ISクロスGS ザ・グレート・ゲーム  【IS世界に横島忠夫を放り込んでみた】   作:監督

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第4話

「IS学園……六道女学園みたいなもんか」

 

「なんだ。お前の世界にも、似たような学校があったのか?」

 

「ああ。GSのエリート教育なんて、いやなもん施す学校でさ」

 

「いやなもの、ってことはないだろう」

 

 

元々GS志望では無かった、と言っていた横島はどうやら想像以上に育ちが悪いらしい。

彼の言いぐさに、千冬はつい頬をゆるめる。

件の所長が現場で横島をたたき上げた様子が想像出来たからだが、横島は横島で、濃いめのエスプレッソが気管に入ってしまったような、苦々しい顔をしていた。

 

 

「しかし俊才ねー。エリートねー。どこの世界で聞いてもおもしろくない響きだ」

 

「……ばかたれ。私はそこに勤めて貰いたい、と言ってるんだぞ?」

 

「でも俺、IS関連の知識なんて皆無だぜ」

 

「そこはこれから覚えてくれればいいさ。ISとお前の持つ力と、100%融通が利く訳でもないだろうしな」

 

「そりゃ、そうだ」

 

「ああ。結局のところ、退魔技術とIS技術のすりあわせがどこまで出来るのか、束でないと分からん」

 

「……あの、いいでしょうか。千冬さん?」

 

 

二人の会話に、真耶が割ってはいる。

千冬と横島、それぞれに視線を送ってから、まだ腰が引けているのか、少々おどおどしながら問いかけた。

 

 

「お前の世界、とか退魔技術とか、IS学園に勤めるとか……どういうことですか? そもそも男性がISを取り扱うなんて、不可能なんじゃあ……」

 

「ああ、すまない真耶。さて、どこから説明したものか……」

 

 

千冬は頬に手を当てて、考える。

なにせイレギュラーな事柄が多すぎて、どこから説明すればいいのか、図りかねているようでもあった。

順を追って逐一解説したほうが大人しい真耶にはわかりやすかったろうし、実際まだ束も姿を現さないのだから、さほど急ぐ必要もなかったのだが、千冬はしばらくうなった後に、論より証拠だと独りごちる。

結局、竹を割ったような性格の彼女は、まどろっこしい説明など好まなかったのだ。

 

 

「横島。『栄光の手』を見せてやってくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふええ~。信じられないですけど、信じなきゃいけないっていうか、もう信じざるを得ないっていうか!」

 

 

真耶は目を輝かせながら、その少し舌っ足らずな声で、すごいですと興奮した様子で繰り返す。

栄光の手をかざした横島の周りを、あちらこちらに子犬みたいに跳ねまわり、そのせいで余計幼く見えるのだが、驚きを精一杯表現する真耶に、横島は臆面なくその賛辞を受けとる。

 

 

「いやあはっはっは、そんなお褒めの言葉なんか入りませんよ。こう、ぶちぅぅぅぅぅーっと、さっさやかな口づけをがっちりいただければそれで! さあ今すぐ二人初めての共同作業をいたしませんか真耶さんんん――――――!!」

 

「へ、あ、あのそのあのっ?!」

 

「少しは懲りるということを覚えんか貴様はっ?!」

 

 

握りしめられた拳が残像をかき消す勢いで、まっすぐに横島の横っ面を張り飛ばした。

部屋の隅まで飛んでいって激突し倒れた横島が、すぐさま復活する様子にも真耶は目を白黒させていたが、敬愛する千冬が気にするなというので、とりあえずは気にしない事にした。

他世界、霊力と言う高エネルギー体の物質化、節操のない素早いアタック。

先ほどからの驚きの連続、そのあまり、いっそ思考停止した方が楽だと、どこかで感じたのかもしれない。

 

 

「……で、だ。私の同僚に手を出すのは止めて貰うとして」

 

「えー」

 

「えー、じゃないっ!!」

 

 

千冬がテーブルを思い切り叩きつけたせいで、コーヒーカップがひっくり返り、真耶が慌てて拭き取る。

しかし千冬はそれにも気づかず、しばらく横島を睨み付けた後、深く溜息をつく。

 

 

「もういい。話が進まん……さっきから私が質問するばかりだったが、横島、お前が聞きたい事は他にないか」

 

 

強引に話題を変え、まぶたを閉じて椅子に背もたれる。

ほとほと疲れた、そういった態の千冬の姿など見た記憶がない真耶はまた驚くが

それを言うと千冬の機嫌がますます悪くなりそうで、結局、席を立って、コーヒーを入れてくる事にした。

早く来たのはどうだったのかしら、と考える真耶と入れ替わりに、横島は口を開いた。

 

 

「そーいやさっき、真耶ちゃんが言ってたけどさ。ISは女性しか取り扱えないってどういうこと?」

 

「ああ、それか。それはだな……」

 

 

先ほど以上に考えあぐねた千冬が、何か言おうとした矢先、ドアが開き

 

 

「やぁやぁ。そこから先はこの束さんが話しちゃおうかな~」

 

 

遅れて来た事などまるで気にもしない様子で、笑顔の束が現れた。

服装こそ昨日と違っていたが、ウサギ耳状のマニピュレーターは変わらず頭上にあり、主の上機嫌を表すように、くるくると回っていた。

 

「……遅いぞ、束。何時だと思っている」

 

「いや~、準備が終わんなくて。そのせいで昨日ぶりだね~ちーちゃん。さぁ、ハグハグしよう!愛を確かめ」

 

「愛を確かめるのなら、この、不祥横島と旅立ちませんか束さんっ!」

 

「だからそれはもういいと言ってるだろうがっ!!!」

 

 

展開したISでもって床に叩き付せられた横島を見て、束はけらけら笑う。

 

 

「ごめんね~、よこっち。愛しの実験対象よ~。私には既にちーちゃんという想い人がいるのさ~」

 

 

ね、とやはり悪びれもせずウインクをする束に、頭痛の種が増えた千冬は、半ばどうでも良くなって、装着を解除して机に突っ伏した。

 

 

「……そうか。じゃあ束、横島にISの件を説明してくれるか……。真耶、新しいコーヒーをくれ……」

 

 

一瞬遅れて、はい、と返した真耶は真耶で、先ほどからのやりとりに面くらっていたが、あまり見られない千冬の弱った姿に、これはこれでとまんざらでもないと頬を赤らめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ISを女性しか起動出来ない理由は、実のところ簡単なのさ~。ISコアを起動する、起動容量がたんないだけ」

 

「起動容量?」

 

「電圧みたいなモノ、というか……ん、昨日よこっちの『栄光の手』は見たよね? 端的に言うと、あれのより深度の高いものを取り出したのが、ISのコアなんだよね~」

 

「ごめん、わけがわからん」

 

 

横島の返答に、千冬や真耶も頷く。

テーブルを囲んだ四人で、IS、コアを正確に理解しえるのは束のみなので、無理はなかったのだが

 

 

「せめてちーちゃんには理解して欲しかったなあ」

 

「……大体はわかるがな、予想しているものとは違うかもしれん。真耶も感覚的には分かるだろうが」

 

「……」

 

「そこの予備一号君の意見はど~でもいいんだけどさ」

 

「またお前は……!」

 

「いいんですよ、千冬さん」

 

 

真耶の寂しさを誤魔化すような笑いを無視して、束は続ける。

 

 

「そうだね~。説明するにはまず、ISコアがどういうモノか話さないといけないんだけど~。よこっち、この話ってばさあ、一応この世界での最高機密なわけなのだよ~」

 

「聞いたら後には戻れないってか?」

 

「お~。理解が早くて助かるよ~。でも、この話を聞いちゃったら、ここから逃げ出したくなるかもしんないよ? それでもい~の? よこっちがコーヒー吐いても、束さん片付けないよ?」

 

「……まあ、後も先も、俺はこの世界にいる限りどーしよーもねーし。それより、二人はどうなの?」

 

 

束の警告に逡巡はすれど、横島はすぐに答えを出し、千冬と真耶を見やった。

千冬は黙したまま頷くが、真耶は静かに席を立つ。

 

 

「私は……聞きたくありません」

 

「真耶」

 

「ごめんなさい。千冬さん」

 

 

千冬は真耶を見上げる。

言葉を句切った真耶は、深呼吸してから、心情を吐露した。

 

 

「千冬さんがおっしゃるように、ISコアがなんなのか、感覚的に……想像出来る部分はあります。だけど、それが事実だと分かってしまえば、開発者の束さんに肯定されてしまえば……ISを使うのに迷いが生まれてしまいそうで。もしかすると生徒達にも、ISの事を教えるのが出来なくなりそうですから……」

 

 

終わるまで二階で待ってます、と告げて部屋を出て行く。

千冬は止めず、黙って見送ってから、束に説明の続きを促した。

仕方ない、と。

横島は戸惑いながらも、千冬に同意する。

 

 

「んふふ、了解。予備一号君はいてもいなくても一緒だし」

 

 

満足げに頷いた束は、口火を切った。

 

 

「じゃあ、世界初公開! ISコアの中身はなんなのさ~、っと」

 

 

皆の目前に、複数の空中モニタが展開される。

IS技術を応用したのだろうそれは、物理的にタッチすることも可能で、実際束は打ち込み作業と平行しながら、解説を始めた。

しかし、喜々とした束が明かす内容は、千冬も、そして横島ですら衝撃を受けるモノだった。

 

 

「結論から言うと、ISコアはエーテル体、コーザル体、メンタル体を含めたエネルギー複合体。つまり、よこっちの世界で言う『霊体』を精製、閉じ込めた物なんだよ~」

 

「霊体の精製物……?!」

 

「おおっと、険しい顔をしないで欲しいな~。これでもアストラル体も入ってた、初期のISコアよりは改良してるんだから~」

 

 

反射的に抗議する横島の隣で、千冬が苦虫を噛みつぶしたような顔をする。

 

 

「……南武の連中と同じような事をしてるって訳か」

 

「おおっ、よこっちの世界にも、霊体の技術利用を考えた人達がいるんだね~。時空を越える大天才の束さん凄い!」

 

「……束」

 

 

緊張感漂う千冬の言葉に、つまんないのと呟いて、束は続けた。

 

 

「まあ全部、あの『高エネルギー体』が発見されたおかげだけどね~。だけど『霊体』の捕獲技術は確立されてないし、精製技術だって洗練されてない。だから製造できるコアの数には限りがあってね。そもそも、作るのにも時間がかかるし」

 

「……気持ちの良い話じゃあないな」

 

 

退魔、除霊といったモノを生業としながらも、互いの領分、生存所属といったものに敬意をはらって、実際南武の -魔体を利用した武器制作- 工場を潰した経験もある横島には、こちらの世界の現状がある程度分かっているとはいえ、素直に納得できるはずもなかった。

 

 

「で、コアを起動する際には、生きている人間の『エネルギー複合体』、霊体からエネルギーを送り込まなきゃいけないのさ。車のセルモーター、スターターと同じような感じ?」

 

「俺の世界で言う『霊力』を注ぎ込む、って訳か」

 

「そうそう。起動した後はパイロットはコアとリンクするから、通常の何十倍かのエネルギー。『霊力』が出力出来るんだよ~」

 

 

えっへんと胸を反らす束。

千冬は努めて冷静でいるように、横島には見えた。

その険しい表情から、千冬のこれまで経験がうっすらとでも、想像出来た。

霊体の精製物と自身の霊体を直結せざるを得ないシステム、それがどういうモノか、横島には少なくとも理解出来るモノだったからだ。

束が言った様な『初期の』システムがどういったものであったかは、想像に難くない。

 

 

「で、最初の話に戻るけれど。ISが女性しか取り扱えないのは、単純に男性ではコアを起動するに足る容量のエネルギーが放出出来ないってことなのさ。おわかりかな~?」

 

「まあな」

 

 

女性は月を象徴し、その魔力の恩恵を受ける。

どうやらその理はこの世界でも変わらないらしい、と横島は呟いた。

 

 

「コア無しじゃあ……てのは無理な話か」

 

「だねえ。計測した限りだと、よこっちとあたし達の放出出来るエネルギー量は、すんごい差があるんだよ。しょぼーん」

 

「で、その霊体兵器であるISの改良に、俺の知ってる知識を活用するって訳だ。千冬……は、コアがなんなのか、わかってたのか?」

 

「……言ったろう。大体は想像していた範囲内だ。初期のコアはもう少し不細工なものだったし、な」

 

 

その言いように束は不満げな顔をするが、千冬は続けた。

 

 

「ISの登場である程度落ち着いたとはいえ、あいつらへの戦力は絶対数が不足している。IS以外の対抗手段も開発していかないといけないんだ」

 

 

沈痛な表情の千冬に、横島は雇い主の美神だったら『協力しなさい』と問答無用で巻き込むだろうにと口元をゆるませた。

むしろ、束の、この状況を楽しんでいるかのような態度に大きな違和感 -いや既視感と言えばいいか- を覚えた。

が、言葉にしたのは別のこと。

 

 

「……やるさ。一応、GSの端くれだしな、俺。戻れるまで千冬や束の協力が無いと、行き倒れそうだし」

 

「礼を言う」

 

「最初に言っただろ、これもなにかの縁だし。目処が付くまでは協力するし、ここにも居るさ」

 

 

千冬は心底安堵して、息を吐く。

今すぐではないにせよ、様々な技術開発が進めば、世界はもっと穏やかになるだろう。

ついでに乳の一つも揉ませてもらえれば、と言いかけた横島に千冬が拳を振り上げる。

拳骨が飛んでくると身構えた横島を見る千冬の固かった表情が、ふと和らぐ。

真耶を呼んできて昼食にでもするかと椅子を引いたとき、束が面白そうに宣った。

 

 

「ま~でも、どちらにせよ、よこっちはしばらく元の世界には戻れないけどね?」

 

「え?」

 

「……どういうことだ、束」

 

「よこっちが今ここにいる事自体が、その証明なんだよ。ちーちゃん」

 

 

説明しろ、と千冬が口を開いた瞬間。

近距離で、爆発が起こった。

 

 

「遮断シールドが発動?! 束!」

 

「はいはいは~い。きゃはっ、やっぱりキタキタ! 今までで一番強力なヤツがっ!!」

 

「……やっぱり?」

 

 

襲撃を事前に予測していたかの様な束の言葉に、横島が聞き返す。

 

 

「そう。やっぱり、ね! よこっちが来てくれたおかげで、きっと『しばらくこんな感じ』だもん!」

 

 

なにがそんなに嬉しいのか、いっそ晴れやかな程に笑う束は、言い放つ。

 

 

「ホント、この世界は面白くなりそうだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディ・モールト続けっ


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