IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版) 作:ピーナ
「さて、今日は何する?」
五人になった寮の自室で刀奈がそう言った。
今日は八雲と虚のデートの日。八雲を追い出し、虚の今日の服を皆(すずかと簪がメイン。私達は肌を出す事を前面に出し過ぎて却下された)で決めて送り出した。
今日の予定は全然決めていないから、さっきの刀奈の言葉が出て来たのだ。
「……のんびりすれば良いんじゃない? お姉ちゃん」
「なんだかんだ忙しかったしねえ」
「まあ、多分皆の本音としてはデートを見に行きたいだと思うんだけどね」
すずかの言葉に私を含めた四人は首を縦に振る。
興味本位も若干あるけれど、この後いつか必ず来る自分と八雲の二人っきりでのデートの勉強がしたいというのが大きな理由だと思う。
多分、八雲も虚も尾行しても怒らないとは思う。だけど、今回のデートは今年卒業する虚の高校最後の夏で最高の一日にするために八雲が考えた事だから出来るだけ邪魔をしたくない。八雲は目線に敏感そうだから、こっちが気を付けても気付かれそうだし。
「よし、準備かんりょ~!」
一人会話に加わらず何かを作業していた本音がそう言った。
「何をしてたの本音?」
「ちょっと面白い事~。行くよ、カーバンクル!」
『Yes,master』
すると、カーバンクルの待機状態が空間ディスプレイとなって映像が映し出される。
その映像はIS学園モノレール駅の前の上空からの物で中心には一人の男子、ってか八雲が居た。
「……本音、これまさか」
「かんちゃんが思っている通り、サーチャーで撮影中なんだ~。はっちーと叢雲の探査にかからないようにステルス性を強化してね~。残念だけど音声は拾えないけど~」
「グッジョブよ、本音ちゃん! 早速観ましょう!」
これは今日の予定は寮の部屋で二人のデートの見物で確定ね。
観察し出して少ししたら虚がやって来た。
八雲は着飾った虚に見惚れていた。今日の虚の服装は彼女の良さを最大限に引き出せるものだから、八雲が見惚れたのも分かる。凄い美人だもの。
「そう言えば」
「どうしたの、アリサちゃん?」
「いや、大した事じゃ無いんだけどね。付き合ってから私達って八雲の前でちゃんとしたおしゃれってしてないわよね?」
こう思ったのは虚の姿に見惚れている八雲を見て新鮮だったから。我が家に来た時、私は普段の私服だったし、皆もそんな感じだったのだと思う。高校生になってアイツの前で着飾ったのは臨海学校前の買い物の時位だった。
「確かに。改めて出かける機会が無かったからね」
「ずーっと一緒だから、部屋着か制服だもんね~」
「まあ、一段階飛ばしての同棲状態だからね」
というか、私達って普通は踏むべき段階をいくつも飛ばしてきているからねえ……。
「おっ、虚ちゃん腕に抱きついた。積極的~」
「八雲君も慌ててるね~」
「あれより激しい事やったってのに、何を恥ずかしがっているのかしら?」
「それはそれ、これはこれなんだよ~。でも、お姉ちゃん羨ましいな~」
それは同感。機会が有れば私もしようかしら?
そう思っていると、二人はモノレールに乗り込んだ。本格的にデートスタートね。
「この移動中の内にお菓子とか飲み物の用意しちゃおうよ」
「ナイスアイデアだよ、すずー。作り置きしてあるクッキーがあったからそれを食べよ~」
お菓子と飲み物をセットし終えると、二人も目的地らしいレゾナンスに到着していた。
「って事は買い物かな?」
「鉄板だね~」
「虚ちゃんの買い物もありそうだけど、八雲君の買い物がメインでしょうね」
「どういう事よ、刀奈?」
「だって、八雲君ってこれからの季節の私服って無いでしょ? なら、後々の事を考えての買い物じゃないかなって思ってね。そうじゃなくても、ここ数カ月で7~8センチは伸びてるから服は買わないといけないだろうし」
八雲にやって来た成長期は凄い物で入学した時は2、3センチしか変わらなかったのが今は10センチ近く違う。それが理由でISスーツや制服を新調する事になった。八雲本人は「170超えたから満足だよ」って言ってたけど。
「八雲って身長の割に体重重いのよね」
「それは筋肉質だからだよね?」
「それでこの前、ウチの会社の人にアイツの体脂肪率聞いてみたら10%前後だって」
「……だから、脱いだらあんなに凄いのね」
「はっちーの着ているISスーツが体のライン出にくい物だったから良かったけど、あれを見せられたら、競争率は上がっただろうね~」
本音の言う事も一理ある。八雲のスーツを作った人には感謝しかない。
ただ、女子としてむかつくのは八雲の場合、いくら食べても太らない事。男女差があるにしても八雲本人曰く「燃費が激悪なんだよね~」らしい。
ちなみに、すずかも八雲と同じ感じで本音と虚は胸に行くらしい。……羨ましい。
「そう言えば、アリサとすずかは買い物長い方なの?」
そう尋ねてきた簪。そう言えば簪とはどこかに出掛けるって機会無かったっけ。今度、女子会と称して八雲抜きで遊びに行こうかしら。
「短い方だと思うよ」
「私達はね。ただ、そういう時は私達二人と言うよりなのはとフェイトとアリシアの五人ってパターンで、その三人が私達よりは長いから、相対的に見てって感じだけど」
その三人も言うほどは長くないから私達の中でのショッピングは午前中に終わらせる物という認識になっている。
「八雲君、凄い量の買い物だよ。本格的にファッションの勉強もするのかな?」
「普通なら躊躇するでしょうけど、そこらのサラリーマンよりは稼いでるしねえ」
「買い物は一段落みたいだから、次はちょっと早いけど、お昼かな~?」
「もう11時過ぎてるから言うほど早いって感じでもないけどね。私達はどうする?」
「手早く作れて、何かしながらでも食べれる物……サンドイッチかな。朝のサラダの残りも使えるし」
「良いと思うよ。それなら皆で手分けして作っちゃおう!」
五人分のサンドイッチだけど、工程をそれぞれ分担すれば案外早く終わる。完成させて戻って来ると丁度二人も食べ始めていた。二人はイタリア料理のお店に入ったらしく、パスタを食べていた。……何故か二人なのに三皿あるけど。八雲の普段の食べる量を考えれば足りないのは想像できるから、あらかじめ二皿頼んだんだろう。
「おおっ、食べさせ合いしてるね~」
「二人ともカップルしてるわね~」
「……当たり前なんだけど、朝と夜、時々三食皆同じメニューだから、ああいう機会って無いんだよね」
まあ、態々やる必要もないし、恥ずかしさもあったのだと思う。……王道のシチュエーションではあるから憧れはあるんだけどね。虚はこのデートを楽しむために良い意味で吹っ切れてるみたいね。普段なら絶対にやらなさそうだもの。
お昼を食べ終わった後、二人はレゾナンスの専門店が立ち並ぶエリアに向かった。
「これ以上は不味いかな~」
「この先のエリアはちょっと天井が低いからばれる可能性が高くなるね。出てくるまで待ちかな」
何でもそろうレゾナンスの所以がこの豊富な専門店のエリア。ぎっしり並んだテナントと他の所よりも低い天井が特徴的で思っている以上に様々な物があるから冷やかしで歩くだけでかなり面白い。
「ん? メールだ。虚から?」
「私にも来てる。って言うより、皆に来てるわね。なんだろ?」
私と刀奈の言葉で全員が携帯をを取り出した。どうやら虚がメールを一斉送信したらしい。文面は『感想は帰ったら直接言ってあげてください』と簡素な物で写真が添付されていた。その写真には和装姿の八雲が。
「おおっ! 似合ってる!」
「確かに!」
「普段とも違った感じだけど、それが良いね!」
「そういや、先代様に袴を貰ってすっごくテンションあがってたね~」
その話は八雲がミッドに行ってる間に聞いたわね。まあ、叢雲が日本刀型だったり、和食や緑茶が好きだったりで日本文化好きなのは薄々感じていたけど、ここまで似合うなら……
「普段から着て貰いたいわね」
「リサリサ、グッドアイディア!」
「帰ってきたら頼んでみようよ!」
皆乗り気だし、これ位のお願いならきっと八雲も聞いてくれるだろう。……今年はもう無理だけど、来年は皆で浴衣で夏祭りとか行きたいわね。
八雲の和装写真付メールが来て少ししてから専門店のエリアから出てきて、レゾナンス内を少しぶらぶらした後、二人は近くの公園に来ていた。気が付いたら既に日は傾き始めている。
公園と言っても遊具の類は無く、綺麗に芝生が敷かれた所に遊歩道があって、日が高い頃なら家族連れでお弁当を食べて遊んだりしてそうな感じだ。
「もう夕方だね。これで終わりかな?」
「ちょっと公園を散歩して戻って来るって感じっぽいね」
「でも、買い物よりもこういう所で二人でお散歩したり、レジャーシート敷いて読書したりって言う方がお姉ちゃんとはっちーに似合ってる気がするよ~」
……言いたい事は分かる。そういう絵が簡単に想像できるし。だけど、落ち着き過ぎだと思う。高校生っぽくないわね。
「クレープ屋の屋台に行くみたいだね」
「そういや、レゾナンス近くの公園にあるクレープ屋の屋台でいつも品切れのミックスベリーを食べたカップルは幸せになるって薫子ちゃんが言ってた様な……」
「なにそれ? 普通にいつも品切れなら無いんじゃないの」
「……二人でベリー系を食べてイチャイチャしろって事なんじゃない」
「「「「あーなるほど」」」」
誰が言い出したか分からないけど、よくそんなこと考えるわよね。
「確か虚ちゃんって薫子ちゃんにも相談してたよね?」
「じゃあ、お姉ちゃんも知ってるかもしれないんだ~」
……こっちはクレープ食べてないけど甘ったるくなりそうね。
そう考えていると、案の定八雲は虚にクレープを食べさせていた。ここまでは予想できた。
でも、この後虚が予想の上を行く行動を取った。自分の持っていたクレープを一口食べるとそれを八雲に口移しで食べさせたのだ。今日の積極さ+周りに人がいないのもあるのだろう。
お返しに八雲も彼女に同じ事をしている。……ちょっと羨ましいとか、私もやってもらいたいとか思っている私も同じ穴のムジナなのかしらね。
クレープを食べ終わった二人は今日一日で見慣れた光景になった腕を組んで帰路についた。
「飲み物持ってこようか~?」
本音がそう言うと
「「「「コーヒーお願い。ブラックで」」」」
と私達四人は答えた。
「分かった~。コーヒーブラックで5つだね~」
甘ったるさを誤魔化すのはそれしかないわよね。普段、ブラックを飲まない刀奈や本音までそうなんだから。
デートを遠くから覗く他の五人の回をお送りしました。
ちなみに八雲は気付いていません。が、叢雲はサーチャーの存在に気付いていました。言わなかったのは、別に害が無いと判断したからと主のデートを邪魔したくなかったからです。
次回は前回予告した事をやるつもりです。