ISクロスGS ザ・グレート・ゲーム  【IS世界に横島忠夫を放り込んでみた】   作:監督

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第9話

 

「『地脈』の枯渇か……考えたくもないな。真耶、束からの報告は?」

 

「ここ何ヶ月かはありません。その代わりの無人機襲撃、と言えなくもないんでしょうけれど」

 

「束ちゃんらしいっちゃあ、らしいけどな」

 

 

乾いた笑いが、重苦しい雰囲気に包まれた地下室に響く。

実験するならするで、一言欲しいもんだと横島が愚痴る。

 

 

「相変わらず『我が輩は猫である』でどっかに?」

 

「私にも、たまに秘匿回線で連絡がある程度だ。ステルスと光学迷彩で見つけるのは不可能だよーなんて呑気な事を言っていたが……」

 

「ISコア搭載の移動研究所、でしたか。ISの基本機能も装備されているから、少々のミサイルも効かない……研究所と言うより、まさに要塞ですね」

 

「積極的な攻撃機能はついてないらしいけど、どこまでホントだか……ま、今の俺たちには、とりあえずアレに搭載した『対悪魔高精度探査装置(スーパー見鬼君)』からのデータがあればいいけどな。真耶ちゃん、借りるよ?」

 

 

横島が打ち込んだコマンドに応えて表示された、赤い光点。

 

 

「前回束ちゃんから貰ったデータと今回の俺のデータで、ある程度実証データが揃ったんだけど、予想通りだったな。ここんところの地脈と精霊石探索も、無駄じゃなかった訳だ」

 

 

ここ数年のDD出現ポイントを示し、時間軸を追う事に増えていくそれは、地脈の上に重なるように増加していき、現在を指し示すタイムスタンプで止まった。

世界中に広がる光点を見ながら、横島が告げる。

 

 

「あいつらが出現するポイントは、大まかには地脈と重なる事がわかった。これだけでも収穫だよ」

 

「……つまり、奴らが現れたポイントを探れば、地脈が見つかる可能性が高い訳か」

 

「その逆もしかり、だな。地脈と奴らの関係性に一定の目処をつける事が出来たってことは」

 

 

横島は、普段とは違う厳しい表情で顔を伏せ、何かを思案するように押し黙った後、二人に振り返り、笑顔で告げた。

 

 

「反撃の糸口をつかめたって事、だろうな」

 

「……反撃、ですか」

 

「ああ。ま、今までの防戦一方から比べれば」

 

「それでも、ようやくです。ようやく。ようやく、ですよ……嬉しい……」

 

 

真耶の傍らで、千冬も無言のまま頷く。

二人は、じっとモニタを見つめている。

外見も性格も服装もまるで対照的な二人だが、十年以上前からの『戦争』を経験してきた。

この世界に初めてDDが出現、確認されてから引き続く破壊。

束が『緩慢に滅んでいく』と言った、現在の窮状を共に経験しながら育った世代である。

おそらくは今の一夏達以上に、この言葉には深い感慨があった。

 

 

「ともかくも『選択と集中』の次のステップには間に合った訳だな、忠夫」

 

「ああ、ひとまずはな。だけど俺の世界の常識からだと理屈に合わない事もたくさんあるから、もうちょっと精査したいとこではあるけどな」

 

「と言うと?」

 

 

訝しんだ千冬は、横島に問いただす。

 

 

「例えば、一つ。そもそも俺の世界では悪魔ってのは神様から転じたとか、魔界で生まれたとか、陰と陽の関係性の中で必然的に創られたとか、ともかく自然発生的に『人間界に誕生する』とかってのは、考えづらいんだよ。強い陰の気が溜まれば、妖怪程度なら生まれるんだけど」

 

「なるほどな。なら、お前みたいな男の陰の気が溜まれば、夏のビーチあたりに妖怪が発生したりするのか?」

 

「夏のビーチなんか、明るい太陽なんか大嫌いだ、どちくしょう……」

 

 

過去のトラウマを刺激されたらしい横島がさめざめ泣き始める。

軽い冗談を言ったつもりの千冬があきれた目で見、真耶は横島と夏のビーチを想像したのか、思わず吹き出していた。

 

 

「いーじゃねえか、イケメンやカップル共の明るい青春に水を差してやりたかったんだよ。あの妖怪の事を、俺は他人とは思えねー」

 

「……やっぱりお前は一回死んだ方がいいと思うぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの横島という教師はおかしいですわ!」

 

 

寮での夕食、生徒達でごった返す食堂に、セシリアの叫びが響き渡る。

同席していた専用機持ち達はもちろん、近くにいた者達まで振りかえった。

 

 

「織斑先生や生徒にセクハラをする教師など、なんでこの学園に在籍していられるのか、皆さんも疑問に思いません事?!」

 

「……だよねえ」

 

「女子の貞操を脅かすなど、男の風上にも置けん」

 

 

セシリアに続いて、シャルロットや箒も不満を述べる。

鈴も同様に頷くが、ラウラには少し違った見解があった。

 

 

「嫁であれば、決してあのような真似はせんな。まあ、方法の是非はともかく、多少あの積極性を学んで欲しいところではある」

 

「……だよねえ」

 

「……確かにそうだな」

 

「ま、まあ、私も一夏さんにならやぶさかではありませんけれど……」

 

 

今度は逆の意味で、シャルロット達が不満を口にした。

彼女たちの想い人は、横島とは反対に、もっと手を出してこいと言いたくなるくらいに、色々と鈍感であったからだ。

認めたくはないが、織斑千冬という自他共に認める女傑が姉であれば仕方ないか、とつい考えてしまう事も多い。

 

 

「ではなくて! あのセクハラ男に、一夏さんへの反面教師を期待してもしょうがありませんわ! 私たちでとっちめて、さっさと退職に」

 

「なあに、随分楽しそうね?」

 

 

皆が声のした方を振り返ると、学園生徒会長の更識楯無が、トレーを持って側に立っていた。

セシリアの叫びに興味を引いたのかもしれないが、つい数時間前に『定期便』迎撃における楯無を見ていた彼女たちに緊張が走る。

あっけに取られた箒や鈴は警戒して何も言わず、ただ楯無の顔を黙って見ていた。

 

 

「騒がしいと思えば、なあに、一夏君を巡って恋のさや当て?」

 

「なっ?! ち、違いますわ!!」

 

「やあねえ、冗談よ冗談。仲が悪いなら、なんのかんの、一緒に食事しないでしょうし。なんていうの、おひとり様同盟?」

 

「お、おひとり様……」

 

 

普段は元気で活発なシャルロットが、がっくり肩を落とす。

一夏と出会ってからしばらく、訓練に学園生活にと忙しかったが、こと恋に関する現状については、楯無の指摘通りだったからだ。

他のメンバーも、似たような物であろう。

 

 

「ふふふ。まあ『勉強熱心』な後輩達をからかうのはほどほどにしておきましょうか。久々だったし、戦闘報告とかめんどくさいのよねー。お腹すいちゃって」

 

「……やはり気づいて?」

 

 

ラウラのやや棘のある口調に、楯無の瞳に光るものが浮かんだ。

 

 

「気づかない方がどうかしてるわね。部隊外からの接続は邪魔にはならないし、先生方が許可を出したんだから、私から言う事はないけど。どう、参考になった……って聞くまでもないか。あれを『見た』後に、きちんと食事を取ってるんだから」

 

 

普通ならしばらくお肉なんか食べられないわよ、と鈴の回鍋肉定食を呆れた目で見ながら言う。

他の皆にしてもちゃんとした量の食事を取っているし、表情は生気に満ちている。

 

 

「うっさいわね! スタミナつけるにはお肉が一番なのよ。これでも、たんないくらいだわ」

 

「その割りにはあんまり栄養が行き渡ってないみたいだけど?」

 

 

と、楯無は箒やセシリア、シャルロット(の胸元)を見てから、改めて鈴に顔を向ける。

ちなみにラウラはスルーしたが、ジトっとした目で楯無を睨み付けている。

 

 

「……うっさいうっさいうっさい! あたしにはまだ未来があんのよ、未来が! あーもう、アンタ何しに来たのよ、忙しいんでしょ、さっさとご飯食べてISの整備にでも行きなさいよ」

 

「もちろん口の利き方を知らない可愛い後輩を指導しに、と言いたいところだけど。本当にこれまでにしておきましょうか。お腹と背中がひっつきそうだし」

 

 

腹をさすりながら、すぐに気を引き締め直した楯無は、セシリア達を見回し、改めて告げた。

 

 

「『立ち会った』からには、約束。一年後には、同じ空で、一緒に戦うわよ」

 

 

いいわね、と言う楯無の口調は命令にも等しい物であったが、誰も不快には思わない。

むしろ望むところですわ、とセシリアなどは意気揚々と返事をした。

 

 

「上等。そういういい顔を、一夏君の前でしてみせれば、彼だって惚れるかもしれないのに、もったいないわね」

 

「な、な、な、何をおっしゃるんですのっ?!」

 

「でも残念、一夏君いないのかあ」

 

 

楯無は食堂を見回すが、普段であればすぐ見つかるはずの男子は、どこにもいなかった。

からかって遊びたかったとでも言いたげで、つまらなそうな楯無に、つい、箒がこぼした。

 

 

「一夏なら、部屋に居ます。誘ったのですが、食べたくないと言って……」

 

「あら、そう。ふうん……」

 

 

皆、まさか一夏が怖じ気づいたとは思わないが、異質で特別な生き物を目の当たりにして、何かあったのだろうと想像していた。

もしくは、一緒にいた千冬との間に何かあったか、だ。

 

 

「ま、いいんじゃない? 彼だって男の子なんだし、女子に顔を合わせたくない時だってあるでしょ」

 

「あんたが言うと、真実味がないわね……」

 

 

普段、ずけずけ一夏の部屋に踏み込んでいるのはどこの誰だ、しかも水着とエプロンなどという破廉恥な格好で、と鈴はその全身で訴えていたが、楯無は柳に風と受け流す。

 

 

「しょーがない。虚のとこ行こ」

 

 

じゃあね、と手をひらひらさせた楯無が、ふと立ち止まる。

何か思い出したように指を立てて、そのままセシリアを指した。

 

 

「ああ、セシリアさん? そう言えば、横島先生の事だけど」

 

「き、聞いてらしたんですか?」

 

「聞こえちゃったし。ま、この学園の生徒なら、大なり小なり知ってはいるわね。必ず一回はナンパされた事があるだろうし、最初はイライラするのもわからなくもないけど」

 

 

と、クスクス笑う。

はあ、とセシリアは困惑気味だ。

 

 

「退職に追い込むのは難しいんじゃない? あの先生、ここ何年かの対DD用装備の大半を開発したって聞いてるわよ」

 

「え」

 

 

突きつけられた事実に、セシリアは目を白黒させる。

その呆けた様子に、付き合いの長い一年生達もまた、驚く。

 

 

「そんじゃーねー」

 

 

ご飯冷めちゃったかしら、と生徒会メンバーが集まるテーブルへと急ぎ足で立ち去る楯無を見送って、セシリア達は改めて、相談した。

 

 

「……ただのセクハラ教師ではなかったんですの?」

 

「IS学園にいるくらいだから、多少は能があるのだろうとは思っていたが……」

 

「全然知らなかったわよ」

 

「……ふむ。ISパイロットも貴重なら、あれも貴重だという事か。なぜ教官がさっさと始末しないのか不思議だったが、なるほど」

 

「そう言えば、学内でもよく一緒に居るところ見るよね、織斑先生と横島先生。山田先生もだけど」

 

 

むむむ、と全員が首をひねる。

どうにも、自分たちが受ける印象と行動と、楯無が言う『実績』と、千冬達の態度がかみ合わない気がする。

三人寄れば文殊の知恵とはいうが、むしろこの場合は女三人、いや五人で姦しいと言うべきだったかもしれない。

食事の間中、どうやったらあの教師の正体を探れるかという穏やかでない議論に終始した後、しばらくはそれぞれがよく観察するという、至極もっともな結論に落ち着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶえっくしっ……誰かしらんが、世紀の美女が俺の事を噂してやがんな」

 

「何をどう考えたら、そういう結論になる。大体、馬鹿は風邪をひかんというぞ?」

 

「あはははは……」

 

 

横島がバカをやり、千冬が嫌味を返す。

こういうやりとりが続いた場合、最終的に自分が被害を受けるのだと真耶は身を固くしていたが、それすらばれたらまたいじられると、愛想笑いを浮かべて黙っていた。

 

 

「まあ、やはりお前はバカだという結論が出たところでだな」

 

「いつ出たよ?!」

 

「で、地脈の話だがな」

 

「美神さんよりひでぇ……」

 

 

反論を受けるどころか、涼しげに切り捨てる千冬。

 

 

「(ちくしょう、男としてここは一発がつんと言わねばならん、言わねばならんが、千冬を怒らすと恐い、怖いんじゃぁぁぁっ! こうまで言われんなら、もういっそ、後の戦いは千冬に任せて、俺は家で寝てよう! 大体千冬みたいな嫁のもらい手も無い男女」

 

「声に出てるぞ忠夫っ!!」

 

「どげふっ?!」

 

 

千冬の鉄拳に吹き飛ばされ、窓向こうの無人機もかくや、という程に手足があらぬ方向に曲がっている横島だったが、千冬と真耶は慣れた物で、ほっとけば治るだろうというくらいで、地脈の議論を進める。

事実、程なく立ちあがってくる横島は頭をさすりながら千冬に愚痴を言う程度だ。

生徒達にDD扱いされるのも致し方ない。

 

 

「お前に心配されんでも、私なら婿の一人や二人すぐに見つかる。あいつらとの戦いに目処が付けばだがな」

 

「その頃にはもう嫁き遅れなんじゃねーのか」

 

「何か言ったか?!」

 

「イエナンデモアリマセンスイマセンデシタ」

 

「横島さんも、よせばいいのに……」

 

 

懲りない横島の軽口に、真耶は苦笑いする。

だが、千冬が嫁に行く事になったら一夏が黙っていないだろうと、真耶はこっそり考えた。

身内の話題を嫌う千冬に話したら、それこそ横島と同じ扱いを受ける――――――と、思わず身震いしたのは、決して冷房が効いているからだけではなかっただろう。

 

 

「で、だ。観測データでは、今度の校外特別実習、臨海学校の付近にも地脈が走っている可能性が高いのか?」

 

「ああ、まあな。出来るなら調査したいけど」

 

「教師としてならNGだがな。女生徒に手を出したら、鎖で封印したトランクごと海に沈めるぞ」

 

「夏のビーチで水着も拝めんのかいっ!! って違うわ、また轡木さんに迷惑かけることになるんが嫌だと思っただけさ」

 

 

横島が肩をすくめる。

ぴくり、と千冬の眉が動いた。

 

 

「二十一カ国会議か……すまんな、忠夫」

 

「俺に謝る事じゃないから、気にすんなって……つうか何回目だ、この会話」

 

「お前に行動の自由があれば、あいつら相手の戦いも有利に進められるに違いないのに……下らん、全く持って下らん」

 

 

沈痛な面持ちで千冬が呟くが、彼女もまた、理解はしていた。

こと横島に関する限り、簡単な話では済まないのだ。

 

 

「しょうがねえよ。力を持った身元不明の異世界人と、訓練受けたISパイロット達のどっちを信用するかっていったら、俺でもISパイロット取るぞ。俺がIS持ち去ってあいつらの側についたら、この世界で反撃出来る奴いねえんだから」

 

「そんな心配をする事自体、ナンセンスなんだがな」

 

「……この世界の魔族の連中は、俺の世界の魔族とは『違う』のがわかったからな。ジークみたいな、話しの通じる連中なんかいやしねえって」

 

 

この世界に来た当初、横島なりに努力をしてみたのだが、そこに希望はなかった。

わかったのは、彼らはただひたすら、その破壊衝動、本能を満たす為にのみ行動していた事だけ。

その事実に、横島はひどく失望したが、やがて気持ちを切り替えた。

それが可能だったのは、千冬や真耶などの、この世界に来てから知り合った『友人』の存在があったからだ。

 

 

「ああ、そう言えば、さっき話してた理屈に合わない事、なんだけど」

 

「あいつらに関する疑問か?」

 

「だな。いやさ、高位体、魔族の連中がこうも短期間に、この世に『誕生』するってのがどうも……地脈の力を考慮に入れたにしても、それにしたって、発生してるあいつらの数や、『高位体』の持つ魔力が釣り合ってない気がしてな……それにだよ。前からずっと疑問に思ってたんだけど」

 

「前からずっと?」

 

 

真耶は首をかしげる横島を見た。

横島は苦々しい面持ちで、奥歯を噛みしめるように口から言葉を押し出した。

 

 

「何かしらの原因で魔族がこの世界に生まれてくるとして……なんで、その対になるはずの神族が生まれてこないんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬さんのデレを書きたいので続けっ


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