『A』 STORY   作:クロカタ

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お待たせいたしました。

ようやく引っ越しも終り、ネット環境が整ったので更新致します。





全国編~三回戦~

 三回戦が行われる当日。

 本日のバトルは、トーナメント表の都合で本日行われるバトルは、トーナメント表左に位置するバトルだけが行われる。控室でのメンテを終えた俺達チーム『イデガンジン』は大黒刃とのバトルを前にしての緊張をほぐす為に、他のブロックでのバトルを観戦していた。

 

 俺達のバトルを前に行われているのは、大阪府、天大寺学園代表チーム『ビルドバスターズ』と長崎県、聖ガルデ学園チーム『ホワイトマスク』のバトル。

 バトル開始から5分、両チームのバトルは今大会では珍しいタイプのバトルとなっていた……。

 

『アームドッブースター!!』

『マニュピレーターナッコォ!!』

 

「最近は腕を飛ばすのが流行っているのか……?」

「違います。多分」

 

 モニターの中でぶつかり合う拳と拳。これまで圧倒的な力で手相手を捻じ伏せてきた三体のガンプラを合体した『トライオン3』に、これまで実力の片鱗を見せずに三回戦にまで上がってきたチーム『ホワイトマスク』が駆るMSが眼前に立ちはだかっていた。

 

『おのれぇ……合体を邪魔する挙動すら見せないから舐め腐っとると思っとったが……どうやら違うようやなぁ!!』

『舐め腐る?いいえ、正面から打倒してこそ意味があるのです。私達のジオングで勝利を……』

 

 それは真っ黒な彩色に彩られたパーフェクトジオング。背部の赤色の翼を思わせるスラスターを見る限りいくらか改修が施されているようだが、それを意識できない程の威圧感が感じられる。しかもあのジオング、大きさは既存のHGジオングに脚を付けた感じだから、大きさ的にMA扱いだろう。よってガンプラ三体分の粒子量があると見ても良い。

 

 双方、攻撃として放った腕を回収し向かい合う。

 

『ふふふ……ジオン栄光の為に……』

『ただデカいだけでこのトライオン3がやられるかい!!ブーメランッスタッガ―――!!』

『マニュピレーターだけが私達の武器と思わないことです……ジオン剣!』

 

 背部スラスターの中心部から柄が出現し、背部に腕を回したジオングがそれを掴みとり、一気に引き抜くと同時に振り下ろし、今にも切り裂かんばかりに飛んで来たトライオン3のブーメランスタッガーを弾き飛ばした。

 

『剣!?』

『パーフェクトジオングには剣が一番!!』

『そんなわけあるかいッ!!変な設定を持ち出すなドアホウが!!』

『ガンプラバトルに常識を持ち込む方が無粋です!!』

『それをワイらに言うかァ――――!!』

 

 脚部のバーニアを噴出させ、地上を滑る様に急発進するジオング。対して赤熱化したウィングシールド、『ヒートウイング』を展開させ、迎え撃たんばかりに発進させる。

 

『ヒィィトッウイングッ!!』

『でぇぇいやあああああああああ!!』

 

 ぶつかり合う剣とヒートウイング。サーベルの様に強烈な光こそ散らしはしないが、金属が削れるような音がフィールド全体に響く。

 

『ミナト君!超咆剣を!!』

『分かっとる……でも……今のこのタイミングじゃあ……』

『その油断が、隙になる!マニュピレーターナックル!!』

『なにぃ!?』

 

 鍔迫り合いをした状態で、剣を持った方のマニュピレーターを起動させ腕を発射する。さながら剣が腕ごと飛んでいったと表現するべきだろうが、相手からしたら腕が突然に凄まじい勢いと共に伸びたと感じるだろう。

 事実、発射と同時に腕部から噴出されたスラスターの勢いで、トライオン3の体勢が大きく崩れた。

 

『こんな使い方……なんちゅう戦いや……ッ』

『ジオン砲!いかせてもらいます!!』

 

 片腕を回収したジオングは地上に剣を突き刺すと、そのまま両の手を前に突き出し、頭部と腰部、そして背部スラスターに収納されていた二門の砲撃を前に展開すると同時に、凄まじい粒子砲撃をのけぞったトライオン3目掛け発射する。

 

『まずい!ライガーグレアァァァ!!』

 

 トライオン3もビームで対抗するも、相殺しきれずにビームの直撃を喰らってしまった。凄まじい砲撃による余波によって砂煙が舞い上がり、トライオン3が居るであろう場所に立ち込める。

 

「これで、終わりでしょうか?」

「……いや、まだだな」

 

 これまでのバトルで圧倒的なパワーで相手を倒してきたトライオン3。そんな彼らがこんな簡単にやられるはずがない。それに……何と言えばいいのだろうか、トライオン3のパイロットには執念のようなものが感じられる。

 

 事実、彼らに砲撃を放ったジオングは再び剣を手に取り、砂煙に包まれているトライオン3を睨み付けている。

 

『―――こんな所で負けられる訳ないやろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!ワイはコデラはんと皆の思いを背負っているんや!!』

『来ましたか!』

 

 砂煙を吹き飛ばし、姿を現したトライオン3の手に握られているのは、西洋剣のような形状で形作られたビーム刃。それを一気に振り下ろし構えたトライオン3は、破損した片方のモノアイをギロリと光らせジオングを見て叫ぶ。

 

『『『超ッ咆ッ剣!!』』』

『そちらも剣というわけですかぁ!!』

 

 雄叫びを上げたトライオン3がビーム刃を上方に掲げ、正眼の構えで先程と同じように前へ飛び出す。ジオングもトライオン3と同様に飛び出し、双方の実体剣とビーム刃がぶつかり合い、衝突の衝撃で両機体の足場に罅が入る。

 

『はあああああああああああああああああああ!!』

『でぇいやああああああああああああああああ!!』

 

「やっぱり、こういうバトルを見ていて思う。この熱さがガンプラバトルだ……ってな……」

「……」

「……」

 

 目の前のバトルに声が出ないのか、絶句している後輩達に少し笑いながら、モニターへ向き直る。先程のように腕を発射し隙を作るという事はできないだろう。そしてあんな密着に近い状態じゃ、メガ粒子砲は放てない。

 となると、ここで試されるのはガンプラの完成度と、力量……簡単に言えば、退かない方が勝つ。

 

『トライオン3を……ッ舐めるなぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 トライオン3の両腕に仕込まれたスラスターが全開となる。そのまま放たれずに押し込まれた超咆剣と呼ばれたビーム刃は、実体剣の刃に少しずつ罅を入れる。

 

『ぶった切れろやぁぁぁぁぁぁ!!』

『な!?』

 

 バキィンと実体剣を叩き折った超咆剣はすれ違い様に、ジオングの頭部半分よりやや右半身を真っ二つに切り裂く。だがまだ辛うじてだがジオングは生きている。そのまま背後のトライオン3へマニュピレーターを射出しようと腕を伸ばそうとしたその瞬間―――。

 

『これで終いや!ファイナルトライッざぁぁぁ―――んッ!!』

 

 急停止し、そのまま一回転する挙動で、ジオングを横真っ二つに切り裂いた。一瞬の静けさの後、十字に切り裂かれたジオングを背にし、残心を残すようにトライオン3が剣を構えたその瞬間―――。

 

『リベンジ……させてもらいますからね』

『いつでも来いや……受けてたってやるわ』

 

 一瞬の静寂の末に爆発。

 アナウンスと共に天大寺学園の4回戦進出が決定された。 

 

「……トライオン3、個々の力を集結させた結晶とも言っても良いガンプラ……決勝トーナメントに上がるとなれば、当たる確率は高い。……でも、今は目の前のバトルだ。二人とも、いつも通りに行こう」

「「はい!」」

 

 相手は強敵、チーム『大黒刃』心して掛からねばならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はナガレとレイのいるチームか。ハッ、こりゃ見逃せねぇバトルになりそうじゃねえか」

 

 会場内で向かい合う両チーム。チーム『イデガンジン』とチーム『大黒刃』。今から行われるバトルを会場の特別席から見下ろしていると、窓際まで歩み寄ってきたキジマが、興味深げな視線でその光景を見定めていた。

 

「どちらも私達にとっての強敵と成り得るチーム。必見に値する」

「兄さんの言うナガレってそんなに強いファイターなの?」

 

 キジマの真剣な表情に疑問を抱いたのか、シアがそんな質問を投げかける。大会でのこれまでのバトルでは、ナガレはあっという間に敵を粉砕しているから、その実力は見るにも見れなかったが―――。

 

「こと格闘に関しちゃあいつの右に出る奴はいねぇ」

「ああ、危険度で言うなら大会で上位に入るほどと言っても良い」

「そもそもアイツの戦いは比較的シンプルだ。接近して殴る、それだけしかねぇ。かといってバカだとも言いきれねぇのがアイツの怖い所さ」

「アドウの言った通り、ことバトルに関してはシンプルだが、距離を取って戦わせてくれるほど容易い相手ではない」

「……厄介な相手ね……」

 

 キジマは見てないだろうが、合宿の時もレイとナガレがバトってた時も事実そうだった。終始近接戦でレイの装備をほぼ破壊し押し勝っていた。

 

「それに……あのカナコというファイターは……」

「そいつがどうしたんだ?」

「いや、なんでもない」

 

 会場で若干疲れた様に肩を落としている女を訝しげに見ているキジマに微かな違和感を感じつつ、レイの方に視線を向ける。

 

「……!!」

 

 ベースに乗せられたガンプラに新たな改修が施されている。ジンクスⅣにブースターが取り付けられている。

 

「はっ、ようやく本領発揮と言う所かよ!」

「それぞれのリーチに応じた装備を備えたバックパック、これが君の出した答えか」

 

 いよいよこのバトル、どうなるか分からなくなってきたぜ……ッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バトル開始の合図と共にフィールドに飛び出した俺達。

 フィールドはコロニーの残骸が漂う宇宙。遮蔽物が多いこのステージは、かなり……いや凄く厄介だと言っても良い。

 

「先輩、調子は?」

「ブースターの調子は……良好だ」

「なら作戦は予定通りに?」

「ああ、変わらずだ」

 

 今回の作戦は――――ッ。

 遙か前方から放たれた二つのビーム砲を回避する。恐らくヴァンセイバーの砲撃、あくまで牽制だろうが、これはある意味で都合が良い。

 

「俺が先行する!ついて来い!!」

「「はい!」」

 

 ブースターに粒子を注ぎ込み一気にビームが発射された地点へ加速すると共に、前方に掲げたクリアランスの切っ先を前方に向ける。ビーム発射口であるクリアランス内の根元に内蔵された砲口に粒子をチャージし、圧縮と共にクリアランスの部分が淡い緑色に輝くのを確認し、一気に放つ。

 

「お返しだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……外したな」

「下手くそが!」

「牽制だから当たらなくていいんだよ!?」

 

 MA状態のヴァンセイバーの砲撃から数秒、相手の出方を覗うために一旦待機しているのはいいものの、味方がすごくうるさいのはなんとかならない物だろうか。―――いや、今は頭を切り替えよう。さっきの砲撃でこちらの位置を特定したレイさんはこちらへ攻め居る、は……ず?

 

 レイさんがいるであろう場所から、球体状のエネルギー体が凄まじい勢いで飛んで来た。イデオンにもガンバスターにもない兵器。それは四散する形でそれを回避した私達の背後に飛んで行き、コロニーの残骸に直撃し洒落にならない爆発を発生させ残骸を消滅させる。

 

「や、やば……なんちゅーもんを……」

「カナコ!よそ見している暇はないぞ!」

「どうやら来たようだぜ!」

 

 すぐさま前方のモニターを拡大し、砲撃を撃ってきたであろう敵機を見据える。

 拡大されたモニターには、大会では見る事の無かった物を背負っているジンクスⅣの姿と、それを筆頭に背後からついてくるイデオンとガンバスター。

 

 ジンクスⅣの手の中にはクリアパーツで作られたランスがあることから、先程の砲撃はアレと見てもいいだろう。

 

「ナガレ!連携を崩せ!!」

「おうよ!」

 

 ナガレのGマスターが黒いマントを身に纏い先行する。その後ろからMA形態の私とセンガがついて行く。相手との距離が狭まると同時に手筈通りにナガレのスパイラルゲッタービームが放たれる。

 

 あわよくばこれで連携を崩す、無理ならナガレを突っ込ませて無理やりにでも崩す。

 

『読み通りだ……ッ』

「は?読み、通り……?」

 

 そうレイさんのジンクスから声が聞こえた瞬間、仲間に指示を出さずにそのままさらに加速し、ビームを放ったナガレ目掛けて突っ込んだ。驚愕しながらジンクスⅣの背後を見ると、イデオンを守る様に停滞したガンバスターがマントのようなものを背後から取り出し、ナガレのビームを弾き防いでいた。

 我梅学園で使ったような戦法は使えないか……。

 ならこちらも作戦を変更しなければならない。

 

『アドヴァンスドブースターならぁ――――!』

 

 迫り来るビームをロールしながら回避し、クリアランスに長く光るビーム刃を発生させ、ナガレのGマスターへ突き出した。

 

「ナガレ!」

「へっ、やるかよぉ!!」

『貫けッ!!』

 

 トマホークとランスがぶつかり、反発し合うように両者が弾かれる。

 こちらも援護しようとビームライフルを向けようとするも、ジンクスⅣの背後からこちらの動きを阻害するようにミサイルがイデオンから放たれ、その挙動を止められる。

 

 その間に、ジンクスⅣはクリアランスを宙空に置く様に手放し、ガチャンと言う音と共にバックパックから外された二つの小ぶりなランスを両手に握り、同時に繰り出す。対してナガレはスパイクを展開させた両腕で対処する。

 

「ッらあああああああ!!」

 

 二つのランスの切っ先とスパイクが接触する。力での勝負ならナガレに圧倒的に分があるが、それが分からないレイさんではない。ギャリギャリとランスを軋ませながらも、彼はトリガーを引いた。

 

 ランスの根元から放たれるビームマシンガン―――超近距離から放たれたビームの雨に咄嗟に腕をクロスさせて、殺到するビームの弾幕を防ぐGマスター。

 

「効くかよォ!!」

『知ってる!』

「うお!?」

 

 ビームマシンガンでナガレの視界を潰した上で勢いに乗った蹴りを食らわし、Gマスターを後方へ蹴っ飛ばしてしまった。あのバカを手玉に取る時点でかなり異常だ。

 ……というより、前のバトルでナガレとのバトルに慣れてしまった?いや、そもそも戦い慣れているという印象さえある。

 

「センガ!ナガレとここは任せた!!」

「承知!」

「おい、待て!まだ俺が―――」

 

 この際無視!ほぼ無傷のGマスターを確認しながら、MS形態へ変形し加速と共にサーベルを引き抜く。私がジンクスⅣを抑える。

 多分、ナガレとセンガじゃ時間内に決着がつかないッ。

 

「私が相手だよ!」

『………』

 

 両の手のランスをバックパックに戻したジンクスは、先程宙空に置いたクリアランスを掴みとると後ろを振り向き飛び去る。

 

「……は?……いえ、そういうことか!!」

 

 突然の退避に面を喰らうが、相手の真意に気付き、すぐさまMA形態に変形しジンクスを追跡する。何故この場から離れたのか、それは単純、相手も私達と同じような作戦を考えていたからだ。

 

 チームの中核を担うリーダーの排除と各個撃破。

 

 イデガンジンの場合はレイさん。

 大黒刃の場合はこの私。

 

 目的が同じじゃあこうも滅茶苦茶になる訳だ。なにせレイさんの目的は、私をナガレとセンガから引き離す事だったんだもの。

 

「でも、甘い……甘いよ!!」

『……ッ!?』

 

 MA形態でジンクスⅣの前方のデブリを打ち抜き、ジンクスⅣの動きを止める。その瞬間を狙い変形と共にサーベルを引き抜き斬りかかる。

 クリアランスでサーベルを防がれるが、お構いなしにサーベルを押し込み、お互いのメインカメラを激突させそのまま押し込む。

 

「私の仲間を舐めないで!あいつらはバカで言う事聞かないし滅茶苦茶でアホだけど!!ことバトルに関しては普通に強い!!」

『それは俺も同じ、二人は俺をここまで支えてくれた後輩達ッそう簡単に負ける程弱くない!!』

 

 ジンクスⅣの機体の表面が緑色の粒子に覆われると同時に、粒子が放たれ機体が吹き飛ばされる。体表に纏った粒子を形として打ち出したの!?

 

『俺はお前と戦い、勝つ!!』

 

 クリアランスをこちらに投擲し、バックパックから弾き飛ばされたダガーに似た武装を逆手で持つように両手に装備すると同時に、腰部から前にせり出されたランスからビームが放たれる。

 

「違う!勝つのは私!!」

 

 先行してきたクリアランスを蹴りとばし、アルミューレ・リュミエールのビームバリアで防ぐ。案の定防御した隙を狙って斬りかかって来るジンクスⅣ。だがこのシールドは光波防御シールド、物理攻撃もビーム攻撃も弾く最強の盾!

 

「アルミューレ・リュミエールを貫けるかッ!!」

 

 盾で体当たりを仕掛けジンクスⅣの体勢を崩しつつサーベルを2本引き抜き、敢えて不利な接近戦へと望む。

 

 集中するんだ。何時もしてきたように、自分の注視するものしか目がいかないような……極限の中で思考する私だけの時間の中に―――。

 

「―――」

 

 サーベルとダガーが凄まじい速さで斬り合う。いなし、弾き、逸らされる。

 相手の息を吞む声が聞こえるが、そんな声に気にもならずにただ一心不乱に手を動かし続け、サーベルを叩きつける。

 

「うおおおおおおおお……ッ!」

『ぐっ……』

 

 このまま押し切る。あわよくば倒す。

 無理だったら助けが来るまで粘るッ。やや後ろ向きな気合いを入れながら果敢にサーベルを振り回し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ、先輩の作戦通りだね。コスモ」

「ああ、後は俺達の仕事だ」

 

 先輩がマガノイクタチ持ちのヴァンセイバーを連れてここから離してくれた。このバトルにおいて最初に先輩に言われた言葉は『前に出るな』だった。マガノイクタチは粒子を吸い取る凶悪な装備、粒子を多く使う私達にとってはまさに天敵そのもの。

 でもその障害が取り除かれた今なら思う存分にバトルすることができる。

 

『おうらぁッ!!』

 

 先輩と戦っていたゲッターもどきが拳を繰り出してくる。合宿でも見たがこの人は強い、そして先輩相手に優勢に戦ったファイターでもある。―――だからこそ、私がこの人と戦わなくてはならない。

 先輩に任された私の役割だから……ッ。

 

 繰り出された拳を右腕で掴み取る。

 

『何!?』

「パワーが貴方の専売特許と思わないでちょうだい!」

『はっ!』

 

 続いて突きだされた左拳も掴み取る。必然的に組み合う形にはなるが、退くつもりは無い。もう、県大会の決勝の時のような無様な姿は晒さないと誓った。

 先輩と肩を並べて戦うと決めた。

 

「だから!私は―――」

『チェェェェストォォォォォ!!!』

「!?」

 

 ナガレの背後から黒と赤が入り混じった大柄なアストレイが飛び出し、背後のコスモへ大剣ではなく、拳を叩きつけた。

 

「のおおおおお!?」

『場所を変えさせてもらうぞッ!!』

 

 凄まじい膂力で防御した腕ごと機体が後方へ吹き飛ばされたイデオンの肩を掴み、そのまま背後に見える巨大なコロニーの残骸へと押し込んでいくアストレイの姿を見て、思わず叫んでしまうが、その瞬間にものすごい力でGマスターが前で押し込んで来る。

 

『余所見している暇なんてねえだろうがァ!!』

 

 力が抜けた所を突いて一気に押し出してきたGマスターに、膝蹴りを当て距離を取る。これといった損傷は無し、先輩の言ったとおりにすごい装甲だ。

 

『お前も相当やるじゃねぇか!!ゲッタァァットマホォォォゥク!!』

 

 腰から引き抜いたトマホークをこちらに投げつけてくるが、こちらも背に装備された武器を捕りだしてトマホークを弾き飛ばす。

 

『ッ……テメェ……そいつは……』

 

 トマホークをキャッチしたGマスターは、私のガンバスターの持っている武装を見て、驚く様に硬直する。当然だろう、なんせ私の持っている武装は『バスタートマホーク』。設定上存在するゲッターロボと同じ斧状の武装。もう片方の腕に同じものを装備させる。

 

「持っている武器は同じ!ならやる事は分かってるよね!」

『ッ!いいぜぇそういうの!!面白れぇ!!いっちょ泥臭ぇ殴り合いでもおっぱじめるかァ!!』

 

 正直、すごく怖い。なにせ怖い声だし、マスターガンダムの威圧感も半端ない。ファイターの人の顔も怖いし、戦い方も荒々しい。

 

 でも―――。

 

「やります!!」

『かかってきな!』

 

 私は、私達は負けない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナコをノリコとコスモのいる場から引き離してから数分が経つ。でも体感的には引き伸ばされたかのように長い時間に感じる。

 

『―――ッ!』

 

 ある時を境にしてカナコの動きが様変わりした。圧倒的な精密性と絶え間ない攻撃。強制的に近接戦闘を強いられてしまう程の反射神経で、俺の反応を先読みするが如く手を潰してくる。

 

「俺の動きを先読みしてるのか!!」

 

 GNクナイで振るわれるサーベルを弾き返しつつ腰のショットランサーを射出するも、凄まじい速さで切り払われてしまう。どうするべきか、大きな損傷は負っていないが、それは相手も同じ。

 

「怪我を恐れちゃ勝利は見えないか……ッなら!」

 

 GNクナイをヴァンセイバーのメインカメラに投擲し、もう片方のGNクナイのビーム刃を発生させ胴体を狙う。

 案の定、投擲したGNクナイはいなされ、その切っ先は繰り出した腕に向けられる。このままでは腕が切り飛ばされてしまうだろうが―――。

 

「トランザム!!」

 

 瞬間的な加速で上回れば問題ない!

 

「読めるものなら読んでみろ!!」

『―――んなぁ!?』

 

 GNクナイのビーム刃はトランザムの超加速によりサーベルが腕を斬り飛ばすよりも早く、ヴァンセイバーの脇腹に当たる部分に突き刺さる。ここで少しは怯んでくれれば儲けものだが……。

 

『この、程度ォ!!』

「ッッ!」

 

 左腕部が切り飛ばされ、トランザムと共に発動したアシムレイトの痛みが左腕を襲う。歯を食い縛りながら、右腕に纏った粒子の帯でサーベルを持つ手首を粉砕する。

 

 一時、その場から後方に下がるついでにGNロングバレルを腰からパージし、右腕に装備させたGNビームライフルに連結させ高出力のビームを放つ。

 

『そろそろやられてよ!』

「無茶を言ってくれる!!」

 

 MA形態に変形しビームから逃れたヴァンセイバーをトランザム状態のまま追跡する。流石MAだけあって速い、加えてカナコのビルダーとしての技術が優れているからか、トランザム状態のジンクスⅣと同等のスピードを有している。

 

「でも俺には!!」

 

 先程、カナコに蹴り飛ばされたクリアランスを回収し、さらにスピードを上げる。

 まだ上がる。アドヴァンスドブースターのスペックならもっと上がるはずだ。

 

「もっと……もっと速く……あいつより速くッ」

 

 右腕、両足の排出口から溢れんばかりに赤い帯が飛び出し後方へ流れ、切り裂かれた左腕の断面からは、血が噴出するように緑色の粒子が噴出している。加えてアドヴァンスドブースターのGNドライブからは、四肢から流れ出る赤い帯が、尾の様に後ろへ広がっている。

 

『―――私の知らない機能……ッ!』

 

 周りの景色が青から黄色へと変わる。即ちガンプラ活動範囲のイエローゾーンに入ってしまったという事。

 

「ぐ、ぐおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 それに合わせて身体が軋むように悲鳴を上げている。機体を大きく回転すると共に、帯を前方目掛けて螺旋状に変質させ、ガンプラにかかる負荷を和らげると同時にさらに加速する。

 

「お前を二人の所へ行かせるわけにはいかない……ッだから!」

 

 距離が狭まると同時に真赤に染まったクリアランスを構え、自身の体にかかる負荷を紛らわすように声を絞り出す。

 

「此処で落とす!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背後から迫って来る赤い輝きを放つガンプラ、ヴァンセイバーのフルパワーの出力で飛んでいても追いつかれそうなほどの超スピード。トランザム状態にある今、力で圧倒される可能性があるからこの方法を取ってはいるものの、これでは自分から追い詰められに行ったようなものだ。

 

「私にだって打つ手はあるんだよ!!」

 

 逃げられないんなら迎え撃てば良い話。機体を反転させ、こちらに突っ込んで来るジンクスⅣへMA状態で突貫する。

 

「アルミューレ・リュミエール!!」

 

 ヴァンセイバーの砲身からアルミューレ・リュミエールの力場を作り出し、それを鋭利な三角錐状へと変える。

 

「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

『貫けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 ジンクスⅣのクリアランスがアルミューレ・リュミエールに衝突する。衝突の衝撃でガンプラがギシギシと軋み上げるが、負担が掛かっているのは相手も同じ。

 

「―――くぅ……っ!」

 

 ビキリとアルミューレ・リュミエールに歪みが生じ、力場を発生する砲身から煙が噴き出る。一瞬の拮抗でこれとかどれだけの破壊力を秘めているんだよ。VーMAXかよ!これ絶対トランザムじゃない!トランザムってこういう使い方しないもん!!

 

「それでもッ!!」

 

 私が突っ込んだのは正面からジンクスⅣを倒そうと思ったからじゃない!

 機体上方のスラスターを一瞬だけ噴かし、拮抗状態から一瞬の内にジンクスⅣの側面に移動し、マガノイクタチを起動し、ジンクスⅣを挟み込む。

 

『……ッ!?』

「私の……ッ勝ちだ!!」

 

 粒子吸収さえできれば私はまだ戦える。相手を拘束したまま粒子吸収を開始する。粒子吸収さえしてしまえば、相手は一定のパワーがないと抗う事すらできない。

 しかも、ジンクスⅣのトランザムはマガノイクタチで拘束した時には既に―――。

 

「……ない!?」

 

 さっきまであったブースターが何時の間にか切り離されている。それに腰部分の部品もごっそり消えている。しかもよく見れば粒子の吸収が遅い。導かれる結論は―――。

 

「まだ―――」

『その隙ッ頂いたぞカナコ!!』

 

 斜め上から声が降って来ると同時に、ヴァンセイバーの背部スラスターが爆発する。バラバラと炸裂音が聞こえた事から、恐らくはバルカンで狙い撃ちされたと見ても良い。

 

「コアファイター!?」

 

 バルカンを撃ちながらこちらへ突っ込んで来るのは灰色のコアファイター。ジンクスⅣにコアファイターってあったっけ!?オリジナルギミック?!いやそんな事よりも―――。

 

『設定再現は醍醐味だろう!』

「そんな飛行機落としてやるよぉ!!」

 

 頭部バルカンでコアファイターを狙う、が、複雑な機動を描いたコアファイターはバルカンの雨を容易く掻い潜り、ジンクスⅣの元へ飛んで行く。

 だが、あのジンクスの中には粒子はもうない。その事を知らない筈がない、がそれを止めてやるほど私は優しくはない。破損していない方の腕でサーベルを取り出し、ジンクスⅣを突き刺そうと振り上げる。

 

「その中身は空っぽだよ!」

『いいや!!俺には見えている!!』

「え!?」

 

 ジンクスⅣが合体すると同時に、ジンクスの後方、私のヴァンセイバーの前方からジンクスⅣが背負っていたブースターが凄まじい勢いでこちらへ迫り、コアファイターが入り込んだジンクスⅣに再び合体した。

 

「まさか……ッ!」

『お前の粒子吸収は確かにヤバイ……だが、その吸収する粒子が貯蔵されるメイン出力を切り離せば話は別だ!!』

 

 目に見える程力を取り戻したジンクスⅣが、急いで振り下ろしたサーベルを後方に下がる挙動で回避する。そして背に装備されたGNバスターソードを右腕で引き抜いた。

 

「だから私のマガノイクタチが当たる前にブースターをパージしたんだね……」

『コアファイターはお前からブースターの存在を欺くためのブラフだ』

 

 要するに私は読み負けたということか。

 ここまで完敗だとぐうの音も出ない。

 

『まさか使うとは思ってなかったけど……』

「は?」

 

 ―――なにそれ納得いかない。そう言葉を発しようとした瞬間、私のヴァンセイバーはGNバスターソードにより切り裂かれ行動不能となった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンドウ・レイとアスハ・カナコのバトルに決着がついたその時、会場内でその様子を見ていたメイジンは、額に浮かべた汗を安堵の表情で拭っていた。

 

 先程のバトル、正直に言う所危険な所だった。彼ならばセカイ君のように無茶はしないと思ってはいたのだが、まさかトランザムとアシムレイトの相乗作用で、機体の限界を超えた速さで移動を行うとは思わなかった。

 しかし、それが原因で機体が瓦解するほどの凶悪な加速でファイターを傷つける、危険極まりないものへと変わってしまった。セカイ君とは違い、あの昨日は機体自体が瓦解してしまうようなもの、文字通り『バラバラになるほどの痛み』がファイターを襲うこともありえる。

 流石に止めるべきかと逡巡はしたが、まさか―――。

 

「彼のブースター、それが機体のダメージを緩和させたのか!」

「それだけじゃないわ。物質化した帯はアルミューレ・リュミエールをも貫いた。恐らくアスハ・カナコが全ての粒子エネルギーを用いての捨て身に近い突貫を真っ向からね」

 

 名はアドヴァンスドブースターと言ったか、流れ出る粒子が物体化した帯を前方へ流すように展開することで、機体に掛かる負荷を最小限に留めた。そして前方へ転回された帯はそのまま機体を守る槍となり、敵を粉砕する。

 

「己の弱点を補いつつ攻勢に転じた。攻守一体のシステム!」

「まるで貴方を彷彿とさせるファイターじゃない」

「『紅の彗星』ではなく『赤い流星』か……言い得て妙だ」

 

 しかし、レイ君と互角以上に戦っていたカナコと呼ばれる少女も侮りがたい。状況判断能力、それに機転。今回のバトル、レイ君のガンプラへの隠しギミック、コアファイターと、GNドライブの分離が無ければ勝っていたのは彼女だろう。

 恐らくあのコアファイターは、設定だけ存在する『ジンクスⅣコアファイター搭載型』を再現したものだろう。まさにジンクスへの愛に満ち溢れたギミック。

 

「結果だけ見れば彼女の負けだけど、実は紙一重のバトルだったわ。お互いが似たようなタイプのファイターだけあって、『読み』の勝負だった訳だし」

「―――だが、問題はこの後のバトルだ」

 

 チーム『大黒刃』のリーダーが撃墜され、戦力が減ってしまった。

 そしてチーム『イデガンジン』も―――。

 

「恐らくレイ君のジンクスの粒子は三分の一を切っているだろう」

「吸収は免れたんじゃ?」

「彼自身、アスハ・カナコがあのタイミングでマガノイクタチを使うとまでは予想していなかったのだろう。事前に分かっていれば、機体にマガノイクタチの餌食となる粒子を残してはいなかった……」

「つまり、咄嗟に切り離したブースターには機体に巡らしていた粒子が消え、貯蔵している分しかないと言う事?」

 

 彼女の言葉に頷き、ヴァンセイバーを両断したジンクスⅣを見やる。あのタイミングであそこまでの事をやり遂げるのは驚嘆に値するが、残りの時間を戦うとしては中々に厳しい状態になってしまった。

 

「しかも、彼は捕獲された機体から粒子を吸収されないよう、残留粒子でトランザムの発動終了を演出し、コアファイターで難を逃れた……恐らく切り離されたブースターをカモフラージュする為でもあるだろうが……」

「払った代償が大きすぎた、ということね」

 

 つまりチーム『イデガンジン』は、これまで支えにしてきたアンドウ・レイという人物を欠いた中で、後半戦に突入しなければならないということだ。

 

「さて、どうなるか……」

 

 

 

 




BFTのトーナメント表は何処かおかしい(確信)
何で左と右で数に偏りができるんだろう……?


今回のジオングは技をダンクーガに近い感じにさせました。
たまには純粋なガンプラバトルをした方がいいと思いましたからね(錯乱)

そして直ぐに使う事になってしまったコアファイター。
バルカンがついている所はオリジナルですが、ジンクスⅣのコアファイターと言うものは設定だけですがあります。

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