全国編~決闘2~を更新致します。
フィールド『天空』―――多くの島々が浮く幻想的なその光景の中で、二つの戦いが繰り広げられていた。
「アドオォォォ!!」
「レイィィィ!!」
正統とはかけ離れた姿をした異形のガンプラ、『ガンダムジエンド』と正統な進化を遂げた様に見える灰色のガンプラ『ジンクスⅣオリジン』。両ガンプラが己が持つ最大限の武装を用い、他の追随を許さない攻防戦を交わす。
「デッドエンドォ……ッフィンガァァッ!!」
ジエンドのクローから高濃度の粒子ビームがジンクスⅣ目掛け撃ち出される。避けようとブースターを操作しようとするジンクスⅣだが、それをさせまいとばかりに粒子砲と並列させて操作されたファングに動きを阻害される。
「―――ッ!オリジンシステム!」
避けられないと判断したジンクスⅣは飛ばした腕を片方のみ戻し、アシムレイトを発動。カーテンのように伸ばした帯で粒子を拡散させ、一瞬だけビームの威力を殺しその間にその場を逃れる。ジンクスがその場を離れた瞬間に粒子ビームが帯を突き破り、宙に浮く島の一角に風穴を開ける。
「止まってられると思うなよぉッ!」
「元から止まるつもりなど毛頭ない!」
ビットとして飛ばしている腕のGNクナイで本体を狙うファングを弾く。その挙動に合わせてもう片方の腕を回収したジンクスⅣは、手に持ったGNクナイを投げファングを撃ち落す。
これで残りのファングは数える程しかない。ある程度自由に動けるようになったジンクスⅣはクリアランスとサーベルを引き抜き、一気にブースターを噴かしてジエンドへの接近を試みる。
接近してくるジンクスⅣ。対してジエンドは両肩部のクローを同時展開させ、かぎ爪の如くそれを突き出す。
直撃すれば抉り取られる、
これまでのバトルからそれを理解していたジンクスⅣはサーベルでクローをいなそうとするが、それを予測していたアドウが僅かにクローの狙いをずらし、サーベルを持つ左手が僅かに抉られ指が破壊される。
「ぐぅ……っまだ拳は握れる……」
火花を散らすサーベルを放り投げ、硬く拳を作り引き絞る。まだ発動しているオリジンシステムの帯を破損した左手から放出し、ジエンドが繰り出したデッドエンドフィンガーと激突させんばかりにその左腕を繰り出した。
「おおお……ッ!」
「はッはァッ!」
クローと拳、黒い粒子と赤い粒子がぶつかり合い、青空を禍々しい色に染め上げる。
一方で、黒と灰色のガンプラが戦うその宙域からそう遠くない場所で、4つのガンプラによるバトルが行われていた。ガンプラ学園のトランジェントガンダム、Gポータントと暮機坂高校、イデオン、ガンバスターのバトル。
「どういう方法で修復したかは知らないけど!」
ガンバスターがGポータント目掛けその手からホーミングレーザーを放つ。
目標へ向かって突き進んでいくレーザーだが、そのレーザーはトランジェントがランスから放った粒子の弾により正確に撃ち落される。
「そう簡単にやらせるわけにはいかないな」
Gポータントとガンバスターの前に割って入るように下降したトランジェントは、ランスの矛先を開き高出力の粒子ビームを放とうとする。
「白いのは落とさせてもらうぞ!」
「イデオンか!……防御が高いだけではなぁ!!」
トランジェントを追って同じく上空から拳を振り上げ落下してきた赤い影、イデオンに放ちかけた粒子砲を閉じたトランジェントは上方へ向かっての切り上げを行った。拳とランスがぶつかり金属音に似た音がフィールドに響く。
その様子を見たGポータントはその手のGNピアスソードの先から粒子の鞭を放出し、トランジェントと鍔迫り合いをしているイデオンにソレを振るう。
「私だってソレスタルスフィアの一員だからっやられっぱなしでいられない!!」
「っ!!」
ビルダーとして高い能力を持つキジマ・シアが繰り出した攻撃は、イデオンの関節部、構造上脆い部分目掛けて正確に放たれる。トランジェントとの鍔迫り合いの最中にいる為か、自由に動けないイデオン。
粒子の鞭がイデオンに当たるその瞬間、二機を飛び越えたガンバスターにより粒子の鞭が掴み取られる。
「討たせない……っ」
「凄い気迫……」
拳から雷を迸らせ接近してくるガンバスター、どんな相手も粉砕できるであろうその拳に並々ならぬ脅威と畏れを抱いた彼女、それと同時に先のバトル、アンドウ・レイとのバトルを経てからどこかあやふやだったその感情を理解することができた。
「……これがガンプラバトルなのね」
”楽しい”、強敵と戦う緊張感、いつやられるか分からない焦燥感。ギリギリのバトルの中で僅かながらに高揚したような笑顔を浮かべながら、シアはGポータントを前に進めた。
「アドウ・サガ……」
チーム『トライファイターズ』のファイター、コウサカ・ユウマは現在行われているバトル、『イデガンジン』VS『ソレスタルスフィア』のバトルに言い様のない気持ちを抱いていた。
アドウ・サガは彼が一時期ガンプラバトルから離れてしまう程のトラウマを作った人物。合宿時では恨んではいたが、あの時のメイジンとのバトルを経てバトルで決着を着けようと思っていた。
『ビックリ箱かお前のガンプラはぁ!!色々出すぎだろ!!』
『お前には言われたくないな……!』
フィールドでは禍々しい粒子を放ったクローと赤い粒子の帯を纏った拳をぶつけあうガンプラ、ガンダム・ジエンドとジンクスⅣオリジン。見た目は対照的な二機だが、これまでの戦闘を見る限り、その本質は同じ。
「何が出てくるか分からない。それが何より厄介だ」
ファングを全て手動で操作するというアドウの技術も並外れているが、腕を飛ばすアームビットでそれを防ぎ、さらに攻撃まで行うレイも中々に化物。正直、このバトルが始まるまで勝つのはガンプラ学園かと思っていたユウマだったが、明らかに常軌を逸した攻防戦を繰り広げる二機に唖然とせずにいられない。
「すげぇ、あの赤いガンプラ……」
「セカイ?」
ユウマとは別の方を見ていたセカイが珍しく慄いたように口を開く。隣に居たフミナもその声を聴いたのか、フィールドを目にやりつつセカイに声を掛ける。
「赤いガンプラ……イデオンの事?」
「はい、キジマ・ウィルフリッドの力は対決した俺が一番良く知ってます。格闘で俺と同じ位だったキジマと渡り合っている……」
「恐らく元々はセカイ君と同じ、格闘主体のファイターということでしょう」
これまでのバトルから彼らは、広範囲殲滅型兼近距離戦闘型のイデオン、中近距離戦闘型のガンバスター、万能型のジンクスⅣというチーム編成となる。パワー一辺倒に見えて、チームワークで相手を撃破するテクニカルなチームだ。
ジンクスに至っては装備されている武装上近距離型にカテゴライズしてもいいかもしれないが、アームビットの運用により攻撃手段が劇的に変わってしまったために隙が無くなってしまった。
そもそもトライオン3のバトルを見ていた時から思っていた事だが、ロケットパンチなんて安定性が欠けているものが使い物になるのか!?なんて考えていたユウマだが、レイのジンクスⅣの新しいギミックにド肝を抜かれた。
常識そのものをぶち壊す発想、アシムレイトの併用でさらに凶悪さを増した【アームビット】。常識から外れているが、それが彼が尊敬するイオリ・セイの常識に囚われないガンプラという教えを体現しているような気がして、少しだけ嫉妬した。
「……でも、だからといって……そこまで常識に囚われないのは、流石にツッコみたくなりますよ……」
サカイなら「スパロボか!?」とツッコんでいるかな、と苦笑しながら、自分が所属する『トライファイターズ』と比べてみる。
遠距離射撃型のライトニングガンダムフルバーニアン、万能型のスターウィ二ングガンダム、近接特化型のトライバーニングガンダム。相性は悪くない。むしろそれぞれの個性で勝っている部分がある。
だが言い換えれば個性でしか勝っていない、と言っても良い。
ライトニングはイデガンジンのメンバー程近接戦に優れてはいないし、トライバーニングも射撃武器を摘んでいない格闘一辺倒な所もある。唯一弱点らしい弱点が無い万能型のスターウィ二ングだが、それは相手のジンクスⅣも同じ。
しかもジンクスⅣのファイター、アンドウ・レイはセカイと同じアシムレイト持ち、加えてセカイ以上にガンプラの知識も技量も持ち合わせているベテランのファイターだ。都大会決勝戦でセカイがバトルしたスガ・アキラのような技を使ってくる可能性だってあり得る。
「勝てるのか……?」
ガンプラ学園とまともに戦えるチームを見るのは今回で初だ。だからこそどちらのチームの凄さも分かる凄まじい試合と言える。トライファイターズが優勝するには、そんなバトルを勝ちぬいたチームと戦わなければならない。
「なに弱気な事言ってんだよユウマ!」
「いった!?セカイ!いきなり何をするんだ!!」
弱弱しく呟いたユウマの背をバンッと叩いたセカイが、手に拳をぶつけ猛々しくフィールドを見る。
「勝つか負けるなんて考える事じゃない!やるからには勝つ!そうだろうユウマ!」
「全く、お前という奴は……」
「まずは、準決勝を絶対に勝つ!んでもって優勝だ!!」
これから戦わなくちゃいけない相手の強大さを理解していないのか、あっけらかんに笑う彼に呆れながら、ユウマは僅かに笑みを零す。
そんな二人を横目で見たフミナも、気合いを入れる様に両の拳を握りしめる。
「そうだね、まずは準決勝を全力で戦おう」
それぞれの決意を固めた二人は彼女のその言葉に頷き、再びバトルが行われているフィールドに目を向けるのだった。
最強のロボットとは何だ?
ユズキ・コスモはそう問われたときに必ずこう答える。「好きだと思うロボットが最強だ」、と。何せロボットというものはいつの時代でも様々な最強がある。
それぞれが最強だと主張し、ときに争うのは、その最強と信じて疑わないロボットが好きだからだと思っている。そうでなくては議論にすらならないし、話題にも上がらない。
イデオン、中々に好き嫌いが分かれる作品だと思う。
結末のどうにもならない気持ちは筆舌しがたいものがある。
だがそれでも彼はイデオンというロボットが好きだ。ストーリーも何もかもひっくるめて受け入れている。
好きだからこそ本気になれた。
荒唐無稽と思われるような技の再現も、大会という大舞台で成し遂げて見せた。
これ以上ないくらいの喜びを味わった彼だが、まだやり残したことがある。
「はぁぁぁぁぁ!!」
「甘ぁい!!」
選手権の優勝。
大恩ある先輩に恩返しをすること。仲間たちと協力して作り上げた【イデオン】で―――。
「やはり思った通りに君は面白いファイターだ……」
「それはどうも……っ!」
青と白のガンプラ、『トランジェントガンダム』の刺突を拳で弾いたイデオンは、僅かに距離が空いた隙を狙い脚部からミサイルを発射する。
追尾するようにトランジェントへ迫ったミサイルはGNパルチザンの一薙ぎで破壊されてしまうが、ミサイルの後から追うように迫ったイデオンが、ミサイルの爆発によって生じた煙から飛び込んでくる。
「ガンプラ学園でも無敵な訳じゃないだろ……!」
「っ!ははっ!!そうだッ私は無敵などではない!無敵であってたまるか!!私はファイターだ!!」
「何をォ!!」
繰り出された剛腕をパルチザンで防御したトランジェントガンダムのファイター、キジマ・ウィルフリットは自然と笑みを零す。
「待っていたぞ……好敵手!」
カミキ・セカイ以来の強敵との真っ向勝負。
これがどれほど喜ばしいことか―――選手権6連覇ともてはやされ、日々のバトルに一抹の空しさを感じていた彼にとって、強敵とのバトルは飢えきっていた闘争心を燃え上がらせる。
普段の彼から想像もできない獰猛な笑みと共に危険を顧みずにトランジェントを前に進める。
「近接での戦闘がお望みなら、こちらも!」
追撃の拳を振るおうとしたイデオンへカウンター気味の蹴りを胴体に当てる。腹部から白煙を上げながらもバランスを保ったイデオンは、お返しとばかりに腹部からのビームを発射させるもそれは容易く躱される。
「その巨体故に―――!!」
「……っ」
流れるように空中で反転したトランジェントが急降下と共に繰り出した飛び蹴りは、イデオンがクロスさせた両腕に直撃し、機体を大きくのけぞらせる。
同じく反動で反対側に飛ぶトランジェントだが、不安定な体勢の中でも正確にイデオンに狙いを定め、GNパルチザンの矛先を展開させた粒子砲を向ける。
このままでは撃たれる。
ここでやられれば戦況は一気に不利になる。
「撃たれ……っさせるか!!」
コスモの動きは早かった。反動でのけぞった体勢のまま脚部とランドセルのスラスターを全開で噴出させ、背面のまま上昇する。次の瞬間、先ほどまで居たであろう場所に青色に輝く粒子ビームが通り過ぎる。
あと数秒遅れていれば、脱落していた……その事実に背が凍るような悪寒が走るコスモだが、すぐさま気を取り直し粒子補填中のトランジェントへと機体を向け、腕部のサーベルの展開と共に突撃する。凄まじい威圧感と共に向かってくるイデオン、だがキジマは怯むことなく真っ向から受け止める。
「!」
『そうだ、もっと向かって来い!イデオン……否ッユズキ・コスモ!!』
両手で持ったパルチザンでイデオンを押し込み、僅かに上昇したトランジェントは、徐々にプラフスキー粒子を放出しながらイデオンを見下ろす。
『君達は素晴らしいチームだ!だからこそッ全身全霊を尽くし戦おう!!』
―――トランジェントのGNドライブから一気に粒子が吹き出し、翼のようなものを形成する。帯の様に見える光の翼にコスモはレイのアシムレイトを真っ先に思い浮かべたが、これは違う。圧倒的な程の粒子排出量にものを言わせた機体の機動性の強化、トランザムの上位互換とも言っても良い程の出力上昇。
若干怖じ気づくコスモだったが、自身の背で戦いを繰り広げる二人の仲間達の姿を思い出し、怖気づいた心に喝を入れる様に頬を叩く。
「……変わらない、俺達は勝つ為に……一緒に優勝するために勝つんだ……だから!!」
青い光を放つ翼を生やしたトランジェントとは対照的に、赤い光を全身から放ち始めるイデオン。
サイコフレームの輝き、人の思いの輝きがイデオンを赤く染めその力を高めていく。
「イデオォ―――ン!!」
「人の意思の力、イデが君の切り札ならば!未来に羽ばたく翼ットランジェントバーストが私の奥義だ!!」
「来い!キジマ・ウィルフリッド!!」
長大に伸ばされた光の翼をはばたかせトランジェントは空を駆ける。その視線の先には赤く漏れ出す光を纏う、紅蓮の神。
火力に任せた攻防戦が始まる―――。
「あれは……兄さんのトランジェントバースト!?」
フィールドを淡く照らす二つの光、赤と青が入り混じる様にぶつかり合い周囲のデブリを破壊していく。他者の追随も許さない激闘、通信から聞こえてくる兄の雄叫び、今まで見る事の無かった兄の荒々しい一面にシアは驚いた。
「このバトルを楽しんでいるの……」
「ここに居る全員がバトルを楽しんでいると思うよ。貴方を含めてね」
腕を組み浮島に仁王立ちしているガンバスターのファイター、ノリコがシアにそう言い放つ。互いに警戒しながら睨み合っている中でそんな事を言ってくるのは些か無警戒すぎやしないか?と思ってしまうシアだが、その思考はすぐさま無粋と切り捨てる。
「各々が『大好きなガンプラ』で戦うんだから楽しむのはあたりまえだよ」
「……大好きなガンプラ……」
「ガンダムも量産機もマイナー機も、使って楽しんだものが勝ちでしょ。それが私が先輩から学んだ事だし、これから絶対に変える事の無い心情よ」
タカマ・ノリコは好きなガンプラで戦う事を尊敬する先輩から教わった。
愚直に戦い楽しむことをコスモから教わった。
―――それで作り上げたのはガンバスター。元の姿からかけ離れてしまったが、その元とされているのは間違いなく彼女の長年の相棒、ザクⅡ改。
「単純な事なのね」
「―――そう、すっごく単純。でも私はそんなことにうじうじ悩んで時間を無駄にしちゃった。だからその分を取り戻すくらいの気概で今を、この時を楽しむ…さあ、やろう!ガンプラバトルを!」
「……ええ、私も全力で!」
ふわりと浮き上がったガンバスターが腕組みをしたまま上昇する。それに合わせてGポータントも上昇し、同じ高度まで上昇したその時、両機は同時に攻撃を仕掛ける。
敵を追尾し敵機を貫く光線、ホーミングレーザー。
歪曲しながら迫るレーザーにシアは僅かな笑みを漏らすと、くるりと機体をロールさせ迫るレーザーを躱すと同時にレーザーを粒子変容フィールドで干渉し、手で押し出すように機体を押し出した方向とは反対へ移動させる。
粒子変容フィールドの扱いに長けたGポータントとシアにのみ許された技術。
流麗な動きでレーザーを回避していくGポータントに、ノリコは彼女と同様に笑みを浮かべた。
「まだまだぁ!!バスタァァァッビィィィィム!!!」
「無駄よ!私のフィールドは貫けない!!」
続けて放たれたバスタービームを粒子変容フィールドを張り巡らし完全に防御。これこそがGポータントの真骨頂、アルミューレ・リュミエールに匹敵する防御力を有するフィールドと、粒子変容フィールドを応用した回避性能。
アンドウ・レイのジンクスⅣのようなフィールドを突破することを前提とした強力な貫通力を有する兵器でなければ無理な話―――。
「行って!」
GNピアスソードの鞭を形成し、リボンの如く複雑な軌道とともにガンバスターへ繰り出す。蛇行するように放たれた粒子の鞭を先の戦闘のように掴もうとするガンバスターだが、鞭は容易くガンバスターの手をかいくぐり、その本体へと叩きつけられる。
機体へ刻み付けられる一筋の亀裂。
あのヴェイガン・ギアですら瞬殺した攻撃だが、些かガンバスターの防御を突破し破壊するには至らない。
「効いていない訳じゃない!なら倒れるまで叩くまでよ!!」
「その前にぶっ叩く!!」
振るわれる粒子の鞭と拳。
一定の距離を保とうとするGポータントとガンバスターのバトル。
「はあああああああああああああああ!!」
「……一歩も引いてくれない!」
徐々に傷ついていくガンバスターだが、それを物ともせず突っ込んで来る。関節部を狙おうにも意図したのかどうかは分からないが、ラバーが装甲を覆っているため鞭が通らない。
「埒が明かないわ……ここはいっそ―――」
飛び込む―――!
急停止と共に突っ込んでくるガンバスター目掛けて加速をするGポータント。いかにGポータントといえども、ガンバスターの拳を粒子変容フィールドなしで受けるのは厳しいものがある。
だが彼女は信じていた。
己が心血注いで作り上げたガンプラを―――!
「Gポータントならッ!!」
横に構えたGNピアスソードから鞭を後ろへ流すように展開。
そのままガンバスターへさらに加速。急加速により一層モニター越しからの威圧感が増し、手が硬直しそうになるシアだが、恐怖を振り払うように加速をかける。
「加速と遠心力……そして相手の力が合わされば……っ」
自分は見ていたはずだ。
壊れた腕さえも武器にし、ヨーロッパジュニアチャンプに打ち勝ったアンドウ・レイのバトルを。彼も相手の力を利用して攻撃に転じていた、その技を―――。
「でぇぇいッ!!」
「く……ぅ……ッ」
大きな挙動と共に繰り出された拳を破損した左上の肩で受け、回転と共に懐に入る。
肩の装甲が砕け散るが構わず勢いに身を任せ、左方向にくるりと回る。
「それは……ッ!」
「ここ!!」
回転により後方に伸ばした粒子の鞭が自身を取り巻くように渦巻く。渦巻いた粒子の鞭の中心、必殺の一撃を作り上げたGポータントは、回転の勢いに任せ、GNピアスソードを振りぬいた。
「―――」
ガンバスターの脇腹を捉えたGピアスソードは、すれ違いざまに装甲に浅い傷を与える。だがこれで終わりではない。リング状に幾重にも重ねられた粒子の鞭が、GNピアスソードにより刻み込まれた傷に連続して叩き込まれる。
どんな堅牢な装甲をしてようが、同じ箇所を攻撃され続ければ壊れない筈がない。
図らずもレイの戦法が、ガンバスターを打倒する糸口になってしまったのだ。
だがその代償は決して小さくはなかった。ただでさえ尋常ならざる威力を持つガンバスターの拳を受けてしまったGポータントは、レッドゾーンギリギリのダメージを受けていた。かろうじて残っていた肩の部分が弾け飛び、受け流しきれなかった衝撃で胴体に所々亀裂が入って行ってしまっている。
数分もあればカレルで戦える状態まで修理することができるが、それをするにはまずガンバスターを倒せているかどうかが問題になってくる。
「倒せた、の?」
ガンバスターの後方の浮島に着地したGポータントは、背後を振り向き空中で停止しているガンバスターを見据え僅かに冷や汗を流す。
先程の一撃は完璧なタイミングで決まった。ガンバスターの右の脇腹には火花と電気が散り、致命傷だということが一目で分かった。
しかし―――。
「――――はああ……ッ」
ガンバスターが全身から電撃を放つ。
『まだバトルは終わってないぞ』と相手が言っているような気がして、やや焦燥気味の笑顔を浮かべたシアはGNピアスソードを地に捨てる。
もうソードを振るえるほどの強度はGポータントにはない。ならば重荷を捨てGポータントの本領……全粒子を注ぎ込んだ粒子変容フィールドでガンバスターの攻撃を受けきるしか方法はない。相手も損傷を受けているにも関わらず無理やり電撃を放出しているようなもの、あれだけの負荷をかけ続ければいつ自滅してもおかしくはない。
「勝負よ……!」
ガンバスターが自滅するか、フィールドを突破しGポータントを破壊するか。
シアはこの後のバトルの事は考えていなかった。余力を残さずにガンバスターを倒し切る、その一心で気力を振り絞る。
「これで決める!!」
電撃を纏ったガンバスターが上昇、それと同時に軋む機体を上に向かせ粒子の放出を開始させるGポータント。咆哮するように叫び、上昇しきったガンバスターは、下方を見下ろすと同時に蹴りの体勢に転じ、そのままGポータントへの飛び蹴りを放つ。
「受け切って見せる……!」
「はあああああああああああああああああ!!!」
粒子変容フィールドを全面に展開したGポータントは、ガンバスターの蹴りを受け止める。電撃がフィールドに弾かれ拡散し、轟音と共にGポータントが立っている島を焦がし破壊する。
「く、ッ……う……」
ギャリギャリとガンバスターの足裏のスパイクにより粒子変容フィールドが金属音を立てる。だが、Gポータントとて負けてはいない。最大限に粒子を放出し形成されたフィールドはガンバスターの蹴りを通さない。
だが、フィールドにも限界がある。この勢いで削られ続ければ突破されてしまうだろう。しかし今のガンバスターは万全ではなかった。
「機体がッ!」
「やっぱり……っ!」
ガンバスターの脇の装甲が弾け飛び、内装が露わになり、放電とはまた別のスパークと黒煙が噴き出る。
シアの捨て身に近い一撃、それがガンバスターに決して浅くない傷を与えたのだ。恐らく駆動系かジェネレーターが損傷している。
「貴方のガンプラはもう限界よ!もう―――」
「そんなことは作った私が一番分かってる!でも………それは私が引く理由にはならない!!」
衰えるどころかさらに勢いを増す電撃。
シアはノリコの思考が理解できなかった。彼女にとってガンプラは大切なものだ。だから例え敵とはいえ対戦相手のガンプラが目の前で傷ついていく様は見たくはない……だからこそ、ノリコの言葉は驚愕に値する言葉だった。
「―――そうね」
だからこそ、彼女は理解しようと試みた。
兄とアドウが渇き、求めたガンプラバトルを……。
膝を屈した機体を無理やり立ち上がらせ、頭上のガンバスターを睨み付ける。
自滅の一途を辿るガンバスター、その痛々しい姿に思わず目を背けたくなる。だが、どうしてか―――。
どんなに傷ついても前に進もうとする彼女のガンプラは、ただ飾られているガンプラよりも――――綺麗に思えた。好きなガンプラが傷ついていく様なんて見たくはないのに、でもそう思ってしまった自分の変化に驚きながら、彼女もノリコと同じように叫ぶ。
「私も、負けない……貴方に勝つ……ッ勝って見せる!!」
既に双方の視界は黄色から赤へと変わり、どちらが先に果ててもおかしくはない状況の中でさえガンバスターもGポータントも出力を落とそうとしなかった。
「はあああああ……ッ!!」
「でぇぇぇぇい!!」
島は崩れ、残骸が地へ落ちていく最中、ノリコのガンバスターが胸部が爆発する―――キャパシティをオーバーしてしまったガンバスターだが、構わずノリコはさらに雄叫びを上げ、操縦している腕を思い切り前へ突き出す。
「諦めるッ……もんかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「――――――ぁ……」
ガンバスターの最後の輝き。最後の粒子をつぎ込んで放たれた電撃は、前方のGポータントのみならず己すらも焦がし傷つけながらも、蹴りと共に粒子変容フィールドを突き破る。機体を崩壊させながら繰り出された一撃はGポータントの胸部に直撃し、そのまま崩壊寸前の浮島へと突き刺さった。
「―――――――」
「……!」
蹴りが直撃したと同時にGポータントから一言だけ通信が聞こえた瞬間、電撃と粒子が爆発するように放出され、ただでさえ崩壊寸前だった浮島は真っ二つに割れる……。
「ハァ―――ッ……ハァ―――ッ……」
原形を留められなくなり地へ落ちていく瓦礫の中。
半壊状態の二機のガンプラが地へ落ちていく。一機は既に機能停止に陥っているが、もう一機は消えかかっているモノアイから見えるモニターの視界の中で、荒い息を吐き、もう通信が切れているであろうGポータントのファイターに、送られた一言に対する言葉を放った。
「楽しいでしょ、ガンプラバトルは……」
好きなガンプラを作り。
作ったガンプラを動かし。
動かしたガンプラで戦う。
それがガンプラバトル、アンドウ・レイと共に大会への出場を決めたあの日から―――ノリコはガンバスターという己の理想を作り始めた。何度も壊れて、直して、壊した。
でも、その繰り返しの中でガンバスターはどんどん本物に近づいて行った。
だが本物に近づいていたとしても、理想には届いてはいない。恐らくノリコの想像する理想のガンバスターへの道のりは限りなく険しく遠いものだろう。
それでもタカマ・ノリコは、理想を求め続けるだろう。アニメのように華々しい活躍をする『最強無敵のガンバスター』を作り上げるまでは―――。
「だからやめられない……ガンプラは……」
あの瞬間、シアが言った一言。
それは彼女が心からガンプラバトルを楽しんだ証であり、自らを破ったノリコへの挑戦とも思える言葉。
『―――次は負けない……』
受けて立つ―――疲労でよく働かない頭のまま力強くそう言い放った彼女のガンバスターは、力尽きる様に機能を停止させ、重力に従い地へ落ちていくのだった―――。
対ガンプラ学園は後もう一話ほど続きます。
スパロボBX発売おめでとうッ。
騎士ガンダムが来て嬉しいです。
他参戦作品も充実していて楽しみ過ぎます。
後、もう一話ほど片手間で書いたスレ形式の外伝を更新致します。感想蘭で要望されたので書いてしまいました(白目)
ワンサマーSOSのようなものなので、外伝枠に移動しておきます。