Fate/Zero ゼロに向かう物語   作:俊海

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平凡な人間は自らの従者を穿つ。

 セイバーを目標としているのなら、キャスターはアインツベルンの城に向かうだろうということを雁夜から聞いたバーサーカーは、日が沈むと真っ先に城のある森へと向かうことを決意した。

 まずは相手の出方も分からないから、その手の内を探るためにもライダー達には待機させ、偵察には自分一人だけで行くと言ってバイクに跨った――つもりだった。

 

 

「……なるほど、ウェイバーはこの速度にいつも耐えていたのか。心底同情するよ」

 

「……うん、なんというかありがとう」

 

「なんだだらしない。この程度で根を上げるとは肝が細いのぅ」

 

 

 お前と比べれば、誰の肝臓だって矮小に見えるだろうさ。そう突っ込む気力すら湧いてこないバーサーカー。

 出立しようと思った瞬間、ライダーに首根っこを掴まれ、彼の宝具である『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』に投げ込まれた挙句、馬やバイクでも体験したことのないような速度で振り回されれば、多少は慣れているウェイバーならともかく、初乗りであるバーサーカーではグロッキーになるのも無理はない。

 もしもこれに雁夜が乗せられていたら、本気で寿命が残り一ヶ月になっていたに違いない。

 

 

「大体、なんでライダー達までついてきたんだ?今回は偵察するだけだから、僕一人で十分だってのに」

 

「そうは言ってもな、状況と言うのは刻一刻と変わっていくものだ。キャスターを討伐するチャンスがあるやもしれんだろう?」

 

「……狂ってはいてもキャスターは救国の英雄だ。そうやすやすとは倒せないよ」

 

 

 精神を病んでいても、ジル・ド・レェは元帥にまで上り詰めた英霊だ。

 フランスを救った英雄の軍略や戦略は、そう侮っていいものではない。

 しかも今から向かう場所はセイバー達の領域だ、間違いなく妨害されてしまうだろう。彼女たちもまた令呪がほしいはずなのだから。

 

 

「それでキャスターはもうこの森には入っているのか?」

 

「間違いなく入っていっただろうよ。なにせ醜悪な気配が尾を引いて垂れ流されておるからのう」

 

 

 バーサーカーには、魔力を探知するだの気配を察知するだのは苦手だ。

 殺意を向けられれば感づきはするが、誰それがここにいた、というのは分かりづらい。

 キャスターはもうセイバーの陣地に突入していったと断言するライダーに、ほんの少しだけついて来てもらってよかったかもしれないと思い直す。

 

 

「ここからは歩いていくぞ。ライダーの宝具じゃ移動速度が速すぎて、キャスターを見失いかねないからな」

 

「あい判った。さあ行くぞ坊主、へばっている暇はないぞ」

 

「うわっ!?こら、僕を担ぎ上げるな!降ろせっ!」

 

 

 言うや否やライダーはウェイバーを肩に担ぎながら森へと直進していく。

 そのあまりの扱いにウェイバーも抗議するがどこ吹く風と豪快に笑いながら歩みを止めないライダー。

 ……おそらく、罠が仕掛けられていてもすぐに対処できるようにライダーが自身で運搬しているのだろうが、バーサーカーから見てもその誘拐されているかのような有様に哀愁を感じた。

 

 

「何をしておるかバーサーカー。お前さんも早く来い」

 

「……あぁ、分かったよ」

 

 

 呼びかけられて、少し駆け足でライダーのもとに向かう。

 この三人の中で一番戦闘力があるのはライダーだ、なるべく離れないようにしておくべきだ。

 

 

「……バーサーカー、少しスピードを上げよ。何やら嫌な予感がする」

 

「あんたがそう言うんなら、きっとそうなんだろうな。よし、急ごう」

 

 

 直感のスキルは持ってはいないものの、ライダーのこういう勘は信じるに値する。

 バーサーカーには魔力を感じることのできる能力はないが、キャスターがもうすでにセイバーの元へとたどり着いているのかもしれない。

 そうなったら、あの狂ったキャスターのことだ。悪趣味な企みでもしている可能性が高い。

 

 全サーヴァントの中でも最も敏捷が低いバーサーカーも、少しばかり気合を入れてわずかでも早くキャスターを捕捉するため走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャスターは夜の森を歩いていた。

 しかし一人ではない。その後方におよそ10人ほどの子供が追従している。

 おそらく最年長の者でも小学生あたりのその集団は、全員が夢遊病者のようにふらふらと歩いている。

 それもそのはず、ここにいる子供は皆キャスターが魔術を用いて誘拐してきた子供たちなのだから。

 

 しばらくして、唐突にキャスターはその歩みを止めると、あらぬ方角に顔を向けてにんまりと顔をゆがませた。

 いやあらぬ方角ではない、そのキャスターの視線は、アイリスフィールの千里眼の視点を見据えていたのだ。

 その方向を向いたまま、キャスターは慇懃な仕草で一礼する。

 

 

「昨夜の約定どおり、ジル・ド・レェ罷り越してございます。我が麗しの聖処女ジャンヌに今一度お目通りを願いたい」

 

 

 こう言っても、相手がセイバーをこちらに向けてくるのか悩むことだろう。

 何か罠があるのではないか、セイバーだけでキャスターを討つことができるのか、などと逡巡するのはキャスター自身がよく分かっていた。

 事実そうであったが、キャスターとしてはどうしてもセイバーに出向いてもらわなくてはいけない。

 ……だからこそ、この子供たちを連れてきたのだ。

 

 

「……まぁ取次ぎはごゆるりと、私も気長に待たせていただくつもりで、それなりの準備をして参りましたからね。なに、他愛もない遊戯なのですが……少々庭の隅をお借りしますよ」

 

 

 キャスターが指を鳴らすと、子供たちの虚ろな目が見開かれた。

 魔術が解けた子供たちは、何が起こっているのか分からない様子であたりを見回し始める。

 そんな困惑している子供たちにニコリと笑い、キャスターは彼らに告げる。

 

 

「さあさあ子供達、鬼ごっこを始めますよ。ルールは簡単、この私から逃げ切れば良いのです。さもなくば……」

 

 

 キャスターは近くにいた子供の頭に軽く手を置いた。

 これから起こる惨劇を思うと笑みがこぼれるのを抑えきれない。

 狂笑を浮かべると、その手に魔力を込め、

 

 瞬間、キャスターの視界が真っ赤に染まった。

 

 

「――……っ!が、あああああぁぁぁぁあぁあぁあぁああああ!!?」

 

 

 静かな森に、大きな悲鳴が響き渡る。

 それがキャスターの目的であった子供の血であったなら、子供たちの悲鳴になっていただろう。

 しかし、今現実に叫び声をあげたのは、子供ではなくキャスターであった。

 なぜなら、そのキャスターの腕に何かが貫通していったから――

 

 

「……キャスター、お前ちょっと時代遅れじゃあないか?最近の子供はそんな古臭い遊びはそんなにしないらしいぞ」

 

 

 この痛みをキャスターは知っている。

 この声色をキャスターは知っている。

 どちらも、昨夜セイバーと共にその脳髄に刻み込まれている。

 一日で可能な限り治癒を施したその腕が、昨日の焼き直しのように凶弾によって穿たれた。

 

 

「うむ、近頃は『テレビゲーム』なるものが流行っておるそうだぞ。なかでも『RPG』というのが人気でな、余もやっておるわ。今攻略を進めているのは、確か最新作とやらのLIVE A LI――」

 

「ライダー、お前また勝手に通販で頼んでたのかよ!?道理で財布の中のお金が減ってると思ったよ!」

 

 

 続いて、緊張感のかけらもない二人組の声が聞こえてくる。

 今まさに凄惨な光景が作り出されようとしていた場面にはまるで似つかわしくない。

 だが、そんなことキャスターには些細なことだ。

 そんなことよりも、この腕を打ち抜いた人物がすぐそばにいるという事実にキャスターは意識を向ける。

 

 

「鬼ごっこは昼間にやるものだ。今は夜中だしライダーおすすめとやらのRPGに則って、『魔王退治』をさせてもらう」

 

「ば、バァァァサァァァカァァァァァァァァ!!!」

 

 

 キャスターの怨嗟の視線にも怯まず、森の陰からバーサーカーが姿を現した。

 その後ろから、ライダーとウェイバーも続く。

 

 

「おいお前ら!早くこっちに来い!」

 

「う……あ……!」

 

「ひっぐ……ひっぐ……」

 

 

 今もなお硬直して動けずにいる子供たちにウェイバーは叫ぶが、それだけで動けるほど彼らは成熟していない。

 怯えで足がすくんで、まともに体が動かない。そんなの子供であれば普通の反応だ。

 狂気に満ちていようがキャスターは軍人だ。そんな隙を逃がすほど胡乱ではない。

 

 

「ひっ!?」

 

「いやっ!」

 

 

 キャスターは自分の傷など構わずその両手で子供二人の首根っこを掴んだ。

 それに触発されて、他の子供たちはこちらへと一目散に逃げこんできた。

 ジル・ド・レェの傍にいる子供の数が減ったのは不幸中の幸いだが、人質が存在するという状況は変わっていない。

 思わずバーサーカーは歯噛みする。

 

 

「許すまじ……許すまじ愚かなる神よ!どこまでも私の邪魔建てをするか!そこまでして私を止めるのであれば、逆に私が貴様を殺してやる!お前の呪縛から我が聖女をこの私が解放するのだ!!」

 

 

 聞くに堪えない妄言を喚き散らされ、バーサーカーはその聖処女とやらに同情し始めた。

 こんな粘着質な男に付きまとわれるとは、なんとも悲惨だ。

 

 

「さあ神よ!もしも貴様が慈悲深い存在であるならば、この子供たちの身代わりになって見ろ!自らの手で命を絶つというのなら、この二人を解放してやる!」

 

「……無茶言うな。そもそも僕は神なんかじゃない」

 

 

 言ってはみるが、キャスターには通じないだろう。

 自分にとって都合のいい世界しか認識できないジル・ド・レェに説得だの説明だのは意味をなさない。

 だとしても『自害しろ』と言われて、はいそうですかと受ける気もバーサーカーにはさらさらない。

 そんなことをするくらいなら、子供を見捨ててキャスターを撃ち殺すまでだ。

 

 

『……バーサーカー、あの二人助けられないか?』

 

 

 予期はしていたが、実際に聞かれると非常に頭を悩ませる。

 雁夜は一般人だ。この状況を見て、そう聞いてくるのはバーサーカーも分かっていた。

 しかし、バーサーカーにだってできないことはある。

 

 

『無理だな。僕に限らずあんな状況じゃあ誰も助けられないよ』

 

『お前の爪なら、やれるんじゃあ……』

 

『その前にキャスターはあの頭をひねりつぶすだろうね。言っとくけどライダーでも間に合わないよ』

 

 

 キャスターの手は、子供たちにすでにふれているのだ。

 こちらが何かアクションした瞬間に、キャスターは子供たちの頭を粉砕するのが目に見えている。

 ライダーの宝具も、細かい動きをするのには向いていない。

 助けられる方法は、ない。

 

 

『……今のままじゃあ不可能だよ。僕だって死ぬ気はないし、どうしてもっていうなら令呪でも使うんだな』

 

『なっ!?』

 

 

 自害でもさせない限り、自分は止まる気はない。と言ってるかのようなバーサーカーのセリフに雁夜は驚愕した。

 そんな雁夜に構わずバーサーカーは言葉を続ける。

 

 

 

『カリヤ、今の段階でも僕らは多くの子供を救ってるんだ。それ以上を望むなんて奇跡でも起きないと無理さ。だったらもう良いじゃあないか』

 

『だ、だが……それは……』

 

『どう言ったって無駄だぞ。僕はこのまま子供に構わずキャスターに攻撃する』

 

『……どうしても、止められないのか?』

 

『ああ、僕はこれが最善だと『覚悟』している。行動を曲げることはできない』

 

 

 バーサーカーは、一度『覚悟』を決めてしまえば、よほどのことがない限りマスターでもその行動を止めることはできない。

 それこそ、絶対的命令権を持つ令呪でも使わない限りは。

 それを聞き届け、雁夜もまた『覚悟』を決めた。

 

 

「……話は終わりましたかな?それで、どうしますか?見捨てますか?それとも……」

 

「考えるまでもない。それを許してしまったら、お前はまた人質を取るに決まってる。そうなったら泥沼だ。これ以上被害を出さないためにもお前をここで殺す」

 

「くははははは!!やはり神は残酷なものだ!!たった二人の人間さえも救うことができないとは!!それともただただ無能なだけか!!」

 

「……令呪で自害させられない限り、はね。そうと決まれば覚悟してもらう……!」

 

 

 慈悲深い神など存在しないことを証明したかったのか、その答えはキャスターを満足させるものだったらしい。

 バーサーカーの返答にジル・ド・レェは驚喜する。

 ライダーにもバーサーカーの判断は理解できる。王である以上、彼もまたそのような決断を迫られることがあったのだから。

 ウェイバーも無力な自分を棚に上げてバーサーカーを咎めることなどできない。

 しかし、それがキャスターの思惑に乗ってしまっているようで、そんな有様に三人は顔をしかめる、が。

 

 

「………………え?」

 

 

 突然バーサーカーが声を漏らした。

 体の自由が利かない。

 まるで何かに縛られているように。

 今まさにキャスターに向けようとしていた腕が、自らの方へと向きを変えていく。

 

 

「バーサーカー、お前さん何をしようとしている?」

 

「お、おいマスター、何やってるんだお前?まさか本気か?」

 

 

 ライダーが声をかけるが、バーサーカーは慌てたような口ぶりで別の誰かに話しかける。

 しかし、そんなことなどお構いなしに、徐々にバーサーカーの手はこめかみにへと照準を合わせる。

 バーサーカーの不審な動きに、ライダー達はおろかキャスターまでもが狂笑を止めて凝視する。

 

 

『令呪を持って命じる』

 

「止めろッ!そんなことをするんじゃあないッ!マジに僕を自害させるつもりなのかッ!?考え直せッ!」

 

 

 何処からか聞こえてきたその言葉にキャスターはほくそ笑んだ。

 どうもバーサーカーのマスターは、自分のサーヴァントよりも子供たちの命を優先したらしい。

 それならそれでいい、神が自ら命を絶つというのなら、聖女への呪縛も解けるはずなのだから。

 

 

『子供たちを助けるために、自分の体に爪を撃て!』

 

「うわあああああああああああ!!!こ、こんなところでッ!こんなところで終わるのは嫌だッ!頼むマスター!止めてく――」

 

 

 ドン。と言う音と共にバーサーカーは自分の頭を撃った(・・・)

 そして、その弾痕から少しずつ、バーサーカーの体が崩れ始める。

 彼の体はバラバラになっていき、その姿はその場にいた者たちからは見えなくなってしまった。

 

 

「かははははははははは!!!呆気ない幕切れでしたねえ!しかしそれも当然のこと!聖処女を見捨てた神にはお似合いの末路と言うものでしょう!!ああ、これでようやくジャンヌをお迎えできる!!我が願いは成就せり!!」

 

 

 誰も声を発することができない。

 神を討ち取れたと勘違いしているキャスター以外、誰も声を出すことができなかった。

 呆気ない。呆気なさすぎるバーサーカーの最期に、思考が追い付かない。

 

 

「それでは、この子らにはジャンヌを取り戻すためにも我が宝具の生贄になってもらいましょうかね」

 

「……バーサーカーはその童たちの身代わりになったのではないのか?貴様、その約定を違えるつもりか?」

 

「知りませんね。神の方が私達を裏切ったのですから、この程度なんてことはないでしょう」

 

「あー……よく分かった。貴様、本当に救いがたい愚か者だな」

 

 

 最初から、ジル・ド・レェは約束を守る気はなかったのだ。

 そんなものを鵜呑みにしたバーサーカーのマスターの方が愚かだったと、それだけだと言っている。

 その言いぶりに、ライダーの雰囲気が何か変わった。

 

 それを察したのか、キャスターは子供たちから手を離し、一冊の分厚い本をどこからか取り出す。

 膨大な魔力が渦巻き、あちこちに放たれている。

 いよいよもってその魔力が高まった瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………チュ…………チュミミーー~~ン…………』

 

「なんですかこの音……ガッ!?」

 

 

 キャスターの本を持っている腕が吹き飛んだ。

 ライダーは何もしていない、ウェイバーももちろんそうだ。

 子供たちも硬直するばかりで何も行動していない。

 ならば、誰が……?

 

 

「……約束を反故にするつもりだったのか…………なら、これで対等って訳だな……」

 

 

 キャスターは気づくべきだった。

 なぜ、わざわざバーサーカーのマスターが念話を使わずに令呪で命令したのか。

 キャスターに聴かせるかのように、自害させるような使い方をしたのか。

 

 少し考えれば、その一連の行動はキャスターに勘違いさせるために決まっていると分かったはずなのに。

 

 

「残念だが、僕はまだ死んじゃあいない……契約不履行だって言われる前でよかったよ」

 

 

 キャスターの背後から、バーサーカーの声が聞こえてくる。

 その声の方へ顔を向けると、全員が驚愕した表情を浮かべた。

 なぜならバーサーカーは、上半身だけ(・・・・・)になってそこに存在していたからだ。

 そのバーサーカーの異常な光景に、周りの人間は愕然とするが、当の本人はお構いなしに再び指先をキャスターの腕へと向け、『爪』を撃ちだす。

 

 

「あぎゃっ!?」

 

「僕の『直感』だけど、お前の力の源はその本にあるみたいだからな、その腕を狙わせてもらう」

 

 

 不思議と、今のバーサーカーは調子がいい(・・・・・)

 今何を狙うべきなのか、どうすればこの場を切り抜けられるのかが手に取るようにわかる。

 そして、その『直感』の通り、キャスターの弱点はその本――『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』だ。

 キャスターは、これがあるから本来魔術師ではないのにもかかわらず魔術が使える。

 逆に言えば、これが使えなければキャスターは何の能力もないサーヴァントに成り下がる。

 

 

「何をぼさっとしているんだライダー!さっさとその子供たちを連れて撤退しろッ!お前の宝具なら子供くらい乗せられるだろッ!」

 

「それはいいが、お前さんはどうするつもりだ!?」

 

「あいにくと令呪で『子供たちを助ける』必要がある!先に行けッ!こんな奴僕一人で十分だ!」

 

 

 バーサーカーは令呪で『子供たちを助けろ』と命じられている。

 つまり今のバーサーカーは、子供たちを助けることを優先して行動しなくてはならない。

 キャスターをはさんで反対側にいるバーサーカーまで助けていたら、子供たちの生存率は下がってしまう。それは今のバーサーカーには取れない選択肢だ。

 

 

「行けってッ!こいつの傍に子供がいたら厄介なことになる。この領域は先に抜けろッ……!僕を待つ必要はない…………安全が確保できればすぐに行くッ!」

 

「わかった…………先に行っておるぞ。絶対に戻ってこい」

 

「ああッ行けーーーッ!」

 

 

 戦車に子供たちを乗せ終えると、轟雷と共にライダー達は空の彼方へと消えていった。

 結局、バーサーカーは、子供たちを誰一人欠かすことなく救い出すことに成功したのだ。

 

 

『ふう……察しが良くて助かったよカリヤ。僕としては、こんなところで令呪を使ってほしくはなかったんだけどな』

 

『よく言うよ、お前から言い出したんだろうが『子供たちを助けたいなら令呪を使え』ってな』

 

 

 『今のままじゃ不可能』『行動を曲げることはできない』バーサーカーはそう言った。

 さらに『これ以上助けたいなら奇跡でも起きないと無理』と言う言葉。

 そのまま受け取るならあきらめさせるようなセリフだが、雁夜はこの言葉の裏の意味に気づいたのだ。

 

 令呪は奇跡を起こすためにあるもの。

 つまりバーサーカーは、『子供を助けたいのなら、令呪で僕をサポートしろ』と言っていたということになる。

 

 あのままだと本気でバーサーカーは子供を見捨てていただろう。

 なにせ、バーサーカーはキャスターとさほどステータスが変わらない。

 子供たちがいては、どう頑張っても相打ちが限界になる。

 だから令呪だ。令呪でサポートをして、ライダーに子供たちを連れて行ってもらえば問題が解決するというわけだ。

 

 そして、今目の前のこいつをどうにかすれば目標は達成される。

 

 

「キャスター、『覚悟』はいいか?僕はできているぞ…………」

 

「……貴様こそ、覚悟はいいだろうな?天の国から地の煉獄へと引きずり落としてくれる!!」

 

 

 『狂った人間』同士が、森の中で激突した。




Q

なんだ、ジョニィって良い奴じゃん!

A

本人に言ったら否定します。
あと合理的な面でも、キャスターは子供の血を媒介にして異形の怪物を召喚するので、子供たちをまず助けるというのは間違った戦法ではないです。
それにジョニィは『直感』で気づきました。



Q

ジョニィには『直感』のスキルなかったんじゃあ?

A

次回の更新はサーヴァントのステータスになりますが、そこでジョニィのステータスが変わりますので、それをご覧いただけたら幸いです。


Q

わざわざ令呪を切る必要ってあったの?

A

実は、キャスターとジョニィ、そんなにステータスに差がありません。ほとんど同値です。
なので、令呪なしではキャスターの行動に追いつけなくなります。
また、今回の件に関してジョニィは令呪を切ることにあんまり躊躇いがありません。
なにせ、キャスターはほっといたら自分の命を執拗に狙いに来ますから。

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