今話はバトルが二つあります。
『Battle!Start!!』
プラフスキー粒子によって生成された宇宙に三つの光が飛び出す。チーム『ホワイトウルフ』、鹿児島県代表、我梅学園の生徒である。彼らの高機動型ザクが敵機が出てくるであろう場所へと飛ぶ。
「敵は……?」
「へっ、怖じ気づいたんじゃねぇのか」
「俺達にビビってさぁ!」
ホワイトウルフのリーダー、ザク・マーナガムを駆るマツナガが停滞するデブリを避けながらフィールドを進む。彼のチームメイトであるザク・アルヴァルディのコシバとザク・クラーケンのウズキは、軽口を叩いているようだが、それも彼らなりの緊張をほぐす為の手段。
いつもの事、と思いつつ索敵を続けていると、前方から反応が三つ。
―――敵だ。
『ハッハァ!!狼を食らうのも面白れぇ!!』
1機が突出してこちらへ凄まじいスピードで迫る。あれは近接特化型のガンプラ、Gマスター。それがアストレイタイプのガンダムと、可変MSを率いて来る。
チーム『大黒刃』、ホワイトウルフの二回戦での相手である。
「ウズキ!!」
「俺に任せろ!!」
ザククラーケンが両肩のファンネルと両腕のマニュピレーターを射出し、オールレンジ攻撃を仕掛ける。相手が一纏めになっているこのタイミングで使えば、こちらを優位な状況に持っていくことができる。
ビームを放ちながら先行していったファンネルに対し、先を往くGマスターは靡くマフラーを身に纏いさらにスピードを上げファンネルに突っ込んでいく。
「何を―――」
『バカ一号!落とせ!!』
『うぉっしゃぁぁぁぁ!!!ゲッタァァッ!ビィィィィィィィム!!』
どういう原理なのか、身に纏った黒いマントから漏れ出すように大量のビームが放たれる。不安定な機動を描いた閃光は、宙を舞うファンネルに次々に直撃し、爆発を引き起こした。
「んなバカな……!?」
『バカ二号!!突撃!!』
『心得た!!』
パワードレッドを改修したであろう黒いアストレイが、その手に大剣を掲げ突撃を仕掛ける。
「調子に乗るんじゃねぇ!粉々にしてやる!!」
両手のスパイクシールドを構えたザク・アルヴァルディが、大剣を掲げバカ正直に突っ込んで来る黒色のアストレイに応戦するべく飛び出した。
『いざッ勝負!!』
「食らえやぁぁぁぁぁ!!」
「待て!」
露骨な誘い―――それを止めようと前に出ようとしたザクマーナガム、しかしその瞬間、上方から凄まじい速度で何かが落下してきた。落下してきた可変機体はザクマーナガムの背後を取ると同時に変形し、鋏に似た形状のバックパックを前方に転回し、そのままザクマーナガムを挟み込んだ。
「なッ!?粒子がッ!?」
粒子が凄まじい速さで減っていくと同時に、凄まじい強さで挟まれ軋む機体。ギギギと背後を振り向くと、逆さのままこちらを挟み込んでいるMSが映し出される。
不気味に光るモノアイ。白色の配色―――そしてあれは……。
『短期決戦で行かせて貰う!』
「マガノイクタチッ!ヴァンセイバー改か!?」
ヴァンセイバーに敵機のエネルギーを吸収する武装、マガノイクタチを装備させたガンダム。本来は相手に接触せずとも吸収できるらしいが、相手はこちらの動きを止める為に両腕ごと拘束している。
拘束と無力化を同時に行えることができる厄介な武装……まず一人では解けない。
「ぐあああああああ!!」
「ウズキ!?」
ザククラーケンがGマスターの拳によって貫かれ戦闘不能に陥ってしまった。
これでは相手の思う壺、せめてもの抵抗として右腕に装備されたビームマシンガンを、黒いアストレイに突っ込んでいったザク・アルヴァルディへの援護の為に撃ち出そうと動かすとするも、背後にいるヴァンセイバーがビームライフルでビームマシンガンを落とし、それも失敗に終わる。
「く……ッ、コシバ!下がれ!!」
「……ッ!?クッソォォォォォォ!!」
『向かってくるかッその意気や良し!!』
こちらに気付いたコシバだが、目の前から突撃してくる黒いアストレイの凄まじい気迫に我に返り、再びスパイクシールドを構えスラスターの出力を全開にする。
「まずはテメェを倒して次だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『推して参る!』
スピードを上げたザク・アルヴァルディを迎え撃つように、黒いアストレイは身の丈を優に超える大剣を軽々と横に構え、さらにスピードを上げる。
『チェェェストォォォォォ!!』
「な……早……」
常軌を逸したスピードで薙ぎ払われた大剣はザク・アルヴァルディの構えた盾に叩き付ける。叩きつけられた盾は一瞬の抵抗を見せるもその腕ごと吹き飛ばし、そのまま胴体をすれ違い様に切り裂いた。
「我に……断てぬもの無しッ!」
一瞬の静寂と共にザク・アルヴァルディは爆発し、バトル続行不可能となった。
それと同時にザクマーナガムの粒子が底を尽き、バトルが終了した……。
「うわぁ……」
「凄まじいな」
「色々な意味で凄まじいです……」
ホワイトウルフと大黒刃の試合を控室で見ていた俺達、チーム『イデガンジン』。二回戦を突破した後は、ナガレとのバトルに決まった。決して楽ではない戦いになるだろう。
ナガレのGマスターは勿論、あの黒と赤が混じったアストレイ。戦国アストレイのような重厚な機体からは想像もつかない速さと、パワーがある。あの斬艦刀、と言った大剣から繰り出される一撃は、彼の言ったとおりに全ての装甲を断てる威力を伴っているに違いない。後……多分、あれも硬い。
そして要注意なのが、あのマガノイクタチを装備しているヴァンセイバー。正直言って粒子吸収は怖い。装甲なんて関係無しに問答無用で粒子を奪ってくる……ノリコとコスモの天敵と言ってもいい。ナガレとのバトルを優先させたい気持ちはあるだろうが、三回戦はカナコの相手をしなければならないかもしれない。
「先ずは眼の前のバトルだな。ここで負けては対策も何もない」
「負けませんよ!私達!」
「どんな強い相手でも……行けます」
「やる気は十分だな?行くぞ!」
制服を正し、会場へ移動する。相手はMSとMAを巧みに操るトリッキーな戦術を用いるチーム、『凶鳥の羽ばたき』。
バトルシステムが鎮座する会場に入り込むと、観客席から歓声が上がる。一回戦とはまた違ったその歓声に、少し緊張しながらも、見渡すと。見知った顔が応援席に居ることに気付く。
『応援しに来たぞー!』
『……あまりはしゃぐな……』
「キョウスケにマサキ、来たのか」
二人に軽く手を挙げると、それに気づいたマサキが大きく手を振ってくる。キョウスケは腕を組んだまま微かに微笑を洩らしただけだ。
……ミサキとミサトも来ているのだろうが、人が多すぎて姿が確認できない。
『これよりチーム『イデガンジン』とチーム『凶鳥の羽ばたき』のバトルを開始いたします』
運営のアナウンスの声と共にバトルシステムに立った俺達はそれぞれのガンプラを置き、バトルの準備を済ます。目の前に現れた球体に手を置きゆっくりと深呼吸しながら、心を切り替える。
「ジンクスⅣオリジン!アンドウ・レイ、出るぞ!!」
「ガンバスター、タカマ・ノリコ、行きます!」
「イデオン、ユズキ・コスモ、発進する!」
カタパルトからガンプラが走り出し、空間に浮き出した穴から飛び出す。ステージは……荒野?いや岩石地帯?壁の聳え立つ巨大な岩が並ぶこのステージで戦うという事か。
俺が空を飛び、ノリコとコスモには地上を走ってもらいながらも地形を把握する。重力があるステージではMAの相手が有利か。考えて行動しなければマズイかもしれない。
「コスモ、イデオンガン発射準備」
「え?でもこれを使ったら……」
「相手は一回戦の俺達を見て慎重になっているはずだ。出てこざるを得ないように燻りだす」
「了解」
イデオンガンを機体に接続し前方へ向ける。その間、俺とノリコは一回戦の時と同じように無防備なコスモを守るように周囲を警戒する。岩に囲まれているせいか視界が悪い。
GNロングビームライフルを構えながら宙を漂っていると、頭上でギラギラと輝きを放っている太陽に微かな違和感を感じた。一瞬、何かが動いた……首を動かし上を見上げると―――。
太陽を背にしてこちらを見下ろしている、一機のMAの姿がモニターに移り込む。
「しまった……ッ!コスモ避けろ!!」
「……え?」
コスモの砲撃を妨害する時間はいくらでもあった。だがそうしないということは、あちらはコスモのイデオンガンよりも早く、こちらへ攻撃を仕掛けることができる砲撃を放つことができるという事……ッ。
斜め左方向から光が見えると同時に、二つの巨大なビーム砲がコスモとノリコの居る位置に放たれた。ノリコはビームが来る前に回避できたようだが、チャージ途中にあったコスモはイデオンガンを切り離した瞬間に、片足とイデオンガンがビームに飲み込まれ消滅してしまった。
「やられたかッ。俺が先行する!!コスモ動けるな!?」
「動く分には支障ないです!!」
『外した!?』
空に居るMAはこの際無視。目下はあの砲撃を放ったであろうファイターを先に撃墜する。
見えたのはGディフェンサーの改修機と合体?しているガンダムmk2の改修機の姿。―――イデオンガンのように合体した二機は近づいてくるこちらを視界に納めると、砲身として合体したであろうGディフェンサーをこちらに向け、ミサイルを放つ。
『やるね……でも!!』
「これ以上やらせない!!」
GNロングビームライフルを構え粒子ビームを放つ。放たれたビームは射線上にあったミサイルを撃墜しmk2へと突き進む。
『リオ!解除だ!!』
『ええ!』
「分離か!」
分離することでビームを回避したmk2。スラスターを噴射させているようだが、あれは長く空中に居られないと見た。ノリコに合図を促し、彼女を先行させつつ背後からビームを放ち援護する。
「でぇいやあああああああ!!」
『すごい迫力だ……!!』
ガンバスターの掲げた右腕から凄まじい量の電撃が放たれる。シールドでビームは防げてもアレを防ぐことはできない。
ガンバスターが突き出した拳がmk2の掲げたシールドに直撃するその瞬間、上空からノリコのガンバスター目掛け何かが激突し、機体を地上に叩き付けた。
「いった!?」
『助かった!アオイ君!!』
「もう一機の方か……ノリコ!大丈夫か!?」
「へ、平気です!」
叩き付けられただけなら大丈夫。コスモが追い付いたのを確認しながら、バスターソードを装備し重装甲のGディフェンサーへ接近戦を試みる。
『―――近づかせるな!!』
「!?」
射撃型のGディフェンサーの背に乗ったmk2が背部のバックパックの上方を開きミサイルを覗かせると同時に、それを接近しようとしたこちらに連続で射出する。残りの二機もミサイルを放つ。
この距離でこの量は多い……恐らく追尾式であろうコレを回避しきるのは至難の業。
「先輩はやらせない!!」
「バスタァァァァァッ!ビィィィィム!!」
後方から放たれた小型ミサイルと地上から伸びた光線がこちらへ迫るミサイルを撃ち落とす。ノリコとコスモの支援攻撃―――後輩たちのアシストを頼もしく思いながら、再びバスターソードを握り直し前へ進む。
『リュウト!?』
『アオイ、Gボクサーコンタクト!!』
白煙を切り払った先では、重装甲型のGディフェンサーがmk2の背を覆うような形でドッキングしていた。それだけではただのスーパーガンダムだろうが……違う。
Gディフェンサーに折りたたまれていた中央部のアーマーが下に降り、mk2の脚部を包み込むように収まり、側方に備え付けられた既存のMSのそれをはるかに超える腕部は、mk2の両腕に重ねるように装備される。
―――Gセルフ、高トルクパックのような一回り大きい姿になったmk2は両の拳を大きく打ち鳴らし、拳をこちらへ向け叫んだ。
『これが僕のガンバインとGボクサーの最強形態!!ガンバイン・ボクサーだ!!』
「ガンバイン……ボクサー?」
トライオン3みたいな合体機能を持ったガンプラ。恐らくあの形状からみてセカイ君のように拳で戦うタイプのガンプラのようだ。あの両腕をかぶせるように装備された腕から繰り出される一撃は想像したくない。
「……ガンダムmk2とGディフェンサーをあんな風に使うなんて……盲点だった」
「どういうこと、ユウ君?」
「よく考えてみてください。あれは二機分の機体の粒子が合わさっている機体なんです。つまり単純に出力が二倍……いや、それ以上かもしれません」
そう考えると出力という面では強力。
「一回戦で見たトライオン3、あのガンプラにも同じことが言えます。しかしあのガンバイン、といったMSの合体形態は一つではない」
Gガンナーと呼ばれていた機体が合体した姿、あれが最初にレイさん達を襲ったビームを放った。射撃に特化した形態と格闘に特化した形態を使い分けることができる。しかもmk2を操縦しているファイターも只者じゃない。戦闘の最中に隙の多い合体を戸惑いもなく行うのは驚嘆に値する。
「仲間を信じなくちゃ……できないよね」
「少なくとも、お互いを信じなくては無理でしょう」
攻撃されるかもしれないという不安の中、自身の機体の全てをリーダーに任せる信頼。そして仲間の身を預かる精神力、そのすべてを兼ね備えてこそ成し得る合体……。
「それが、ガンバイン……」
「今年の選手権はどこか違っているようだな……」
「え、ええ、そうね」
レディ・カワグチは現在行われているバトルに戸惑いを感じていた。
いや、現在行われているバトル以前に、今年の大会は参加メンバーが選ぶガンプラはどこかガンダムとは思えないものばかりなのだ。メイジンは大雑把なものしか理解していなさそうだが、彼女は大体を理解していた。
この試合では―――
イデオン
ガンバスター
ヒュッケバイン
AMガンナー
AMボクサー
一応言っておくが、今挙げた機体はガンダムではない。別作品のロボットだ。プラフスキー粒子の万能性が引き起こした産物ともいえるこの状況に、彼女は思わず頭を抱えた。
ツッコみたくない。
ツッコむと自分の年が老けて見えるようになってしまうから。
第一、高校生でイデオンとかを知っている事に驚きだ。普通はファーストガンダムに目が行くはずなのに……。
「スーパーガンダムをこのような形にするとは……ッ見事!」
「最初に砲撃を行ったGディフェンサーも合体していたわね」
「二機の粒子エネルギーを統合してでの大出力砲撃だろう。一機での砲撃よりも早い事に加え威力も高い」
「チーム『イデガンジン』は一杯喰わされたという事かしら?」
「いや、レイ君は仲間に砲撃が放たれる前に位置を伝えていた。Gディフェンサーの居場所及びその目的を瞬時に理解し、仲間に指示を伝えた。この場合、二つのチームの実力は拮抗していると見てもいいだろう」
流石メイジン、見事な観察眼。恐らくここからの戦闘は力と頭脳が試されるチーム戦。制限時間15分以内に決着をつけることが問題になってくる……。
「もう一度ォ!!」
ノリコが飛び上がり、上方へ向かって雷を拳を纏わせた拳を突き出す。それに合わせるように俺もバスターソードを突き出す。
『ガイストナックル!!』
「バスタァァァブレイカァァァァァ!!」
淡い光を帯びたmk2の拳とノリコの雷撃が、目の前で激突し閃光を散らす。一瞬の拮抗こそ見えたが、打ち勝ったのはmk2。
「勝てない……どうして!?」
『力を合わせたんだ!!』
「二人分だからってッこっちも二人だよ!!」
「ノリコ!!」
バスターソードの切っ先が、ガンバスターの頭を潰さんがばかりに拳を掲げたmk2の右腕に当たり、弾く。僅かに動揺したのも束の間、巨大な足でガンバスターを蹴り飛ばしながらこちらへ振り向いたmk2は、再び拳にエネルギーを纏わせる。
突き出された拳をバスターソードで受け流しながら、一気に上方へ円を描く様に加速し、mk2の背後を捉える。
「コスモ俺ごと撃て!!」
「了解!!」
『なっ!?』
接近していたイデオンの胸部と腹部の間のクリアパーツから大出力ビームが放たれる。イデオンガンへチャージしたエネルギーをそのまま放ったもの。イデオンガンよりは遥かに威力は落ちるが、それでも並のガンプラを戦闘不能にする威力がある。俺はGNフィールドである程度防げる。
後はこちらを押さえつければ―――
『リュウト!!』
「支援攻撃か……ッ!?」
最初に分離していたGディフェンサーがミサイルをこちらへ放ってきた。やむを得ずmk2を抑えた腕を離し、追尾してくるミサイルを迎撃するべくその場から離れた。
『はずれた!分離!!』
「コスモ!!」
「全方位!発射!!」
『皆、避けろ!』
分離し回避したが、易々と距離を取らせるほどこちらも甘くはない!最後のミサイルを撃ち落とし、そのまま照準をmk2に向け、ビームを放つ。支援機二機はミサイルに狙われて動けない。今がチャンス。
しかしそれも相手が引き抜いたサーベルによって切り払われる。
『僕だって!負けたくない!!』
「それは誰だって……ッ」
こちらもサーベルを抜き放ち斬りかかる。緑色のサーベルと赤色のサーベルがぶつかり合い、眩い光が散る。落下しながらも剣閃を交わす。接近戦ではこちらに分がある。が、支援機の事を考えると時間はあまりない。
サーベルで押し切られた一瞬の隙をついたmk2は腕部の板状の装備をその手に持ち、こちらへ投げつけてきた。こちらへ回転しながら飛んできた板は十字となり、電撃を纏いながらジンクスを切り裂かんばかりに向かってくる。
『フォトンスラッシャー!!』
「無線兵器……?」
ビームで弾いても少しブレるだけ。ビームはあまり効果がないと判断し、サーベルで回転自体を止めるように切り払い地上へ落とす。
―――距離を与える時間を与えてしまった。容易には近づかせてくれないだろうから……その隙を作らせるのみ!
「ノリコ!ホーミングレーザー!!」
「はい!」
『く……』
簡易型のホーミングレーザーを手の平から発射し、mk2へと殺到させる。こちらも被弾する可能性がある危険な行為だが……仲間を信じなければ何がリーダーだ。被弾覚悟でレーザーの雨を潜り抜け、回避に専念しているmk2をモニターに捉えると同時に、mk2の肩にサーベルを突き刺し方にマウントされているバスターソードを手に取る。
「これで―――ッ!?」
『させない!』
『リオ!?』
幾分か被弾したように見えるGディフェンサーがこちらの動きを邪魔するように体当たりをしてきた。反動でバスターソードが手から離れ地上に落ちて行ってしまった……。
『まだ動けるわ!』
『………アオイ!もう一度合体するぞ!!』
「しま……ッ」
気付いた時にはもう遅く、凄まじい速さでガンバインボクサーへと合体を果たしたmk2は、ミサイルを放ちながら近づいていったコスモのイデオン目掛けて下降気味の蹴りを放つ。赤熱したように赤く光った脚部はコスモのイデオンの右肩に叩き込まれた。
――――堅牢なはずのコスモのイデオンの装甲が割れる。
『カタパルトキィィック!!』
「ぐあッ……」
「コスモ!?」
蹴られた勢いで地上へ消えていくイデオン。
「コスモはまだ倒れていない!」
「分かってます!!」
mk2から距離を取ると同時にコスモを助けに行く。
残り時間も少ない……早く決着を付けなければ負けるのは俺達かもしれない……。
「ハァ……ハァ……強い……強すぎるよ……」
僕たちの攻撃が有効打に成り得ない。県大会ではどんな相手の装甲も砕く事もできたのに、今回のバトルはどうだ?イデオンもガンバスターも硬いし、ジンクスのパイロットは巧い。仲間への指示もガンプラの操作技術も……。
今は押しているが、粒子量と皆の損傷を考えると、残り時間のうちに押されてしまう可能性が高い。
「リュウト、アレをやりましょう」
「あれをやったら君の機体は保たない……」
あれは機体がある程度万全な時に使用を限定した広範囲攻撃。今のように損傷を受けた状態での砲撃は、リオのGガンナーが自壊してしまう可能性がある。
「くっ……」
「……俺達はなんのために戦っている?」
「アオイ……?」
何時も無口な彼の言葉……何のために?勝利の為……いや違う、そんな目的は県大会で優勝した時にもう果たされた。なら何だ?
全国で優勝するためか?
強いファイターと戦うためか?
いや、違う。全然違う。
「皆で勝ちたいからでしょ?」
「それが俺達のガンバイン。そうだろうリュウト」
「……そうだったね」
きっと目の前の彼らも同じ、皆で勝ちたい。だから皆で戦える機体を作った。合体も飛ぶこともできつつ、特別なカッコいいロボット。
「私の事は気にしないで、だからGガンナーの全ての粒子を籠めた一撃を……!」
「……分かったよ。ボクサー!ガンナー!ジェネレーターフルコンタクト!!」
僕達の奥の手、ガンバイン、Gボクサー、Gガンナー全てのジェネレーターを直結させた必殺技。最高出力の砲撃。
「二人とも、僕に力を貸して!」
「貴方が望むなら……」
「お前に委ねるぞ!」
GガンナーとGボクサーの全ての粒子エネルギーがガンバインに注ぎ込まれる。エネルギーは十分、行ける。照準は下方に居る敵機に定める。
「ジェネレーターコネクト!ターゲットロック!!」
4つの砲身に集められた紫色の粒子エネルギーが溢れ出し、球体へと変化する。この威力、食らえば唯じゃ済まない……。
『まだ俺達は!負けてない!!』
「……ッ!」
ジンクスに支えられたイデオンと、ガンバスターがこちらを向いている。イデオンが両腕に、ガンバスターは頭部にエネルギーを集約している。
『ガンプラがファイターの思いで強くなるなら……応えて見せろ!イデオン!!』
『私達は……負けない!!』
装甲の隙間と罅割れた肩部から赤色の光が漏れ出しイデオンの体を包み込む。あれが何の光かは分からない。だがとても危険な光だということは理解できる。
でもいまさら引けるか!こっちだって捨て身の覚悟で仕掛けるんだ!
「フルインパクトキャノン!!」
4つの砲身で収束したエネルギーはそのまま凄まじい奔流となり前方へ放たれる。前方に固定したGガンナーの機体が軋む―――これ以上の出力はGガンナーが崩壊する……ッ。
「でも、ここでやめたら男じゃない!!いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
『イデオンッソォォォド!!』
『フルパワー!バスタァァァァァビィィィィィィム!!』
双方から強烈なビームが放たれる。
一方は紫色の四つの光線。
一方は、白色の二つの光線と、黄色の光線。
天と地から放たれたそれらは激突し嵐を呼び、岩々を削り取るほどの衝撃を生み出した。
会場は静まり返っていた。誰もがこのバトルの行く末に注目していた……。
光で満ちたモニターを仁王立ちで見ていたメイジン・カワグチ。最初こそは座っていた彼だが、バトル中盤になってからはいつの間にか椅子から立ち上がり、迫真の表情で彼らのバトルに注目していた。
「……お互いの力を本気でぶつけ合う、燃え上がるなぁッガンプラ!!」
加えて懐かしいものまで見せてもらった。
サイコフレームの輝き、かつて自身が扱っていたあのガンプラに重なる光をまたこの目に見るとは思いもしなかった。……ガンプラが楽しくて楽しくて仕方がなかったあの頃の自分を見ているようだ。
「これで終わり、という訳ではないでしょうね」
「勿論、ここで終わるなどありえないだろう。時間制限など以ての他」
『カタパルトキィィィィック!!』
ビーム同士の激突により生じた砂煙の中から飛び蹴りを放つガンバインボクサーの姿がモニターに映し出された。そう、まだ終わっていない、彼らはまだ諦めていない。
勝利を掴むことを、バトルすることを諦めていないのだ。
『トランザム!!』
同じく地上から一気のMSが飛び出してくる。
灰色の装甲を赤く輝かせたガンプラ、自身の体から流れる赤色の帯を赤い軌跡として上昇したジンクスⅣオリジンは、mk2の繰り出したキックとランスを激突させる。
「今こそ流星となり駆け巡れ!!レイ君!!」
『はあああああああ!!』
ノリコとコスモが開いてくれた活路、無駄にはしない。
二人の粒子エネルギーを全て使い切らなければ防げなかったあの砲撃はもう撃てない。
『負けるかぁぁぁぁ!!』
「ッ!!」
mk2がキックから突如姿勢を変え、無理やり拳を繰り出してきた。それがトランザム中のジンクスの腹部に当たり体勢を崩す。その隙をついたのか、粒子を集めた拳を続いて叩き付け、無理やり距離を取られてしまった。
『アオイ、スラッシュモード起動!』
『ああ!』
距離が開いたその瞬間、mk2の機体を覆っていたGディフェンサーが分離し、脚部の部分が変形し刃のような形状になり、その上にmk2が乗る。ボードのようにそれを乗りこなした相手は、俺目掛けて突撃してくる。
『Gソード!ダイバァ――――!!』
「そう来るか……ッ!」
クリアランスを出している時間はない。ならば、腕部の粒子の帯を巻き付けそのまま迎え撃つ。
『行ッけぇぇ!!』
剣に変形したGディフェンサーの威力を上げる為か、そのまま勢いよく押し込む様に飛び降りたmk2。加速するGディフェンサー。
「右腕は……くれてやる!!」
アシムレイトが発動しているのは百も承知。その上でカウンターの要領でGディフェンダーに粒子を纏った拳を突き出した。拳が激突すると共に右腕に激痛が走るが、構わず拳を振り切り、Gディフェンサーを押し返す。
歯を食いしばり痛みに耐えながらも空いている左腕で、ランスの外殻をパージしクリアランスへと変える。
「ぐ、おおおおおおおお……」
『……な!?押し返している……!?』
左腕のランスを逆手に持ち、上から押し返したGディフェンダーにランスを突き刺し、行動不能に陥らせる。抵抗を失ったGディフェンダーが地に落ちていく。だらりと下がった右腕部、こちらも右腕が死んだ……。
痛みで荒くなった息を整え、間髪入れずに逆手に持ったままのクリアランスから長大なビーム刃を発生させる。呆然と宙を漂っていたmk2は近づいてくる俺の機体をしっかりと見て、やり遂げたような声音で小さく何かを呟いた。
『……出し切ったよ……僕……』
「ッ!……最高の……バトルだったッ!」
すれ違い様に振るわれたビーム刃はmk2の肩から脇腹付近までを切り裂いた……。
【BATTLE!END!!】
『二回戦!このバトルを制したのは暮機坂高校チーム『イデガンジン』です!』
「勝ったのはレイのチームか。へっ、上等だ」
「きつい戦いになりそうだ……」
激戦を制したのはチーム『イデガンジン』。イデオンとガンバスターを率いるジンクスのチーム。多分、どんなに対策をとっても安心はできないだろう。
なにせ、イデオンの発した光、ガンバスターの電撃……そしてジンクスの赤い光の帯、腕に巻き付けて殴るとか普通は考え付かないでしょ……。
「なに難しい事考えてんだよカナコ」
「あんたらが考えない分私が考えているんでしょうが!!」
「経験上言わせてもらうがよぉ……レイみてぇなチームにはな、力押しの方がいいんだよ」
「そりゃ……お前らはそうだろ!」
大会で遠距離中心のチームがいた時のこいつらの行動はいつも同じ。とりあえず手持ちの武器をブーメランの如く投げつけることだ。ナガレは良い、ちゃんと戻ってくれるから。
でもセンガは一撃必殺とばかりに力の限り投げつけるから投げる機構をつけても戻ってこない!
「……お前らはいつも通りにやっていいよ……私は私で頑張るよ……」
でも、いくらこいつらでも簡単にはいかないだろう。
そんな漠然とした予感を感じながら、今日何度目か分からない大きなため息を吐くのだった……。
正直に言うと本編でホワイトウルフってあまり戦っているシーン無いからどんな戦い方するか分からないので、書こうにも書けなかった……。
トライオン3が三機分粒子エネルギーを持っている、という話から、合体すれば粒子エネルギーが普通の機体より多くなると解釈しました。
前話で書くのを忘れていましたが、アオイの元キャラはいません。