『A』 STORY   作:クロカタ

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お待たせしました。



続編~コンサート2~

 ガンプラマフィアからココロネ・ヒツキのコンサートを警護する手伝い―――。

 それだけの事だったはずなのだが、まさか昼間、ガンプラバトルを教えた少女、マゴコロ・サツキがガンプラアイドル、ココロネ・ヒツキだとは思いもしなかったな。

 しかも案内された部屋には、選手権で何度かインタビューされたカミキ・ミライさんがいるし。

 

「まさか君がココロネ・ヒツキ本人だとは考えもつかなかったよ」

 

「……すいません。でも顔がバレると人が集まってきてしまうので……」

 

「いい、それくらい俺も分かってる」

 

 あの後俺達は、会議室から案内された待合室のような場所で、マゴコロと向かい合う様に机を挟んで座っていた。

 父さんとマネージャーさん方は会場の警備について話し合うとの事で別室にいるそうなので、その間何もすることがない俺達は取り敢えずの自己紹介を済ませるべく、此処に案内されたのだ。

 カミキ・ミライさんも仕事があるというので東京に帰ってしまったので、色々とどうしていいか分からない空気だ……。

 

「……それで、コンサートに使うガンプラはガンイージじゃないんだろう?」

 

「えぇ、まあ……はい」

 

 ここは無駄な話をせずに本題へ移ろう。

 彼女が俺にガンプラの教えを請いたのはコンサート中に襲撃してくるかもしれないガンプラマフィアから自分の身を守るためだ。

 ガンプラを悪用するのは俺としても許せない。

 どういう目的でコンサートを邪魔するのかは知らないが、父から任されたからには全力で協力しよう。

 

「コンテストに出店したヴィクトリーンガンダムか?」

 

「ううん、ちょっとあれは人形っぽいから別のを作ったんだ」

 

 先程マネージャーに持ってきてもらっていたバッグの中から、ガンプラを収納するピンク色のケースを取り出し、その中から一体のガンプラを優しく手に取り俺の前に立たせる。

 

 ―――素体はV2ガンダム。

 

 写真で見たヴィクトリーンガンダムがヴィクトリーガンダムを元にしたとなれば、これはその発展形。

 

「これがコンサート用に私が作ったガンプラ、名前はまだ決まってないけどね」

 

 ガンダムV2に登場する戦艦、リーンホースjrの武装を模した装備が施されたガンプラ。

 その右腕には、リーンホースを象徴するビームラムとシールドを展開する大型ビームキャノン。

 両肩には三連ビーム砲。

 両の腕の側面には、長方形型のシールド。

 背部スラスターは、元のV2よりやや大型に改修されている。

 

 ―――偏見かもしれないけど、なんともアイドルが作るとは思えないごつごつしたガンプラだ。だが、流石はコンテストで賞を貰った彼女のガンプラ、完成度が高く、これなら普通にバトルさせてもかなりの性能を発揮できるだろう。

 でもこのガンプラは―――

 

「……君の戦闘スタイルには合わないんじゃないか?」

 

 どうみても遠距離からの戦闘を想定しているようにも見える。

 原典のリーンホースjrを考えるならばビームラムも可能な筈だが、これほど重いと取り回しも難しく、一旦相手に避けられたら致命的な隙を生みかねない。

 彼女もそれを分かっていたようで、困ったように表情を鎮めた。

 

「実はこの前まで、バトルなんてしていなかったので……取り敢えず私が思う強いガンプラを作ればいいかなって……」

 

「成程……」

 

 ガンプラバトルの経験がないから、自分に合うガンプラを作る事を度外視していたという事か。

 ……それはしょうがないな。彼女とて仕事で忙しくガンプラバトルをする暇なんて無かったのだろう。むしろ平行してビルダーとして活動していたことが凄いのだ。

 

「俺から見て、君は遠距離でのバトルが駄目な訳じゃない。ただ慣れていないだけなんだ。明日時間を取れるか?」

 

「それは大丈夫です。コンサート前までは時間を空けているので」

 

「なら、明日また同じ模型店で練習しよう。プライベートモードでバトルをするから、そのガンプラを持ってきてくれ」

 

 下手にそのガンプラが見られると、面倒くさいことになりかねないからな。

 一応の用心をしておこう。普段は使わないが、プライベートモードならばバトルをしている当人以外からは誰にもバトルは見えなくなるからな。

 

「じゃ、今日の所は帰るとするよ」

 

「え?」

 

 父はまだ大事な話をしているだろうし、LINEか何かで連絡しておけば大丈夫だろう。

 

「ちょ、ちょっと待って!連絡先!連絡先を交換して!!」

 

「あ、ああ」

 

 焦りながら携帯を取り出したマゴコロに慄きつつも、こちらも携帯を取り出し連絡先を交換する。

 確かに連絡先を交換した方が練習する時間帯と場所を決める時に便利だな。

 

「それじゃあ、明日……お願いしますっ」

 

「こちらこそ」

 

 さて、とりあえずホテルに戻るか。

 マゴコロと別れの挨拶を交わし、ドアを開け外に出る―――のだが、丁度誰かが入ろうとしていたのか、その人とぶつかりそうになってしまう。

 慌てて足を止め、少し後ろに下がる。

 

「おっと」

 

「っ、すいません、えーと……カクレザキさん」

 

「いやいや、僕も済まなかったよ」

 

 父と一緒に居た同僚、カクレザキさん。

 ノックしようとしていたのか、上げていた手をゆっくりと下ろした彼は温和な笑みを浮かべながらこちらに声を掛けて来る。

 

「ん、丁度良かった、伝言があるんだ。アンドウ君とココロネ・ヒツキさんも今日の所はここまで……でも僕が伝える必要も無かったみたいだね」

 

 あははー、とのほほんと笑ったカクレザキさんは、俺とマゴコロを交互に見た後に一礼してまた何処かへ行ってしまった。

 先に切り上げて良い事を伝える為だけに来たのだろうか?………気にする事でもないか。

 

「それじゃあ今度こそ戻るとするよ」

 

「う、うんっ」

 

 ガンプラマフィアにココロネ・ヒツキか……これは予想より、面倒な事になりそうだ。

 そんな漠然とした予感をしながらも、マゴコロの居る個室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホテルに戻る頃には日が沈み、辺りは暗くなっていた。

 時間的に夕食時なのだが……事務所に居た父の様子を見る限り、食べるのは俺一人と考えて良いだろう。確か、此処の夕食はビュッフェ形式だった筈、時間も頃合いだし部屋に戻る前に行っておくか。

 

「3階か……」

 

 エレベーターに乗り込み3階へ上がり、ビュッフェのある店の方に移動する。

 運よく人が混む前に来ることが出来たようで、すんなり中に入ることができた。下見とかはしていなかったけど、かなり豪華そうな店だ―――って……うん?

 

『うほほぉ―――!流石一流ホテルの料理やっ!』

 

『お、お客様、他のお客様に迷惑がかかりますのでお静かに……』

 

 店に入ったその先で、見覚えのある少年が店員に注意されている光景が目に入る。

 ………というか、何で彼が此処に居るんだ?彼は大阪に居る筈なのに、何でユウマ君がいる東京ではなく埼玉県に居るのだろうか。

 視線の先で、異様なテンションで皿に乗せた料理をがっついている少年を疑問に思いながら、とりあえずの顔見知りとして会話を試みようと近づいてみる。

 近くまで来た俺を不審に思ったのか、睨み付ける様に顔を上げた少年だが、俺と目が合うとわなわなと震え、こちらを指さし勢いよく立ち上がった。

 

「……って……えぇぇ!!何でアンタがこんな場所に居るんや!?」

 

「それはこっちの台詞だよ……サカイ君……」

 

 ガンプラ心形流の使い手であり、俺達チームイデガンジンと同じく準決勝まで勝ち上がったチーム『ビルドバスターズ』の選手―――サカイ・ミナトが、何故か俺と同じホテルのビュッフェで飯を食っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなぁ!アンタもヒツキちゃんのコンサートを見に来たってわけか!!」

 

 皿一杯に盛られた料理を口に運びながら、サカイ君は俺にそんなことを言ってきた。本当の事情を話す訳にもいかないので、俺もコンサートへ行くファンを装ったのだが……なんだろう、この踏んではいけない領域に片足を突っ込んでしまった感覚は……。

 

「いや……そうだ。君もファンなのか?」

 

「一か月前はアイドルのアの字も知らん硬派なファイターだったわいだが……ココロネ・ヒツキ、ガンプラっ娘選手権優秀賞作品、ヴィクトリーンガンダムを見てからはぐるりと価値観が変わったんや!!」

 

「へ、へぇ」

 

「最初はわれのすーぱーふみなが出ないコンテストで優勝したビルダーが、アイドルやって!?なめとんのか!!と思ったわ……でもッでもなぁ!作られたガンプラの出来はごまかしようがあらへん……ッ、あれは心血注いで作られたモンや……生半可な気持ちじゃないってことがビリビリ伝わってきたわ!」

 

「わ、分かったから静かにしてくれっ」

 

 彼女のファンになった経緯は大体分かった。

 このホテルのチケットも結構苦労して取ったみたいだ。……ユウマ君の時もそうだが、彼は特定のものになると凄い執念を発揮するな……。

 まあそこが彼がガンプラ心形流を会得している所以であるし、ビルダーとして必要な要素かもしれない。

 

「いやぁ、まさか堅物だと思ったアンタもヒツキちゃんのファンとはなぁ、親近感ってもんが沸いて来たわ!」

 

「……い、いいよね、好きだよ……歌とか……」

 

 ファーストシングルしか知らないとは口が裂けても言えない。

 この言葉にさらに嬉しそうに笑った彼は、こちらが止める暇なく矢継ぎ早に言葉を吐き出し始める。俺としては何を言われているのか分からないのでひたすらに相槌をうち、適当に話を合わせるだけ。

 

 

「おお!そうや!!そういえばわいもスーパーロボットってもんを作ってみたんや!」

 

「……ガンプラの事だよな?」

 

 スーパーロボットってなんだ。

 スーパーパイロットの亜種か何かか?

 

「……ん?それ以外に何がある?……まあとにかくットライオン3とは違う獅子のガンプラやで!」

 

「トライオン3とは別の……興味深いな、後で見せて貰ってもいいかな?」

 

「元よりそのつもりや」

 

 獅子のガンプラ、か。

 イメージとしてはバンシィかな?いや……トライオン3の例もあるから既存のガンプラに獅子を思わせる委託を施したという事も在り得る。

 どちらにしろ、サカイ君のガンプラだ……楽しみな事この上ない。

 

「レイさんの方はどうなんや?」

 

「新しいジンクスを作った。仲間の短所を補い且つ長所を際立たせることをコンセプトとしたジンクスをな」

 

「へぇ、今、見せてもらえますか?」

 

 サカイの目の色が変わった事に苦笑しつつも頷いた俺は、G-セルフ・プラスが入っているケースとは別のケースから、改修したジンクスを取り出しテーブルに置く。

 

「GN-X type”G”―――砲撃型のGN-Xであり、俺の仲間、タカマ・ノリコの……ガンバスターの為のジンクスだ」

 

 己の心を形にする流派、ガンプラ心形流を扱う意見を訊きたい。

 これからの改修案に生かせるし、彼自身の発想も柔軟で俺にとっても見習うものがある。あくまでこれは試作品のようなものなので、次の”I”への改修に役立てればいいのだが……。

 

「……ちょ、あの……これ、グレ……」

 

「……グレ?」

 

「い、いや分からないならいいんや……。……まさか無意識に?……ありえんのか?でもさっきの反応も……」

 

 どうしたのだろうか。

 俺のガンプラを見て、サカイ君が唸り始めた。どこかおかしい所でもあったのだろうか?

 首を傾げながら唸る彼を見ていると、突然にくわっと目を見開きその場で立ち上がった。

 

「―――アンドウさんッ、やっぱ今日わいのガンプラを見せるって話はなかったことにするわ!」

 

「いや、それは構わないけど……」

 

「堪忍な。アンタのガンプラを見て、わいにも色々見えてきたものがあったわ。少なくともコンサート前までには完成させたる!これはわいの連絡先や、登録よろしくな!」

 

 ビシィッと俺の前に連絡先と思われる紙切れを差し出した彼は何時の間にか空になった皿を残し店から出て行ってしまった。……何か思う所があったのだろうか。まあ、後で見せてくれるというならいつでも構わないけど。

 渡された連絡先が書かれたメモを仕舞った俺は夕食を済ますべく、止まっていた手を動かすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンサート開催の三日前になって、ようやく私、マゴコロ・サツキのガンプラ特訓の幕が上がった。

 早朝に待ち合わせたアンドウ君と開店と同時に模型店に入り、バトルシステムのプライベートモードでの特訓を開始した。

 使用ガンプラはヴィクトリーンガンダムの発展機。

 慣らしで使った事はあるガンプラだけど、いざ練習の為に使うとなれば慣れない……。

 

「君のガンプラは高威力のビームを用いるガンプラだ。だから最初は正確に狙わなくても良い、高威力はエネルギーの消費が早いというデメリットもあるけど、相手への牽制と攪乱にもなるからな」

 

「は、はい!」

 

 特に右腕に取り付けられたこの長い砲台は、ビームライフルと違ってかなり取り回しが難しく、正直私には扱いきれるか分からない代物……。

 

「君のそのガンプラは空中での移動に特化している―――射撃はあくまで相手の動きを止める牽制、本命は高機動先頭からの接近戦って所だな……」

 

「高機動からの、接近戦……」

 

 なら変形機構を付けておいた方がよかったかもしれない。

 V2ガンダムも分離状態なら変形できたからできなくはなかったんだけど……、この状態でも十分早いからしなかったんだよね……。

 

「じゃあ、今から練習用のモックを出す。君は現状出せる限りの力でそれを撃墜してくれ」

 

「分かりました……っ……!」

 

 数秒ほどすると、フィールドから練習用のモックが10体ほど出現する。その5体はオートに設定してあるのか、バラバラに飛び上がり、敵である私の方を向く。

 ―――モック自体はあまり強くはないが、数はあっちが上。

 

「初めの一発!」

 

 右腕のビーム砲をモック達が居る中心へ向け放つ。

 迫り来るビームを認識したモックはレイさんの言った通りに当たりはしないが、ちりぢりに散らばってくれた。これなら一体ずつ戦える!

 

「行くよ……ッ私のガンプラ!!」

 

 V2ガンダムの名残、翼に似たスラスターから光翼のごとくエネルギーを噴出させ空へ飛び出す。予想以上の加速に体が押し潰されそうになる錯覚を覚えるが、すぐに気を引き締め直す。

 

 まずは手短な奴から片づけなきゃ……え、えーと、落ちついて両腕でもって撃つんだよね……。

 飛び出した先に居る一体に左腕を添えたビーム砲を向け出力を絞ったビームを放つ。放たれたビームライフルほどの太さのビームはモックの正確に中心を捉え破壊した。

 

「当たった!」

 

「油断するな!近くに来てるぞ!!」

 

「は、はぁい!!」

 

 アンドウ君の声にびっくりしつつも、空中で反転し接近していた3体のモックを視界に入れる。ライフルだけじゃ間に合わない、ならッ!!

 

 

「三連ビーム砲で!!」

 

 両肩に装備された三連ビーム砲から6つのビームを一気に打ち込み、接近していた三体のモックに風穴を開ける。

 威力が強いし、一気に6発分も放たなくちゃいけないから粒子消費量が少し多い。もっと節約して撃つべきだったかな……?―――いや、考えるのは後だ……まだ6体もいる。

 でも囲まれたら、今の私じゃ対応できる自信がない。

 

「無理に戦おうとしなくていい!視野を広くして敵を把握するんだ!」

 

「視野を広く……っ!そうか!!」

 

 脚部に増設した回転型のスラスターを下方に向け思い切り上昇する。これで敵のモックに背後を取られずに済むし、6体全部のモックの位置を把握できた!

 こちらへ一丸となって迫って来る6体のモックを見据えたまま右腕のビーム砲を構え、粒子をチャージする。ただのビームじゃ6体を捉えきれないならば、まとまったビームじゃなければいい。

 

「拡散ビーム砲!行きます!!」

 

 砲口から放たれたのはビームの雨。上空から降ってきたビームの雨にモックは次々と貫かれ爆発していく。

 巨大なビームとして形を成す筈だったものを拡散させ広範囲を攻撃するものへと変えてみたもの………かなり良い感じに決まってくれた。

 

「……やった……」

 

 まだ射撃にまだ慣れていない私でも十分に扱える。粒子の消費を全く考えていなかったから結構ピンチだけど、それはもっと使っていけば配分も分かるだろう。

 胸を撫で下ろしながら機体を地上へと下ろすと、レイさんの乗っているGセルフ・プラスもやってきた。

 

「状況判断も武装選択も文句無し、凄いな本当にこの前まで初心者だったのか?正直、かなり驚いてる」

 

「アンドウ君のおかげだよ……」

 

「俺はアドバイスしただけで、操作したのは君だよ」

 

 選手権出場者であるアンドウ君に褒められて嬉しく思う反面、自分も戦う覚悟を決める。まだモックを倒した程度、アンドウ君の言っている事も、初心者の割には強いという意味だろう。

 でもそれじゃあ駄目だ。ガンプラマフィアが雇ってくるのは手練れのファイター……今の自分じゃ手も足も出ないだろう。

 

「次、お願いしますっ」

 

「……分かった、でも焦らず少しずつこなしていくことも大事だぞ」

 

 分かっているけど、どうしてもはやる気持ちを抑えられない。

 早く強くなりたい、コンサートを成功させたい―――そんな思いがぐるぐると私の中に渦巻いているのだ。

 

「さっきは遠距離での武装を主に使っていたから次はサーベルとビームラムを使ってバトルしてくれ。数は……さっきと同じ10体だ」

 

「はいッ!」

 

 一旦、ガンプラの操縦を止め、手元にあるパネルを操作しモックを出そうとするアンドウ君。十数秒ほどして、フィールドの地面に練習用のガンプラが出てくる穴が出現する。

 しかし……何か様子が違った。

 

「……あれ?」

 

 出てきたのは簡素な装備を持った練習用のモックではなく、黒いガンプラ。

 

「何で、アストレイのゴールドフレームがここに……?」

 

 『ガンダムSEED』の外伝作品に登場する金と黒のガンプラ、『ガンダムアストレイゴールドフレーム天』。その漆黒の様相は何処か刺々しい外見をしており、加えてその右腕にある『天』の主武装である複合兵装トリケロスも攻撃的にさせたようなものに変わっている。

 

「……あ、アンドウ君……」

 

 まさかアンドウ君の差し金だろうか……?

 私的にはどうみてもやばそうなガンプラにしか見えないのだけど。

 

「……あれは俺が出したんじゃない……もしかしたら、このバトルシステムの不具合……かもしれない」

 

「そうなの?」

 

 アンドウ君じゃない……?

 じゃあ、あれは勝手に出て来たという事になる。あの禍々しい外見と、その場から微塵も動かない様相からしてただのガンプラじゃないことは分かるけど……もしかして……幽、霊?

 そう考えると、途端に怖くなった。

 幽霊だけは本当に駄目なのだ、目の前にいるゴールドフレームがただの事故で出てきたガンプラだとしても、もしあれが忘れ去られたガンプラに乗り移った怨霊だったらとか、それだけで色々な想像をしてしまう程に苦手なのだ。

 

「でも、練習用のガンプラを出すのに、こんなカスタム機を出すのか?……嫌な予感がする……マゴコロ、とりあえずバトルシステムを終了させるぞ」

 

「あ、あわわ……」

 

 アンドウ君の言う通り、一旦バトルシステムを止めよう。

 そして店長さんにおはらいをお願いしておこう。ゴールドフレームに背を見せたくないので、アンドウ君がバトルシステムを停止させるまで、ずっとそちらの方を見続けていると―――

 

 ――――――。

 

「は……?」

 

 微かにゴールドフレームの目が赤く輝いた気がした。

 きっと幻覚に違いない、ストレスで疲れているんだ―――そう思った私のモニターに映るゴールドフレームの横に短く機体名が表示されていることに気が付く。

 

「マガツ……アストレイ……?」

 

 この時、私は油断していたのだろう。

 自分の作った最高傑作のガンプラでバトルで来た喜びと。

 バトルで確かな手ごたえを感じていた事。

 アンドウ君という凄いファイターが一緒に居た事。

 それと、ガンプラマフィアの襲撃はコンサートのみだと決めつけていた事。

 

 その名を呼んだその瞬間、眼前の金色のフレームに覆われた漆黒のガンプラは突如動き出し、無防備な私のガンプラへ、その右腕に装備されたトリケロスをこちらへ向けてきたのを―――。

 

『―――』

 

「マゴコロ!!」

 

「え……?」

 

 一瞬何が起こったのか分からなかった。

 いきなり目の前のガンプラが動き出したら、次の瞬間には目の前にG-セルフ・プラスの背中があった。G-セルフの足元には一本の白い槍のような物体が真っ二つになって落ちていた。

 ―――いや、これはあの……マガツアストレイから射出されたランサーダートの一本だ……私に当たる寸前にアンドウ君が飛び出して切り落としてくれたんだ……。

 

「駆動系を正確に狙ってきた……練習用のガンプラじゃないな……ッ!!」

 

『―――アンドウ・レイ……』

 

「喋った……!?」

 

「何者だ!!」

 

 ボイスチェンジャーから通したような甲高い声がマガツアストレイから聞こえた。しかもアンドウ君の名前まで呼んだ……。

 G-セルフがその手に持ったライフルをマガツアストレイに向け、叫ぶも相手は無反応。

 それどころか、再び武器を構え私達の方へ接近してきた!

 

「マゴコロ、退がっていろ!!」

 

『―――計ラセテモラウ』

 

 私に叫んだ彼は、ライフルを放ちながら空高く上昇した。ライフルを苦も無く避けたマガツアストレイは私などに目もくれず、レイ君を追って空へ昇って行った。

 何が起こってるの……狙いは私じゃないの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が目的だ……ッ!!」

 

 ライフルを腰にマウントし、サーベルで正体不明のガンプラ『マガツアストレイ』が振るう右腕のトリケロスの実体剣を防ぐ。

 こちらの言葉には無反応だが……確かにこいつは喋った。つまり誰かしらが操作し、どこからか乱入してきたと考えるのが自然だろう。

 

「言葉を返す気がないなら、こちらも落とす!!」

 

 サーベルを仕舞うと同時にバックパックのジャベリンを手に取り、連結させ手首を回転させながら相手へ叩き付ける。流石の相手もジャベリンは予想外だったのか僅かな後退を見せるがすぐに立て直し、トリケロスにより攻撃を仕掛けてきた。

 

『―――中々ドウシテ……』

 

「こいつ……っ」

 

 並の相手じゃないぞ……。

 ジャベリンの軌道を読み、回避しトリケロスによる射撃を撃ってきた。

 

 それにこのマガツアストレイ……。

 ゴールドフレーム天……の改修型のガンプラだが、訓練用にしては出来が良すぎる。誰が作ったのかは分からないが、かなりの腕のビルダーが作ったものだぞこいつは……。

 まだバトルが始まって3分も経っていないが、G-セルフ・プラスでは長時間のバトルは危険かもしれない。

 

『ソレハ、邪魔ダナァ』

 

 マガツアストレイが左手を大きく広げ、振りあげる。武装の持っていない腕で何を―――と思った次の瞬間、左手の指の第二関節付近から細長いサーベルが指の一本一本から出現し、一纏めにされ手刀の如く振り下ろされた。

 

「なッ……くっ……」

 

 虚を突かれつつも咄嗟に後方へ下がり回避したものの、握っていたジャベリンは刀身からバラバラにされてしまった。

 天の弱点を巧くカバーし、尚且つ相手の虚を突く武装―――いつもなら関心するところだが、これだけのガンプラを作り、操作する相手の不可解さがより増しただけだった。

 

『―――本気ノガンプラジャナイワリニハ、ヤル。流石ハイレギュラーダ』

 

「何?」

 

『ココロネ・ヒツキノ助ッ人ナンダロウ?』

 

 ―――こいつ、ガンプラマフィアが雇ったファイターか。俺の事をイレギュラーなんて呼ぶ奴らなんてそいつら位しか思い浮かばない。

 

「どうしてコンサートの邪魔をする!」

 

『依頼デネ、ココロネ・ヒツキガ失脚シテクレルト助カル奴ラガイルカラ……ト、ダケイッテオク、勿論他ニモ目的ガアルガナ』

 

「……は?」

 

 たったそれだけの理由で、マゴコロも、コンサートを楽しみにしていたサカイ君のようなファンの楽しみを邪魔したのか。

 ―――マゴコロが頑張っている姿は、俺の大切な後輩たちの姿が大会で力の限り奮闘する姿と重なった。……だから、俺もできる限り助けようと思った。

 だが、このガンプラを操っている何者かは、そんなくだらないことで……そんな、彼女には全く関係の無い馬鹿げた理由だけで踏みにじられていいのか?

 

「システム発動!フォトンフィールド!!」

 

 G-セルフのシステムを発動し、クリアパーツから放出されたフォトンエネルギーを手に機体に纏わせる。いわばこれはGーセルフ版のオリジンシステム、灰色のG-セルフの装甲に浮き上がる様に青色のフォトンエネルギーが纏う。

 

「ここで片づける……ッ」

 

『……ホウ……』

 

 両の手にサーベルを装備し、マガツアストレイへの接近戦を仕掛ける。G-セルフ・プラスのシステムの長所は粒子の操作にある。例え、どんなに高密度のサーベルを束ねようが関係ない。それ以上のエネルギー量でぶつければ負ける道理はない!

 両手に持ったサーベルを接敵するその瞬間に、両手で握りしめ粒子量を高める。

 

「ジンクスじゃなくても……ッ!」

 

『ッ』

 

 五指から延びるサーベルと、二本の持ち手で生成されたビームサーベルが激突し、赤い火花を散らせる。

 そのサーベルはジャベリンを刻む程に切れ味に特化しているタイプのもの、束ねればより固く、より強くなるだろう……だがシステム発動中のG-セルフ・プラスが籠める二つのサーベルの粒子は―――イデオンソードと同じ原理で相乗化するッ。

 

「ハァッ!!」

 

『……押シ負ケルカ!』

 

 赤白い輝きを灯したサーベルが5つのサーベルの光を熱し切り、マガツアストレイの左腕を切り飛ばす。

 

「隙を与えずに倒す!」

 

 負荷で壊れてしまったサーベルを後方に投げ捨て、拳を引き絞る。

 フォトンエネルギーに包まれた腕が一瞬のうちに灰色から青色に変わると同時に、腕を切り落とされ体勢を崩したマガツアストレイの頭部を殴打する。

 

『―――……ッ』

 

 側面を抉る様に削りとられたマガツアストレイはこちらの攻撃に怯まずトリケロスを向けようとするが、腕と同じく青色に染まった左足で掲げられたトリケロスごと右腕を蹴り砕く。

 

「トドメだ……ッガンプラマフィア!!」

 

 最後に上方へ掲げた右手を手刀の如くマガツアストレイの首元に振り下ろした。隙も与えぬ連続攻撃に、成す術無くマガツアストレイは地面へ叩き付けられる。

 

「……システム解除……」

 

 頭部は半壊、両腕損失、首元から胸部への深い損傷、最早バトルする事すら困難な状態へ追い込んで俺はようやく落ち着きを取り戻した。

 やや乱れた呼吸を整えながら、マガツアストレイが倒れ伏している場所へ降り立つ。

 

『―――ヤルナァ……流石ハ『荒熊』ガ任セルダケアル、ソコラヘンノ奴トハ違ウ』

 

「……」

 

 まだ辛うじて動けるのか、損傷の負った首を歪めるこちらへ向けてくるマガツアストレイ。

 

『ココロネ・ヒツキハ未熟ナファイターダガ、オマエハ違ウ。ヤリガイガアルヨ、ホント二』

 

「……マゴコロ……いや、ココロネ・ヒツキのコンサートは絶対に成功させる。どんな邪魔をしようともな」

 

『出来ルカナ?』

 

「お前が本気のガンプラで来ていない事なんて知っている!でもそれでも負けない……断言する、ガンプラを悪用する奴には絶対に負けないぞ……!」

 

 ガンプラは楽しみ、遊ぶものだ……悪い事に使うなんて間違っている。それは遊ぶではなく冒涜していると言っても良い。そしてなにより、遊び半分で大勢の人達に迷惑を掛けようとしている事が許せない。

 モニター越しだが、一身にマガツアストレイを睨み付ける。すると奴は不快な笑い声を上げた。

 

『フ、フフフ……楽シミガ出……来……タ―――』

 

「……!」

 

 マガツアストレイのツインアイの光がゆっくりと消え失せたその瞬間、目の前のガンプラが自爆したのだ。爆風自体は大したことはなかったが強烈な光に目がくらみ、視界が真っ白になってしまった。

 光が明けた頃には既に目の前には爆破されたマガツアストレイの破片しか残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、マガツアストレイを操作していたファイターは見つからなかった。

 あの後、警察の人達が調べたんだけど、別室にあるバトルシステムの接続機器に私達のバトルシステムへの介入した形跡は見つかったらしい。多分、そこからガンプラの操作を行っていたということが分かったけど、それ以外は全くこれといってガンプラマフィアに繋がるものは無かった。

 何時の間に逃げたのか、どうやって私とアンドウ君の訓練の事を知って襲撃した事すら分からない。

 

 現在は事務所の一室に居るけど、安全が確認できたらとりあえずは出る事が出来るらしい。でも今は外に出るとかそんな気分じゃない。

 

 自覚させられた。

 私が戦おうとしていた相手がどれだけ強く、狡猾なのかを。

 アンドウ君に教えて貰ったら、手傷位は負わせるくらいには……と思っていた自分が馬鹿みたいに思う。

 

 私は相手になるとさえ思われていなかったのだ。

 攻撃も仕掛けようともされないし、敵意さえ向けられない。

 しかもアンドウ君が言うには、あのマガツアストレイは本気のガンプラではなかったとのことだ。それはアンドウ君も同じだが、言い換えれば壮絶と思えた先程のバトルは、彼らにとっては何の事も無い普通のバトルだったという事になる。

 まだ私は弱い……戦えない……。覆せない壁が立ちはだかっているような気分だ。

 

「マゴコロ」

 

「……アンドウ君……」

 

 部屋の外で誰かに電話をしていたアンドウ君が、椅子に座り俯いている私に声を掛ける。

 一体どんな言葉が飛んでくるのだろうか、戦うべき相手の実力が分かって……足手纏いと言われてしまうのか……はたまた、自分に任せてコンサートに集中していろとかかな?

 どちらにしろ戦力外通告は免れないだろう。

 それほどまでに相手が悪すぎた。

 

「君のガンプラを正真正銘の君専用のガンプラにする」

 

「……え」

 

「今から慣れないレンジでのバトルを練習しても意味はない。だから君のガンプラを改修し、コンサートに備える」

 

「……へ……ま、待って!コンサートまであと三日だよ!?そんな時間で出来る筈がない!」

 

 仮にできたとしてもアンドウ君に多大な負担をかけてしまう。

 でもそんな私の懸念を吹き飛ばすように、彼は得意げな表情を浮かべ腕を組む。

 

「安心しろ、俺以外にもう一人のガンプラのエキスパートを呼んだ……俺が信頼する人物だし、何より君のファンだ。喜んで……というより泣いて協力してくれるだろう」

 

「ガンプラのエキスパート……?しかも泣いてって……」

 

 アンドウ君、その言い方は少し不安になるのですが……。

 

「悪い子じゃない。むしろ良い子だ……多分、君も知っている子だ」

 

「………でも、私力不足だし……」

 

「力不足も何も、まだファイターとして始まったばかりの君が力不足なのは当然だ。俺は父さんに任されたんだ、だから喜んで力を貸す……それでもってガンプラを悪用する奴を撃退する」

 

 彼の言葉を訊いて、自分がどれだけ後ろ向きだったのかが分かった。

 実力云々じゃなかった。彼にはそんなこと関係なかったのだ。だからこんな情けない自分に力を貸してくれる。

 

「私も、改修……手伝う……。ガンプラマフィアなんかに、負けたくない……」

 

 私も本当の覚悟を決めよう。

 どんな方法で邪魔しに来ても絶対に負けない心を持って、戦う覚悟を―――。

 

「そうか、なら俺は外で待ち合わせている頼もしい助っ人を連れて来る」

 

 私の言葉に少しばかりの笑みを零した後に部屋の外へ出て行った。

 

「……ん?」

 

 あれ、よく考えれば頼もしい助っ人って誰なんだろう?

 私の知っている人って言っていたけど……。

 

 




 夏休みは色々衝撃的な事とかあってあまり更新できませんでした……。

 今話で出たマガツアストレイがコンサート編のボスのようなものです。
 そして、ココロネのガンプラが(ある意味でやばい)二人によって魔改ぞ……改修されてしまいますね(白目)


 GN-XⅣ type”G”を見た時、サカイ君が口走った『グレ』がレイの無意識スパロボガンプラのヒントです。
 結構、分かりにくいので……これで分かった人は凄いです。



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