ISクロスGS ザ・グレート・ゲーム  【IS世界に横島忠夫を放り込んでみた】   作:監督

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6話 IS学園!

千冬達と横島が出会ってから、何年かが過ぎた。

良い意味でも、そして悪い意味でも、世界はバランスを取り戻していった。

人類とDD(a devila demon)はいたちごっこを繰り返す中、やがて奇妙な安定が訪れた世界において、DDは特別な存在では無くなっていた。

最早彼らは――――――この世界の住人となって『しまって』、それでも時間だけは変わることなく誰にも同じように、過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……学年集会なんて珍しいな、箒」

 

「そうかもしれんな。入学してからも、数えるほどしか行っておらん」

 

 

アリーナに一年生、総勢百二十名あまりが集められた。

朝もまだ早い。

太陽すらも気だるそうに空を登りかけている時間に、あくびをどうしても押さえられない織斑一夏は篠ノ之箒へ、さもめんどくさそうに話しかけたが、それでも律儀に答えるのは幼なじみの少女の性格によるところが大きいかもしれないと微笑んだ。

 

 

「IS学園では情報共有は基本端末で行えますし、例え一年だけとはいえ、全クラスを集める意味があまりあまりませんものね」

 

「かもなあ。セシリアはイギリスでこういうのやってた?」

 

「ええ。厳密にはちょっと違いますけれど、毎朝、全生徒が集まってはおりました。パブリックスクールはここと同じ全寮制でしたけれど、規則はここ以上に厳しかったですから」

 

 

少し前のセシリア・オルコットならイギリスでは高等教育における人格育成がどうこう、日本は遅れて……と続いたのかもしれないが、今は当時を思い出して苦笑いするのみだ。

ハウスマスター、寮監はIS学園の方が厳しいですけれど、とセシリアは冗談を言う。

パブリックスクールとはどういうところだ、と箒が質問すれば、あなたには絶対に入学出来ない高貴な人間を育てる学校ですわ、と嫌味をさらりと返すくらいにはセシリアは朗らかになった。

一夏が気づいた時には、セシリアと箒は互いを名前で呼び合っていて、クラスで最初に顔をあわせた時のような気負いすぎた剣呑さはすっかり影を潜めている。

この何ヶ月かで女子ばかりの環境に多少慣れたつもりの一夏であったが、互いに殴り合った訳でもないのに、いつの間にか仲良くなっている二人を見るにつけ、やはり女子とは男には理解しがたい生き物だと思えてならない。

小声で、つっけんどんではありながら、どこか楽しそうに話す二人。

種を提供してしまえば後は勝手に話に花咲くのが女子ならば、会話の内容が気になるのもまた女子で、列の前の方から、ラウラ・ボーデヴィッヒ、シャルロット・デュノアが興味深げな視線を送ってくる。

気づけば、隣の列から凰鈴音(ファン リンイン)も首を伸ばしている。

一夏は、なぜかいつも張り合う――――――時折、不思議なほど連携が凄い事もあるが――――――五人の様子に気が気ではなかった。

学年集会では整然としていなければならないのはどこの学校でも一緒だが、こういう場合、まるで決まり事のように綺麗な『制裁』が加えられるのがここに来てからの常で、案の定、バアンと頭をはたかれる音がいくつも鳴り響いた。

 

 

「静かにしろ、馬鹿者どもが」

 

「あちゃー……」

 

「お前もだ、織斑」

 

「いっ――――――?! ちょっと千冬姉」

 

「学校では織斑先生と呼べと何度言ったらわかる」

 

「ぎゃっ?!」

 

 

一夏は千冬の出席簿アタックに頭を抱え込む。

脳細胞がまた五千個死んだと、心でさめざめ泣く。

周りの女生徒達はいきおい、直立不動で身じろぎ一つしない。

あまりの痛みと周囲を萎縮させる大きな打撃音に、この『制裁』はIS学園での恐怖の対象になって久しい。

一夏も出来れば受けたくはないし、今回は自分は関係ないのでは、と思っても反論出来るわけもない。

 

 

「……横暴だ」

 

 

一夏はひとりごちる。

逆らってもいいが、言う事は聞けという鬼教官の歩き去る姿を恨めしげに見つめた一夏の胸には、複雑な感情が去来する。

この学校に入るまで、どこでなにをしているのかよく分からなかった、自身の姉。

世界がDDの攻撃にさらされ混乱していた折、千冬が外でなにをしているのか知りたいと迫った事もあったが、お前はしっかり成長するのが仕事だ、といなされて、結局最近まで千冬は詳しい事を教えてはくれなかった。

たまに家には帰ってきてくれたし、疲れた姉に食事を作るのも、マッサージをするのも、気を抜かずに頑張ったが、寂しさをぬぐいきれなかったのも確かだ。

だから唯一の肉親の側にいられて嬉しくもあり、会えたとたんに人権上等な扱いを受け続けて悔しくもあり、でもこれからは多少なりとも姉の役に立てるようにならねばと身が引き締まるような思いもあった。

両親の居ない一夏にとって、千冬は単なる姉弟以上に大切な存在で、どこか安堵したようなまなざしに、箒をはじめ、五人が険しい目つきをしていたが、一夏が気づく事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クラス対抗戦、学年別個人トーナメントも無事……とは言わんが、終える事が出来、校外特別実習の時期となってきた。楽しみにしている者も多いだろうが、お前達の本分は学業だ。浮つく気持ちもわからないではないが、赤点を取って私たちを泣かせる事のないように」

 

 

「はい!」

 

 

千冬の薫陶に、皆、良い返事を返しながらも、頬がゆるむのを押さえきれない。

校外特別実習、つまり臨海学校は数少ない楽しいイベントの一つだった。

IS学園では、生徒達は自由に外出すら許されない。

土日祝日においても、申請ベースだ。

警備の必要もあり、出入り管理の厳重な学園において一年生に限らず一定の行動制限を課されるのは致し方ないとわかってはいても、やはりそこは十代の女の子である。

天下御免で海に行ける、と聞いて気持ちが華やぐのを誰が止められようか。

 

 

「あーでは最後に……」

 

 

何かを言いかけた千冬は、しぶい顔をする。

いったん学園の理事長と用務員を務める轡木(くつわぎ)夫妻に目線を送るが、彼らは特に気にした様子もない。

致し方ないとばかり、諦めた様子で千冬は続けた。

 

 

「長期出張から戻られたIS開発部の教師を紹介しようと思ったが、遅刻し……」

 

 

パーパラパーン。パラパー。パラパーパパーパパラパー。

 

 

「トランペット?!」

 

「なんなの?! どこ?!」

 

「あ、あそこ……!」

 

 

千冬の説明の途中に突然鳴り響いたトランペットは、アリーナの屋上から聞こえてきた。

生徒達が指さし、騒然としながらも演奏は続き、逆行の人影はゆっくりと振り返った。

 

 

「やはっ、みんなっ!! 俺は――――――」

 

「余計な事して目だたんでいいっ!!」

 

「ああ、自己紹介がまだっ……! てか落ちるー?!」

 

 

ISを展開した千冬が、出張帰りのIS開発部教師――――――横島忠夫を屋上からたたき落とす。

イグニッション・ブーストもかくやと思わせるほどの早さで、どの生徒も目を丸くしていた。

普通の人間を躊躇無く屋上から殴り落とした千冬にも面食らったのだが、それ以上にグラウンドに落下し、血だらけながらもすぐさま復活した横島を見て、皆、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

 

 

「あの人なに?! もしかしてDD?!」

 

「え、でも開発部の教師だって?!」

 

「シールドの中だもの、簡単に侵入なんて出来ないはずよ?!」

 

「ああ、千冬お姉様の容赦ない攻撃が素敵……!」

 

 

一部倒錯した声もあったが、騒ぎが大きくなり、真耶が慌ててマイクを取った。

 

 

「ああ、ええっと……長くなりそうですから、皆さん授業に備えて、それぞれの教室へと戻ってくださいー。解散ですー!」

 

「ああっ、自己紹介、自己紹介させてー?!」

 

「うるさい、今度という今度はお前という存在を修正してやらねばならんっ!」

 

「だって女子高生がっ! あんな綺麗なねーちゃん達がいるのにー!」

 

「いい加減にしろ!!」

 

「うわ痛い、ってか言いたかっただけなんです。すんまへん、すんまへーん! ほんまにすんまへーーん!」

 

 

泣き叫ぶ横島にかまいもせず腕部装甲で二十往復ほどはたいた後、ぐったりした横島を引きずって千冬は退場し、後に残された生徒達は事の次第に理解が追いつかないまま、教室へと戻らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……先ほどのは、いったいなんだったんでしょう?」

 

「知らん」

 

「織斑先生がああいう風に怒るのは初めて見たよ」

 

「千冬さんは常に冷静沈着な方だと思っていたが……」

 

「……俺も」

 

 

一組の五人、セシリア、ラウラ、シャルロット、箒、一夏は顔をつきあわせて話し合っていた。

クラスの他の女子達も皆、がやがや騒がしい。

IS学園における男性比率はゼロに近い、一夏や用務員の轡木以外はほぼいないのが実情だ。

そこへ男性教師かと思えば、あの有様である。

入学してから見かけた事がなかったのは長期の出張とやらのせいだろうが、あれが教師?と皆、腑に落ちない様子だった。

 

 

「教官の敵であるならば、殲滅するだけだがな」

 

「またラウラは……駄目だよ?」

 

「一応教師というご紹介でしたから、滅多な事にはならないんでしょうけれど……」

 

「もう滅多な事になってないか?」

 

「うーん……」

 

 

いくら話しても結局のところ現状では何も分からないと結論が出たところで、真耶と千冬が、件の教師を伴って入室してきた。

皆、慌てて席に戻るが、好奇と不安の視線が交錯し騒がしさは収まらず、千冬が一喝する。

 

 

「いい加減にせんか、お前ら!」

 

「あ、あはははは……」

 

 

真耶は困り果てた表情で立ち尽くす。

そもそもの原因を作ったのは横島であり、更に大きくしたのは千冬なのだが、真耶にはそれを言う度胸はない。

ショートホールルームを始めたくても、横島の紹介を終えねば、何も出来る雰囲気でなかった。

千冬もそれを察したのか、思うに任せない様子ながらも、横島に教壇に立つよう促した。

多少頬が腫れているのは千冬の制裁のせいだろうが、皆、戸惑いながら見つめるのみである。

オールバックの体つきのしっかりした青年は、年頃なら千冬と同じくらいであろうか。

周り以上に、一夏は横島に関心を持って見つめていた。

ただでさえほぼいない男性で、年の近い人(それでも十近く離れているが)は初めてだったので、自然と心情的にも近いモノを『感じたがった』のだが、千冬との先ほどのやりとりを思い返すと、なぜかモヤモヤした感情が渦巻くのも事実だった。

教団の真ん前に座る一夏は物理的は近くとも、心情的な距離を図りかねていると、横島が電子黒板に大きく名前を書き記し、振り返った。

 

 

「あーえっと。皆さん、初めまして。横島忠夫と言います。IS開発部の教師として、こちらに勤めさせて貰ってます。よろしく」

 

 

ようやく普通の挨拶をしてくれたかと千冬や真耶も胸をなで下ろす。

横島は先ほどとはうって変わって、至極順当に、自身の立ち位置、守備範囲、開発に携わった武器、部品などの紹介をしていく。

 

 

「ああ、後、織斑先生の弟さんとは違って、ISを動かせる訳じゃない。まして開発部であまり直接的な事に関わっている訳じゃないが、サポート関係で顔を合わせる事は多いと思う。よろしくな」

 

「……ですか」

 

 

特に自分へと向けられたと感じた挨拶に、一夏は上手く答えられず、千冬の横顔を見つめるが返答は無かった。

引き続く冗談を交えた挨拶に、生徒達も警戒心を解き始めた時

 

 

「ところで、君たちに一つだけ尋ねたい事がある。重要な相談だ。心して聞いてくれ」

 

「はい?」

 

 

表情を引き締めた横島に、何だろう、と生徒達はつばを飲み込む。

開発部の教師が尋ねるのなら自身のIS適正か、現在の技能か、専用機持ちへの問いかけか、それともDDに対する『経験』か?

 

 

「――――――君たちに、年頃の姉妹か、美人のお姉さんの知り合いはいるか?」

 

「だぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

律儀にコケる一組の生徒達。

二十歳(ハタチ)から四十歳くらいの売り頃で熟れ頃の、と付け加える頃には千冬が雪片を展開し首筋に突きつけて、また真耶が止めに入っていたのだったが

 

 

「……一体どういう人?」

 

 

特に一夏は、見た事のない姉の様子と赴任してきた型破りの教師に面食らったまま、目の前の喧噪をどこか遠い心持ちで眺めていた。

すぐに、横島との出会いに溜息をつくようになるのだったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「横島先生、戻ってこられましたねえ」

 

「ですねえ」

 

 

用務員室で、轡木と学園生徒会長の更識がお茶をしていた。

七十近い老人と十代の娘が寄り添う様は、孫を愛でる祖父と言われても、何の違和感もなかったろう。

轡木が用意した甘味に更識が舌鼓を打ちながら、穏やかに窓からの景色を楽しんでいた。

木々や影の色が日に日に濃くなって、青空には白く大きな雲が広がり、程無い夏の到来を二人に告げていた。

 

 

「早速話題になってますよ。織斑先生も困ってらしたようですが」

 

「なに、彼女には横島さんくらいでちょうど良いんじゃよ」

 

「赴任以降、学園生徒職員、全員にモーションかけつづけるという伝説を作っている、あの先生がですか?」

 

 

更識は心底楽しそうに笑い、轡木も同じように笑う。

 

 

「随分とテンポ良く振られていったみたいじゃが」

 

「いくらIS学園の生徒が男性に免疫がないとは言え、あれはないです」

 

 

私の時にも横島の歯の浮くような、それでいてまるで似合っていない台詞に思わずこちらが指導してあげたくなった、と笑い転げる。

君の為なら死ねる、じゃあ今すぐ死んでと返される男性もなかなかいないだろう。

 

 

「しかし、横島さんもIS学園に不可欠な人材ですからね。いてくれると何かと賑やかで良い」

 

「『いると賑やかになる』の間違いではなくて、ですか?」

 

 

瞬間、更識の視線が険しい物になる。

正面からそれを受けきった轡木は、口元をにやりとさせた。

 

 

「IS学園の目的そのものから言えば、なに……悪い事ではない。人間側も一枚岩ではない。色々とややこしい事情を抱え込んでしまうくらいなら、まとめて処理した方がいい。そうは思わんかね」

 

「……かもしれませんが」

 

「大丈夫じゃよ」

 

 

轡木は一口、茶をすする。

 

 

「彼がIS学園に――――――この前線基地に居る限りは、な」

 

 

 

 

 

 

 

エターナル続け。


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