IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版) 作:ピーナ
世にも珍しいプロポーズ行脚を行ってから10日後、僕は管理局の本局の食堂に居た。
思えばこの10日間もいくつか思いがけない出来事があった。その中で一番大きいのは……やっぱ更識家の蔵でロストロギアレベルのデバイスが見つかった事かなあ。
鋼太郎さんに由来を聞くとどうやら何代か前の更識家の当主が珍品収集が趣味でそれの一環で集められたらしい。まあ、一口にロストロギアといっても危険性はなく、ただ性能が高いデバイスであるってだけなんだけど。
丁度六つあったし運命だと思ってこれを彼女達のデバイスにする事にした。だから何年か前から叢雲の主治医をやってもらっているマリエル・アテンザ技官に不具合が無いかを見てもらって、僕と入れ違いに地球での休暇を取るなのはとフェイトにそれを僕の彼女達に渡してもらうように頼んだ。まあ、その時二人には僕の女性関係で責められた。一応その後祝ってはくれたけど。
んで、ここ一週間くらいの仕事の内容は書類仕事だけ。今回の一件の物だけだったのだが、約四か月分の物が溜まっていた。塵も積もればなんとやら、徹夜まではいかないけど、それでも連日朝早くから夜遅くまで机に向かっている。……正直、学校の時より机に向かっている。ここ数日間は約束した期間内で終わるように色々な間を惜しんでやって来たけど、めども立ったし、気分転換として食堂にやってきてちょっと遅めの昼食を食べている。
しかし……味気ないなあ、一人の食事は。裏を返せば皆で食べる事に慣れちゃったんだよね。ああ、早く帰りたい。
「おーおー管理局の大エース様が食堂の端で一人で飯とは寂しいねえ」
「まあ、場所はともかく、お昼にしてはもう遅いからね。一人なのは仕方ないんじゃない?」
「ま、そりゃそうだ」
ご飯食べてたら盛大にディスられたんだけど。しかも、片方は凄く聞き覚えがある声だし。
とりあえず食べる手を止めて目線を声の主の方にやる。
片方は明るめの金髪を肩辺りで一まとめにしている。知的で優しげな感じのこの青年は僕も良く知っている。無限書庫の若き司書長、ユーノ・スクライア。僕の幼馴染だ。
もう片方は黒髪のかなりのイケメン。イケメンレベルなら織斑君と戦えるレベルだねえ。しかも、オッドアイというこの上ないインパクトのある容姿なのだが……僕の記憶には無い。
「久しぶり、ユーノ。んで、ユーノの横に居るイケメンはどなたさん?」
「あー、そっか黒髪の状態だと面識ないんだ。はい、自己紹介」
「そんなに違うかねえ……。俺は、吉野大和」
「銀髪君が銀髪君じゃない……だと……⁉ これじゃ、銀髪君って呼べないじゃん! 何て呼べばいいのさ⁉」
「いや、そこは普通に名前で良いだろ!」
いやー、僕が知ってる銀髪君とは完全に別人だね。僕のちょっとしたボケにこうやってツッコんでくれるし。
「オッケー、それじゃ大和って呼ぶよ。僕の事は霧島でも八雲でも好きな方でどうぞ。ま、空いてる所に座りなよ」
僕が薦めると二人は僕の前の空いていた所に座った。
「……性格変わり過ぎじゃねえ?」
「そうかな? 僕が一緒に暮らしてた時はこんな感じだったよ」
そんな事もあったなあ。かなり昔の事だから忘れてたよ。
「あー……そう言われてみれば俺がひねてた頃もそんな感じだったかも?」
「あの時の大和は女の子にしか興味無かったもんねえ。僕なんか眼中に無かったでしょ」
「……否定できねえなあ」
僕をモブ野郎と呼んでいた頃の彼は完全に居ないみたいだ。きっと何か大きな事が彼を変えたのだろう。まあ、彼の心情は彼だけにしか分からないけど。
「ま、昔の俺の事は今はどうでもいいんだよ。実はお前に相談があってさ」
「相談?」
「そう。僕ら二人の共通の悩み」
「答えられるか分からないけど、聞くだけ聞くよ」
僕はご飯を食べすすめながら二人の悩みを聞いた。二人の相談というのは所謂、恋の悩みという奴だった。ユーノはなのは、大和はフェイトに惚れたらしい。なんでも、皆で僕をどうやって叩き戻すかって事を時間がある時に集まって話している内にそういう意識を持つようになったとの事。間にそういう事を意識しだす時期があったからねえ。
「でも、何で僕に?」
「同い年で同姓の知り合いでそういうのが得意そうだったら、相談するだろ?」
「得意そうって、少し前までの僕を知ってるよね?」
「「いやでも、ハーレムの主だし」」
……何も言い返せねえ。僕には六人の彼女(数年後に結婚)が居る訳だし。
「まあ、僕はある程度流れに身を任せて、最後の最後で決めただけだからねえ。参考にはならないよ」
「普通、流れに身を任せてもハーレムは出来ないと思うよ」
って言われてもなあ……。あれは流れに身を任せたとしか言いようがないと思うんだけどなあ。
「ってか、そんな事になる流れって何だよ」
「えーっと、学校の行事中にロストロギアの暴走体が出てきて、それで怪我して、病院運び込まれて、目を覚ましたら皆が泣いてて、謝ったら、キスと告白を六人からされて、全世界的に特殊な僕に重婚が許可されるって話を聞いたから六人の気持ちを全部受け止めたって所かな。ちなみにこれはほんの二、三時間の出来事だよ」
嘘は言ってない。
「……事実は小説より奇なりだね」
「嘘のような本当の出来事だよ。で、相談の事だけど、僕は人並みの事しか言えないよ。知り合って結構時間も経つんだし、はっきりきっぱり想いを伝える。これに限ると思うよ」
「察して欲しい」とか「気付いて欲しい」とかは詰まる所、それを言ってる側の我儘でしかない。だからこそ、ストレートに自分の心の中の想いを相手に伝えるべきだと思う。
それに……
「言わないで後悔なんて嫌でしょ?」
「……そうだね」
「……八雲が言うと説得力があるな」
二人が言う所の『説得力』は闇の書事件の事、それと僕のはやてへの想いの事を言っているんだろう。
実は何年か前に、僕はアリサとすずかを思いっきり突き放した事がある。
今思うとなんであんなことをしたんだろうか分かんないけど、当時は放っておいてほしいのにそうしてくれない二人の事がどうしようもなくうっとおしかったのだと思う。その時に僕は思わず言えなかった後悔を口にしていた。多分、はやての事を出せば引き下がると当時は思っていたんだろう。まあ、そのもくろみは失敗したんだけどね。
「こういうのを聞いて良いのか分かんないけどさ、八雲は後悔はないのか?」
「無いね。ちょっと前まで後悔ばっかりしてたけど、それじゃ、意味ないって思ってさ。だから、それは髪の毛が真っ白になってから縁側でお茶でも啜りながらするよ」
「……あの時の選択もかい?」
「もちろん。僕はあの日の選択を間違いだったとは今でも思っていないよ。たとえ、何度生まれ変わっても、その後どうなるかを知っていても、必ず同じ選択をする。そう言い切れるよ」
あの時どんな選択肢があったとしても、僕はあの道を歩んでいた。それは絶対に言える。だって、その選択をするのは僕だから。大好きなはやてを助けたくて、笑顔を護りたくて、ずっとそばに居たいっていう我儘な霧島八雲という人間だから。
「頑固でまっすぐだねえ」
「まあ、それが八雲の良さなんだよ」
「僕的には良くも悪くもだと思うけどね」
『頑固でまっすぐ』っていうのは長所に取れるかもしれないけど、言い換えれば『不器用』って短所になると思うし。
「話を戻すけど、言うタイミングは二人次第だよ。そこまでの道筋は人それぞれだからね」
「まあ、そりゃそうだわな」
「経験がないから不安だけど……やるしかないよね」
「そうそう、やるしかないよ。僕もこっちに来る前に皆の家に行って家族に挨拶して指輪渡して来たし」
「「……はあ⁉」」
驚きの声を上げる二人。まあ、そうなるか。
「アリサやすずかならまだギリギリ分かんなくもない気もするけど!」
「残りの四人はIS学園に入ってからだろ! 決めるの早すぎねえか⁉」
うち一人は会って二日目って言ったら、さらに驚くだろうなあ。これは今は言わないでおこうかな。
「そうかもしれないけど、タイミングに恵まれたからねえ」
物事にはベストなタイミングがあると僕は思う。告白されただけなら後回しにしていただろうけど、その後教えてもらった事で僕の腹は決まった。
「それを聞くとタイミングを待つかチャンスを作るかは俺達次第って事か」
「そんな感じだね。……ご馳走様。んじゃ、僕は仕事に戻るよ」
「頑張ってね~」
さて、少しでも早く終わらせないとなあ。なんてったって彼女との初デートが待ってるんだからさ!
今回のお話はただ「たとえ、何度生まれ変わっても、その後どうなるかを知っていても、必ず同じ選択をする」っていうリメイク版リオンのセリフを言わせたかっただけの回です。
そして、IFルートでは大和が改心しています。
理由として闇の書事件が原作と全く違う終わり方をしてようやく現実感を持ったから。となっています。それで今までの自分から変わって現在に至るという感じです。
髪を銀髪から黒髪に変えたのはその意思表示みたいな物です。これでSTSの戦力を補えたかな。(ヴィータ&シグナム→八雲&大和)
さて、次回はIS学園……に戻る前に思いついたとある事をやろうと思います。
デート回はまだまだかかります。