IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版)   作:ピーナ

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二巻の内容に入っていきます。


第五話 何もない場所で

六月四日、まだ日が昇らない内に僕は部屋を出た。

 

(叢雲、いつもの場所にお願い)

(了解)

 

僕は学園から姿を消した。

転移魔法でやって来たのは海鳴市の小高い丘にある墓地。僕の目的はそこにある一つの小さなお墓。僕はその前にしゃがんで、手を合わせる。

 

「……久しぶりだね、はやて。それと誕生日おめでとう。この数か月少し色々あったから、いつものようには来れなかったけど、これからはちゃんと来るよ」

 

僕は最低でも毎月24日にはここに来ていた。ここは僕が今背負っている物を思い出させてくれる場所で、今の僕の唯一の心の拠り所でもある。

……ここにははやての物は何もない。あの日、闇の書ごとはやてはこの世から消えたから。僕が持っているはやてや守護騎士たちの形見は闇の書、いや夜天の魔道書の破片ともいえる剣十字のペンダントだけ。僕が相棒の叢雲以外で唯一肌身離さず持ち続けている物だ。

傍から見たら、ただの石にすがるバカなガキだろう。でも、僕にはもうこれしかないから。……これしか残っていないから。

 

「二か月ちょっと来てなかったけど、綺麗だ。アイツらも来てくれてたんだな。さて、もう行くよ。……またな、はやて」

 

僕は墓地を後にした。

もし今の僕をはやてが見てたらなんて思うだろう。彼女を守れなかった僕に対してだから、苦しめって思うのかな? この答えはこの世のどこにも無いし答えが出ることも無いんだけど……。

 

 

 

なんかまた、学校に編入生が来た。今度はフランスとドイツから。

僕や一人目のデータが欲しいという国の意向かな。まあ、関わる気は無いから気にしない。

片方のフランス人は男子という触れ込みだけど、体格的に女子っぽい。叢雲の生体スキャンでも女子らしい。何人だろうが、男子だろうが女子だろうが、男装女子だろうが女装男子だろうが僕には関係ない。

もう一方の転校生、ドイツ人は意外な所から情報が来た。あの事の後もなにかと僕を気にかけてくれる人の内の二人、高町恭也さんと月村忍さん。二人からのメールにはドイツで知り合った軍人で、一人目を個人的な感情で恨んでいるとの事。たとえどんな感情を抱いていてもそれが僕に関係しなければどうでもいい。

 

 

 

学園に今年二度目の編入生が来た。今度はフランスとドイツの二か国から。

目的は恐らく、織斑君と霧島君のデータ収集。

学園ではIS委員会を通して各国に男性操縦者二人の操縦データを彼らの専用機の情報が漏れない様に注意しながら、発表はしている。しかし、何処の国も他国を出し抜きたいのだろう。だから、訓練で相対しやすい専用機持ちを送る。事実私もそういう事を若干であるが期待されている節がある。まあ、私はこの前担当者に正直IS学園の発表しているデータ以上の事は分からないというのを詳しく説明して納得してもらったんだけど。

むしろ、ISの母国日本が作った新鋭機と世界トップの技術を持つバニングス社の機体のデータの方が有用だと私は思っている。

しかし……どうして、両国ともこんな面倒な人間を送って来るかなあ。

フランスは代表候補生でフランスのIS業界のトップ企業デュノア社の子息、シャルル・デュノア。性別は男性……なわけはなく、我が家の総力で調べた結果は女性。本名はシャルロット・デュノア。デュノア社の現状も考えて男装してくる理由など十中八九、男性操縦者とその専用機のデータ目的だろう。仕事を増やすという意味でやっかいな人物だ。

厄介という意味ではドイツの方も同じだ。代表候補生で、ドイツ軍人のラウラ・ボーデヴィッヒ。国家代表や候補生が軍人と兼ねているのはそこまで珍しい事ではない。現に、今のアメリカ代表なんかはバリバリの軍人だし。

ただ、彼女はIS学園で教師をする前の織斑先生に教えてもらっていたらしい。私も噂でしか知らなかったけど、今回の件で二人の素行調査をした際に事実を知った。

その件で彼女は織斑先生を敬愛……いや、狂信と言っても良いレベルで尊敬しているとの事。こちらは、事件を起こしそうな人物といった所だ。

普通なら霧島君に注意しておいてと言うべきところなんだろうけど、彼はどちらとも関わらないだろう。だから、私が心配することも無いと思う。だけど念のために本音ちゃんには少し警戒してもらっておこう。

 

 

 

 

入学から二か月と少し経ったので、そろそろISを使った実習が始まる。そこで僕的に困る事が二つある。

それは『人付き合いをしたくない』っていう僕のスタンス。それと、『人に教える事』の難しさだ。

人付き合いの方は僕ではなく他の人が困るから僕が我慢すれば良いのだけど、人に教える事は御免したい。教える事って難しいし、僕には向いていないと思う。というか、そもそも僕なんかに態々教えてと言う人がいるのか? そう思うのだが……

 

「きーりん~、教えて~」

 

……そうだった、この子がいた。この子は今でも一番積極的に話しかけてくる。生徒会のメンバーなので会長さんとも知り合いだからもあるのだろうか?

 

「……なんで、僕に?」

「だって、きーりんが一年生で一番強いし、真面目だから教えてもらうには一番いいと思ったからだよ~」

 

案外ちゃんと見ている子だなあ。のほほんとしたイメージとは合わないけど。後ろに居た何人かも頷いている。

 

「強くても教えるのが上手いとは限らないし、教科書通りの事しか出来ないと思うけど、それでも良い?」

「それを判断するのは私達だよ~。だから、お願いね~」

 

まあ、確かにこの子の言う通りだ。

それからの実習はこの一回目のメンバーが固定となった。

 

 

 

今日から、ISを実習が始まった。

ISの実習は例年、国家代表候補生や企業代表、研究所の代表(一年で企業や研究所の代表などほぼ居ないけど)が一般生徒を教える。通年で7~8人のグループを受け持って教える。一度組んで変えないのは、どれくらいの実力か把握して、教える側の生徒の教える事についての練習であると共に自分の理解を深める目的もあるとお姉ちゃんが言っていた。

今年はきーりん、おりむー、るこっちゃん、ふぁんふぁんに編入生のでゅっちーとでぃっひーになる。うーん……。教えてもらうなら一番上手なきーりんかな~、やっぱり。

 

「ねえ、本音」

 

きーりんの所に行こうとしていた私を呼び止めたのはクラス一のしっかり者、鷹月静寐(私の中ではしずしず)。その後ろには何人かのクラスメイトが居る。

 

「どうしたの~」

「本音はやっぱり霧島君の所に行くんでしょ?」

「そうだよ~。きーりん、真面目だし、強いから一番上手く教えてくれそうだな~って思ったし」

 

私が真面目だというのはちゃんとした理由がある。

これはお嬢様情報なんだけど、基本早起きでそれから二時間位トレーニングをしているらしい。「大体、霧島君の出ていく音で一回目が覚めて、まだ早いからうとうとして、霧島君のシャワーの音で完全に起きるのよ」とはお嬢様の言葉だ。

 

「その、私達も行っていいかな?」

「良いよ~。だってこれはグループ作ってやる事だし。でも、どうして私に聞いたの?」

「やっぱり、どうしても怖いって印象があって……」

 

相変わらず、きーりんは学校中の生徒、一部の教員に怖いと思われている。私が見た感じ、今の授業に居る人間の中でその感情を抱いていないのは転校してきたばっかりの二人を除くと、織斑先生と山田先生、後多分、りんりんかな?

 

「実際は全然そんなことないよ~。それに偏見は駄目だよ?」

 

きーりんは普段、表情は変わらないし、人とのかかわりを避けてるし、その強さで怖いのかもしれないけど、この前、生徒会の仕事を手伝ってくれたみたいに、決して冷血な人間じゃない。最近は何度も話しかけた結果か、相槌打ったり、一緒にご飯食べたりしてるし。

 

「まあ、時間ももったいないし、早く行こっか~。きーりん~、教えて~」

 

この事が周りのきーりんの評価が変わるきっかけの一つになったら良いな~。私だけが良い所を知っているのも嬉しいけど、それ以上に悲しいから。

 

 

 




小さな変化はいくつかありますけど、この部分の一番大きな部分の変化は、実習時の本音パートがある事でしょう。
これはクラス内(ひいては学園内)の八雲の評価を話す際、学園生活の中で一番彼と接している本音目線が一番分かりやすいと思ったからです。

次回は……八雲の過去を話す回ですね。今日明日には上げれると思います。

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