IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版) 作:ピーナ
久しぶりに男友達と話した日の翌日、僕は10日ぶりに地球に帰って来た。
そんな僕が今居るのは地元である、海鳴市に面した海。その海岸に一人でいる。
ちなみに、結界を張っているので周りも静かだ。
「今年の夏は色々有ったねえ」
「マスター、『今年の夏』というより『今年度』と言った方が正しいかと」
「はは、確かに。叢雲の言う通りだね」
今年度―もっと正確に言うと僕がISに乗れる事が分かった今年の3月位―から僕の日常はガラリ変わった。
まず、現場が僕の日常だったのがバニングス社の訓練所に通い続ける毎日に変わって、少ししたら全寮制の女子校であるIS学園にぶち込まれた。
そのIS学園に入ってからが色々あった。
まず、初日にケンカに巻き込まれ(オルコットさんは『決闘』なんて言ってたけど、あんなのは子供の癇癪がぶつかったケンカで十分だ)、竹刀で叩かれかけるというスタートだった。
前者に関してはクラスの皆が推薦したり、最終的には織斑先生の決定だったけど、完全にとばっちりだったよなあ。織斑君とオルコットさんの言い争いが僕に飛び火したんだし。
クラスの皆に関して言うなら、まあ、ああは言ったけど、そんなに時間が経ってなかったから半信半疑って所だろうし、織斑先生については後でその時の話を聞いたら、僕のデータも必要だったから丁度良かったと言っていたから納得はしている。
後者はなんていうか……篠ノ之さん、短気過ぎやしないかな? 後、織斑君も本を読んでいる人間に話しかけるのはどうかと思う。そりゃ、相手にされなかったらムッとするかもだけど、何か別の事に集中しているこっちからしたら、相手にする気もない上にそんな時に話しかけてくるなと言いたい。
しかし、これは今からすると些細な事。今の僕にとって大きかったのは刀奈さん―当時は楯無さんって名前しか知らなかった―と本音との出会い。
このころの刀奈さんはまだ距離感の把握をしていた状態で、部屋の中でもお互いがお互いのやりたい事をやっている感じだった。だけど、僕が予習や復習をしている時にいつの間にか後ろに来ていて止まっているところを丁寧に教えてくれたから本当に助かった。
それに対して本音はこのころから積極的に話しかけてくれていた。と言っても織斑君と違って僕が手持無沙汰で何もやってない外をぼーっと見ているタイミングを狙って話しかけて来たからスルーする事も出来ず、そこそこの対応をしていた。
織斑君と本音の対応の差は空気とタイミングを察する能力の差だと僕は思う。後は粘り強さ。本音はあの竹刀事件の後も唯一話しかけて来てくれたからあの時の僕ですら無下にできなかった。……ひょっとしたら、それ以外の差としてその頃から本音の事を心の何処かで意識してたからかもしれないけど。
その次は……凰さんが来た事か。初日に模擬戦したいって言ってきたんだよねえ。その後の対応もさばさばしてて結構好感が持てた。最近だと本音や簪、アリサやすずかとも結構仲が良いみたいだし。
そういえば、虚さんに出会ったのはこの頃か。確か、図書室に向かう道中に荷物を生徒会室に運んでいる虚さんと本音に会ったからそれを手伝ったんだっけ。それから何回か図書室で会って挨拶をする位の仲になっていったんだよねえ。当たり前だけど、あの時は今みたいになるとは思わなかったなあ。
ここから少ししたら、今回の一連の事件の始まりであるクラス代表戦での無人機襲撃未遂事件。複数ならともかく、単独だったから、そんなに苦戦しなかった。ただ、後で思い返すとこの無人機がこの先大きく関わって来るんだよなあ。
その後は追加で二人転校生が来た事。と言っても僕はその二人とそこまで親交がある訳じゃない。ただ、二人には驚かされた。
デュノアさんは最初から気付いてはいたけど転校してきた時はデュノア君だったし。ボーデヴィッヒさんは突然織斑君にビンタかましたり、キスしたりしてるし。
そして、ターニングポイントの一つになった学年別タッグトーナメント。
僕は織斑先生に言われて暴走体の討伐に向かった。動き出した時は何も考えて無かったと思う。あの頃のいつも通り、自分の命をベットして勝つか負けるかっていう野蛮この上ない賭けをしていた。その時にピンチだった刀奈さんを助けたんだけど……後から思えばもっとスマートな助け方もあったと思う。その気になれば攻撃を撃ち落とす事位難しい事じゃ無いし。だけど、あの時の僕は身を挺して刀奈さんを守った。頭で考えるよりも先に体が動いたんだと思う。だから、普段あまり使わないプロテクションで自分の体を守るって事も出来なかった。その後の暴走体自爆に使えたのは自分の体じゃなくて周りを守るのには使っていたからだろう。
それで、臨死体験で6年ぶりにはやてに会えた。そこでお礼を言われて、僕への罰を与えられて、告白されて、背中を押してもらった。……こうやって考えるっと全部受け身だった僕ってカッコ悪いよねえ。まあ、それはどうでも良いんだけど。
あれは僕の都合のいい夢だったかもしれない。たとえ夢でもなんでもはやてに会えた事、想いを伝えられた事で僕は抜け殻だった僕から昔の普通の僕に戻っていけた。
ただ……戻ってしまったからこそ、嫌でも意識をするようになった。同室の刀奈さん、クラスで一番距離感の近かった本音は特にスキンシップが増えた。二人を注意して僕を気遣ってくれる虚さんの優しさが身に染みたねえ。
それで運命の臨海学校……の前に準備の為に皆で出掛けたなあ。あれは今思うとデートみたいなものだったと思う。皆の着飾った姿を見て眼福だったしね。
臨海学校初日は簪との出会いの日。今じゃ考えられない位思いつめてたっけ。だけど、あの日の会話で自分のやりたい事を見つけられたみたいだったし、その一助になっていて僕も嬉しかった。……まさか、それ以上に大きな想いを生んでいたとは思わなかったけど。
二日目が事件の有った日。と言っても事件自体はほとんど関わってない。僕はいつも通り魔法関連の暴走体を倒しただけ。……その時に管理局に入ってから一二を争う大怪我をしたんだけど。後、久しぶりにインディグネイションを使ったなあ。秘奥義なんて最近使う機会なんてなかったし。
その日の夕方、負傷をした僕が病院で目を覚ますと本気で僕を心配してくれる、アリサ、すずか、刀奈さん、本音、虚さん、簪の6人がいた。そこで6人にキスされて、告白されて。絶対にあの事は忘れられないよなあ。
そこで僕は僕の心の底に有ったホントの気持ちに気付いて、皆の気持ちを受け入れた。受け入れただけだったからそれを形にしたくて、それぞれちゃんと言葉で伝えたくて、一人一人に指輪とプロポーズの言葉を用意した。いや、言葉は割とその場のアドリブの部分が多かったけど。
「それで、これが最後か……」
そう呟いて僕は上着のポケットから指輪を取り出す。使われている石はムーンストーン。僕の誕生月である6月の物だけど、僕の指輪じゃない。
「どこで言うべきか迷ったけど、やっぱり君の最期の場所が一番良いと思ったから、ここで言うよ。あの日から二か月くらい経っただけで色々僕の周りは変わって、君の言う通り僕は新しい恋を見つけたよ。……まあ、複数人いる奇妙な展開で僕自身驚いているけど。でも、やっぱり君が好きな気持ちは、愛しているって気持ちは変わらなかったよ。いや、変えられなかったよ」
新しい恋を見つけようが、非日常に巻き込まれようが、何人もの女の子に好かれようが、貴女への想いは変わらない。
「こんな事を言ったら君はあきれるかもしれない。けど、僕は意地でも変えない。誰が何と言おうと僕の気持ちは僕の物だから。皆を愛し続ける。君も愛し続ける。これが僕の決めた物だよ」
なんか、君の苦笑いが目に浮かぶよ。
「だからさ、変わった変わらない僕をずっと見ててくれ、はやて」
根本、芯の部分って言うのは貴女に出会い、恋をして、がむしゃらに動いたあの頃と何も変わっていないと思う。だけど、今の僕は変わったと思える。そう思えるのは僕は決して一人じゃない、支えてくれる人たちがいるって事に気付けたから。
僕は立ち上がって、海岸を後にしようとする。ふと、用意した指輪をどうするか考える。
少ししてから、一つの案が思いついた。僕は大きく振りかぶり、
「届けー!」
指輪を海の方に思いっきり放り投げた。言葉通り、届くと良いなあ。指輪も
「すう……はやてー! 大! 好きだーーーーー!!!!!」
この僕の想いも。
ただ、ちょっと逸れた事を書いちゃったのでもうちょっと夏休み編は続きます。