかみたい…」

 

 私はそのまま、ばたりとソファに倒れこみ、身を埋めた。

 

「あきらめ、たくないけど、あきらめたい」

「はいはい」

 

 呆れ混じりに慰めるような、アナの優しい声がする。余計に、切なくなった。

 

「だってむりだよお。わたしのこと、すきになんて、なると、おもわないよお」

 

 ずびずびと泣き出す私に、アーサーが気を利かせたのかティッシュ箱を持ってくる。噛み跡のできたティッシュ箱を受け取り、たれる鼻水を拭く。今の私は、ひどい顔をしていることだろう。

 

「でもすきなのお…だから、すきになってくれないとやだあ…やだのお」

「駄々っ子かお前は」

 

 失笑するアナの声は、何だか微笑ましいものを見守る、大人びた人間のようで、やさしくてあたたかくて、つい、甘えるようにわがままを言った。

 

「好きなのは、気付かれたくないけど、上手に諦められる気もしない。やっぱり、好きなだけで満足したくない」

「なら、諦めなきゃいいじゃん」

 

 無責任にもほどがあるアナのその言葉も、今は心地よくて、難しいことなんて考えないで、気持ちのままにそのままに、素直に受け取ろうと思えた。

 

「諦めなくてもいいのかな、私」

 

 胸が震えた。もちろん、物理的ではなく。

 アナは色々とおさまったらしく、いつもの調子のよさをだしてきた。

 

「気付かれるのが嫌、なのよね。

私、考えたんだけど、好きなのに気付かれないようにしつつ、好かれるようなアプローチをする、ってどうよ?」

 

 天才か。

 反射的に、思わずいつものテンポでそう返せば、アナは電話越しに笑い声を漏らした。私も、つられて笑った。何故だか、少し涙がでた。

 

「どうすれば、好かれるかな?」

「さあ? でも、ま、恋に理由を探すことって、割と難しいもの。あんたも、言ってたんじゃん。どうして好きになったのか分かんないって」

「……それは、まあ、そうね」

 

「だから、いつ好きになるかなんて分かんないわ。分かんないってことはある意味希望があるってことよ。可能性があるってんのなら、実現だってできるわ、きっと。行動には結果が伴うものだし、エレインから行動起こしたんなら尚更ね」

 

 あまりにも堂々とした、アナの希望的観測宣言に、私は吹き出してしまった。

 どこまでも前向きな彼女には、呆れるけれど、救われる。前を向くのは、前に進むのは、大変だけれど。今なら、大丈夫な気がした。

 

 もしかすると、私はこの恋を諦めなくていいのかもしれない。

 

 矜持については、少しだけ譲歩して、それでも、守れるところはそのままに。私の一人勝ちを狙うことにしよう。

 ああ、なんて無謀で、なんて叶いそうにない話なんだろう。それなのに、今の私はそれに挑もうとしている。

 

 この恋が、叶えられたら。この恋が、叶えられるものなら。私は、私は。

 

 

「……エレイン? 黙っちゃって、どうかした?」

「別に。ただちょっと、楽しいなっていうか、嬉しいなっていうか」

 

 ふふ、と笑い声が自然と鼻から漏れた。

 

「ごきげんね」

「……うん。今、私ごきげんだわ」

 

 不思議なことに、私の心内は妙にすっきりとしていた。

 

 

「ありがと、アナ。アナのお節介に元気もらっちゃった」

「お礼は海老アボカドサンドでいいわよ」

 

 なんとも、調子のいい言葉が聞こえてくる。

 アナ、食べたかったのか、あれ。確かに海老とアボカドの組み合わせは美味しいけれど。

 

「オニオンスライスもつけてあげる」

 

 一体、電話で謝りにきたのか、サンドイッチをたかりにきたのか分からないな、なんて思いながらも、快くそれを請けた私は、「また明日」の挨拶で通話を切ったのだった。

 

 

 通話が終わったのを確認してか、隣にいたアーサーは、私の膝の上にまで移動してきてまるまった。もふもふと撫でてやると、気持ちよさそうに喉を鳴らす。暫くそうしていると、ふっとアーサーは此方を向いた。

 

〈エレイン〉

 

「何?」

 

〈やれ、私もルルーシュとかいう奴を、一度みておいてやろう〉

 

「いや、保護者じゃないんだから…」

 

〈お前は、私の半身のようなものだ。心配くらいさせてくれ〉

 

「むう」

 

〈いいな? ま、嫌と言っても行くがな。前々から、その学園もみておきたいと思っていたんだ〉

 

 にやりと笑ったアーサーに、私は彼を止めることを諦めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(エレインの日記 3)

 この間、アーサーの言っていた『ブリタニアの民』に、少し引っかかったので、自分の中の考えや思いついたことをまとめてみようと思う。

 

 アーサーの中では、『ブリタニアの民』は、ブリタニア全土に息づく人々、つまりブリタニア人のみならず被支配エリアの人間も含まれるようで、日本人だとか、ブリタニア人だとか、人種なんて関係ないみたいだ。懐が広いというか、考えが緩いというか。アーサーはそうでも、大多数の人々は多分そうではないし、それを無視してひとまとめにしてしまうのは、危うい気がする。

 実際、日本人は日本人、インド人はインド人、ブリタニア人はブリタニア人だ。国が違えば、立場も育つ環境も、持っている価値観や文化も違う。それらを線引くことだって、時には必要なんじゃないか?

 

 アーサーの『ブリタニアの民』という表現は、ブリタニア被支配エリア民が人間扱いされるようになってから言え、という感じがする。被支配エリア民への、ブリタニア人の差別は相当に強い。そんな現状をそのままに、彼らを『ブリタニアの民』として扱うのは少々横暴というか、押し付けがましいというか、被支配エリア民からすれば何言ってんだこいつな感じで、たまったものじゃあないと思うのだけれど。

 ああ、思い出した。兄が、言っていたんだ。

『違いがあること自体が問題なのではない、優劣をつける行為が問題なのだ』

 兄からの受け売りそのままだなんて、私も芸がないけれど。きっと、問題はそこなのだ。きっと。

 この手のことは、お互いに適度に干渉しつつ、一線は引いて放っておくのがいいんじゃないかと思うのだけれど。どうしてそうならないのか、認め合えないのか、対等でいられないのか。

 

 「人は平等ではない」、か。もう、わかんないや。頭が痛くなってきたので、考えるのをやめる。私は、穏やかに生きられれば、もうそれでいいよ。

 

 

(エレイン・アーキンの日記 4)

 今日、私はこの恋を諦めることを諦めた。代わりに、この恋を叶える方法を考える。

 これはアナに煽てられたせい、ということにしておこう。そのくせ、妙に自分が乗り気なのが分かるというか、本当は諦めたくなかったんだなと今更のことを感じている。ああ恥ずかしい。

 ただ好きなだけで満たされて幸せなのも、確かにこの上ない事実であり、一方的な恋をずっと続けていたかったというのも本心である。しかし、好きになってもらわなくていいなんて聖者には、私はなれなかったようだ。

 欲が出てきてしまっているな、と思う。愛とは、もっと献身的で自己犠牲的なものだと思っていた。だのに、私が求める愛はなんとも利己的ではないか。

 ここで何とも呆れてしまうのは、欲のままに動こうとしている自分に、罪悪感が毛ほども生えないということである。この私の行動は、正しいのか、間違っているのか。そんなことよりも私は、ルルーシュ・ランペルージ氏に振り向いて頂くにはどうすればいいのかが気になっている。今の私は彼に夢中、ぞっこんすぎて他のことまで順序立てて考えることも煩わしい。正しさなんて、優先順位の下の下なのだ。ああ、開き直ることのなんたる気楽さ心地よさ! 後が怖いほどだ。

 怖い。そう、きっと、落っこちるのは一瞬なのだ。落っこちた下にクッションでもあればいいけれど、と思う。

 ああ、いけない。気を抜いたらまたこうだ。不安がそっと這い寄って、私を喰らい尽くしてしまう。

 この私の気持ちが、この憧れが、この想いが。純粋に、己から湧き出るこの私にとっての幸せが。ルルーシュ・ランペルージ氏にとっては大したことのないもので、一笑して捨ててしまうような、そんなものだったとしたら。

 確かめたくは、なかった。

 根は変われない、恋に弱気で弱腰な自分に少しだけホッとして、そんな自分に呆れた。




(今日のアーサー王物語 1)
 愛する妻グィネヴィアは、信頼していた騎士ランスロットと不倫していた。不倫現場をおさえられ、ランスロットはその場を逃げだしたが、グィネヴィアは捕えられる。
 不義は死罪、処刑されようとしていたグィネヴィアを、ランスロットが颯爽と助けにくる。ランスロットを止めようとした者は、斬り殺されまくりんぐ。
 さすがにそれにはアーサーもおこに。騎士を集めてランスロットを倒そうとする。一方、ランスロットの元にも騎士が集まり、大きな争いに。
 そうしているうちに、本当の反逆者が現れる。アーサーはこれを、血みどろになりながら倒すも、戦死してしまう。


アーサーは、長いこと不倫に気付かなかったというので、それを恋愛下手という風に作品反映させて頂いております。

アーサー王物語は、編者や諸説で色々なエピソードがありますが、こちらの「今日のアーサー王物語」では作品内で取り上げるものについてさくっと取り上げたいものまとめるつもりです。(と、いいつつ2以降があるかは不明)
ここに書いてる分は、あんまりにもさくっとしすぎているので、詳しく知りたい方はご自身で調べられることをお勧めします。面白いよ!!

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