IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版) 作:ピーナ
色々な行事があった二学期も終わり、IS学園は冬休みに突入していた。学生寮は静かである。というか学園全体が静かだ。
というのは二学期の終わり、第一アリーナの観客席を守るエネルギーシールド発振装置が異常を起こしたので少し早い冬休みに入って、学園のISやIS関係の施設の全面点検に入ったのだ。といっても篠ノ之先生が常人ではありえない速度で終わらせているので僕達関係でお疲れの先生方は少し早い仕事納めで今学園に居る先生は篠ノ之先生と織斑先生、山田先生位。
生徒に関してもどの道ISでの訓練が出来ないのでほとんどの生徒が実家に帰っている。居るのは僕達を含めた専用機持ち。というのも、アリーナの装置の発生の異常が二学期末の操縦試験の時に発覚して、早めの冬休みに入ると共に訓練機の全点検をするために詰め込みで一般生徒の試験を行って専用機持ちは後回しになったのだ。
その試験は明日行なわれる。
前日の今は今年度の残りの行事に関する仕事を少しずつこなしている。
残りの行事というのは『全学年合同トーナメント』。IS学園は2月の頭に学科を全て終わらせて、期末試験を行い、この一年の成果を見るためのトーナメントが開かれる。それが終わると卒業式&春休みとなるのだ。
「しかし、クリスマスも学校か~」
「毎年クリスマスは家で盛り上がってたけど、今年は無理そうだね~」
「少し残念」
「まあ、ここでミニパーティみたいな事は出来ますよ」
「学校の方がマシよね」
「去年までは一年で一番忙しい翠屋の手伝いしてたからねえ」
「……そっか、クリスマスか」
クリスマスに関しての反応はそれぞれ。一般的な反応(刀奈、本音、簪、虚)、やや特殊な反応(アリサ、すずか)、あまり思い出したくない人の反応(僕)。
……ま、時間作ってお墓参りに行かないとなあ。大切な約束だから。
「しかし、試験の組み合わせ発表されたけど、どうなるのかな~?」
「私はラウラちゃんで」
「私はシャルロット」
「フォルテ先輩。強敵だね」
「私の相手のダリル先輩もよ」
「僕の相手は誰なんだろ? ずっと未定のまんまで来てるけど」
織斑先生に言わせると「学園最強のお前に相応しい相手を用意してある」らしい。
何時の間にやら織斑先生を含め、何人もの先生の僕の認識が「学園最強」になっていた。確かに、模擬戦とはいえ刀奈、簪、ダリル先輩、フォルテ先輩を相手に勝ち続けたから仕方ない。
しかし、相応しい相手って誰だろ? 人という意味では織斑千冬というこの上なく適役な人がいるけど、この人に相応しいISが無い。刀奈&水雲と織斑先生&打鉄なら前者の方が確実に強い。
ちなみに、組み合わせの一覧は
第一試合 織斑一夏VS篠ノ之箒
第二試合 凰鈴音VSセシリア・オルコット
第三試合 月村すずかVSラウラ・ボーデヴィッヒ
第四試合 アリサ・バニングスVSシャルロット・デュノア
第五試合 更識簪VSフォルテ・サファイア
第六試合 更識楯無VSダリル・ケイシー
第七試合 霧島八雲VS?
となっている。
相手が分からないから準備できないけど、体調は万全だし、負けは無いかな。だって、カッコ悪い所見せたくないもん。
そんな事を考えているとゾワリと背筋が冷える感覚が僕を襲った。なんなんだ?
次の瞬間、とんでもない魔力を外から感じた。それと共に結界が展開される。
「何事⁉」
「外に何かあるよ!」
「なに……あれ」
外にあるのは異形と呼ぶのにふさわしい巨大な物体。魔力反応があったという事はまた、ロストロギアだろう。
しかし、何故だ? 僕にはあれに見覚えが……
『マスター無茶です!』
『そんなの……知るか!』
『ですが、40度を超える高熱、起きているのすら辛いはずです!』
『だけど! 皆がアレに!』
とんでもない魔力を感じる外の物体を見ていたら後ろで何か大きな物が落ちるような音がした。物音の方を見ると、八雲君が倒れていた。
「八雲!」
『大丈夫です、アリサ。気を失っているだけですから』
すぐに叢雲は答えてくれたから、すこし安心は出来た。
「でも、どうしてこうなったの?」
『それは、あれがマスターのトラウマですから』
「という事は、あれが闇の書ですか?」
『正確に言うと夜天の魔導書が闇の書になってしまった理由ですね』
「でも、吹き飛ばしたんじゃ……」
『あくまで予測ですが、ほんのわずかに残った物が潮の流れでここまで来て、再生したのかと』
色々面倒な事になったわねえ。まずは……
『更識、聞こえるか』
タイミングよく織斑先生からプライベートチャンネルに連絡が入った。
『聞こえています』
『会議室に集合だ。霧島も連れてこい』
『それは無理です』
『……何かあったのか?』
『その辺は後で説明します』
さて、皆で会議室に向かわないとね。でも、その前に
「虚ちゃん」
「分かってます。少々お待ちを」
そう言って虚ちゃんと八雲君は転移し、すぐに虚ちゃんは帰って来た。
「それじゃ、行きましょうか」
会議室に八雲を除いた全員が集まった後、織斑先生が口を開いた。
「更識、霧島と外のアレは関係しているのか?」
「それは……」
「全て私がお話します」
室内に響く電子音。私たち以外は周りを見回している。山田先生や篠ノ之先生も近い反応をしているという事は魔法の説明はしても、必要最低限だったのだろう。
「私は叢雲。マスター・霧島八雲の剣です。皆さんに分かりやすく言えば瑞雲の中身です」
「中身……ですか?」
「ええ。あなた方がISを纏うように、私もそれに対応するために瑞雲を纏っているのです。さて、今現在外に居るのは今年の学年別トーナメントの際のシュヴァルツェア・レーゲンの再暴走や銀の福音の再暴走と近い技術が使われています。まあ、それらに比べると桁外れに危険ですが」
「どれほど危険なのだ?」
「そうですね、アレが全盛期まで復活しているなら、小石と467機のIS位の差はありますよ。まだ、IS一機程度の差で収まっていますが」
流石にこの叢雲の言葉には表情を変えなかった織斑先生も驚きを隠せなかった。私達はなのは達に聞いていたから驚かなかったけど。
「……一体、アンタと霧島はなんなのよ?」
「そうですね……。ここで学ばれているISは本来、人類の宇宙開発の為に作られた。そうですね?」
「そうだよ」
「SF作品なんかでは宇宙を『星の海』と表現する事もあります。ただ、この世には地球の技術では認識できない海が存在するんですよ。一つ一つの宇宙を繋ぐ海が」
「所謂、多次元宇宙論って奴だね。今の私達が見えている宇宙を一つのくくりで見て、それと同じような物が一杯あるっていう」
「その通りです。私も外にあれも大元をたどれば同じ技術と言って構わないでしょう。私達の世界ではそれらを魔法と呼称しています。まあ、こことは違う技術だと考えていただければよろしいかと。ああ、マスターは地球生まれ海鳴育ちの正真正銘の地球人ですよ。ただ、突然変異で魔法を扱える能力を持って生まれ、出会っただけです」
会議室が一瞬、静寂に包まれる。まあ、信じられない事実のオンパレードだったからだろう。
「……霧島がここに居ない理由は?」
「一言で片付けるならトラウマですね。今年度が始まってから二か月と少しのマスターの状態の原因もアレに起因します」
「詳しくは……聞かない方が良いのだろうな」
「別に問題はありませんよ。他言無用ですが。アレの大本の主がマスターの大切な人でアレがああなった事でその人を護れなかった。何人もの大切な仲間を喪って、マスターだけが生き残ってしまった。マスターはそれを責め続けた。それだけです」
デバイスだから、淡々と事実を告げる。
「……誰かに頼る事は出来なかったのかよ」
「今、マスターのいる組織なら頼る事は出来たでしょうね」
「それなら!」
「結末は変わらなかったでしょう」
「どういう事だよ!」
「私達の組織は様々な世界にある危険な魔法物品を管理、封印するのも主任務です。無断所持はそれだけで罪です。たとえそれが関係無い世界の人間でも。それほど危険な物ですから」
「そんな横暴……」
「下手したら地球が消えるんですよ? それでも横暴といえますか?」
管理外世界の私達からすると確かに横暴と取られかれないけど、危なさを知る彼からかすると仕方のない処置なのかもしれない。実際は封印さえできればすぐに解放されるらしいし、管理外世界に流れる理由がそう言ったものを扱えるだけの能力があるから、逆にスカウトされる場合も多いらしい。
「だけど!」
「それに、あの時は時間が有りませんでしたから。理想に賭けるのではなく、提示された現実を選んだ。それだけです」
「それでも、方法があったかもしれないだろ!」
その言葉に、叢雲は反応した。出雲を動かし、瑞雲を織斑の喉元に突きつけるという形で。
「私は必要があったから、事情説明の為に話しただけです。織斑一夏、あなたの考える理想論が聞きたくて話している訳ではありません。それにマスターを知ろうとしなかったあなたに霧島八雲を語る資格などありませんよ」
デバイスである叢雲に感情は無い。実際、この言葉に抑揚は無い。だけど、その言葉からははっきりと怒りの感情が伝わってくる。殺気すら感じさせ、他の誰も身動きできない。
叢雲はアイツのそばで苦しむアイツを見てきている。どれだけ苦しんできたかを一番知る存在だと思う。だから、軽々しく言う織斑にキレた。
「……それで、アレへの対処方法は?」
「今なら、まだISでもダメージを与えられるでしょうが、消滅させるには外部にある程度ダメージを与えて核を露出させて超高魔力を当てる必要があります。本来ならマスターが適役なのですが」
「精神的な物で倒れた霧島を戦力にはカウントできんな。更識達では?」
「無理です。アリサ達は一般的には十分な保有量を持っていますが、今回必要なのは桁外れの量です。六人合わせても足りません」
そう、八雲の魔力量は私達6人を合わせた物よりも多い。本来なら私達位で一流と呼べるのだが、八雲は文字通り常識外れの保有量。
「外の奴は完全に復活してないんだよね?」
「ええ」
「ダメージを与えれば時間を稼げる?」
「恐らくは」
「なら、方法は一つだね」
「ああ。時間稼ぎで攻撃を続けるしかない」
「先生、力になりそうな人を呼んでも良いですか?」
そのすずかの言葉に私達はピンと来た。丁度タイミングよくこっちに帰ってきている、私とすずかと八雲の幼馴染を。
「許可する。このままだと人手が足りんからな。」
終わりの見えない戦い……。大丈夫なのかしらね、私も皆も。八雲が居ないのが痛手ね。
さて、中々危険な状況にIS学園がなりました。
叢雲がISを動かせた理由について
これは7巻のタッグマッチの際、八雲のパートナーとして遠隔操作機『幻雲』を出現させて、それを叢雲に動かしてもらおうという没設定の名残です。叢雲側からでもある程度ISを動かす事が出来ます。
その2では甘いお話を予定しています。では、1時間後にお会いしましょう。