ISクロスGS ザ・グレート・ゲーム  【IS世界に横島忠夫を放り込んでみた】   作:監督

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第14話

 

『福音』がDDとして認識されている。

いかな暴走しているとはいえ人類を守るべき『IS』が仇敵の『DD』であるなどと、悪い冗談にすらなりはしない。

例え間違いであったとしても決してあってはならないし、あるはずがない事だった。

 

 

「福音は『高位体』相当のエネルギーを放出しつつ、西へ侵攻中! 日本領海への到達予想時間は後……3時間です!!」

 

 

真耶の悲鳴にも似た報告は、指揮車内を一瞬で凍り付かせた。

束は一人、我関せずといった風に落ち着いていたが、それでも何か確認したいのか、キーボードに指を走らせた。

 

 

「そんなことがあってたまるか! 『福音』の周囲を飛び回る『あいつら』と誤認していないか、 よく確認しろっ!!」

 

「い、いえっ?! あのその、全ての観測データが、福音を……いえ、『福音』が『DD』だと示しています!」

 

「……」

 

 

千冬の怒号に身をすくませる真耶。

横島は考えに耽っていた。

ISがどういうモノか、束ほどに理解していたわけではないが、それでもこのデータが示す内容が、どういう事態を引き起こすのか予想出来るからだ。

見据えるモニタに反映されている識別コードは、指揮車に集う人間達の気持ちとは裏腹に、ただ冷徹に事実のみを示している。

 

 

「束っ!! どういうことだ、これはっ?!」

 

「んー。わかると言えばわかるし、わかんないと言えばわかんない、かな?」

 

「なにをふざけて……!」

 

「ふざけてなんかないよ。わかるのは『福音』がDDって『認識されてる』事、わかんないのは『なんで』DDって認識されてるかってことだよ」

 

振り返りもせずそれだけ言うと、再びデータ抽出に集中する。

もはや、千冬すら目に入っていないようだった。

 

 

「……くそっ!! 禅問答をしているのではないぞっ!!」

 

 

千冬が叫びながら拳をデスクに叩きつけ、真耶の小さい悲鳴があがる。

薄暗いオペレーションルームは静けさに包まれ

束がキーを叩く音だけがモニタに吸い込まれていく。

 

 

「……撃墜された米国のISは十機を越える。エネルギー限界を超えて暴走は止まらない、周囲にはまだ『あいつら』が残存していて、しかも『福音』はこのままでは日本の人口密集地に到達する!!」

 

 

歯噛みして、モニタをにらみつける。

データが示す予想進路は、臨海学校が開催されている付近を含む、太平洋沿岸数百キロ圏内。

それは想定される限り、最悪の事態だった。

横島の開発した防御シールドや銀の銃弾(シルバー・チップ)などがあるにせよ

逼迫する世界の状況において、DDに対して人類を守る唯一の武器であるはずのISが、もしも都市を破壊したら。

そこに住む人々が犠牲になりでもしたら。

目の前で『ISとIS』が闘い、あえなく撃墜されていったなら。

 

 

「ISは、あらゆる意味で『最後の砦』なんだぞ! 万が一にも『福音』によって……ナターシャによって市民が殺傷されてみろ、それだけで世界中が大混乱に陥るんだっ!!」

 

 

千冬の怒りは収まらない。

当たり前だ、長く続く戦い -これが戦いと呼べるなら、だが- を共に戦ってきた仲間が次々散っていく様子を見つめるだけでも穏やかではいられないだろうに

『IS』が、憎んでも憎みきれない『敵』となったなどと言われても、簡単に受け入れられるはずがない。

普段から『DD』の脅威に耐えている市民達が、自分たちを守るべき『IS』によって攻撃されたならどうなるか。

千冬の焦燥がどれほどのものか、想像に難くない。

 

 

「……千冬」

 

 

横島は一歩進み出ると、千冬の肩にそっと手をかけた。

スーツ越しにでも分かる横島の大きな手を感じて、千冬はゆっくり振り向く。

まっすぐ自分をとらえて放さない力強い眼差し -いつもはぐらかす横島にしては珍しい- を、正面から受け止めた。

 

 

「落ち着けよ。らしくねーぞ」

 

「……すまん」

 

 

大きく息を吐き出して、千冬がつぶやく。

目を落とすと、忌々しげに掌で顔を覆った。

 

 

「……見苦しいところを見せたな」

 

「いや、なんつーか。お前もそうやって取り乱す事があるんだな。なんか、改めて親近感湧くわ」

 

「……そりゃどーも」

 

 

それが皮肉か気遣いかは分からなかったが、横島の物言いに、千冬の眼光が幾分柔らかくなる。

丁々発止やりあう、普段の二人の軽口。

大丈夫、いつもの千冬さんだ、と真耶の口元も綻んだ。

 

 

「真耶ちゃん。座標あってるよね」

 

「……はい」

 

「データの入出力に間違いはない?」

 

「……はい」

 

「計測機器が故障してる可能性は……って真耶ちゃんに聞くまでもないか」

 

「これだけの遠距離に対応できるレーダーを開発されたのは、横島さんですから」

 

 

真耶はキータッチを止め、俯く。

横島にしても、自身が開発した機材だけに故障の可能性がどれだけ小さいかは、よくわかっている。

ハードな環境下での使用も想定し、機構は極力単純化されており、極端に言えば既存のレーダーと違うのは精霊石の質だけなのだ。

横島は顔をあげ、日本に向けて進み続ける福音、いや『DD』の光点を瞳に焼き付けた。

 

 

「かと言って、日本政府からの依頼がないと、俺らは『福音』との戦端、いや、ナターシャの『救出作戦』は行えないか」

 

「政治的な中立は、決して行動の自由を保障する物では無いからな。下らん事だが……」

 

 

IS学園はその成り立ちからも、必要性からも、専守防衛を旨としていた。

基本的に『直接的な脅威』が明白にならない限りは、部隊を動かす事は出来ない。

救出作戦ならなおのこと、米国もしくは日本政府からの要請が無ければ動けない。

積極的な攻勢というものも、これまで防衛一辺倒だったDDとの闘いを考えれば必要なかったのだが、それを加味しても世界有数の規模のISを保有する学園への規制は、厳しいものだった。

 

 

「米国は今回の件を未だ秘匿しているようだし、日本政府にすら対応の要請は出ていない。どちらにせよIS学園としては動けんが、いったん要請が入ってしまえば、福音の速度から考えて余裕はあまりない。後手に回らざるを得ん」

 

 

千冬のもどかしさは、横島にも痛いほど感じ取れた。

先ほどから観測データは学園はもちろん、日米両政府にも転送しているが、それがどれほどの効果をもたらすのかも判然としていない。

反応があれば学園からすぐに連絡が入るはずだが、そのような気配もなく刻一刻と変化していく状況の中で、現実感を喪失しないよう努めるのが精々であった。

 

 

「まあ現実問題、対応できないと不味いよな」

 

 

なにをのんきな、と千冬は肩をすくめた。

 

 

「このまま米国からの救助要請が出なければ、防空識別圏に侵入してから、戦略自衛隊のISにスクランブルがかかる。だが日本の近海では、タンカーや漁船などの船舶に目撃される可能性も出てくる」

 

「……だな」

 

「今回の件は影響の大きさを考えれば、秘密裏に処理せざるを得ん。ある意味、情報が漏えいした時点で負け、だ。しかし米国から戦闘データの詳細が提供されない限り、こちらも視界不良のまま戦わざるを得なくなる。十機からのISを撃破した『福音』と戦端を開くなど、想像したくもないな」

 

「戦端、じゃなくて救出作戦、だろ?」

 

 

さも当たり前といった風に言ってのける横島に、千冬は苦笑いした。

そう出来ればいい、と思いながら。

 

 

「救出作戦を行うのであれば、少なくとも『ブースター』の活用を選択肢の一つに入れざるを得んが」

 

「……だけど『ブースター』は実戦テストどころか、本当にテスト一つしてないだろ。さっきから一言もしゃべらない、束ちゃん謹製の『紅椿』を使用して、初実験の予定だったし」

 

 

横島は親指で何かとりつかれたように懸命にデータ解析に勤しむ束を指し示す。

彼女の耳には、嫌味も全く届いていないようであった。

付き合いの長い千冬も束を横目に見やるだけで、すぐにまた横島に視線を戻した。

 

 

「そもそも『ブースター』を負荷無く利用出来るのは、紅椿だけだしな。他の機体で『ブースター』を試すにしても実証データゼロでは荒っぽすぎる、な……」

 

「戦闘データの詳細は不明とは言え、ISが十機以上撃墜されているってのはつまり、遠隔にしろ近接にしろ、絶対防御、シールドがことごとく破られてるってことだろ? それなら、なおのこと『ブースター』があった方がいいんだが……」

 

「で、でも……横島さん……例の想定される『副作用』を考えると、余程の事がない限りは」

 

 

言葉を句切った横島に、恐る恐る、真耶が告げる。

 

 

「でも、今がその『余程』の事態だしな……」

 

 

開発者として、既存ISに、新パーツを取り付けた際に起こる不具合には看過できないモノが含まれているのも分かっていた。

コアからのフィードバック、コアの残留意識が直接霊魂を叩く。

過去に横島自身が経験した、気の狂いそうなほどの干渉もその一つに含まれる事が考えられた。

 

 

「どうする、千冬?」

 

 

改めて、千冬の瞳を見つめる。

彼女の目にも、未だ迷いが残っていた。

その間にも、時間は刻一刻と過ぎていく。

『福音』の接近を示す、真っ赤な光点を背に、横島と真耶は指揮官の言葉を待つ。

 

 

「……決まっているだろう」

 

 

静けさを打ち破る千冬の一声。

咳払いを一つ、決意を新たにした千冬は真耶に、指示を出す。

 

 

「真耶。理事長にコールだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘匿回線で繋がった学園長室には、既に轡木夫妻が待機していた。

指揮車からのオートリンクで発された警報に、学園は既に対応していたのだろう。

シールドの展開も確認できる。

中天を過ぎた陽差しは園長室を明るく照らし出していたが、指揮車のモニタに映る夫妻は、穏やかな午後には似合わない、緊張した面持ちでいた。

 

 

「……織斑先生、報告を」

 

「はっ!」

 

 

これまで『吾輩は猫である』と指揮車からリンク・蓄積されたデータ、および学園施設からの観測。

混乱を極める日本政府からは、絶え間なく確認という名の悲痛な叫びが上がり続けるが、それに反して米国政府は沈黙を守り続けている。

不透明さを増す事態に加え、いかな暴走しているとはいえ、ISがISそのものを破壊している忌々しき事態を、この夫妻ですら受け止め切れていないのかもしれない。

千冬と轡木のやりとりを後ろで聞き止めながら、横島はそう感じていた。

 

 

「……なるほど」

 

 

報告を聞き終えた理事長は、右頬に手を当て、目を伏せる。

すっかり見慣れた、考え込む時の彼女の癖だ。

時間にすれば、そう長くはなかった。

だが沈黙した理事長の返答を待ちきれず、千冬が口を開く。

 

 

「無茶だとは分かっております。そもそも、今回の受け持ちは日本政府の領分。それを承知で申し上げます……理事長。学園による『銀の福音』の、ナターシャの救出作戦実行の許可を」

 

「……」

 

 

理事長は、弾かれたように顔を上げる。

黙したまま、モニタ越しに千冬を見据える。

 

 

「今回の事件、不透明な部分が多すぎます。解明のためには、中立の立場からの、生存者、ナターシャの証言および機体の解析がどうしても必要になります……それに」

 

 

千冬は深呼吸し、続けた。

 

 

「それになにより、ISに……インフィニット・ストラトスに関わってきた全ての者達がこれまで積み上げてきた、信頼が無に帰ろうとしているのです。座して認める訳にはいきません」

 

それは千冬の想いのほとばしりと言っても良かった。

横島も真耶も、押し黙って耳を傾けている。

 

 

「一線で『あいつら』と対峙するパイロットだけが、ISに携わってきたわけではありません。開発者の束、学園の教師達だけがISに携わった全てではないのです……大事な娘をパイロットとした両親も、機体製作に心身を削った開発者達も、戦場で文字通り壁となりながら撤退戦を行った兵士達も、日々の不自由な暮らしにも耐えてIS開発に協力してくれた市民達も。皆の努力があってこそ今のISがあるのです。この世界に平和を取り戻そうと必死に働いた、大勢の人達の強い意志あってこそなのです。その人達を裏切るわけには……まいりません」

 

 

政治的な背景を考えれば学園による救出作戦の実行はほぼ不可能だと、千冬だとて理解していた。

だが言わずにはおれなかった。

吐露した想いは、そのまま千冬の矜持でもあったからだ。

横島は千冬の傍らで、あいつらとの戦闘などあらゆる手段を尽くした上での最終的なフィールドに過ぎんと言っていたのを思い出していた。

背負うなどとおこがましい事は言わんが、それを忘れなければ、我々はより強くなれるのだとも。

どこの世界でも、女は強いな、と横島は苦笑する。

その強さに振り回されたのも確かなのだが、だからこそ、横島も千冬に続いた。

 

 

「理事長。俺からも、お願いします。『救出作戦』の許可を」

 

 

横島は深々と頭を下げる。

真耶も立ち上がり、同じように頭を下げた。

その姿を見て、理事長は数瞬間を置いて、自らの言葉を確かめるように慎重に、だが一息に言い放つ。

スピーカーから伝わった理事長の返答は、千冬達の期待とは異なるモノだった。

 

 

「日本近海に向け侵攻する、正体不明の『高位体』は学園への脅威と認識。これを撃滅せよ。IS学園としての命令は以上です」

 

 

千冬の落胆が、横島にも手に取るように分かった。

そうするしかない。

別名あるまで待機と言われなかっただけマシ。

理解は出来ても、ナターシャや戦死したパイロット達の顔が、ちらつく。

撃破出来るかどうかはわからないが、どちらにせよ、これでは何も分からない。

ナターシャ達は、まるで無駄死にではないか。

声にならない千冬の叫びを、轡木はゆっくり手を挙げて制する。

妻である理事長に代わった轡木は、普段あまり見せない、人の悪い笑いを浮かべながら言った。

 

 

「私たちはは必ずしも『福音』を撃破せよとはいっておりませんよ」

 

「……?」

 

「……そうか!」

 

 

轡木の言いように、千冬は戸惑ったが、側に控えていた横島が快哉をあげた。

 

 

「観測データは『あれ』が『高位体』であることを示しています。ISではない。『高位体』の討伐は困難を極めるが、なにしろ緊急を要する事態だ。『目標の分析、可能ならば捕獲。無理ならば』……撃滅。IS学園の権限において直近の、そして将来の脅威の接近に対処するため、アラスカ条約に基づき、独自の防衛行動に移るだけということです。アメリカが何か言ってきたら、そう返答せざるを得ません」

 

 

この命令であれば、現状、何も学園側の行動を制限する物は無いのだ。

未だ距離があるとはいえ、侵攻ルートも予測されている以上、防衛行動を取れなくもない。

米国政府にも日本政府にも遠慮する必要はなく、この悪夢のような事件も『DD』によるもので片付き、かつ、可能であればという前提がつくが『福音』の回収すら学園側で行う事が出来るし、最悪の場合でも、IS学園が -千冬が、だが- 福音の最後を見取る事も出来る。

この理屈に、千冬や真耶もすぐに気づき、はっとして顔を見合わせ、大きく頷く。

 

 

「ありがとうございます、理事長、轡木さん!」

 

「何をですか?」

 

 

ほっほと轡木は笑う。

肩をすくめた理事長も苦笑いしながら、千冬達に向けて告げた。

 

 

「事態は一刻を争います。学園からは榊原先生を隊長とした六機、二個小隊を出動させる予定です。これでよろしいですか?」

 

「六機も」

 

 

転送されてきたデータには、ラファール・リヴァイヴを中心とした編隊のメンバーが示されていた。

教員のみで編成された部隊の最年長が榊原であり -それはそのまま実戦経験の豊かさを示しているが- 他のメンバーも練達の名手揃い。

居並ぶ米国の熟練パイロット達十数名が、暴走に振り回されたとはいえ、次々に各個撃墜された事実を踏まえ、質・量ともに万全の構えで望む強い意志が込められていた。

 

 

「『福音』が米国ISのシールドをことごとく破ってきた事実、戦闘データの提供が受けられない状態を踏まえ、遠隔打撃に優れたラファールを中心といたしました」

 

「それで結構です」

 

 

横島達にしても、一次的な対応は威力偵察を行うしかないと結論していた。

その後遠隔打撃、近接戦闘と続くだろうと想定している。

近接戦闘に入るまでに、どれだけ『福音』を消耗させられるかが鍵となる。

 

 

「わかりました。すぐに出動させますから、程なく合流出来るでしょう。慎重に探りながらの闘いにはなるでしょうが、可能な限り海上での決着をお願いいたします。沿岸部への避難指示は、追って日本政府から出るでしょう」

 

 

臨海学校に引率で来ていた教員も、打鉄を使用すれば三名は振り向けられる。

併せて九機、三個小隊。

紅椿を加えれば十機。

これまでの対DD戦を加味しても、あまり類を見ない程の規模だ。

 

 

「部隊の指揮は織斑先生に一任いたします。生徒の避難誘導に関しては、教員はもちろんですが、保護義務を名目に戦自へ要請を出しましょう」

 

「了解しました!」

 

 

背筋を伸ばし敬礼する千冬の後ろ姿に、もう先ほどまでの『弱さ』は見られない。

千冬の芯の強さに、元の世界の除霊事務所の所長にも通じる姿に、そこはかとない懐かしさを感じていたが

 

 

「ああそうそう、横島先生?」

 

「へ?」

 

 

突然かけられた轡木の言葉に、横島は思わず気の抜けた返答をする。

 

 

「確か、明後日までは学園にいるはずでしたね?」

 

「え、いや、その……ははははははははは」

 

 

轡木夫妻のジト目に、乾いた笑いと冷や汗が吹き出る。

指揮車内部は、クーラーが効いているはずなのだが。

 

 

「……霊力維持の為とはいえ、あまりハメを外しすぎませんように。ま、そのおかげかもしれませんが、今回ストックの一部を榊原先生に渡す事が出来ました」

 

 

モニタに、榊原が手にしたジュラルミンケースが映し出される。

封印シールを目にして、榊原が確認するように、ケースを軽く叩いている。

 

 

「到着次第、横島先生に渡すように伝えてある。これを活用して、予測進路上の沿岸部に補助シールド展開をお願いいたします。万が一にも市民に死傷者を出すわけにはいきませんので」

 

「地脈のエネルギーに比べれば褒められたもんじゃないですが、了解です……てか千冬、あれ轡木さんにも渡してたんかい」

 

「問題あるまい?」

 

 

私の部屋に夜這いには来れても、轡木さんの部屋に侵入は出来んだろうしな。

そう呟いて笑う千冬に、横島は天を仰いだ。

まったくたいした女だよ、と呟きながら。

 

 

「さて」

 

 

轡木の咳払いが、再び皆の意識を引き戻す。

 

 

「人事を尽くして……ではありませんが。作戦の成功を祈念しています。織原先生、頼みましたよ」

 

「はっ!!」

 

 

千冬の最敬礼と共に、通信がいったん切れる。

暗転したモニタの残映が視覚から消え去ると、千冬の背中に横島が呟いた。

 

 

「……んじゃ、作戦の再確認と行こうか。あんだけ大見得切ったんだ。成功させなきゃ、な」

 

 

その時。

しばらく押し黙っていた束がようやく口を開いた。

キータッチする手は止めず、モニタから目を離さず、平行した作業を進めながら言う。

 

 

「当初の予定通りに、赤椿は出してもいいよん。だけど、一つだけ条件があるんだよ」

 

「条件?」

 

「『福音』の生け捕り。どうしても実機を確認しなきゃいけないみたい」

 

 

やーコンピューター万能って訳でもないねー、とクスクス笑う束。

千冬はまるで誰かに宣言でもするように毅然と返答した。

 

 

「もとよりそのつもりだ。この作戦は、この闘いは……ナターシャの『救出作戦』だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

中二病っぽく続け。

 


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