……おのれ ト チ ギ !
………( ゚д゚)ハッ!
ニールセン・ラボ2、更新します。
今回は少し長いです。
「なんという少年だ……」
ガンプラ学園と我梅学園のバトルを止める為乱入した少年、アンドウ・レイと言ったか。バトルに乱入しようとした彼を止めようとしたのはもしかしたらいらぬ世話だったのかもしれない。
「このラル、彼の力量を見誤っていた……不覚……ッ」
自らを戒めながらもバトルを注視する。このバトルを止めるつもりだったようだが、今はそれを忘れて戦っている。
茨城県代表……西東京代表のチーム『トライファイターズ』と同じ関東圏のチーム……。
「息子がバトルしているようだな」
「ん?……!!セイジか!?」
背後から私の隣に歩み寄って来た中年男性を見て目を見開く。十数年ぶりの再会だろうか……彼の名はアンドウ・セイジ。私と同じ世界大会経験のあるベテランの元ガンプラファイターであるが……何故ここに?
「久しぶりだな大尉」
「それはこちらの台詞だ、何故ここに……?」
「ここに古い友人が勤めていてな、研究の一環で来させてもらった」
「そうか……今バトルしている彼はもしかして君の息子かな?」
「ああ、私の自慢の息子だ」
相も変わらず静かな男だ。だがガンプラに対する情熱は誰にも負けない男でもある。アンドウ・レイがこの男の息子ならば、あの実力も頷ける。
「……強い子だな」
「子供という物は一を知って十を知るものだ。好きなものならば尚更、レイはそれが顕著だった……親は子の成長に盲目になるものだからな、つい教え過ぎてしまった」
「それはいいではないか」
「アシムレイト」
「!」
「ダメージフィードバックの現象がレイにも起きてしまった」
まさか彼もセカイ君と同じアシムレイト現象を起こしていたというのか!?……成程、それではセイジも心配する訳だ。
アシムレイトは機体の性能を三倍に上げるものだが、それに伴うリスクが大きい。ガンプラのダメージが現実の肉体に及ぶ……腕が壊れれば腕に激痛が走り、胴体が両断されればそれ相応のダメージが襲い掛かる、まさに諸刃の剣と成り得る危険なものだ。
「ガンプラのダメージを感じた気がする、と言われた時は全身の血が凍りそうだったよ。だが、それと同時に私は嬉しくなってしまった。大尉、アシムレイトの発生条件は何と言われているか知っているか?」
「……資質を持った一部の者、かな?」
セイくんやメイジン・カワグチのような類まれな資質を持つファイター。でもそれはあくまで有効な一説であるだけで、非科学的と言うならば、もっと多くある。
「ガンプラを心の底から楽しいと思った時。非科学的だが私はこれが間違いとは思っていない。息子は私が教えたガンプラバトルを心の底から楽しんでいる……父親として、一人のファイターとしてこれほど嬉しい事はないだろう」
「確かに」
それも一つの要因と成り得るだろう。なにせアシムレイトにはまだまだ謎がある。感情の爆発を切っ掛けにして覚醒する事もあり得る。現にセカイ君もそうだった。
「ら、ラルさん……これって一体どういうことですか?」
「誰かがもう戦っているぞ?」
「お、おお……来たか皆」
フミナ君達がどうやら到着したようだ。彼等にも事情を説明してあげなくては。セイジに一声掛けながらも、フミナ君達に視線を向ける。
その瞬間―――
「……っ!!」
「ちょ、ちょっとユウ君!!」
ユウマ君がレイ君とガンプラ学園の生徒がバトルしているバトルシステムに、ライトニングガンダムを握りしめ走っていってしまった。
「……はっ!?」
突然の事に固まってしまったが、いかん、彼らのバトルは―――
「止めてやるな、ラル」
「セイジ何を!?」
「彼からは並々ならぬ執念を感じる……きっとレイの戦っている相手に何かしらの因縁があるのだろう」
ユウマ君を止めようとした私の肩をセイジが掴む。
彼はどこか達観したように、明らかに冷静ではないユウマ君の表情を見てから私の方に視線を向ける。
「ここは私達のような老いぼれが出る場ではない。彼の問題は彼自身と若いものに任せるべきだ」
「私はまだ老いぼれという年齢じゃ……」
「お前は十分おじさんだ」
セイジの言葉に反論したい気持ちに駆られるが、よく考えれば自分は40過ぎ……否定はできないのが辛い所だ……。
禍々しい光を放つクローと緑色の光を輝かせる槍が拮抗する。ランスを繰り出している右腕にパワーを籠めながら改めて思う。強い、これがガンプラ学園の実力。ガンプラの完成度、技術、ミサキとは別の強さがプレッシャーとなりモニターからジリジリと伝わって来る。
止めに来た筈なのにバトルしているのはどこか本末転倒だが、溢れ出るこのワクワクは止められない。メイジン・カワグチとは別の意味でガンプラ学園と言う存在は、俺にとっては憧れであり目標のようなものだったからだ。
「戦ってみたかった……お前達と……!」
『カハハッ!!それが本音かよ!!』
ランスと拮抗しているクローを横から蹴り飛ばし再度光の槍を生成し突き出すも、もう片方のクローでランスを掴まれる。凄まじい力でランスごと持ち上げられ、無防備な体勢になってしまった俺のジンクスに対して、アドウのガンプラは、マントの下からリボルバー型のビームガンを覗かせる。
このままでは撃たれる……ランスを手放しGNバスターソードに持ち替え盾にする。放たれたビームをバスターソードで防ぐ事が出来るが、放たれた一発が運悪く脚部の関節に命中、破裂し脚が切り離される。
「く……っ」
『これだけやってそれだけか!』
胸部のバルカンを連射させながら、腰のGNライフルとロングバレルを組み合わせつつ距離を取る。右足が動かない、これじゃあ空中戦しかできないな……。
それに接近戦は危険すぎる。特にあの両肩のクロー、一瞬見えたが掌に顔があった。まるでデビルガンダムヘッドを思わせる意匠、何か仕込んであると見て良い。まさに、てんこもりガンプラ、いろんな系列のガンプラを組み合わせてある。
右腕にライフル、左腕にバスターソードを携えながらどう攻めようか考えていると、前方の黒いガンプラがクローで掴んでいた俺のランスをこちらへ投げつける。
「……っと、なんのつもりだ?」
バスターソードを地面に突き刺して、GNガンランスを受け取りながらアドウの突然の行動に疑問に思う。相手に舐めて掛かるような人格ではないことはバトルを通じて理解しているつもりだが……。
『気が変わった』
「は?」
『気が変わったっつってんだよ。未完成のガンプラに勝ったって何も嬉しくねぇ』
図星を突かれて驚愕した俺の反応を見たアドウは不敵に笑いながらも言葉を連ねていく。
『今のお前に勝っても意味ねぇ。俺は完成したお前のガンプラとバトルして勝ちたいんだ』
「………」
この男は相手に対して乱暴な言動やバトルはするが勝負事には正々堂々なのか。それに俺の方もアドウの攻撃を避けるのに一杯一杯だった。加えてアドウのガンプラはまだまだその本領を発揮していない。
悔しい所だが、ここは彼の提案を受けるしかないか……。
「選手権でやろう、といった感じか?」
『ああ、そうだ。分かってんじゃねぇか』
勝負に関してはアドウという男は純粋なだけなのかもしれない。彼の頭の中には強いファイターと闘えるか戦えないか、そして勝つか負けるか、そのどちらかしかない。
彼の戦いの全てを肯定する訳ではないが、それだけはなんとなくだけど分かる気がする。
地面に刺したバスターソードを肩にマウントし、ゆっくりと息を吐きだす。
……足がやられてしまったが、この程度なら簡単に直せる。むしろ試運転もできたことだしこれからの改善点もよく分かった。少なくとも今の俺が目指す完成像ではアドウには勝てない。武装の強化もしなければ……。
「それじゃあこのバトルはもう終わ―――」
『見つけたぁぁ!!』
突如、遠距離からの砲撃がこちら目掛けて放たれた。方向からして狙われていたのはアドウのガンプラの方だったので、俺は空に上がる事で避けれたのだが誰が狙った?
レーダーに新たな反応が出ているのを確認しながらもそちらにジンクスを向けると、そこにはガンダムタイプの蒼いガンダムがビームライフルを連射しながら近づいてきていた。
『やっと見つけたぞ!!見間違えようがない!!お前はあの時の!!』
『いきなり出てきてキャンキャン吠えんな!!』
ビームを紙一重で回避していたアドウは、両肩のクローを広げ銃弾型のファングを射出する。
『吠えるのは俺のファングだけでいい!!』
射出されたファングは凄まじい速さで青色のガンプラへ迫る。
「おい!これ以上のバトルは……ッ!」
『2年前のバトル!忘れたとは言わせないぞ!!』
『ああッ?こちとら年がら年中バトってんだ!!残念ながら覚えてねぇな!!』
瞬く間に戦闘を始めてしまう二機。その光景を呆然と見ながら、俺は思わず重いため息をついてしまう。
これでは何のために俺が出てきたのか分からない。……でも、あのガンダムタイプのファイター……アドウと何か因縁があるのだろうか、所々聞く限りだと訳有りのように見える。
「アドウ!!」
『ハッハァ!!レイッ!テメェは手を出すなよ!!これは俺が売られた喧嘩だ!!』
先程の戦闘のせいで何処か高揚しているアドウ。俺のせいではあるけど……どうしたらいいんだ。この損傷じゃ二体同時を相手取るのは難しいぞ……。
ファングによって狙われた青いガンプラは、空中へ逃れると同時にMAへ変形し崖の方へ飛んで行く。誰かは分からないが、凄まじい気迫……いや、執念だろうか。
崖を目前にして急上昇した青いガンプラはMSの形態に変形し、纏まって上昇してきたファング目掛けビームを放つ。ビームが直撃したファングは大きな爆発を起こし、他のファングを巻き込む。
『なに!?』
『この2年間ッ、ずっと繰り返してきたんだ!!お前の攻撃の対応策を頭の中で何万回も!』
……まずい。あのファングはまさしく銃弾のように相手を貫く硬さと威力がある。並大抵の攻撃力じゃ破壊できない。
案の定、ビームによって生じた白煙の中から無傷のファングが続々と飛び出してくる。
『ご苦労なこった!!』
『何であんなにファングがもつんだ……!?』
『悪いねぇ!特別性なんでなぁ!!』
バックパックのミサイルとビームを続けて放つも、アドウのファングの勢いは止まらず、そのまま青いガンプラの胸部と脚部にファングが突き刺さり、そのまま機能を停止し地に落ちていく。
『そ、そんな……僕の……』
あまりにも早い決着……。地上に落ち、損傷を負っている青いガンプラにアドウの操作する黒いガンプラが近づいていく。赤いマントの隙間からはビームガンが握られた右腕が見える。
俺はアドウが何をしようとしているのかを察すると同時に、右手のロングビームライフルを構えアドウのビームガンを掠らせる形で落ち落とす。
『んだァ!?』
「アドウ!!」
『……わーったよ。うるせぇな……』
サッと青いガンプラにもう片方のビームガンを収め、おちゃらけたように手を挙げる黒いガンプラ。
……容赦がないというより徹底的に相手の心を折りに行く戦い方をする奴だ。素直に恐ろしい。
『次元覇王流!!聖槍蹴りィィィィィ!!』
「!?」
『………またかよ』
今度は赤いガンプラが回転蹴りをしながら乱入してきた。その後ろには黄色いSDガンダム。二機だけということは青いガンプラのチームメイトだろうか。アドウが無抵抗の蒼いガンプラに止めを刺そうとした光景を見たら無理もないだろうが、もう滅茶苦茶だ。突然攻撃を仕掛けてきた青いガンプラのファイターに責任はあれど、この二機のファイターはただ仲間を助けようとしているだけに過ぎない。
「………どうすればいいんだ……」
止めようにも攻撃を仕掛けてきた相手に対して素直にアドウが引いてくれるのか……。
「随分と混戦しているようだね」
バトルが行われているトレーニングルーム、その一つ上の階から見える光景。チームメイトのアドウ・サガと二機のガンプラが戦っている。
一体は格闘主体のガンプラ、もう一体はサポート主体のSDガンダム。そしてもう一体、三機の戦いを静かに見守っているジンクスⅣ……最初にアドウが戦っていた茨城県代表のファイター……。
「アドウは嬉しいでしょうね、アラン伯父さん」
「だから伯父さんはやめてくれないか?………僕も驚いているよ、まさか乱入してきた彼がアドウとほぼ互角とは思わなかった。」
バトル自体は途中から見たから全容は分からないが、相当の実力者と見た。
アドウのファングは並の事では突破できない。ほとんどの相手がアドウに辿り着かずに貫かれ敗北する。だが、彼はどうだ。一撃で致命的な損傷に至るファングに対し、真っ向から突っ込んだ。無線兵器に戦い慣れていないとできない判断だ。
「羨ましいですよ」
あれほど奇抜な戦い方をするファイターは居そうでいない。それに未完成のガンプラとはいえ、自らの切り札であろうクリアパーツで作られたランスを惜しみなく繰り出す事に好感が持てる。
「おや、妬いているのかな?」
「ご想像にお任せします」
GN-XⅣ、私と同じ00系列の機体。それもカスタムタイプではなく既存のMSを自ら作り上げた……いや、ここは作り上げていると言った方が正しい。未完成ながらも良い出来のガンプラだ。
彼ほどのファイターを今まで自分が知らずにいたのは少し歯痒くなる。……彼のチームメイトを含めて今年の選手権、少し違うものになるな。
『次元覇王流!!流星螺旋拳!!』
SDガンダムから分解されたパーツを巨大な拳として装備した赤いガンプラが赤い炎を燃え上がらせながら、アドウ目掛けその拳を繰り出す。その拳に対しアドウは『デッドエンドフィンガー』で対抗している。
「……次元覇王流拳法の使い手、か」
思い出すのは、ガンプラバトルに卑劣な行為を持ち込むあの男、イノセ・ジュンヤが使っていた拳法。……そして、彼と同時に思い出されるのは、そのイノセ・ジュンヤと真っ向から戦った、黒いマントを身に纏ったマスターガンダムを操るイノセ・ジュンヤとは対照的な強さを誇ったあの獰猛な男。
彼は次元覇王流に真っ向から戦った……あの試合は今でも鮮明に思い出せる。強い、そして怖いとも思ったのは、これまでの経験の中であれが初めてだろう。
「ナガレ……彼も恐らくここに来ている」
興が削がれたという理由で試合を辞退したような男の事だ。ただひたすらに強者を求めてここを訪れている筈。もし彼がこの試合を見ていたならば、すぐさま接触を試みる可能性がある。
……それも案外面白いかもしれない。
『何だ!?』
アドウが驚く声がトレーニングルームから聞こえ、我に返る。フィールドを見ると、地に伏せる次元覇王流拳法を使っていたガンプラと、バラバラになったSDガンダム、そして宙に浮きながらも上方を見上げているジンクスⅣとアドウのジエンド。
彼等の視線の先には……。
「……学生同士のバトルに乱入するとはまったく困った男だ。バトルを見ていて血がたぎったのかな、タツヤ……いや メイジン……」
「……はは!」
まさか、こんな所で見れるのか。世界大会三連覇を成し遂げた最強のファイター、キング・オブ・ガンプラのガンプラが。
「メイジン・カワグチ」
天空から降りてくる真っ赤なガンプラ。雲の隙間から差し込む太陽の光がそのガンプラを神々しく輝かせる。観た瞬間にあのガンプラを誰が操縦しているのか分かった。神々しいほどの圧倒的な完成度、佇まいからビリビリと伝わる強者のオーラ。
「伝説の、パーフェクトガンダム三号機……」
『そう、その名こそアメイジング・レッドウォーリア!!』
全身真っ赤なカラーリングと口元を覆うようなフェイスプレート。背に装備されたガンブレイドとハイパーバズーカ。ミサキのクリアファンネルミサイルのような特殊な機能など施されてはいない単純な装備だが、その単純な装備を十全以上に扱いきれる技能がメイジンには備わっている。
シンプルなものこそ一番使い勝手が良い……それを体現したようなガンプラ……。
『思いのほか早い再会だな、レイ君!』
「え、ええ……」
何故ここに居るのか、なんて無粋な事は聞かない。きっとメイジンには俺にさえ思い至らないようなすごい事を考えているに違いない。
『嬉しいねぇ……あのメイジンが出てくれるとはなぁ』
赤いガンプラを飛び越え、メイジンの前に進んだアドウ。メイジンのレッドウォーリアは俺のジンクスから、アドウのガンプラの方へと機体を向ける。
『ガンプラ学園の者か……』
『アンタと戦えることができれば、俺の力は世界へ通じるって事になる。リカルド・フェリー二、ルワン・ダラーラ、グレコ・ローラン……そしてメイジン・カワグチ……!強ぇ奴等がわんさかいる世界になぁ!』
『……何故そこまで力を求める』
『飢えてるからさ……ッ!強ぇ奴とのバトルをさ。俺と戦える奴はこいつを除いてキジマくらいしかいねぇ……後はてんで話にならねぇ!俺は強い奴と戦っている時こそ満たされている!こいつと戦っている時がまさにそれだ!!』
アドウのガンプラが一瞬だけこちらを見る。……やっぱりミサキと同じタイプのファイターだったか。彼女は姉妹で扱う冥・Oを力の限り戦わせることができる理想のバトルを探していた。アドウは本気を出して対等に戦える相手を探していた。
ミサキとは違うように思えるものだが、根本は同じ。強いファイターとバトルして楽しみたいという思い。
『その気持ちは私にも分からないでもない……。だが、今の君が世界選手権に出ようとは!!笑止千万ッ!!』
『なんだと……?』
『強さだけを求めるのがガンプラではない!そう言っているのだ!!』
『だったら試させて貰おうか……ッ!!俺の戦いで!』
俺が撃ち落としたビームガンを拾い上げ、両腕のビームガンをレッドウォーリア目掛けて放つ。しかしメイジンはその攻撃に対し、右腕に装備されている実体剣が付随されたビームライフルで、ピンポイントで迫りくるビームを撃ち落とす。
「すごい……」
流石だ、一寸の狂いのない正確な射撃でなければできない芸当。アドウもまさかそんな方法で防ぐとは思っていなかったようで驚いていたが、すぐさまファングを射出し、メイジンへ襲い掛からせる。
だがそれすらもメイジンは実体剣の一薙ぎで切り伏せる。
『強者故の孤独か……』
「……?」
『じゃあ次はどうだ!!』
一瞬だけレッドウォーリアの視線がこちらへ向いた気がする。……いや、気のせいだろう。それよりも俺に使った、あのファングをひとまとめにして砲弾のように突撃させる攻撃がメイジンに迫っている。
メイジンはガンブレイドを突き出し実体剣と衝突させ、背部に装備されたバズーカでファングを破壊してしまった。
『レイ君!君はガンプラが楽しいか!!』
「え……楽しいです!」
アドウとの戦闘の最中のはずなのに、こちらへ声を投げかけてきた。突然の問いに戸惑いながらも反射的にそう返してしまうが、メイジンは少し笑みを零し、声を張り上げる。
『そうか!!ならば良し!!』
何が良しなのか分からない。でもそういうことなのだろう、多分。
『すげぇすげぇ、流石メイジンの名を冠する事だけはあるぜ……ッ!!』
黒いガンプラが飛び上がり、胸部の装甲を翼のように広げて全身を覆っていたマントを消し去り、その姿を露わにする。
……俺と戦っていた時もその本領を発揮していなかった彼のガンプラの真の力……か?
『なら俺も究極で行かせてもらうぜ………ッ』
『……む』
黒いガンプラの両肩が真ん中からスライドし目玉のような文様の部分が露出し、禍々しく思える程の粒子が黒いガンプラを中心に放たれた。
しかし……。
『食らえェ……デッドエンドォ―――』
【BATTLE!ABORTED!!】
「!……強制終了……」
プラフスキー粒子によって構成されたステージが解除されていく。同時に俺の周りを覆っていたバトルシステムが解除され、周りの景色が鮮明に見えるようになる。
強制的にバトルシステムを解除されたのか?そんな事をできる人なんて一般生徒にはいないはずだが……。
「誰の仕業だ!!」
メイジンとの戦いを強制的に止められてしまったアドウは、苛ただしげにバトルシステムを止めた人物に向かって叫ぶ。俺もガンプラをしまいながら見るとそこには、金髪の男性がバトルシステムを強制的に止める装置を操作していた。
「ダメージレベルBでこれ以上のバトルをさせる訳にはいかない」
元PPSE所属のアラン・アダムスさん……!?第7回世界大会でメイジン・カワグチのパートナーを務めた人じゃないか。
「うちのメンバーをあまり苛めないで欲しいね。メイジン」
「ならよく言い聞かせる事だ、相手に敬意を払わず、傲慢を振りかざす者を私は好まない」
「フッ……良く言い聞かせておくよ」
現在のアラン・アダムスさんが何をしているかは知らなかったが、今の会話を聞く限り、彼はガンプラ学園の関係者のようだ。……PPSE社の社員だった彼ならガンプラファイター育成に力を入れているガンプラ学園に居るのも納得できるな。
ガンプラ学園でもそれなりの地位……もしかしたらアドウたちのチームの監督をやっている可能性もある。
「おい」
「ん?」
アドウが声を掛けてくる。面と向かって顔を見るのは初めてだけど、俺と同じ高校生……だよな?
「楽しみにしてるぜ、お前の完成したガンプラと戦うのをな」
それだけ言い放ち、アラン・アダムスさんと共にトレーニングルームから出て行ってしまった。
いずれ彼と戦う為に今のジンクスよりも遙かに強く、そして楽しく戦えるガンプラを作らなくちゃな……。
「セカイ君!!」
「!」
バトル中に聞こえた女子の叫び声……只事じゃないその声に振り向くと、先程までバトルしていた赤髪の少年が、ぐったりとしてラル大尉に支えられるように気を失っている。彼の周りには、彼のチームメイトらしき女子と呆然と自身のガンプラを見て立ち尽くす少年……。赤髪の少年から少し離れた場所には、彼を心配気に見ているノリコとコスモ、そしていつの間にかここに来ていた父がいた。
とりあえずチームメイトの方に走り寄り、何があったかを聞いてみる。
「コスモ、一体どうしたんだ?彼は……」
「バトルが終わったら突然倒れたんです」
「突然倒れた……?」
「あっ、ユウ君!!」
今度は青い髪の少年までもが、自身のガンプラを放置したままトレーニングルームから出て行ってしまった。
もしかしてさっきのバトルで何かあったのだろうか。一応バトルに参加していた身だ、原因が俺にあるなら謝罪しなければならない。
「大尉、彼は大丈夫ですか……?」
「ああ、大丈夫だ。疲れているだけだと思う」
赤髪の少年、セカイくんと言ったか……彼を抱えた大尉が彼のチームメイトらしき少女と一緒に医務室に向かう際に声を掛ける。見た所外傷はないがかなり疲労している……。
「やっぱり俺が無理やりにでもバトルを止めれば……」
「いや、君のせいでは……」
「あまり思いつめるなレイ君」
「メイジン……」
「セカイ君の症状は君のせいではない」
こちらへ歩み寄って来たメイジンが、大尉に抱えられている少年の表情を一目見てすぐに顔を上げる。
メイジンは彼の症状について何か知っているのだろうか。
「アシムレイトですか?大尉」
「ああ、少し思い込みの激しい子でな……」
アシムレイト?彼の症状に関係のある言葉だろうか……。ガンプラバトルに関係する言葉なら父が知っているかもしれない。後で聞いてみるか。
「地区大会の決勝見ましたよ。純粋な思いを炎に変える……まさにバーニングな少年だ」
思いを炎に変える?まさかさっきのバトルで彼が繰り出した、炎を纏わせた拳がそのアシムレイトなのか?確かに燃え上がるような凄まじい粒子量だった。
トランザムのように爆発的に出力が上がったように見えたが、その原理はよく分からなかった。
「レイ君」
少年を医務室に連れて行く大尉を見送ったメイジンが、今度は俺に話しかけてきた。
「ガンプラを楽しむその心、大事にしたまえ」
「……勿論です」
俺の言葉に満足したのか、嬉しそうな笑みを浮かべる。ガンプラを楽しむ心……それがメイジンが後進を往く子供達に伝えたい事なのかもしれない。
「メイジンはどこに?」
「……少しやらなければいけない事ができたのでな……。暗闇に迷いこんだ少年を案内する役目だ」
バトルシステムに置かれている青色のガンプラを、レッドウォーリアが保管されているであろうスーツケースの中に入れる。メイジンの言葉に俺は、先程トレーニングルームから出ていってしまった少年の事が頭の中で浮かんだ。
彼はアドウと何かしらの因縁があったのだろう。それも彼にとってとても大きな、執念にも値する因縁が。だがアドウは覚えていなかった、それどころかあまりにも呆気なく自分の方がやられてしまった。
それで彼のガンプラへの思いが粉々にされた。それはとても苦しくて辛い事だろう。今まで自分が積み重ねてきたものが無意味に見えてしまうほどに……。
「………やはり君は私が見込んだ通りに、ボルケーノな少年だよ」
そう呟いたメイジンは、トレーニングルームの出口へと歩いていく。彼を見送った後、トレーニングルームに残された俺は、ノリコとコスモと父の方に歩み寄る。
「悪い、心配かけた」
「本当ですよ……でも、あの子大丈夫でしたか?」
「疲労で倒れたから大丈夫らしい……が、この後俺が見にいくよ。ガンプラも直したいからな。……父さん、この後予定は?」
「いや、今日はもう大丈夫だ」
よし、それなら……。
「じゃあ、コスモとノリコの指導をしてくれないかな?俺のせいで大事な合宿の時間を無駄にするわけにはいかないから」
「息子からの珍しいお願いだ。受けようじゃないか」
「ありがとう。二人とも、ここは父さんに任せる」
「先輩は大丈夫なんですか……?」
心配気にコスモが聞いてくるが、大丈夫だ。足を損傷したとはいえそんなに重いものではない。すぐに直る程度のものだ。だけど、それよりも今頭の中を占めているのはもっと別の事。
「ガンプラ学園の生徒とのバトルで何か得られたようだな」
「ああ、でもすぐに二人の練習に参加できるように早くジンクスを早く修理しなくてはいけない……だからノリコ、コスモ。俺が居なくても思いっ切り練習してくれ、俺も直ぐに参加するからな」
「はい!!先輩も頑張ってください!!」
「思いっ切りやらせてもらいます!」
二人の返事に安心した俺は、まずは赤髪の少年がいる医務室に向かうべくトレーニングルームから出る。医務室は確か工作ルームから少し離れた所にあったはず。
「大したことはない、時期に目が覚めるよ」
「はい………」
夕焼けが差す医務室のベッドに、チームメイトであるセカイ君が眠っている。地区大会の決勝戦の後にセカイ君が倒れてしまった時と同じだ。まるでガンプラの傷や疲労をセカイ君も感じているみたい。
あのバトルの時、ユウ君はガンプラ学園の生徒にやられてしまった。そして私もセカイ君のガンプラも……。私達は少し甘く見ていたのかもしれない。地区大会の決勝を勝ち上がった私達のガンプラは全国でも通じるのではないか、と。
でも現実はこれである。選手権はチーム戦、ガンプラ学園の生徒一人相手にしただけでも私達は圧倒されてしまった。だから、私達はもっと強くならなければならない。
セカイ君もユウ君も……そして私自身も。
……そういえばユウ君が乱入する前、誰かのガンプラが、ガンプラ学園の生徒と一緒に居た。もしかしてセカイ君を医務室に連れて行くときに話しかけてきたあの人なんだろうか。結局話に入れず聞きそびれてしまったが、彼も私達や我梅学園と同じ、選手権へ出場する選手なのかもしれない。
……いや、今はそんな事より、まずはユウ君を探さなくちゃ……。
「ラルさん、セカイ君のこと……お願いしても良いですか?」
「それは構わんが……」
「私、ちょっとユウ君を探しに行きます!」
ラルさんに任せておけば大丈夫だろう。私は私のできることをまずやっていこう。まずはユウ君だ、さっきのバトルのユウ君の様子……もしかして二年前もあのガンプラ学園の人とのファイトが原因で彼がガンプラをやめてしまったなら―――。
医務室へ近づこうとしたその時、私が扉を開ける前に誰かが扉を開けた。誰かが入ると思っていなかった私は少し驚きながらも、扉を開けた人物に視線を向ける。
「君は……」
「さっきの……」
トレーニングルームでラルさんに話しかけていた人……その人が医務室に訪れてきたのだ。何故彼がここに?と最初に疑問に思ってしまった私だが、扉が空いた音を聞いたラルさんがこちらに気付き声を掛ける。
「ああ、レイ君か。セカイ君なら大丈夫だよ」
「……そうですか、良かった」
ラルさんの言葉に安堵するように胸を撫で下ろした人は、困惑している私に気付くとしまったとばかりに表情をしかめる。
「すまない、自己紹介はまだだったな。茨城県代表、暮機坂高校のチーム『イデガンジン』のリーダー、アンドウ・レイだ。俺もさっきのバトルに参加していた」
「………」
「………?」
「……どうした、フミナ君?」
「え?……あ……わ、私は聖鳳学園、チーム『トライファイターズ』のホシノ・フミナです!」
ラルさんの声に我に返り、すぐさま自己紹介する。いけない、鹿児島県代表の人達と態度が違いすぎて少し呆然としていた。
茨城県代表……私達と同じ関東圏の代表。
それに、さっきのバトルに参加していたということは、彼があのジンクスを操作していたのか……。
バトル中、ガンプラ学園の事で精一杯で気付かなかったけど、ユウ君が乱入する前はこの人がガンプラ学園の人と戦っていたのかな……?私達が来た時は、二機のガンプラが戦闘をちょうど止めたあたりだったから……。
「聖鳳学園のチーム『トライファイターズ』……確か西東京のチームだったか」
「知っているんですか!?」
「いや……俺達と同じ全国初出場のチームだったから、珍しくてね」
アンドウさんたちのチームも全国初出場なのか。
「……あまり長居すると迷惑になるか……突然すいませんでした。そろそろ行きます」
「いや、こちらこそ無用な心配をかけてすまない」
そう言ったアンドウ・レイさんは軽くお辞儀してから医務室を去って行った。
セカイ君を心配してここに来てくれたのか……。なんだか変に疑ってしまった事に申し訳ない気持ちになって来る。
後で心配させてしまったお詫びもかねて、ユウ君とセカイ君と一緒にちゃんと挨拶しに行こう……。
「……じゃあ、ラルさん!私今度こそユウ君を探してきます!!」
その為には一刻も早くユウ君を探しに行かなくちゃ!
ガンダムジエンドの名前を知って、真っ先にニルバーシュtype the endが思い浮かんだ私は少しズレているのかもしれない……。
今回は選手権扁で戦う予定にあるオリジナルキャラの名前を出しました。
イノセ・ジュンヤと同じように拳法に秀でる人、と考えたら、あのキャラが思い浮かんだのでそのキャラをモデルにしました。
ナガレが苗字で大体わかってしまうかもしれませんね。
使うガンプラは合体しない黒いゲッターです。