とりあえず一言……正直、勝敗に関しては物凄く悩みました。
ガンバスターとGポータントの撃墜、その知らせは二人のチームメイト両名に伝えられる。
赤く輝くイデオンのファイター、ユズキ・コスモは驚愕の表情を浮かべ、青い翼を広げたトランジェントのファイター、キジマ・ウィルフリッドは動揺しながらも機体を前に進める。
「はああああああああああああ!」
刺し貫く様に突き出されるGNパルチザンを腕で弾きイデオンソードを振るう。
「その長さが命取りだぞ!ユズキ・コスモッ」
長大が故のイデオンソードだが、小回りの利き、加えてトランジェントバーストにより爆発的に出力が増しているトランジェントガンダム相手には些か分が悪い。
大振りに振るわれたエネルギーの剣は容易く躱され、距離を取られる。
イデオンが現在伸ばしているソードの長さは精々浮島を両断できる程度の長さ、本来のイデオンソードの長さどころか00ガンダムのライザーソードにも及ばない。
絶対的な威力を誇り何者も切り裂く超高密度のエネルギー刃が特徴のイデオンソードだがその弱点は多い。まずは消費する粒子の量が凄まじい事。そして大きすぎるが故に小回りが利かない事。
そして―――仲間に攻撃が当たる可能性があること。
イデオンガンという味方諸共破壊しかねない超広範囲攻撃を行う武装もある点を加えて、イデオンはチームで戦う為のガンプラではない事は一目瞭然だろう。
だが
「本気でやっていいんだな……ッ」
ユズキ・コスモはそれを欠点とは欠片も思わなかった。信頼する仲間に攻撃を当てる等とも絶対に思わなかったし、これまで幾度も苦難を乗り越え、最強の剣と信じて疑わないイデオンソードが負けないと信じているからだ。
長さが命取り?
仲間に危険が及ぶ?
粒子消費量が多い?
何も心配はない。
長さがどうした?長すぎるが故の隙?そんなの最初から理解していたし今更そんなことを後悔しない。
「本当のイデオンソードを見せて良いんだな?」
「!」
「なら、俺はもう躊躇しない―――ここにある全てのモノを粉々にし尽すつもりで使う」
空中で停止したイデオンのメインカメラから点々と光が溢れる。信号のように点滅し、怪しげな光を放つジムを見据えたキジマは笑みを引き攣らせる。
知っているからだ、イデオンの本気を、星すらも両断した最強のロボットを―――。
「イデォ―――――ンソォォ―――――――ド!!」
力強く、鼓舞するかのようにコスモは叫ぶ。
光が一筋の閃光となってフィールドに広がる。
サイコフレームの赤い光とは違う神々しく真っ白な光の剣はイデオンを中心に伸ばされ、浮島を物ともせずに貫きフィールドの端に突き刺さる。
「これが……イデオンか……これが本当のイデオンソードか!!ユズキ・コスモ!!」
語る事はないとばかりに、常軌を逸した長さと化したエネルギーの塊をこれ見よがしにトランジェントへと振るう。
振るうだけで範囲内にある浮島が両断されてゆくその現実離れしたその光景に嫌な汗を感じとったキジマ。だが悪寒と共に充実感を感じていた。
「は、ははは!!」
今のイデオンには射程なんて存在しない。後方に下がろうとも前方に進もうとも逃げ場がなくなってしまった。それほどの威力、粒子消費量度外視の正真正銘の必殺技。
このまま逃げに徹していれば高確率で勝てるだろう。
だがキジマ・ウィルフリッドはそのような手段は用いようとは思わない。粒子切れを狙う?冗談じゃない、キジマ・ウィルフリッドの目的はガンプラバトルをする事だ。必ず勝てる勝負をして、虚しい勝利を得ることじゃない。
「私はどうやら君と同じ大馬鹿野郎のようだ……!」
迫り来る二つのイデオンソードを回避し翼をはためかせる。小さな動きでは捕捉され両断される、ならば大きく動きを取り―――。
「一撃で決める!」
イデオンの周囲の浮島を盾にし大きく飛び回りながら、必殺の一撃を見舞うべくGNパルチザンを構える。浮島が障害物となりイデオンソードの狙いを付けられないと見てからの行動だが、イデオンはそれをあざ笑うかのように、がむしゃらに双方の腕を振るい始めた。
大きいが故の障害物の影響を受ける。だが最大出力のイデオンソードはその常識すらも打ち破る。
障害物と成り得る浮島すら物ともせずに切り裂き、砕き、粉砕し、瓦礫へと変え、フィールドを蹂躙する。
「―――幾度となく私の予想の上を行く!!」
後方から浮島を切り裂きながら迫るイデオンソードから逃げながら、そう叫ぶキジマ。大きさも長さも……全てがデメリットになり得る全ての要素をひっくるめた上でそのまま愚直に突き進み、それを必殺とする。その粒子の消費量は尋常ではないだろう。恐らく残り時間のことなど考えていない、絶対にトランジェントガンダムを倒すという覇気が伝わって来る。
「ッ」
イデオンソードに追いつかれるその瞬間、キジマはトランジェントを急停止させると同時に宙返りし、回避と同時にイデオンソードの根元へと加速する。
ただただ真っ直ぐ進むようではイデオンソードの恰好の餌食だ。あれはビームライフルのような点ではなく、面で圧倒する広範囲殲滅兵器。しかしトランジェントバーストは、並大抵の力ではない。
「こちらもォ!!」
最早、時間制限など、この後のアドウと共にアンドウ・レイを倒すという考えは捨てる。
全粒子を注ぎ込み、空を駆ける。イデオンソードよりも速く、イデオンがその腕を振るうより速く、そしてこれまでの自分よりも速く。
「はあああああああああああああああああああ!!!」
イデオンソードがトランジェントの左腕と左足、そして翼が伸ばされた左の背部ユニットを切り裂く。しかし同時に極大化した青色の翼はイデオンソードに干渉し反発する様に弾く。
だがそれも一瞬、イデオンソードによりトランジェントの翼は掻き消されるが、その一瞬の隙がトランジェントに勝利の兆しを見せる。
「見えたぞ!」
瞬間的な硬直を見せたイデオンへ接近して見せたトランジェントは、逆手に持ったGNパルチザンを力のままに突き出し、イデオンの肩に突き刺す。
「ユズキッコスモォォォ!!」
「ぐっ……まだッ」
GNパルチザンを意に介さず腕を振るい、即座に身を引いたトランジェントの残りの脚を焼き斬る。しかしキジマ・ウィルフリッドはそれを意に介さず、腕部からGNビームサーベルを展開し、それをイデオンの胸部を突き上げる様に繰り出す。
「これで終いだッ!!」
繰り出した一撃は正確にイデオンの胸部を斜めに貫き、背部のランドセルをも貫通する。己が繰り出せる最強の一撃、確かな手応えと共にイデオンを見る。
GNパルチザンとGNサーベルとの両方で胸部を貫いたからか、粒子が溢れだすように噴き出しイデオンソードが消滅していた。
「まだ……俺は……」
「ッ!?」
勝負はついたかに見えていた。だが突き刺さったトランジェントの腕を掴んだイデオンのその手により、キジマは我に返る。
「何もしていないッ」
掴まれた腕は動かない。
胸部を貫かれ、粒子も底をついたとは思えない程の執念、勝利への飽くなき渇望、挑戦者の意地―――がたつく様に動かされたイデオンのメインカメラが怪しく輝く。
「ノリコが頑張ったのに……ッ先輩が戦っているのに……俺が負けていられるか!!!」
「まだ動くかぁ!!」
イデオンがその腕を引き絞ると同時に、キジマは抑えられた右腕をさらに捻じり込む。
腕の半ばまで突き出した分だけ距離が狭まり、イデオンとトランジェントの頭部がガチンと激突し、双方のモニターにお互いのガンプラの姿が映り込む。
キジマは間近からイデオンを見て、息を漏らした後に微かな笑みを浮かべた。その表情には先程の覇気も闘争心も消え失せ、ただ満ち足りたような表情を浮かべた。
「食らッえぇぇぇぇ!!」
引き絞られた拳がトランジェントの胸部へと突き刺さる。
イデオンソードも何もない只の拳、だがそれはイデオンが繰り出した最後の一撃。
片や胸部をサーベルと槍により貫かれ―――
もう片方は胸部を拳によって撃ち貫かれた―――
辛うじて浮き上がっていた双方のガンプラは力を失ったように落下。そのまま浮島へ落ち、支え合う様に倒れる。機能停止に陥った操縦席の中、辛うじて映るモニターを見てキジマ・ウィルフリッドは悔しそうに笑っていた。
「久しぶりだ、な。悔しさを感じるのは……」
結果を見れば引き分けだが、キジマからすればそうとは思えない。彼はユズキ・コスモの執念で負けてしまった。それがたまらなく悔しく、嬉しくもある。
『次、戦う時は絶対に勝ちたい』
そう悔しく思える自分も居たことに若干の驚きすらもある。
「だが……まだ私達が負けたとは限らないぞ」
微かに映るモニターの端で一つのバトルが繰り広げられている。イデオンの攻撃の余波を物ともせずに激闘を繰り広げていた二機のガンプラ。
「アドウ……任せたぞ」
「後は俺達だけだな……」
「どうやら、その様だ……二人とも、よくやってくれたな……」
イデオンが放ったイデオンソードが消え、破壊された島々が崩壊し地上へ消えていく中、ジンクスⅣオリジンとガンダムジエンド、両チームの最後の一機が相対していた。
「大した奴だぜ、お前等は」
「中々やるだろう?自慢の仲間だ」
「ああ、正直お前だけが残ると思っていたよ。くくく、それがまあこんな様だ。天下のガンプラ学園様がなぁ」
まさかキジマが相討ちとはいえ、戦闘継続不能にまで追いつめられるとは思わなかった。何せ彼はアドウと同等以上の力を持っているファイターだ。力押しといえども勝つのは困難な相手だ。
だが結果を見れば両チームで戦えるのは己とレイのみ。どんでん返しとはまさにこういうことを言うのだろう。
「さあ、続きをやろうぜ」
「そうだな……時間も残り少ない」
戦闘開始から丁度12分、バトル終了まで3分。
それまでに決着がつかない場合、本来は残機の数により勝敗が決まるルールだが、双方に残機が一機ずつの場合、残った代表での一体一の延長戦が行われる。
延長戦は避けたい、とレイは考える。
ルールにより定められたインターバルの間にファングが補充されるのは厄介。こちらも装備を整えられるが、初見と既視ではアームビットの効果はまるで違う。アドウなら確実にアームビットを真っ先に封じようとするだろう。
ならファングが尽き、五分五分の状態に持ち込んだ今が好機。
右腕部の指が破損、ブースターに僅かな傷、GNクナイ紛失―――それ以外は大丈夫。
「―――行くぞ」
威圧するかのように腕とクローを広げ、受けの体勢で構えるジエンドに対してロングビームライフルを装備し放つ。
「甘ぇなぁ!!」
ビームを薙ぎ払うようにクローで防いだジエンドは、左手に持たれたリボルバー型のビームガンを連射しジンクスを牽制するが、ジンクスはこれを読んでいたのか、急停止とともにビームを避け、破損している右腕のアームビットにGNガンランスを接続しジエンド目掛けてソレを飛ばした。
「生半可な事ではこいつは防げないぞ……ッ」
「俺を嘗めるんじゃねぇぞ……ッ!!デッドエンド!!」
肩のクローの掌のガンダムヘッドの顔を展開させ、回転しながら突き進むアームビットを受け止める。だがGNガンランスの回転はGポータントの粒子変容フィールドすらも突き破った規格外の貫通攻撃―――受け止めるだけでは止めることは叶わない。
「ッフィンガァァァァ!!」
しかし、アドウ・サガは違った。
彼は受け止めずにそのままクローからの粒子ビームを放ったのだ。いくら強靭なクローといえどもただでは済まない、案の定アームビットと自らが放った粒子ビームにより、クローは自爆してしまった。
だが、超至近距離からの粒子ビームの直撃を食らったアームビットはGNガンランスとともに消滅。
「腕はこっちのほうが多いからなぁ!!」
「そうきたか……っ」
腕部喪失というデメリットを防ぐためのGNガンランスとの合体ではあったが、力づくで壊されたら補助も何もない。レイは歯噛みしながらも、放たれるビームガンを回避しながらロングビームライフルを放つ。
「足元がお留守だぜぇ!!」
ビームガンに気を取られているジンクスⅣの下方から突き出されるクロー。抉り取らんばかりに凄まじい速さで迫るそれを後方に退がることで直撃を免れるが、代わりにロングビームライフルがクローにより半ば程まで削り取られ使い物にならなくなる。
「チィッ!」
思わず舌打ちしてしまうレイだがすぐさまクリアランスを腰から抜き放ち、追撃のクローを弾く。アームビットの一つが破壊されてしまい中距離戦はあちらの方が有利になってしまった。
このままでは削られる―――そう判断したレイは弓を引くようにクリアランスを引き絞らせるように構え、ブースターの加速とともにジエンド目掛け突き出す。
「ッやる!」
僅かに肩の装甲を削り取るもクローによっていなされてしまう。一瞬の接近と共にジンクスⅣの腹部にジエンドの蹴りが撃ち込まれ再び距離を離されてしまうが、それでもレイは前に突き進むべくジンクスを前へ進ませる。
「引いていられるか!!」
クリアランスがジエンドの脇腹に当たる部分を削る形で突きこまれたその瞬間、レイはさらに加速をかけ、下方―――地上へジエンドを押し出す。イデオンソードにより、フィールドの形を成していない天空から、島々だった瓦礫が積み重なり燦燦とした有様となってしまった地上へと―――。
「ハッ、ゴリ押しで俺のジエンドをやれると思ってんのかよぉ!!」
「力押しじゃなければお前に傷一つ付けられないだろうが!!」
「ハハハッ!言うじゃねえかよ!」
地上が鮮明に見える場所にまで押し出されたときを見計らい、アドウが右手のビームガンをジンクスの頭部に押し当て引き金を引く。
「あぶっ……な」
頭部を破壊せんとするビームを慌てて身を起こすことにより回避したジンクスはクリアランスを振るい、ジエンドを投げ飛ばす形で距離を取る。
その間、一旦大きく息を吸ったその後に、クリアランスからの粒子ビームと共に再び突撃を仕掛ける。
楽しい、そう思いながらレイはバトルしていた。
いや、これまでのバトルでもそう思っていた。ガンプラバトルは楽しい、作るのも好きだが一番好きなのはジンクスで、自分の作った好きなガンプラで武器を振るわせ、放ち、縦横無尽に動かすのがこれ以上なく大好きなのだ。
「はッははッ!!」
大会で優勝することは大事だ。
だが、今この時待ち望んだガンプラ学園とのバトル、そしてアドウ・サガという対決を約束した最上のガンプラファイターとのバトルが楽しい。
ぶつかり合うクローとランス。
弾け飛ぶ装甲、破片。
「デッドエンドッフィンガァァァ!!」
「オリジンシステム!!」
黒色の粒子ビームが赤い帯に阻まれ流されるようにジンクスⅣの後方へ拡散しフィールドを彩る。
機体もボロボロだ。加えて両ファイターは機体面だけではなく、身体的な問題もある。
レイはアシムレイトによるフィードバックによりダメージを受け―――
アドウは無理が祟った右手の痛みに苛まれて―――
普通ならば止めなくてはいけないほどの死闘。
それでも二人はバトルを止める事は無い。
優勝の為ではなく。
相手を破壊する為ではなく。
勝利する為でもなく。
ただ楽しむため。
それだけしか考えていなかった。
それだけしか考えていなかったからこそ、最高のパフォーマンスでガンプラを動かせる。
「そいつッ貰ったァ!!」
「っ」
制限時間残り1分半を切ったその時、何度目か分からないランスとクローの打ち合いの最中にとうとうクリアランスがクローに掴まれ、掌のガンダムヘッドにより握りつぶされる。
クリアランスを破壊されると即座に判断したレイはこちらを狙い撃とうとするビームガンをGNバルカンで撃ち落としながらも、クリアランスを手放し後方へ下がる。
ジンクスⅣはボロボロだった。
ブースターの武装も残っているのはサーベルとガンランスしかなく、機体も全身に罅が入り、残っている武装も数えるほどしかない。
「まだ終わりじゃねぇだろ!!」
「……当たり前だろッ、俺の……俺達のジンクスⅣの真価はこんなものじゃない!!」
ジンクスⅣはレイがこれまで戦ってきたファイターの全てを詰め込んだ集大成。それが片腕がないくらいで、武装が足りないくらいで手詰まりなんていう事はあり得ない。
彼はサーベルも引き抜かないまま、左腕部を腰溜めに抱える様に深く引き絞る。
一瞬の黙祷と共に、彼は思い出す。茨城県大会決勝のバトルを―――
あの時もヤバかった。
残っていたのは片腕だけだったし、メインカメラも半分やられていた。
勝てたのは奇跡、いや……ノリコとコスモが居たおかげだった。
二人が居たから大会に出れた。
二人が居たからミサキに勝てた。
これから何年、何十年経っても断言できる。
俺達は最高のチームだ、と。
「俺の今は俺だけが積み重ねた物じゃない―――行くぞジンクスⅣ」
機体が半壊しようが構わない。
次がジンクスⅣの最後のアタックだ。
「トランザム!」
ジンクスの全身が赤く輝きを放つ。アシムレイトとの同時発動により赤い帯がブースター、腕部から流れる様に伸ばされ、ジンクスⅣを覆う衣のように展開する。
しかし、トランザムだけではジエンドを倒す決定打になり得ない事はレイとて理解している。だからこその左腕、否、彼が保険に残しておいた武装。
「切り裂くぞ……ッ」
肘に取り付けられたサーベルが伸ばされ、アシムレイトの影響で普通のサーベルよりも鋭く、赤い輝きを放つ必殺の刃が展開される。アシムレイト、トランザム、サーベルの展開の工程を経たジンクスはジエンドへと迫る。
「面白ェ!!」
振るわれる赤刃に対し、アドウは回避の挙動を見せずに粒子を纏わせたクローを突き出す。デッドエンドフィンガー、どんなものでも砕き、噛み千切る強力無比な武装。
「だがそれでもッ……!」
帯を纏わせた拳と共にクローに渾身の拳を突き出す。
赤と黒、禍々しい色の粒子が激突し、ジンクスⅣのモニターを震わせる。
「これでッ極めて見せる!!」
「まだ終わらせるかよぉ!!」
互角の力を見せたのはほんの一瞬、どちらもガタがきていた拳とクローは砕け散る形で瓦解する。
「なっ!?」
腕部の半ばごろから砕かれた腕に目もくれずジンクスは一気にジエンドへと肉薄し、腕部を力の限り振り上げジエンドの体へとサーベルを叩きつけた。
「はあァッ!!」
赤刃がジエンドの防御した両腕を切り裂き、胸部に一筋の斬撃を刻み付ける。まさしく必殺の一撃と言っても差し支えの無い攻撃。
だが―――
「カハハッ起きろ!イッカク!!」
「なっ!?」
止めを刺したと思ったのその瞬間、切り裂かれたジエンドの腹部から白い何かが飛び出し、ジンクスⅣの胴体を貫き、そのまま両断したのだ。それと同時にレイの体にこれまでのバトルで最も強烈な衝撃が走った。
それはガンダムジエンドの奥の手だった。
それはあまりにも異端的であまりにも美しい兵器、ガンダムの中に住むガンダム『イッカク』。普段はジエンドの胴体に内蔵されているソレは、余程のことが無い限り出すことはない。その真の性能も、出させるに至る者がいなかったからだ。
それが表に出ればこれ以上なく、相手の意表をつける。
実際、アンドウ・レイはサーベルをジエンドに喰らわせた時点で勝利を確信していた。
その結果、油断という隙を突かれ胴体を貫かれ真っ二つにされた。
会場に居る大多数の観客はこの時点で終わりと思っただろう。当然だ、真っ二つにされて生き残れるガンプラなんて最初から分離機能を持っているガンプラ位しかいない。
しかし、一部の者―――アンドウ・レイというファイターを理解している者達は違った。彼等には見えていた……。会場から見えるレイの目が―――アシムレイトを発動しているにも関わらず、未だに目が死んでいないことに……。
「これで……終わったの?」
会場の一角でレディ・カワグチはそう呆然と呟いた。
その傍らでバトルを静観していたメイジンはその言を訂正するように、力強く、高揚したように会場全てに響き渡るかと錯覚するような気迫で叫ぶ。
メイジンは二人のバトルを見て、思い出したからだ。
手に汗握る最上のバトル、イオリ・セイとレイジとのバトル―――機体が壊れようとも戦い、戦い、戦い抜いた、あの色褪せる事の無い黄金色の思い出ともいえるべきバトルを―――。
「否!!断じて終わりなどではない!彼らのバトルは……ッ本当のバトルは……これからだ!!行けガンプラファイターよ!!その熱い闘志を、今こそ爆発させるのだ!!」
地へ落ちるジンクス。
これで終わりだろう、普通のガンプラならば。普通のガンプラと戦っていたならばアドウとてここまで高揚はしなかっただろう。今、戦っていたのは誰だ?アンドウ・レイだ。
どんな強敵もガンプラと技能で打ち破り、己と対等に戦えるまで実力を高めた男だ。
そんな男が……そんな男が―――。
「………ハハッ」
ここで終わりな訳がない。
アドウをジエンドを上に向かせる。地へ落ちたジンクスではなく上へ、分かっていたからだ。『イッカク』に貫かれるその瞬間、ジンクスのブースターと腰部のパーツが同時にパージされたことを―――。
吐き出された二つの部品は空中でドッキングし、一つの形を成す。
ブースターとコアファイターの合体。それがアンドウ・レイの奥の手、正真正銘の最後の手札。
「まだ……終わってないぞ!!アドウ!!」
「最ッ高だ……本当に、お前って奴はァ!!」
だからこそ、全力で応えよう。
全てを出し尽くし、終わらせる。時間制限一杯まで楽しんでやる。
「トランザム!!」
上昇と共に反転したコアファイターは片方だけのGNガンランスの槍先をイッカクに向け、トランザムの発動と共に一気に降下してくる。全身全霊、全てを賭けた一撃、それを見据え満面の笑みを浮かべたアドウは、手元のコンソールを操作し『ガンダムジエンド』の最後の機能を発動させる。
「割れろ!!ツノワレ!!」
『イッカク』のアンテナが二つに割れ、装甲の隙間から赤い光が漏れ出すと共に展開される。それは縮小化したユニコーンガンダムのように輝き、獰猛な叫び声をあげ突貫を仕掛けるコアファイターを睨み付け、獲物を待ち構える様に構える。
「はあああああああああああああ!!」
「食らえやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
赤き流星と化したコアファイターと禍々しくも美しさを感じさせるガンプラが、全ての力を振り絞ったであろう一撃を同時に繰り出す。
雄叫びを上げた二人のガンプラがフィールドの中心で交わる様に激突する。ツノワレがランスを受け止め、それを貫かんばかりに押し出すコアファイター、一進一退の攻防―――
「お前にあの時会えてよかった!!」
「おいおい、それはこっちの台詞だぜぇ!!」
「だが勝つのは俺だッ!」
「いいやこの俺だぁ!!」
互いを讃えあう様に、勝つのは自分だとでも主張する様に、レイとアドウはほぼ同時に手元の球体を前へ押し出し、機体の出力を限界すらも超えて引き出す。
光り輝くガンプラ。
放出される粒子。
罅割れ、砕けてゆく機体。
「なっ――――」
「うお!?」
互いのガンプラが接触した瞬間、フィールドが凄まじい光に包まれた―――。
プラフスキー粒子の光、誰もを魅了する光に照らされたレイは限界近い意識の中、光の奔流の中で薄らとモニターに映るガンダムジエンドを見据え――――
「……はは」
そう微かに笑みを浮かべ、力尽きる様に気絶した。
彼が気絶すると同時に光は消え、衝撃抜け切らぬ声でバトル終了のアナウンスが発せられるのだった。
「………バトルが終わったのか……」
次にレイが目を覚ましたのは医務室のベッドの上だった。
また倒れてしまった自分に不甲斐なく思いながら起き上がると、レイの声に気付いたであろう医務室内の人がカーテンを開けこちらを覗いて来た……のだが。
「お、目が覚めたのか」
「……は?」
何故か、出てきたのはアドウだった。
右手には包帯のようなものが巻かれているのが気になるが、まず初めにレイは彼に訊きたいことがあった。
「どっちが勝った?」
バトルの勝敗。
最後に気絶してしまったからか、レイはどちらが勝ったのかを知らないのだ。レイの質問を受けたアドウは少し表情を顰めるが、すぐに不遜な表情を浮かべたまま、たった一言だけ簡潔に伝えた。
「俺達の勝ちだ」
チーム『イデガンジン』の敗北。
思いのほか衝撃は少なかったものの、ショックな事には変わりはない。それよりガンプラ学園相手に頑張ってくれたコスモとノリコに申し訳ない気持ちの方が大きかった。
「だが、俺は納得してねぇ」
「は?」
「最後にガンプラが動かせただけで勝利なんて、納得できねぇんだよ」
「子供かよ……お前は……」
「うるせぇ……だが勝ちは勝ち……そこでだ、俺に一本取られてお前、我慢できるのか?」
不敵な笑みでこちらを見るアドウ。
『また戦え!コラァ!』という意思がジワジワと伝わってくる事に苦笑しながらも、彼は真っ直ぐにアドウを見据え言い放つ。
「我慢できる筈がない、首を洗って待っておけ。次は俺達が勝つ」
「俺『達』か……カハハッ、やっぱ最高だぜお前」
そう一声笑ってからゆっくりと立ち上がったアドウは、そのまま医務室の扉へと歩いていく。
「決勝、頑張れよ」
「おうよ」
ひらひらと左手を振った彼はそのまま扉を開き、外へ出て行ってしまった。
右手の包帯の事は敢えて訊かなかった。アドウも聞いてほしくなさそうだし、何より訊く必要はないと思ったからだ。
一人になった医務室の中で、レイはベッドに寝転び天井を見る。
「負け、か……」
悔しい。
形容できない程に悔しい、だけど後悔はない。
できることは全てやって、それで負けた。それが判定だろうが、なんだろうがどうでもいい。
でも、自分の願いに報いようとしてくれた後輩達になんて言ったら良い?
「バカか俺は……そんなこと決まってるじゃないか」
「「先輩!!」」
「っと、丁度来たか……」
扉が勢いよく開かれノリコとコスモが飛び込んで来る。
二人ともこちらを見ると息を吞み無言になった後に、こちらへ歩み寄って来る。ベッドから起き上がったレイは若干痛む体を叱咤しながらもゆっくりと床に脚を付け、無言で俯いていた二人の肩に手を置く。
「楽しかったか?」
「……はい」
「……っ、は……い」
沈んだ声……大方、責任感の強い二人の事だから、自分が不甲斐ないばかりに負けてしまったとばかりに思っているのだろう。
はっきり言おう。
そんなことがあってたまるか。
中高校生最強のキジマ兄妹と引き分けた二人が不甲斐無い?そんなことがあって良い筈がない。
「十分だ」
「でも……ッ俺のイデオンが動かせたなら、勝てたかもっ」
「それなら私も!」
「全く……お前らは本当に可愛い後輩だよ」
全国最強のチーム二人を抑えてくれただけでも十分だっていうのに、なんて後輩だ。目頭が熱くなりながらもレイは嬉しそうに口を噤む。
「確かに優勝は大事だ。でも、俺はお前達とチームを組めて良かったと思っている。一年前なんて大会にすら出れなかったんだ、それが今年は何だ?こんなにも素晴らしい後輩二人が俺をこんな所にまで連れて来てくれた……こんなに嬉しい事は無い―――だから」
ここまでに至る様々な事を思い出し、感極まった彼はそのまま二人を抱き寄せこれまで頑張ってくれた二人に最大限の感謝の言葉を述べた。
「よくやった……ッ!ありがとうッ!」
たったそれだけの短い言葉だが、その言葉を受けた二人も彼を抱き返しながら嗚咽を漏らし始めた。そして彼も静かに涙した。
長い長い彼らの夏が今ここで終わりを迎えた。
だが彼らのガンプラファイターとしての物語は終わりを迎えてはいない。
否、今この時、チーム『イデガンジン』の物語はこの敗北を機に始まったのだ。
イデオン、ガンバスターの完成に終わりがない事と同じように―――
ジンクスⅣの進化に際限がない事と同じように―――
彼らの物語は輝かしい程に幾重にも広がっていく。
そして、アンドウ・レイの物語も――――
準決勝第一試合
茨城県代表
暮機坂高校
チーム『イデガンジン』
VS
静岡県代表
ガンプラ学園
チーム『ソレスタルスフィア』
勝者
チーム『ソレスタルスフィア』
最終成績
チーム『イデガンジン』
『ジンクスⅣオリジン』アンドウ・レイ
『ガンバスター』タカマ・ノリコ
『イデオン』ユズキ・コスモ
全国ガンプラ選手権
中高生の部―――ベスト4
決勝戦と準決勝敗退という二つのルートを考えていました。
でも、ガンプラ学園とのバトルを書いている時、このまま勝ち上がって決勝、トライファイターズ戦を書けるのか?という疑問にぶつかってしまいました。
ガンプラ学園戦の文章量とか諸々で書ける気がしない事に加え、ライバルポジのアドウがはまり役過ぎて、アニメの焼き増しみたいな事になりかねないと思ったので、準決勝敗退、というルートにさせて貰いました。
次回はエピローグがてらのメイジン杯の方を予定しています。