「ところで、アーチャーがいなくなった訳だけれども……君たちはどうするつもりだい?」
バーサーカーは、セイバーとランサーの二人に問いかける。
元々はこの二人の一騎打ちのはずだったのだが、場が荒らされまくってそんな空気は霧散していた。
両者は気まずそうに顔を向かい合わせる。
「一応口合わせ程度ではあるけど、僕とライダーは仲間ってことになってるし、君らがライダーを攻撃するなら、僕は即座にライダーに加勢するぞ?」
「「……っ!」」
この時バーサーカーはさりげなく選択肢を狭めていた。
明確にライダーと共闘することを宣言しておけば、セイバーたちはどちらと戦うことを選んでも、少なくとも二人が敵に回ると捉えてしまう。
ライダーは真名から分かるように超ド級の英霊であり、正体不明のバーサーカーは宝具も使わずにアーチャーを追い返した。
そんな二人を同時に相手にしたくはないと考えるのが普通だ。
かといって、それでは元のように互いに勝負をすれば、二人が傍で見ている中で行わなければいけない。
こちらからみすみす情報を渡すばかりか、下手をすれば漁夫の利を取られるかもしれない。
つまるところ、二人は誰と戦うことを選んでも損しかしないのである。
「それで提案なんだけど、ここは一旦全員引くってことにしないかい?初日から退場なんて真似はしたくないだろう?」
二人にとって、それは願ってもないことだった。
確かに目の前の騎士とは決着をつけたい。だが、そこに横から茶々は入れられたくはない。
それに、ここで見逃してくれるというなら、この正体不明のバーサーカーの情報を得られるかもしれないのだから。
「……俺の主も引けと言っている。その提案に乗らせてもらおう」
「私も同じ意見だ。ランサー、ここは一旦勝負を預けるぞ」
「ああ、次に会った時に決着をつけよう」
二人とも、この場は引くようだ。
その言葉を聞いて、内心バーサーカーは『安心していた』。
『なあバーサーカー、このままライダーと一緒にどちらか倒した方が良かったんじゃないか?』
そんなバーサーカーの行動に、雁夜が念話でその意図を尋ねる。
『それができればいいんだけど……この場でやったら損するだけだ』
『……どういうことだ?』
『ライダーと仲間になろうって時に、そんなことしたら見限られるだろ?』
ライダーが配下にしたいほど気に入っている相手を、疲弊しているからと倒しにかかるなんてことを、ライダーが許容するだろうか?
火事場泥棒みたいな真似をして、ライダーから信用が勝ち取れるだろうか?
むしろ、そのことに激怒して、こちらを敵と認識してくるに決まってる。
『向こうから襲ってくるなら助けてくれるかもだけど、この場では僕から仕掛けるわけにはいかないんだよ』
『なるほどなぁ。騎士道がどうとかって話じゃないんだな』
『僕に騎士道なんかないよ。勝負なんて勝ったもん勝ちさ。まァ他人が勝手にやる分には否定する気はないけどね』
『そういうところ、やっぱりシビアだよな、お前』
そもそもバーサーカーに騎士道を求める方がどうかしているだろう。
クラスからして狂戦士なわけだし、近代の英霊なのだし。
「おうバーサーカー、あの二人は退散したようだぞ?お前さんはどうするつもりだ?」
「……ああ、それなんだけど」
「な、なあバーサーカー?」
ライダーが声をかけてきたので、バーサーカーが本題に入ろうと思ったら、ウェイバーが横から口を突っ込んできた。
出鼻をくじかれた形になるが、これくらいで頭に来るほどバーサーカーは狭量ではないので、なんとも思わずウェイバーの方に顔を向ける。
「どうかしたかい、ウェイバー君」
「お、お前って本当に僕達と組むつもりなのか?」
ウェイバーは、恐怖が9割、期待が1割という面持ちでバーサーカーに問うてきた。
(都合がいいな。向こうから話を振ってきたぞ)
その質問はバーサーカーが今まさに聞こうとしたことだ。
あの二人を撤退させた最も大きな理由は、ライダーとの同盟関係を盤石にするためだ。
だからこそ、あのまま全員で殴り合って、有耶無耶のままに全員撤退という流れにはしたくなかったバーサーカーは、相手に引いてもらう必要があった。
あの場でどちらか一騎を落とすよりも、強力な味方を作る方が勝ち残る確率が高くなる。
というのも、バーサーカーではセイバーやランサーとの真っ向勝負では『勝つことがとんでもなく難しい』。
ステータスで劣ってしまうバーサーカーに近接勝負に持ち込んでくるあの二騎は、バーサーカーにとって天敵と言ってもいい。
その弱点を補うには、彼らと同格以上の味方がほしい。だからバーサーカーはライダーの誘いに乗ったのだ。
「ああ、僕は冗談で言ったつもりはないよ。聖杯を使わせてくれるなら、ライダーへの協力を惜しむつもりはない」
「それで……なんで僕たちの仲間になろうと?」
「ライダーが呼びかけてたからだよ。正直、聖杯を使わせてくれるなら誰でも良かったっていうのが本音だ」
「な、お前っ!?」
「ほう、余の目の前でそれを堂々と言うか?」
「あんただったらそれくらいお見通しだろ?そして、あんたはそれがお見通しだったとしても、僕を部下にしてくれるほど懐が広いはずだ」
ライダーは、まぁ、色々とあれではあるが、間違いなく人を見る目はある。
そんなライダー相手に自分の腹の中を隠していたところで意味がない。
だったらさっさと正直に話してしまった方が、バーサーカーとしても楽だ。
「がっはっはっはっ!!言うのうお主!!まさか余の器を試すような物言いをする者がいるとは思わなんだわ!!」
そして、そのバーサーカーの言動はライダーのお気に召したようだ。
ある意味でバーサーカーはライダーを信用しているのだ。
『征服王イスカンダルなら、腹に何か抱えているものでも受け入れる度量がある』と。
そう評価されているのだから、ライダーの機嫌が悪くなるはずがない
「そう言われると前言を覆すわけにはいかんな。その胆力、先ほどの芸当と言い、我が配下として申し分ない!」
「僕はお眼鏡にかなったと、そう受け取っても?」
「そうだ!この聖杯戦争を勝ち抜いた暁には、余と世界を制する快悦を共に分かち合おうではないか!!」
「……ああ、勝ち抜けたなら付き合ってやるさ」
完全に打算のみで組んだつもりのバーサーカーであったが、本当に勝ち残れたなら、ライダーに付き合ってやってもいいかな、とほんの少し思ってしまった。
こういうところが、ライダーが征服王たる所以だろうか。
「それじゃあ、今後は同盟を組んで行動しよう。それについて色々と互いに話しておきたいんだけど、今日はもう遅いし、明日の朝にでもどこかで集合しないか?」
「そうだのう……そうだ、せっかくの新しい臣下なのだから、我らがそちらの拠点に向かおうではないか!何気遣いは無用だ、歓迎の用意はせんでもいいぞ!!」
「おい待てよライダー!?相手の陣地に入るだなんて自殺行為だぞ!!」
「坊主、何を抜かすか!我が臣下を侮辱するでないわっ!!」
「あー……ライダー、僕は気にしてないからそう怒鳴らないでくれ。耳鳴りがする」
この二人、完全に主従が逆転している。
バーサーカーからしてもウェイバーの言ってる事の方が正しいと思える。
相手の本拠地に行こうだなんて、自ら蜘蛛の巣にかかりに行くようなものだ。
大体、ライダーが無条件で人を信用しすぎである。
『カリヤ、こういうことになったんだけど、了承していいか?』
『……どうしよう。蟲はちゃんと処理したはずだけど、サーヴァントってそういう嗅覚とかもすごいんじゃないか?』
『そこら辺は、うちの魔術で使うからで押し通せばいい。別に嘘じゃないんだから』
『そうだったんだよなぁ……もう俺の体にも、桜ちゃんの体にも蟲はいないから忘れそうになるけどさ』
『じゃ、二人を明日こっちに呼ぶってことで』
『ん、了解』
そして、この二人もどこかずれていた。
自陣に招き入れたら、相手に自分の情報を渡すことになるかもしれないのに……。
二人とも魔術にはそれほど関りがないので、自分の手の内をさらけ出すとかそういう発想にならないだけで、聖杯戦争の参加者とは思えないくらい、そういうところは無防備になってしまう。
実際、見られて困るようなものは二人にはないのだから、問題はないのだけれど。
「いいよ。こっちの家は広いし魔術的な防衛システムもあるから他の陣営から干渉されることもない。住所をメモに書いて渡すから、これを見てきてくれ」
「……本当に罠とかじゃないよな?」
「大丈夫だよ。……初対面だから信用できないかもしれないけど、僕は君らを害するつもりは一切ない。それにライダーを怒らせるとおっかなそうだからね」
「……ははは、違いないや」
もしもバーサーカーがウェイバーを殺したところで、そのままライダーに反撃されて消えてしまうだろう。
そんな光景がありありと浮かんで、少しだけ警戒心をウェイバーは解いた。
「僕は敵には容赦ないし、自分の身が危なければその時は助けるのは難しいかもしれない。けれど僕は、仲間になったからには裏切りはしない。それだけは誓ってもいい」
「……分かったよ。でもっ、裏切ったら本当に怖いからな!!ライダーだけじゃなくて僕だって怒るからなっ!」
なんでこんな子供が、聖杯戦争に参加しているんだろう?
バーサーカーが、そんなことを内心で思ったとか思わなかったとか。
――――…………
『お前って本当にライダーの方が適正あるんだな』
『馬乗りの一族だからね。それなりの騎乗スキルは持ってるよ』
『それは馬じゃなくてバイクだけどな』
『乗り物なら何でも乗りこなせるさ。もっとも、馬の方が僕にはあってるけどね』
いったんライダーたちと別れたバーサーカーは、事前に用意しておいたバイクを巧みに操りながら雁夜に返答する。
バーサーカーが生まれた時代は馬くらいしか走っておらず、ようやく自動車が発明されたあたりだ。
しかし『騎乗』スキルは『乗り物』という概念に対して発揮されるスキルであるため、未知の乗り物であっても直感によって自在に乗りこなすことができる。
『それでもこのバイクってやつには驚かされるよ。馬じゃ出せないような速度を出し続けても疲れないんだから』
『馬乗りだって言うなら、馬とか用意した方が良かったか?』
『……あったほうがいいけど、サーヴァント同士の戦いじゃ真っ先に狙われるだろうなァ』
察しの良い敵ならば、宝具でも何でもない馬をサーヴァントが乗っているというだけで『あの馬には何か秘密があるに違いない』と判断して、バーサーカーよりも先に馬を標的にするだろう。
そうなったら、馬を用意しても無駄に終わってしまう。
『それに、こんな街中で馬に乗ってるやつがいたら通報されるじゃあないか。僕は嫌だぞ留置所に入るのは』
『……うん間違いなく目立つな』
サーヴァントが職質されているのを想像するだけで悲しくなってくる。
戦闘では使えないし、移動にも不便。
だったら最初から無い方がいい。
『そうだ。ライダーってイスカンダルなんだろ?馬の一つや二つは貸してくれるんじゃないか?』
『……残念だが、イスカンダルの時代の馬には『
『そっか……あれって11世紀に発明されたんだっけ。それじゃああるわけないか』
『まっ、生前でも戦うときは大半降りてたし大丈夫さ』
親友に最後の回転について教えてもらった時、彼はイスカンダルを例に挙げて鐙の話をしていた。
それでは駄目だ。バーサーカーの奥の手中の奥の手が使えない。
無いものねだりしても意味がないと割り切って、バーサーカーはライダーの話に切り替える。
『それにしてもうまく出来すぎてる気がするよ。こんなに早くからライダーたちと組めるなんてさ』
『ああ、見た感じマスターも善良そうな子供だったし、人格面でも問題がないな』
『……僕の前世に、あんなに真っ直ぐに生きてた人間いたかなァ。蹴落とすことしか考えてないやつばかりだったし』
『お前の周囲の環境って一体どんなのだったんだよ……』
それもこれも、バーサーカーが『聖人の遺体』を集めていたからなのだから自業自得と言えばそうなのだが。
『でも、そんなお前が、どうしてウェイバー君に『絶対に裏切らない』って言ったんだ?そんなこと言いそうなイメージなかったんだけど』
『……カリヤは僕をどんな人間だと思ってるんだ』
『じゃあ、自分で否定できるか?』
『むりだな』
あっさりと自分の言葉を翻した。
自分が他人からどう思われるかなんて、自分を客観視できないような人間ではないバーサーカーには察しはつく。
『だろ?違和感しかないじゃないか。だってのに、なんで初対面の奴に裏切らないなんて断言したんだ?』
『裏切っても僕に得がないからね。裏切る予定がないから事実を伝えたまでさ。その方がウェイバーも安心できるだろうしさ』
セイバーやランサーは、仲間になれば心強いが聖杯を分け合うことができない。
アーチャーは、仲間という概念があるかすら怪しいし、そもそも向こうがこちらを敵視している。
正体も分からないアサシンやキャスターも近接戦に強い陣営じゃない。
なので、バーサーカーにとって一番自陣に入れておきたいのがライダーになってしまう。
『……それはそうだけど』
『それに……な~んか、ウェイバーってやつが放っとけないんだよな……』
『ああ、そういえばお前も子供がいるって言ってたな。そのせいか?』
『それもあるんだけど……あの声で喋られると、前世の僕の子孫を相手にしてるみたいでさァ~~』
『前世って……生前より前の?』
『そ。ついでに言うと、セイバーの声も聞いてて落ち着かない。正直すごくやりづらい』
『……バーサーカー、その話題にはあまり触れないようにしよう。理由は分からないけどとてもまずい気がする』
『……うん、自分から言い出しておいてあれだけど、僕もそんな気がしてきた』
何やら嫌な予感を察知した雁夜がバーサーカーを制止させた。
このままいくと、世界が崩壊しかねない話題になりそうだった。
しかし、嫌な予感がするのは分かるが、具体的にどうまずいのかはこの二人には分からなかった。
『そういえば、カリヤの体の調子はどうだ?激痛が走るとかそういうのは?』
気まずくなった空気を払拭するために、バーサーカーがまた別の話題を引き出した。
割かし重要な話題を出すことで今の発言をなかったことにしたいらしい。
『全くなくなったよ。白髪とか眼とかはさすがに戻らないけどさ』
『……それは僕には治せないな』
『いいんだよこれで。命があるだけで十分ありがたいよ』
桜の体内の蟲を取り除いた後、ついでだからとバーサーカーは雁夜の蟲も殺していた。
もしも雁夜が燃費の悪いバーサーカーを召喚していたのであったなら、魔力不足で現界ができなかっただろうが、このバーサーカーは消費魔力が非常に少ない。
下手したらバーサーカーのくせに全サーヴァントで一番低燃費の可能性すらある。
なので、蟲を殺したところで、雁夜にわずかながらも残されている魔術回路だけでバーサーカーは問題なく戦うことができた。
かといって、雁夜の半死人のような容貌は戻すことはできなかった。
バーサーカーの能力は、そう万能なものではない。
『いや、体が不自由だっていう苦しみは僕にも経験があるよ。19歳まで下半身不随だったもんだからね』
『……だから敏捷が低いのか。納得』
『案外僕が喚ばれたのも、カリヤと似ているからかもな』
『かもな……』
この二人、実は共通点が多かったりする。
実家は裕福で、兄がいたり。
父親からまともな愛情を受けていなかったり。
その後、父親が原因で家から飛び出したり。
飛び出した後に手に入れた希望を失ったり。
半身不随になってしまったり。
残された希望のために、死と隣り合わせの世界に飛び込んだり……。
『…………』
『…………』
『……なぁ、カリヤ』
『……なんだバーサーカー』
『運転に集中したいし……そろそろ話するのやめるよ……』
『ああそうだな……気を付けろよ……』
これ以上は互いに傷つけるだけと判断した両者は、会話はこれで打ち切ることにした。
とりあえず今はこれ以上口を開かないでおこう。
二十代後半の男たちは、その共通の意志でもって念話を切った。
「……ダメだ、悲しくなってきた。もう今日は早く帰って寝よう」
睡眠はいい。何も考えずに済む。
サーヴァントだから、夢は見ないし安心だ。
「そうと決まったら、さっさと帰って……うん?」
バーサーカーの前に一台の車が止まっていた。
もう人気のない道路上に、ポツンと、信号があるわけでもないのに。
訝しげに見ていたが、その車から降りてきた人物にバーサーカーは驚かされる。
「あれは……セイバー!?」
Q
なぜジョニィがバイクに乗ってるのか。
A
なんかジョニィにバイクって似合いそうだから。馬ほどじゃないけど。
それと、ジョニィの歩く速度が遅いのでバイクに乗った方が速いから。
Q
職質されたらどうすんの?
A
ちゃんと免許証は持ってます。
偽造ですけど。
Q
じゃあACT4が使えるかもしれねー馬でもいいじゃねえか!チクショオームカつくんだよ!コケにしやがって!ボケがッ!
A
なるほど、完璧な考えっスねーーっ『不可能だ』という点に目をつぶればよぉ~~。
おまえは今まで馬に乗って公道を走っている人間に会った回数をおぼえているのか?
0に決まってんだろうがァーーー!!!
現代の世界にそんな奴がいるかスカタン!客観的に物事を見れねーのかバーカ!
真面目に答えると、ジョニィ自身はそこまでACT4を出すことにこだわってません。
ジョニィが出会った陣営に防御型や不死性の宝具を持っているサーヴァントがいないため、下手に目立つ必要もないのでACT3までで十分だと思っています。