IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版) 作:ピーナ
僕が誰にも聞かれていない告白をした日から二日後、翠屋に寄ってちょっと早めのお昼を済ませて皆のお土産としてシュークリームを買ってから学園に戻った。ちなみに、昨日は一日中バニングス社でISの起動テスト。僕が頼んで付けてもらったものや、細かい改修のチェックをした。その時にちょっとしたことがあったけど……まあ、それは今は置いておこう。
実は夏休み中に翠屋に行くのはこれが初めてではない。学園から直接各家に行くより海鳴から行く方が交通の便良いし、時間も掛からないから夏休み入ってからミッドに行くまでは自分の家に居て、やることも無かったから翠屋でバイト(パティシエ見習い)をしていた。いやー、勉強になったし色々な経験も出来て楽しかった。……皆に会えなくて寂しかったけど。
「皆何をしてるのかねえ?」
『確か、アリサとすずかの二人は今日学園に戻って来る予定だったはずです』
「だったね。って事はまだ帰って来てないかもしれないんだよなあ」
『そうですね、残りの四人は昨日に戻って来たと連絡がありましたから、それぞれやる事をやっているのでは?』
何日間か空けてたから、生徒会の仕事とかありそうだよなあ。まあ、今は夏休み中だから量はたいした事は無いだろうけどさ。
「って事はフリーなのは簪……いや、それも無いか。専用機完成したんだし」
実は簪の専用機は夏休み前にアリサ経由でバニングス社が正式に開発を引き継いだ。魔導師の適性を持った簪は(アリサやすずかもだけど)出雲と同じく、魔法技術を使った兵装を搭載している。
翠屋に寄った時、そこで家の手伝いをしていたなのはに聞いたんだけど、どうやら、僕がミッドに行っている間彼女達はなのはとフェイトの短期魔法訓練を受けていたらしい。
……全員脱落せずに乗り切ったって聞いて驚いた。だってメニュー聞いてかなりのスパルタだったんだもん。国家代表の刀奈さんや代表候補の簪、夜の一族の血を継ぎ、身体能力ならトップクラスのすずかならともかく、他の三人も乗り越えたってのが意外だった。なのはに「愛の力だねえ」ってからかわれた。ただその前の「色々な意味で」ってのが少し引っかかるけど。
「とりあえず、部屋の冷蔵庫にシュークリーム入れときますか」
今日は八月にしては涼しいけど、それでも30℃近い気温。幾らドライアイスを入れてもらったからって、危ないだろ。だから、まずは部屋に向かう。
その道中、
「あっ、霧島君! 良い所に居た!」
「ども、黛先輩。どうしたんですか? 僕今冷蔵庫にしまいたい物持ってるんですけど」
僕が出会ったのは黛薫子先輩。刀奈さんのクラスメイトで友人。そんでもって二年整備課のエース。その能力は虚さんも認める所という才女だ。夏休み前に刀奈さんの紹介で知り合った。
「緊急事態なの!」
「緊急事態?」
こんな夏休みの真っただ中に?
「今日、私は本音ちゃんと一緒に簪ちゃんの専用機のテストをする予定だったんだけど、突然、何人もの生徒に囲まれて襲われたの! それで、たっちゃんの所に行く途中なのよ!」
黛先輩の言葉を聞いて、一気にキレかける。ここでキレても意味がないから抑えるけど。
「……それは、何処ですか?」
「……霧島君、怖いよ?」
どうやら怒り自体は隠せなかったらしい。
「嫌だなあ先輩。当たり前じゃないですか、恋人のピンチなんですから」
「あー……そうだったね、その事はたっちゃんから話は聞いたよ。今度取材させてね。それで、場所は第二アリーナだよ。ただ、本音ちゃんがいきなり襲われた時驚いてこけて足首ひねっちゃったみたいなの」
先輩のその言葉を聞いて僕は持っていた翠屋の箱を押し付けた。
「これ、虚さんに渡しといてください」
「ちょ、霧島君⁉」
先輩の僕を呼び止めようとする言葉を聞きながら全力で走り出す。一秒でも早く行かないと!
今日、私はようやく完成した打鉄弐式改め『紫雲』のテストをしている。私の専用機の『紫雲』は八雲君の『出雲』、アリサの『紅雲』、すずかの『蒼雲』とは姉妹機になる。
もっと正確に言うと紫雲、紅雲、蒼雲は八雲君、叢雲、出雲のトリオの性能に量産機でどこまで近付けるかのテストをするための機体で、紅雲は近距離重視、蒼雲は遠距離重視、紫雲は中距離のバランス型となっていて、それから私の特性に合わせて武器や性能を調整しているから紫雲改といっても良いと思うものになっている。
基本的に全部出雲が基本になっているので、装備も出雲に近い。
私の紫雲の場合だと、マルチバレットエネルギーライフル『彩雲』が私の適性に合わせてNバレットに特化させた『彩雲改N型』になっていたり、近接兵装の『瑞雲』が薙刀型の物になっていたりする。
専用機と言えば実はお姉ちゃんの機体もロシア政府が許可を出したのでバニングス社の改修を受けている。名前も私達の機体に合わせて『水雲』と変更した。武装自体は変更はないけど、出雲で得たデータや技術を反映しより完成度を上げている。
その中での大きな特徴が、マルチロックオンミサイルユニット『乱雲』。打鉄弐式の『山嵐』をたたき台に、Nバレットの誘導方法などの魔導技術由来のマルチロックオンシステムを組み込んだ装備で紫雲の切り札でもある。受領に行った時に使ってみたけど……予想の上を行く出来だった。自分の手足の様に操れるって言うのはこの事だと思う。
今日のテストは、今自分がどれだけ紫雲を使いこなせるかそれを確かめるつもりだ。
「かんちゃん、こっちは問題無いよ~」
「私の方も問題無し。薫子先輩が来たら始めよっか」
黛薫子先輩はお姉ちゃんのクラスメイトで友人、新聞部の副部長で整備課の二年生エース。その実力はお姉ちゃんの専用機開発にも一年生でありながら関わった事、ロシア代表のお姉ちゃんの専用機を虚さんと共に任されている事からも分かる。
昨日の夕方帰って来た時に今日のテストの事をお姉ちゃんと虚さんに相談した時、虚さんが「それなら、薫子さんにお願いしましょう。彼女なら腕も確かですし」と言って、丁度、食堂に行く途中の薫子先輩に会ったからそこでお願いしたら、二つ返事でOKをくれた。
私達が薫子先輩を待っているのはお願いした時に「明日は午前中、新学期一発目の新聞の編集会議だから、お昼からなら」と言われたから。予定した時間はちょっと前に過ぎているけど、アリーナに来る前にちょっと遅れるというメールがあったから待っている。元々の予定に私が割り込んだんだからそれ位は待つ。
薫子先輩が来るまでの間、本音と話しながら家の蔵に眠っていたデバイスの一つで私が使っている『野分』に頼んで魔法の基礎、マルチタスクの強化に励んでいる。多分、一緒に居る本音も彼女のデバイスである『カーバンクル』と一緒に励んでいるだろう。
そんな時、突然紫雲が警告を送る。そっちの方を見ると突然何かを撃たれた。私はそれをプロテクションシステムを発動させて防ぐ。
撃った方にはラファール・リヴァイブと打鉄。それが合計で20機ほど。
「……なんですか? 突然攻撃してきて」
「アンタが目障りなのよ! 一年のクセして代表候補生で専用機持ってて、姉の七光りで全部手に入れたくせに!」
……なるほど、嫉妬か。ここに居る人たちは私が国家代表候補生である事と専用機を持っている事が気に食わない。お姉ちゃんのおこぼれをもらっているだけだと。
そういうのは上級生に流れているとは薫子先輩に聞いた。なまじ、お姉ちゃんが有名人で、私がここまでの行事に不参加だった事からそれに拍車が掛かったらしい。先輩は「と言っても、そんな事言ってるのはISの訓練や勉強そっちのけで遊びにかまけてる不真面目な操縦科の連中だよ。整備課はほとんど全員が簪ちゃんの努力を見てたから知ってるし、整備課と繋がりの深い真面目な操縦科の子達は『代表候補は才能の青田買いかもしれないけど、専用機はそれだけじゃ得られないから』って言ってそんな事笑って流してるから」と言っていた。
『本音、逃げれる?』
私は念話で後ろに居る本音にそう問いかけた。もうちょっと行ったら、緊急用の避難エリアがあるからそこに行ければ……
『ゴメン、かんちゃん。驚いた時、こけて足挫いちゃった』
『大丈夫なの?』
『大丈夫。でも、ちょっと動けないかな~』
最悪の事態だ。恐らく、攻撃は続くだろう。本音が近くに居るのに攻撃してきたから、私は本音を守りながら対応しないといけない。
『マスター』
『どうしたの? 野分』
『黛薫子がアリーナに来て、この状況を確認しアリーナを出ようとしています』
これは良い報告だ。先輩がお姉ちゃんか先生を呼んでくるまで耐えれば良い。ここは後者から一番近いアリーナだから、五分もあれば誰か来ると思う。
それにさっきの攻撃に使われた弾は5,56ミリ弾。ISの使う銃器の中で最も小口径な弾で取扱いの易さから初心者用と言われている物だ。その分威力もお察しである。だから耐えるだけなら難しくない。ちなみに、基本的なISの実弾銃の弾は12,7ミリ。生身の人が持ち運ぶ銃器扱う弾の中で最も大きい弾を使っている。これ以上となるとISの機能で反動を抑えるのが厳しくなってくる。トレーニングや適性、技術で補ってより大口径な物を使う人もいるけど、扱いやすいライフル系はこの辺が普通だ。砲となると、ボーデヴィッヒさんのシュヴァルツェア・レーゲンの肩の砲みたいに大口径な物もあるけど、それも取り扱いがとても難しくなってほんの一部しか使われていない。
だけど、やられっぱなしは嫌だよね。私だってもう護られてるだけじゃない。出来る事をやる。
「……それで何がしたいんですか? 私を痛めつけても代表候補生にもなれないし、専用機も貰えませんよ」
少し間を開けてから私はそう聞いた。
「そんなの分からないじゃない!」
いや、たとえ集団で押し勝っても代表候補生になれる訳ない。集団(しかも20機以上)で勝った所でこれが実力と言っても鼻で笑われるだけだ。それと、実力と共に代表候補生に必要な(少なくとも日本の代表候補生の選出基準に明記されている)人柄、人格面でもアウトだ。
闇討ちを仕掛ける人間を代表候補生に選べるわけがないだろう。
「分かりますよ。スカウト来てないんですし。素直に9月のキャノンボールファストや11月の学年別トーナメントで結果出すために努力した方が良いんじゃないですか?」
「う、うるさい!」
そう叫んで先輩が攻撃を仕掛けてきた。もうちょっと話で時間を稼ぎたかったんだけどなあ。
それと同時に後ろにいた人たちも私に攻撃をして来たんだけど……弾幕が荒い。良く見ると、5,56ミリ弾を使う物の中でも短銃身の物を使っている。実弾銃の短銃身は取扱いの向上と引き換えに反動だったり銃声だったりが大きくなっている。と言っても、ISがあれば全然抑え込めるレベルのはずなんだけど……。持ち方もそうだし、ほとんど練習していないっぽい。
……今、こんなかなりのピンチな状況も自分でもビックリするくらい落ち着いて状況を分析できている。これは何日か前の経験が生きて来ている証拠だと思う。
八雲君がミッドチルダに行った翌日、私達はアリサとすずかの紹介で二人(八雲君を含めて三人)の幼馴染である高町なのはとフェイト・テスタロッサと出会った。それで、私達六人は彼女達から魔法の基礎を習った。魔法を扱う基本、私達には全員空戦の適性があったのとデバイスが飛行魔法の補助を自動でやってくれるものだったから、魔法の空戦の基本、全員の能力適性(お姉ちゃんがFA(フロントアタッカー)、アリサがGW(ガードウイング)、私がCG(センターガード)、すずかがWB(ウィングバック)、本音と虚さんがFB(フルバック))の基本を学んだ。かなりISに応用できそうな事があったし、ISの操縦に近い部分もあったから、割とスムーズに行った。ISも魔法も少しの間だけしか使ってないからまだまだ未熟な力だけど、今後ろに居る大切な人を護る為の力。私は今出来る事を全力でする!
「紫雲、私に応えて! プロテクションシステム起動!」
正面から来る大量の弾丸を私達の前で発生させたエネルギーシールドで防ぐ。本音の事を考えるならバリアタイプを展開する所なんだけど、それだとどこまで耐えれるか分からない。だからより防御力の高いシールドタイプを選んだ。
正確な時間は分からないけど、その攻撃の嵐が通り過ぎるまで二分は経ったと思う。
「こうなったら、何人か直接行くわよ!」
どうやら、格闘戦に来るらしい。遠近両方をさばききるのは流石に……厳しいね。だけど、何とかしてみせる。
加速して近寄ってくる先輩。数は7人。私は瑞雲を展開して迎え撃つ。しかし、それを使う事は無かった。
何故なら私とその7人の距離が最初の半分を超えた所で私の後ろから白銀の光球がその七人を的確に捉えて、迎撃したから。そして、
「僕の大切な人達に手を出したんだ。覚悟……出来ているよね?」
世界一カッコいい私達だけのヒーローがやってきた。
『ねえ、かんちゃん』
『どうしたの、本音?』
『こういう時に不謹慎だけどさ、はっちーの後ろ姿ってかっこいいよね』
『分かる。護るって気持ちが凄く伝わって来るよね。ある意味八雲君らしさを一番感じる』
この背中を支えられるようになりたいなと思う。それは私だけじゃなくて皆と一緒にこれからずっとやっていく事だね。
簪&本音、事件に巻き込まれる回でした。
個人的な意見になるのですが、ヒーローは大体何かを護る為に戦うと思います。それなら後ろからの立ち姿がカッコいいはず。首を九十度曲げて後ろに居る護っている人と話す所とか特に良いと思います。
次回は怒り状態の八雲が簪と共に反撃を開始します。早く上げたいのですが、諸事情で上げるのは恐らく日曜になると思います。
機体やデバイスの設定などは夏休み編が終わったタイミングで上げます。