残り時間が10分を切ったその時、バトルは終盤へと移る。
宇宙では三つの機影が飛び交い、凄まじいバトルを繰り広げていた。
「食らうか!」
イデオンがフルクロスに拳を繰り出す。巨体に見合った威力を内包しているその拳を間近にして、フルクロスは機体をスウェーすることで攻撃を避けると同時に、脚の裏のヒートナイフでイデオンの胸部の装甲を浅く削り取る。
そして前面のスカートから伸ばしたアンカーをイデオンの脚に巻き付け、イデオンを近くに漂うコロニーの残骸に叩き付けた。
「くっ……」
「コスモ、無理するな!」
呻くコスモの駆るイデオンの脚に撒きつけられたアンカーをGNバスターソードで切り裂きつつ、GNダガーを指に三つ挟んで投擲し、バスターソードで斬りかかる。
「そこ!」
『―――くっ』
GNダガーをムラマサ・ブラスターで弾き飛ばされ、ビーム刃が展開されたソレでバスターソードが受け止められる。―――先程よりも粒子出力が少ない。これなら流さずとも打ち合える。
一気に攻勢へ出る。
右腰にマウントされたクリアランスを左腕で引き抜くように抜き放ち、一瞬のうちにビーム刃を形成させフルクロスの装甲に一筋の亀裂を刻む。
「押し斬らせて貰う!」
『そうさせるほど、僕はまだ勝利を諦めていない!!』
瞬間的にバスターソードが弾かれ、上段からムラマサ・ブラスターが振り下ろされるも、それを逆手に持ったクリアランスで捌く。しかしフルクロスは間髪入れずに回転と共に横薙ぎの一撃をこちらへ振るう。
『君は落とさせて貰うよッ!』
「さッせるか!!」
クリアランスとバスターソードで腹部への一撃を守り、パワーで押し斬られる前に下方から殴りつける様にフルクロスへ蹴りを叩きつけ、なんとかムラサメ・ブラスターの一撃を避ける。
その場で一気に後方に下がり、コスモの居る場所にまで移動する。
「先輩!」
「合わせろ!!」
俺の意図を理解したのか、追撃してこようとするフルクロスに向けて胸部砲口からエネルギーを収束させ始めるイデオン。こちらもクリアランスを両手で持ち、粒子を充填させる。
「受けられるものなら受けてみろ!!」
「グレンキャノンも、です!!」
『っ!』
クリアランスとイデオンから放たれた赤色と緑色の砲撃がフルクロスを飲み込み、その奥のデブリを消滅させながら突き進み、一際巨大なコロニーの残骸へと衝突する。
流石の粒子量だが―――。
「これで倒せるとは思っていない……」
案の定、砲撃後、ほぼ無傷のフルクロスが白煙の中から現れる。
『まいったね……これ程とは思わなかったよ……チームワークを侮っていた。こういうところで個人戦との違いと思い知らされる……』
全力であろうI・フィールドの展開―――いくらフルクロスであろうと、補給を断たれた状態ではいつかは限界が来る。放熱途中で使用できないクリアランスをコスモの背後にあるデブリに突き刺し、ブースターから飛び出したGNクナイを掴み取り、次の攻撃へ移るための準備を整える。
「―――I・フィールドを使わせて削らせるという手もあるが………あまり粒子は消費させたくない」
こちらもさっきの一撃で粒子を多く使ってしまった。一応はトランザムの為に温存するため粒子を消費しない実体剣で押し切るしかない、か。
「コスモ、粒子量は?」
「心許ないですが、殴ったりミサイルで援護することなら可能です」
「十分だ……ッ」
あちらも厳しいのかムラマサブラスターからビーム刃を展開させずに、受けの体勢に移る。
『フ、フフ、こんなビリビリとしたバトルは久しぶりだ……』
「そうかい!」
「援護しますよ!」
飛び出した俺の背後からミサイルが放たれ、先行してフルクロスへと迫り来る。それらに対しムラマサ・ブラスターのビームで対応しながら、左腕のブランドマーカーを展開させ、あちらも接近戦を仕掛けて来る。
振るわれたムラマサ・ブラスターをクナイで受け止めるも、殴りつける様に放たれたブラインドマーカーが防御に移したクナイに激突し、後方に突き飛ばされる。
「フルクロスの性能は、伊達じゃないって事か!」
『まずは君を―――』
「ブースターのランスはまだある!全弾受け取れ!!」
回避と同時に反転しながら、腰部のショットランサーの残りの8発をフルクロスへ撃ち出した。キョウスケの台詞通りに全弾だッ。
『なっ……』
突然のショットランサーに、追撃を食らわせようとしていたフルクロスは慌てて迎撃に移ろうと武器を振るうが、至近距離からの一撃に流石に耐えられなかったのか、半分が機体を覆う装甲へと突き刺さる。
―――これが活路になる。
続けてGNクナイのサーベルを発生させ、投擲と同時にバスターソードを引き抜き、刺突の構えへと移る。
『終わらせない……ッ』
ショットランサーが突き刺さったままの状態でGNクナイを切り落とし、脚部のヒートダガーでGNバスターソードを突き出した。
突き出されたヒートダガーはこちらの右腕の関節に直撃しその衝撃で体勢を崩される。―――簡単には終わるとは思ってはいなかったが、正確に関節部を狙うのは流石過ぎるだろ……。しかも関節部を狙い打たれた事で、力の緩んだ右手のバスターソードにアンカーが取りつき、奪取されてしまった。
『そのブースターも!』
体制を崩し、勢い余ってフルクロスの横を通り過ぎるその瞬間、奪われたバスターソードでブースターの側面が切り裂かれてしまう。―――だが幸いGNドライブが無事、ならば―――。
「ブースター分離!GNドライブ射出!!」
ブースターが背部から分離し、GNドライブがブースターから射出される。余剰粒子でフルクロスの攻撃を回避しながら、GNドライブとジンクスⅣをドッキングさせる。
『そんな機能が―――』
驚愕するルーカスを見据えサーベルを引き抜き再び攻撃を仕掛けようとすると、コスモのイデオンが居た場所からクリアランスが飛んでくる。それを掴み取って飛んで来た方を見ると、フルクロスに牽制用のミサイルを放つイデオンの姿が見えた。
「先輩!クリアランスで!」
「よし!」
『は、はは……何てチームなんだ君達は……』
クリアランスからビーム刃を生成させる。
これでトドメだ。
『さぁぁぁせねぇぇぇぇぇぇ!!』
「!?」
あらぬ方向から飛んで来たガトリングがジンクスⅣを襲い、その挙動を制止させられる。第三者からの砲撃……ッ、これは―――。
『ルーカス!今から送る座標に行け!!其処にタンクは置いて来たぁ!!』
ガトリング砲を持った赤いギラドーガ。
しかし、補給ユニットたるタンクが無い。
『トミタ君!?』
『行けええええええええええ!!』
「ッ、させるか!」
クリアランスをガンモードにして、指示されたであろう座標地点へ向かおうとしたフルクロスに狙いを定めようとするも、させるかとばかりにガトリングで妨害してくる。
―――ここでフルクロスに回復させるのはマズい、が。あの執念、身を捨ててでも俺達を食い止めるつもりか。
「これもチームワークの形か……」
トミタくんが示した座標は思いのほか近かった。恐らく、僕が押されている姿を見て急いで準備したのだろう。無理やりデブリへ固定されたタンクが見える。それから延びるコードをフルクロスへ接続させ粒子を補給させる。
「本当に……」
正直トミタくんが来てくれなかったら、危なかった。僕は心のどこかでチーム戦を甘く見ていたのかもしれない。チーム『イデガンジン』は個の力が突出し過ぎているチームだ。赤いジム、イデオンと黒いザク、ガンバスターの圧倒的な超火力を理解した上で、最大限に活躍できる指示をしているジンクスⅣのファイター、アンドウ・レイを中心にチームワークが展開されている。
「―――ふふふ」
トミタくんに戦わせてしまっている手前、不謹慎だが高揚している。
自分が知る強さとはまた違った強さ、個の結束と言う力を身を持って思い知った……だからこそ、全力を以て勝ちたい。
「……残り時間5分、粒子量50パーセント……心許ないけど、これで行くしかないか」
ゆっくりと立ち上がり、ムラマサ・ブラスターと、ジンクスⅣから奪ったGNバスターソードをデブリに突き刺し、機体に突き刺さったショットランサーを引き抜く。いくらか装甲内のスラスターが機能停止にはなってしまったが、動く分には問題ない。
「……よしっ」
デブリに突き刺した二刀を握り直し、トミタくんが粘っているであろう宙域を見る。
―――行くか。
『キィィィック!!』
「!?」
飛び上がろうとスラスターを噴かせようとしたその瞬間、レーダーに反応が映ると同時に高速でこちらへ接近してきた機影が、減速せずにデブリ目掛けて突っ込んだ。
危うく回避したこちらが破壊されたデブリの方に視線を向けると、最初の接触で戦った黒色のザクが、隻腕にも関わらず凄まじい威圧感と共に、こちらをグルンと視界に収めるのを目撃する。
『………あれ、フルクロスはコスモと先輩が相手しているはずじゃ……じゃあ、あっちでバトルしてるのって……』
「僕の仲間さ、さあ―――」
―――倒させて貰おう。
『はああああああああああああああああああ!!』
「悪いけど―――そう時間をかける訳には行かない!!」
フルクロスを逃がして約二分が経った。
コスモが振り下ろした手刀で機体を真っ二つにされたギラドーガを見据えながら、つい先ほど爆発のようなものが起こった宙域を見据える。
恐らくノリコが補給中のフルクロスを見つけ攻撃したのだろう。すぐさまコスモと共にその宙域への移動を促しながら自身の機体の調子を確認する。
「右腕は……拳は作れるが関節の動きが鈍いか……」
十全とはいかないだろうが……まだまだ戦える。
でも、アドヴァンスドブースターを破壊されてしまい、GNガンランスもダガーもどこかに飛んで行き、バスターソードもフルクロスに奪われてしまったのは痛い。
粒子残量もそうは多くないし、コスモに至ってはギリギリ。ノリコは……余裕があるだろうが、先程の通信では自爆で片腕を持って行かれてしまったらしい。
「追い詰められているのはこちらの方かもしれない」
「こっちはカツカツですからね……」
「しかし、四の五も言っている場合じゃない……出るぞ!」
宙空を漂うデブリを超え、ノリコとフルクロスが戦っているであろう場所に出る。広い場所に出て視界が広がると同時に、こちらに脚部を破壊されたノリコのガンバスターが吹き飛んでくる。
「ぬわあああああああああああ!?」
「おわぁ!?」
コスモのイデオンがガンバスターを受け止めるのを確認してからクリアランスを構えると、目の前には粒子を回復したであろうフルクロスの姿があった。左手にあるGNバスターソードが中ほどから破壊されている所を見ると、ノリコのキックを防御して破壊されたと見てもいいのだろうか……。
「っつー、先輩。すいません粒子回復させちゃいました……」
最初にやられた肩の損傷が後から効いているのか、残った腕の動きが鈍い。
……これ以上のバトルは無理か……。
「いや、誰のせいでもないよ。その損傷じゃ満足に動けないだろ……後は俺に任せろ」
『―――行くよ!』
「コスモ、俺が隙を作る。―――ぶち込め」
「っ……はい!」
俺の言葉の意図を察したコスモのイデオンは、力強く頷く。
良かった伝わってくれたか。
残り粒子量では補給を終えたフルクロスには押し負ける。瞬間的に上回る速さと威力で押し切る。これしかない―――でもそれだけでは攻めきれねい場合は―――。
「信頼する後輩を信じるしかない!トランザム!!」
折れたバスターソードを捨てたフルクロスへ、赤い光と帯を纏わせ突き進む。やつの装甲はショットランサーで幾分か機能を失って居る筈。
左腕のクリアランスからビーム刃を発生させ、同じくビーム刃を展開させたムラマサ・ブラスターに打ち合わせる。
「……っ!パワーでは劣るかぁ!」
『いくらトランザムでも!!』
鍔迫り合いの甲斐無くクリアランスが弾き飛ばされる。やっぱり片腕無しでは些かパワーには心許ないが―――手が無い訳ではないッ。
振り返したムラマサ・ブラスターの斬撃が切り上げる様に繰り出されるも、トランザムによって発生した帯を無手になった左腕から幾重も発生させ、前面に振り回すと共にシールドのようにフルクロスと俺の前に展開させる。
「この帯は、刃も弾く!!」
バチィッ!とムラマサ・ブラスターの斬撃が端から霧散していく粒子の帯にぶつかり、弾くように衝撃を拡散させる。
『そんな防ぎ方……っ』
「使いどころは難しいが……侮れないぞ!!」
さらに帯を巻き付けGNクローでの抜き手を放とうとするが、それは後方に下がられ回避されてしまう。こちらもゆっくりと下がりながら弾き飛ばされたクリアランスを回収し、再度攻撃を仕掛ける。
『何故……その粒子量では!』
その疑問は尤もだろう。トランザムのために粒子を温存はしておいたが、今の俺は惜しみなく粒子を使っている状態にある。これでは1分も保たないだろう。バトルの残り時間3分前にして、俺の選んだ手段は最悪な部類だろう。
「個人戦では俺の行動は無謀に等しいだろうな!」
フルクロスへクリアランスを振るいながらも斬撃を帯で防御し、一定の距離を保つ。相手と、このバトルを見ている人々からしたら、俺はバトルを諦めヤケになった様に思えるだろう。
実際、粒子補給したフルクロスと疲弊した俺達とではアドヴァンテージに差がある。本来ならば、圧倒的な出力と技量で他を殲滅するフルクロスには補給をさせてはいけなかった。それが出来なかった時点でこちら側が不利に傾くのは当然の理―――。
「良く狙えよ……ッ」
破損し関節が動かせず、かろうじて繋がっている状態の右腕の拳を固く握りながら、逆手に持ったクリアランスを左腕を巻き込む形で赤い帯巻きつけたままムラマサ・ブラスターを受け止めると同時に、威力を流すように左方向に一度回転するように懐へ潜り込む。
「グッ……まるで博打だな…………だが!」
無理な体勢で攻撃を流したその反動で左腕の関節に痛みが走る―――が、これから襲ってくる痛みの方が凄まじい事は分かっているので歯を食い縛り我慢する。
硬く握りしめた右拳のある腕を回転の反動を付けるように振り回し、フルクロスへ叩きつけるようにその拳の矛先を向ける。
―――肘の関節が動かず、まともな威力が出ない事を理解しているルーカスが困惑するように呻き声を出しているのが聞こえるが、そんな事はコイツを使っている俺でも分かる。
『右腕は使えない筈!』
「俺にはコレがある!」
雄叫びと同時に右腕に残留粒子の全てを送り込み、アシムレイトにより生じる赤い粒子の帯をスラスターの如く勢いよく噴出させる。赤い帯により勢いづいた拳はフルクロスの腹部の装甲に容易く突き刺さる。
『ッ!?まだ……』
「これが俺が狙っていたッ一撃!!」
一旦止まったかに見せた右腕の排出口から再び赤い粒子の帯が放出され、フルクロスの巨体を押し上げる様に突き進んでいく。だがこちらもフルクロスを押し上げるパワーを機体に回す粒子量はほぼない。
だから―――流行にあやかるのも悪くはない!!
「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
フルクロスを支えにしながらも再び腕を引き絞り、そのまま力の限り腕を突き出して、無理やり肘から先を前方へ解き放った。同時に右腕に激痛が走り声が漏れるが、必死に意識を繋ぎとめながらしっかりとフルクロスを見据える。
『な、何が起こっているんだ!?』
ジンクスの肘から先から解き放たれた右腕は、本体と離れても尚凄まじい勢いで粒子の帯を放出し続け、フルクロスの本体を貫きながらコロニーの残骸へと突き刺さった。
「ハァ―――――ハァ―――ハァ―――」
フルクロスは辛うじて戦える状態にあるが、片腕と装備を失ってしまったジンクスⅣは完全に粒子が底をつき、戦闘不能に陥ってしまった。機能停止に陥るも、辛うじてモニターが見える状態にあるジンクスⅣを、ガンバスターが受け止める。
「せ、先輩……ロケットパンチとは流石です。私一生ついていきます!」
やや興奮気味なノリコの言葉は両腕を全身にかかる疲労で認識できなかったが、辛うじて目の前のモニターに見えるフルクロスに向け言葉を言い放つ。
「行け……コスモ……」
「はい!!」
赤い機体が動けないフルクロスへと飛んで行く。
俺のとった行動は個人戦では最悪の部類に位置する悪手だろう。だが、これはチーム戦。仲間が居る、それだけで、後ろに仲間が居てくれるだけで―――俺はどんな相手とだって戦える。
背後で機を見て待機していたコスモの乗るイデオンが、フルクロスを縫い付けているジンクスⅣの右腕に拳を重ねる様に突き刺した。
一瞬の静寂が場を支配するが、ゆっくりと拳を引き抜いたイデオンがこちらを向くと同時に、フルクロスのツインアイの光が消失する。
【BATTLE……END……】
試合終了の声―――それが聞こえると同時に俺の目の前は白い光に包まれると同時に、暗転した。
4回戦の後、レイ君はすぐに気を失って医務室に運ばれてしまった。後輩二人は大慌てで、医務室で彼を心配していたが、彼等もアシムレイトの事を理解していた為かすぐに落ち着きを取り戻し、彼が目覚めても無駄な心配を掛けないように、破損したガンプラを修理すべく自室へ戻っていった。
今はまあ、この私とミサトが彼を診ている訳だが……。
「たくさん来たね。人」
「そうだね」
キョウスケにマサキにレイ君が三回戦でバトルした大黒刃の面々。いかにもスパロボ然とした面々が見舞いに来ては帰っていった。
「決勝トーナメントかぁ……ここまで来ちゃうなんてね」
私達に勝った彼等ならそんくらい言って貰わなくちゃ、とは思ってはいたが本当に来てしまうとは。自分の事のように嬉しいよ。彼のジンクスⅣと後輩達のイデオンとガンバスター。今でも思い出せる、彼のジンクスが私の冥・Oを倒すその瞬間を―――。
「ま、来年は負けないけどね」
冥・Oのとりあえずの改修ももうすぐ終わるしね。一度どっかしらの大会で試しに乗ってみるのもアリかもしれない。
「でも、来年になったらレイ君のジンクスはどうなっちゃうんだろうね」
「今回は……ロケットパンチをしてたね。皆、目を丸くしてた」
そう、トライオン3のようなスパロボ然としたガンプラならまだしも量産型のリアル系、いわばゲシュペンストが突然腕をぶっ飛ばしたようなものだ。驚かない方が無理はない。
ネットでは、神様の主が一番スパロボしているんじゃないか?と言われている始末。
でも、それでもレイ君は無意識なんだろう。私のようにスパロボも何も知らずに、ただひたすらガンダム作品を追求し続けていった彼の作るガンプラは―――変幻自在だ。
「う………ここは……」
「あ、目が覚めた……」
呻き声と共に目を開けゆっくりと起き上がったレイ君に、とりあえず水の入ったコップを差し出す。ミサトは医務室の先生を呼びに出て行ってしまった。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫。それより試合は……」
「イデガンジンの勝利だよ。次は決勝トーナメントさ」
「そうか……」
水を飲みながら、私の言葉を噛み締める様に目を瞑るレイ君。恐らく嬉しいのだろう、彼だっていつも冷静に見えて子供らしいところもあるのだ。
「……俺のジンクスは?」
「君の後輩がちゃんと回収してくれたけど……結構酷いもんだよ。特に両腕とブースターが」
「ブースターは何とかなる。ちょうど加えたい機能もあったしな……後は……両腕、か。……うん」
ベッドに乗ったまま腕を組み考え込む彼に、どことなく嫌な予感を感じながらも待つ。恐らく彼の頭には修理と一緒に行う改修も考えているのだろう。それが私にはある意味予測できているので、怖い。
「………ミサキ、ガンプラの修理と改修を手伝ってくれないか?少しやりたいことがあって……」
「因みに訊いてみるけど、そのやりたい事って?」
「腕を……」
「いや、それだけで分かったよ。君がそれでいいなら手伝うよ……」
もうジンクスⅣからスーパージンクスとかに改名した方がいいんじゃないかな。ある意味で私の冥・O以上のスーパーロボットになりつつあるよ?君のガンプラ。
「そうか、ありがとう」
「ま、まあ。君を倒すのは私なんだから……やぶさかではないよ」
一昔前のツンデレを披露した私を軽くスルーしながら、ジンクスⅣが入れられたであろうホルダーを手に取り、暫し見つめた彼がふと、何かを呟く。
「アシムレイトってやっぱり凄く痛いよな」
「……いや、まあ。そうだね」
「でもガンプラと同じ痛みを共有しているって所が、凄い考え込ませる。セカイ君のガンプラから迸る炎も俺のガンプラから放出される赤いラインも、感覚を共有したからこそ得られる産物?みたいなものかもしれないな。むしろ痛みを共有することが本来の機能みたいな…………ま、あくまで想像に過ぎないから当たっているとは限らないんだけどな」
破損したジンクスを優しげな手つきで取り出しながらそう私に言った彼の表情は、分かりにくいが確かに満足気な表情だった。
「ね、その赤い帯出すの、やっぱりトランザムって名前なのかな?」
「ん?特に決めてないぞ」
「やっぱり恰好つかないからさ、トランザムと帯出すシステム分けた方がいいんじゃない?トランザムなしでもアシムレイトの能力は発動させることはできるんでしょ?」
結構前から思っていたのだが、レイ君はあの赤い帯に名前とか付けていない。彼自身はスーパーロボットへの道を歩んでいる自覚はないから当然なのだが、せっかくの不思議能力に名前を付けないのは流石に味気ない。
「……確かにな、じゃあ……オリジン・システムで」
「安直過ぎない?……いや、でもスパロボ系なら機体名からつけるのもアリかな?」
むしろスパロボZ的に言うならオリジン・ローで次元力ッ!みたいな感じに吹き込めばレイ君もいい感じに仕上がるかもしれない。我ながら悪い貌になっているのを自覚しながら笑みを浮かべてレイ君を見る。
「うん、いいんじゃない?」
「そんな良い笑顔で言われるとは……そんなに気に入ったのか?」
やや引き気味で言われた彼の言葉にやや傷つきながらも、ミサトが医者を連れて来るその時まで技名に対する弁解を続けるのだった……。
ロボットパンチに利便性を見出したレイ君でした。
ここまでジンクスⅣオリジンのスパロボ的要素。
・クリアランス――ルガーランス(ファフナー)
・トランザム体当たり―――V-MAX(レイズナー)
・帯防御―――硬質残光(ヴヴヴ)
・破損腕飛ばし―――ロケットパンチ
後一押しで、立派なジンクスになれそうですね(節穴)
このペースで行くなら後、7、8話くらいで本編は終わりそうですね。
次回は改修回とルーカスや他キャラの話になると思います。