IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版)   作:ピーナ

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更識家編もいよいよ最終話です。


第三十話 僕の気持ち YtoU ~建前と本音~

本音がこの部屋を後にしてから少し経って、

 

「八雲さん、入っても?」

 

最後の一人である虚さんが部屋の前に来た。

 

「良いですよ」

 

僕の返事を聞いて虚さんは入って来た。手にはお盆があって、その上にお茶とお菓子があった。

 

「お嬢様方や本音と話されて喉も乾いたでしょうし、夕食からそこそこ時間も経ちましたから、小腹も空いてきているかと思い、お持ちしました」

「わざわざありがとうございます」

 

普段も皆と話している時に、さりげなくお茶のおかわりを入れたりと、小さいけど嬉しい心遣いをしてくれる虚さん。そして、この心遣いで持って来てくれたお茶が美味しい。

お盆を挟んで向き合う僕達。

 

「美味しいです、虚さん」

「お口に合ったようで良かったです」

 

湯呑みに入った温めのお茶を半分ほど飲んで、僕は本音に頼まれた事を切り出す事にする。

 

「虚さん、本音に聞きましたよ」

「? 何をですか?」

「本当は今日、僕の所に来るのを決めるジャンケンの時、一番勝ったのに、自分から最後で良いって言ったって」

「一番年上ですし、お仕えする身ですから。それ位は他の皆さんに譲ります」

 

……その謙虚さ、優しさは虚さんの良い所。だけど、

 

「そんな事関係無いですよ、僕等の中では。それに、その事は虚さんの本音じゃないでしょ?」

 

僕の問いかけに虚さんは俯く。そしてそのまま話し出した。

 

「……私は、自信がないんだと思います。私以外の皆さんはそれぞれ、女性の私から見ても魅力的です。お嬢様方や本音は昔から知っているので当然ですが、知り合って間もないアリサさん、すずかさんもそう思います。八雲さんもとても魅力的な方です。そんな中で私は果たして八雲さんに釣り合っているのかと……」

 

……過小評価だなあ。確かに他の皆にはそれぞれの魅力がある。だけど、それは虚さんにも言える事で、虚さんにも虚さんの魅力がある。僕が惹かれる大きなものが。

 

「そんなの僕だって同じです。皆良い所のお嬢さんで僕は普通の、しかも孤児。皆は凄い美人だけど、僕はもの凄く欲目を見て中の上って所だと思います。釣り合いなんて普通とれないと思います。だけど、そんな事は関係無いんです。僕等の中で釣り合えばいいのはお互いが好きだという気持ちだけですから」

 

家柄とかが関係した昔ならともかく、自由恋愛な現代で実際の所釣り合いなんてない。それは第三者が勝手に決めてる事だと思うから。

 

「それとも、虚さんは僕が好きじゃありませんか?」

「そんな訳ないです!」

「なら、もっとわがままになってくださいよ。それが僕にとっては嬉しいんです」

 

身を引いて譲るのは優しさで、彼女の美徳だけど、僕から見ると他の皆と少し距離があるように感じる。

本音からの頼み事は「おねーちゃんはどこかちょっと遠慮してるから、それを何とかしてあげて」という物だった。だから、ちょっと強硬策だったけど、虚さんの本当の気持ちを聞いて、僕の考えを伝えた。

 

「それじゃあ……」

 

向かいに居た虚さんは僕の横に。そして、僕に体を預ける。控えめだけどいいねえ、こういうの。

 

「……もう少し早く出会いたかったです」

「それはどうなんですかね? ちょっと前の僕はアレでしたし」

「それでもです。それか、もう一年でも遅く生まれたかったです。一緒の高校生活はあとちょっとしか残ってませんし」

 

多分それが誰にも言えなかった虚さんの個人としての本音であり我儘。そうだよな、虚さんにとっての高校生活はもう半分をとっくの昔に過ぎてるんだもんな。

 

「なら、高校生活最後の一年を最高の物にしましょ? 皆との思い出も、僕達二人だけの思い出も」

「……そうしてくれますか?」

「してみせますよ」

 

そこで区切って僕は指輪を取り出す。虚さんの指輪にはアメジストがあしらわれている。

 

「一年と言わず、これからずっとね」

 

指輪を見て僕の言葉を聞いた虚さんは……無反応だった。これは、外したか?

 

「だ、ダメでしたかね?」

「い、いえ、驚きすぎてどういう顔をすれば分からなくて……。でも、すごく嬉しいです。八雲さんの心の奥からの本気の気持ちが伝わってきました。だから、私も本気で答えます。私は、これからずっと貴方を支えていきたい。そう思っていました。だけど、今は少し違います。私は、いえ私達は八雲さんと一緒に支え合ってこれからを生きていきたいです。……これが私の答えです」

 

……ここから先は言葉はいらないかな。僕は虚さんの左手をとってその薬指に指輪をはめる。

人間は気付かない内に誰かに支えられている物。僕は最近それを思い知った。

夏休みの予定を決める時、僕の上司であるレティ・ロウラン提督に連絡した時の事だ。開口一番僕はレティ提督にこれまでの事を謝ったら、実は僕が無理をしない様にレティ提督やリンディ提督が信頼のおける人が率いている部隊が参加しているものばかりに派遣していたらしい。それを頼んだのはクロノであり、ユーノであり、なのはであり、フェイトだった。僕は切ろうとしていた物に支えられていたって事だ。

これからは僕は彼女達を精一杯支えていくし、彼女達に支えられていく。それが僕の選んだ道の形だから。

 

「虚さん」

「はい」

「明後日からミッドに行っちゃいますけど、帰ってきたらデートしましょ。もちろん二人っきりで」

「はい。……はい?」

 

驚いた表情の虚さん。これは珍しい物が見れた。

 

「だから、デートです。日本語的に言うと逢引きって奴ですね。さっき言ったでしょ? 今年を最高の一年にして見せるって。その一環です」

「……じゃあ、楽しみに待ってますね」

 

とっても魅力的な微笑みでそう答える虚さん。

本音が可愛い笑顔の似合う女の子なら、虚さんは綺麗な微笑みの似合う女性って感じ。まあ、どっちが良いかなんて僕には選べない。だってどっちも好きだから。

それはそれとして、とりあえずこれで今日言いたい事は言えたかな?

 

「……お疲れの様ですね、八雲さん」

「分かります?」

「ええ。やはり先代様と父が理由で……」

「それもありますけど、どっちかというと今日、皆に気持ちを伝える方の緊張です。全部終わって気が抜けたら疲れがどっと来ました」

 

多分、慣れる事は無いねこの緊張感に。まあ、もう二度とないから良いけど。

 

「そちらの方でしたか。では、今日はゆっくり休んでください」

「お言葉に甘えさせていただきます。お休みなさい、虚さん」

「お休みなさい」

 

部屋を後にする虚さんを見送って僕は眠りについた。……『そちらの方でしたか』って事はうっすら気付いてたって事だよなあ。何で気付いたんだろ?

 

 

 

「ただ今戻りました」

 

八雲君の私達へのプロポーズが終わったから、私は皆さんが集まっているお嬢様の部屋に向かいます。

昔から四人で話す時はお嬢様か簪様の部屋と私達の中で決まっています。それに理由がある訳ではありません。以前からそうなのです。

 

「皆貰っちゃったね~指輪」

「そうだね。一人一人石を変えてるのが細かいよね」

「ホント、いつの間によね」

「まあ、どう考えても夏休み初日に買いに行ったんでしょうけどね」

 

これは、少し考えれば分かる事で、私達が夕日差す病室で八雲さんに想いを伝えたのは七夕の日。臨海学校が水曜~金曜で、八雲さんは日曜日まで入院してらっしゃいましたし、その後はすぐに期末テストでした。そして、夏休みが入ってすぐ皆さんの家に出向いているので、買いに行けた日というのは唯一一人で出掛けた夏休みの初日だけという結論になるのです。

 

「そういや虚ちゃん、八雲君は今どうしてるの?」

「もうお休みになられましたよ。お疲れだったので」

「はっちー、疲れてたの?」

「全然気付かなかった。やっぱり、お父さんとおじさんが理由なの?」

 

……先代様も父も私達の事を考えての行動なので責められません。むしろ、あの問答だけで許せるのですから器は大きいと思います。ですが、八雲さんの疲れに関しては別の事です。

 

「それもありますけど、どちらかというと私達への気持ちを伝えるのに緊張なされていた事からの精神的な物の方が大きいみたいです。最後の私が終わって気が抜けて、疲れがどっと来たのかと」

「虚ちゃんは色々気付いてたみたいね?」

「なんとなくですけどね。少し普段より話すスピードが速く感じられて、状況から考えて緊張なされていると思いまして。疲れに関しては雰囲気で」

「……虚さん、凄い。八雲君、そういうの隠すの上手そうなのに」

「大した事ありませんよ、使用人としての性みたいなものです」

 

使用人としての生活で察する能力が高いのは確かに有ります。しかし、一番大きいのは……私が心の底から彼を愛しているから、何気ないしぐさに何の意味があるのか、つい観察してしまうのです。流石に八雲さんと付き合いの長いアリサさんやすずかさんの様に彼の考えてる事を読むまではできませんけど。

 

「うーん、かんちゃんやなっちゃんならなんとなく分かるけど、はっちーはまだ無理だなあ。それで、お姉ちゃんはなんかうきうきだけど、良い事あった~?」

 

本当、私は本音に隠し事出来ませんね。

 

「実は、八雲さんにデートに誘われまして……」

「「羨ましい!」」

 

……まあ、もしお嬢様や、簪様、本音がそう言ったら私も同じ事を考えていたでしょう。言葉にするかはともかく。

 

「……それでですね、色々相談したいなと」

「任せて! ……といっても私達もそういう経験がある訳じゃないから」

「アリサとすずかに相談だね」

「お姉ちゃんとはっちーの初デートをプロデュースだ~」

「「おー!」」

 

私以上にノリノリなお嬢様達。多分、話したらアリサさんやすずかさんも同じ感じなのだと思います。

 

「まあでも、それは八雲君がミッドに行ってる間にじっくり話しましょう」

「その間にりさりさとすずーの幼馴染に魔法を教えてもらうけど、その子達も巻き込めば良いよね~」

「そうね。だけど今は、八雲君へ夜這いよ!」

「さんせ~!」

「うん、会えなかった間、寂しかったし」

「その気持ちは分かりますが……まあ、また10日ほど会えませんし」

 

わずか10日の事ですけど、それだけでも寂しい物は寂しいのです。

 

「それじゃ、行きますか!」

 

こうして私達は八雲さんのいる部屋に忍び込み八雲さんの横でその日の夜を過ごすのでした。

私の今年を端的に表す言葉はターニングポイントだと思います。

高校三年で先を考えるから当たり前ではあるのですが、それよりも八雲さんに出会って、恋をして、それがどんどん大きくなっていって、プロポーズまでされて、私の未来まで決まったから、ピッタリの言葉だと思います。いえ、これは八雲さんを含めて私達皆に言える事でしょう。

残りわずかな学園生活もその先の人生もとても素敵な物になっていくでしょう。私にはそんな確信があります。当然これから辛い事もあるでしょう。ですけど、それすらも皆で乗り越えていくのなら楽しめると思います。それだけ皆さんの存在は私にとって大きいと思いますから。

 




という訳で、激動の更識家編最終話にして次回以降への布石を含んだ虚さん編をお送りしました。

虚さんの今までの立ち位置について

作品中で虚さんがどこか遠慮していたとしましたけど、これは『一人の女性』の前に『従者』としての彼女が出てしまう方がらしいかな? と思ったからです。
こうなったのは僕の中の虚さんの人物像が「基本的に器用なんだけど生き方が不器用」という物だというのが大きな理由です。
だから、従者として誰かを支えるのは完璧にこなしますが、自分を出す事がとても苦手という感じです。

次回はデート回……と行きたい所ですけど、一度ミッドでのお話を挟みます。
夏休み編も長くなって来たので時間を進めたいのですが……やりたい事がまだいくつかあるんですよね……。

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