ISクロスGS ザ・グレート・ゲーム  【IS世界に横島忠夫を放り込んでみた】   作:監督

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第8話

 

「爆発?!」

 

「みなさん、頭を低く!」

 

 

ショッピングモールに響き渡る爆音は、即座に防護壁と遮断シールドの展開へつながった。

避難誘導のアナウンスが流れると、一般客は多少の混乱を示しながらも、全体としては整然とシェルターに退避していく。

こういう事態に『慣れている』のだ。

全く嫌な事だ、と真耶は苦々しく思う。

 

 

「様子を見てきます。ここで待機していてください」

 

 

教え子達に警告を発し、走り、広場の吹き抜けから、上空へと視線を走らせる。

晴れ渡った大空に黒々した『塊』がうねり、そこかしこから立ち上った煙を引き裂くかのように七色の光が躍り込んでいく。

ここ数年ですっかり見慣れてしまった光景に、安堵の息を吐くと、また生徒達が待機している場所へと戻る。

引き続く爆音を気にもせず、真耶は皆を見渡し、落ち着いて言った。

 

 

「大丈夫。『定期便』でした。程なく、排除出来るでしょう」

 

「定期便……」

 

 

真耶の言葉に、皆、屋根の形に切り取られた空を見つめる。

入学してから学園をDDが襲うことは無かったため、彼女たちにはこれが初めての経験だった。

自然と堅さの見える生徒達に、真耶は微笑みかける。

世界のどの地域よりも、IS学園への襲撃はここ数年明らかに増加 -飛び抜けて、と言って良い- しており、すっかり迎撃に慣れきってしまっていた真耶には、ルーキー達の緊張と不安がひどく好ましいものに思えたからだった。

生徒達には定期便になど、いつまでも、慣れて欲しくはないのだ。

 

 

「ええ。ジャージー・デビルの群れのようですが……。今回は彼らを率いる高位体がいないのでしょう、群体として、それ以上の動きは見られません」

 

「……高位体?」

 

「そのままの意味合いだ。より高位、上位に位置するDDということ、だ」

 

「ええ。ラウラさんの言う通りです。種類は様々ですが、より力の強いDDは下位のDDを従える事があります。出現する高位体によっては、苦労する事もありますが……」

 

 

シャルロットの問いかけとラウラの返答、疑問を持つ生徒達に真耶は真摯に答える。

一瞬、気を失ったままの横島を見やり、また生徒達に視線を戻す。

 

 

「良い機会です。IS運用協定の特例事項に基づいて、専用機持ちの皆さんに、コア・ネットワークの使用を許可」

 

「……出撃する訳には、まいりませんか」

 

 

真耶の言葉を遮って、一人、顔を伏せていたセシリアが言い放つ。

箒や鈴も顔を見合わせ驚く。

影を潜めていた、少し前の勝ち気なセシリアが戻ってきていたからだ。

 

 

「出撃、する訳には……!」

 

「……落ち着いて。セシリアさん」

 

 

真耶は、震えるセシリアの肩に優しく手を置いた。

彼女の事情を知っている真耶の胸が、やりきれない感情に苛まれる。

だけどもそれは、今を生きる人達には多かれ少なかれ『共通』のモノなのだ。

隔壁に隔てられた、織斑姉弟にしても、例外ではない。

有り体に言うのなら――――――世にありふれた事、なのであった。

 

 

「無人機襲撃の際、織斑先生に言われた事を思いだして。連携訓練、味方の構成と時期の役割、敵のレベルの把握……セシリアさんに満たせている要素がありますか?」

 

「わかっています。わかっていますわ!」

 

 

でも。

それでも、と絞り出す様に訴えるセシリアを責める者は、誰一人としていなかった。

 

 

「……だからこそ、今は、ここにいて、迎撃部隊を『見る』事に意味があります。セシリアさん、皆さん。コア・ネットワークを彼女たちに接続してみて」

 

 

真耶の言葉に、一人一人、ISコアを起動させる。

元来、宇宙用のマルチフォームスーツであったISには、相互確認のためのネットワークがあり、情報共有を容易にさせている。

 

 

「更識さん……生徒会長については皆さんご存じですね。2年生でありながら、3年生を含めたISチームの指揮官である意味を『感じ取って』下さい」

 

 

更識楯無。

自他ともに認めるIS学園最強の使い手。

彼女の専用ISである、ミステリアス・レイディから発信される指示に、迎撃部隊の打鉄がまるで手足の様に答え、DDの群体を撃破していく様子が、リアルタイムでセシリア達に『共有』される。

 

 

「DDという『科学では推し量れない』モノを相手にするにはどうするか、分かりますか?」

 

 

迎撃部隊は、決して無敵、という訳ではない。

ジャージー・デビル程度ならあまり問題ない、というだけだ。

ISの絶対防御が働いているとはいえ――――――全方位から襲い来るDDに、エネルギーが少しずつ、しかし確かに削られていく。

人の恐怖する『形』を取った異形のモノと刃を交える恐怖。

疲弊した精神を回復させる間もなく、撃破した先から、次の敵が、DDが襲いかかる。

迫り来る敵に、避ける事すらままならない。

せめて身をひねるが、背中に、鋭く深い衝撃が走る。

あ、と気づいた瞬間に、味方のISがDDを撃破し、四散した肉片が頬に張り付く。

嫌悪感を感じる間もなく、次の敵をハイパーセンサーが捕らえ、更識からの指示が飛ぶ。

どうすれば勝てる?と考えた瞬間には、対応策は共有され、実行に移される。

命を危険にさらして、無茶をしながら、恐怖に震え、しかし彼女たちに要求されるのは、どこまでも冷徹なシステムの一部としての役目。

それが覚束なければ、部隊から外されるか、DDに撃破されるか、だ。

 

 

「更識さんの何より優れたところは、人としての感情と、システムの制御を両立出来る事……思慮の深さと視界の広さは、決してハイパーセンサーの補助があるからではありません。普段の彼女を見ていると、なかなか想像しづらいことですけれどね」

 

 

あまり更識と接触のない一年生達はきょとんとしているが、普段から散々振り回される真耶には、こういう更識の姿には、つい違和感を覚えてしまう。

だが、学園でおちゃらける彼女も、懸命に、迷いながら、自身の弱さすら武器に変えたくましく戦う彼女もまた、更識楯無本人に違いなかった。

そして目の前のルーキー達にも、そうであって欲しいと真耶は願う。

心が潰れそうな現実があるからこそ、目の前の学園生活を真剣に、精一杯楽しもうとする生徒達に幸せが訪れて欲しいと。

『消耗品』であろうがなんであろうが、彼女たちは一人の人間なのだから、と。

だが、口にしたのは別の事。

 

 

「皆さんには、部隊運用が出来るレベルまで後、一年で到達して貰います。専用機を与えられている意味が、今の皆さんに想像出来ますか?」

 

 

自己進化を設定されているISだが、その機能を生かせるISは少ない。

DDへの対抗上、二十四時間運用を迫られる事も多く、専用のパイロットをもうける事は、稼働時間の減少を意味し、それは防衛力全体を俯瞰した場合、決して看過できる事ではない。

故に汎用機が重視されがちな現状において、それでもなお、専用機を持たせる意味合いは、指揮官として、部隊の中核として、前線を維持する為だ。

IS開発の為のデータ取り、各国の政治的思惑、実際の防衛体制。

様々な事情が、彼女たちの肩にのしかかっている。

 

 

「後、一年とおっしゃいましたわね。先生」

 

「ええ」

 

 

目の前に敵。

まともに、目があった。

そう錯覚する、コア・ネットワークでの情報共有を続けながら、セシリアは宣言する。

 

 

「必ず。必ず、ですわ。後一年であのレベルまで。到達して見せます」

 

 

ISを拘束しようと襲いかかるDDを、

焼けただれ、その瞬間再生していく異形を見つめるISパイロット。

破壊と再生がせめぎ合う戦場。

その直下、感じ取った『現実』に、セシリア達は心を新たにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……この状況で、セシリアちゃんのしりを触ったりしたら、さすがに不味いんだろうなあ……)

 

 

真耶に手刀を喰らい、気づいてみれば、セシリアをはじめ、一年生の美少女達のしりが目の前にある。

居並んだしりは、どれもぷりぷり動いて、横たわった横島を誘っている……様に、見えた。

鈴やシャルロット達のミニスカートもいいが、この場合、ロングスカートのセシリアの方が、かえって横島の煩悩を刺激した。

が、聞き取った会話はとてもシリアスで、いきなりしりを触るのはさすがに憚られる……様に思える。

 

 

(……ああっ、だけど、こんな無防備で素晴らしい、若いしりが目の前にあって、それに手を出さないなんて、神様が見過ごしてもこの横島が見過ごせんー?!」

 

 

「見過ごすのが当たり前ですっ!!」

 

「御気になさらず、って、また口に出てたーっ?! ごきゃっ!?」

 

 

真耶の肘鉄が打ち下ろされ、横島の奇妙な叫び声が響き渡る。

狙い通り、肘鉄は頭に直撃し、ぴくぴくと横島は床で震え動かない。

スカートを押さえながら後ずさる一年生達の引きつった顔は、横島への物だったのか、容赦ない真耶への驚きだったのかわからないが、真耶の深い溜息と、上空での戦闘を終えた更識の報告は、ほぼ同時であった。

 

 

「……対象は完全に沈黙。これより、学園に帰投する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛ててて……真耶ちゃんも最近、迷いがないよね」

 

「肘鉄で済んで良かったと思って下さい!」

 

 

頭をさすりながら抗議する横島を見もせずに、真耶は切り捨てる。

IS学園地下、相応のセキュリティパスを持っていなければ入れない一区画。

薄暗い部屋では、モニタの灯りだけが目立つ。

 

 

「だってさあ、あんなに良いしりが目の前にいくつもあってさー、手を出さない方がおかしくない?」

 

「その考えがおかしいんですっ!!」

 

 

ずだん、とキーボードに拳を叩きつけて、真耶が立ちあがる。

 

 

「い・い・で・す・か、横島さん? 世間一般ではっ!! ああいうのは、変態と言うんですっ!! いい加減、生徒達に手を出すのは辞めて下さいっ!!」

 

「じゃあ、真耶ちゃんに手を出すなら良いわけ?」

 

「それならOKで……って、違いますっ!!」

 

 

軽口に乗せられた真耶が、真っ赤になってぶんぶん手を振り回すのを、横島が楽しそうに避けて逃げ回る。

そう広くもない部屋での追いかけっこは、もう一人の入室者によって、程なく止められた。

 

 

「……忠夫。真耶『で』遊ぶのはよせ。私の楽しみが無くなる」

 

「織斑先生がひどいっ?!」

 

「なに、愛されているということだ。気にするな」

 

 

しかし子供じみた様子ですねる真耶の機嫌はすぐには直らない。

そうだから忠夫にもからかわれるんだ、と千冬は心のなかで呟いて、真耶の頭を軽く撫でる。

 

 

「忠夫のセクハラに関しては、半ば轡木さん公認だからな。不安なら、自分で身を守れ。四六時中気を抜けんから、良い訓練になるぞ?」

 

「お前の場合は気を抜かなすぎだっつーか、リアルにオートマチックな機関銃仕掛けてんなよ……いいじゃねーか、ちちの一つや二つ」

 

「あいにく、人様に触らせるようなちちは持ち合わせていなくてな。なに、レーザーガンくらい仕掛けておいても良いんだが、それはひとまず機関銃を突破されてからと思っている。お望みなら、真耶の部屋にも設置しようか?」

 

「……そんな訓練、嫌ですぅ……」

 

 

がっくり肩を落とす真耶を横目に、千冬はキーボードを操作し、壁面のシャッターを上げる。

スポットライトの当たったISの残骸が、不気味な静けさをたたえて姿を現す。

 

 

「それよりも、だ。この無人機の解析は進んだのか?」

 

「ああ。進んだ、と言えば進んだのかもな」

 

「と、言うと?」

 

 

強化ガラスの向こう側で横たわる、無人機の残骸を見据えながら、千冬が問いかける。

鈴と一夏の模擬戦に乱入して来て以来、運び込まれたこの地下での解析作業は続いている。

 

 

「この無人機……だいぶ、無茶をしているんです」

 

 

真耶が座り直し、キーボードに指を走らせる。

モニタには、無人機の解析データが次々表示されていく。

 

 

「登録外のコアであったことは、あの後すぐに分かった事ですが……これを見て下さい」

 

 

拡大されたウィンドウに表示されたのは、コアのエネルギー組成。

データが示す事実に、千冬の表情が歪む。

 

 

「初期型か……!」

 

「いえ、初期型と言えるほどのモノですら、ありません。『無茶』をしているんです。このコアは」

 

「どういう事だ?」

 

「エネルギー総量を見てみろよ、千冬」

 

「……!」

 

 

驚きに目をむいた千冬は、残骸とモニタとに視線を走らせて、やがてゆっくりと椅子に座り、深い溜息と共に、背を放り出した。

 

 

「束の奴、無茶をする」

 

「容量自体に余裕があったんだろうが、加工前の霊体をそのまま、三倍も放りこみゃあな……暴走して当たり前だ」

 

「むしろ、暴走することを見越したテストでしょうね。管制人格を与えてはありましたが、この状態でどこまで稼働できるのか、実証実験したとしか思えません」

 

 

地下室に、長い沈黙が訪れる。

三人の苦渋が、ありありと伺えたが、やがて千冬がふんと鼻を鳴らした。

 

 

「束なりに、現状を憂いているんだろう。確かに、だいぶ時間は差し迫ってきている。真耶が『事実』を知りたいというくらいには、な」

 

「意地悪ですね、織斑先生」

 

「……忠夫、『選択と集中』の立案者は、現状をどう見る?」

 

「真耶ちゃん、例のデータを」

 

「はい」

 

 

真耶がもう一つのウィンドウにアップしたデータに、千冬は目を凝らす。

世界各国の地図に上書きされた、いくつもの輝く線。

その光量と、示された数値には、それぞれ差があった。

 

 

「シールドの集中展開による『地脈』の枯渇は、すぐにではないにせよ、そう遠くない先に、各地で起き始める可能性は高い。よほど太い地脈が見つかれば、違うかもしれないけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マジで続けっ(体力的な意味で


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