IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版) 作:ピーナ
次はだれが来るんだろうと考えながらのんびりしていると、
「八雲君入るよ?」
という声が聞こえた。残っている三人は僕の呼び方が違うから誰が来たかそれだけで分かる。
「どうぞ、簪」
「お邪魔します」
ここは簪の家だからお邪魔しますはちょっとおかしい気もするけど、まあ、そこは気にしないでおこう。
「あ、そうだ。簪に薦められたマンガ、読んだよ」
最近、簪のおすすめのマンガとかライトノベルと言ったサブカルチャー系のを読むのがマイブームになっている。歴史小説や推理小説ばっかりだったから結構新鮮で楽しい。それ以外に皆でゲームしたりと普通の高校生っぽい事もするようになった。
「どうだった?」
「面白かった。後、主人公の技使えるんじゃないかな?」
「八雲君ならISでも、生身でも出来そうだね」
「今度、やってみようかな~」
子供みたいだけど、なまじ出来てしまいそうなのが我ながら怖い。というか元々僕の魔法や剣技も前世のゲームであるテイルズオブシリーズからとってるわけだし、そう言う所は前から全然変わっていないと思う。
「ねえ、八雲君」
僕に話しかけた簪は少し不安そうな顔。どうしたんだろ?
「何?」
「八雲君はどうして、会って二日目の私を受け入れてくれたの?」
「どうしてって……僕は一目惚れってあると思っているし、あの時言ってくれた言葉はすごく嬉しかったから、かな。出会ってそんなに時間立ってないのに、そこまで大きい気持ちをを持ってくれた簪を無下には出来ないよ。本当ならもっと時間を掛けてお互いを知ってからだったんだろうけど、ああいう事になったから、順番がごちゃごちゃになっちゃったけどね」
僕自身、初恋が一目惚れで、僅かな期間で世界を敵に回す選択が出来るくらいの大きな想いを持てたから、人を好きになるって感情の強さを知っているつもりだし、結局僕は初恋の人に想いを伝えられていないから、その想いを伝える事の難しさも分かっているつもりだ。だからそんな大きな気持ちを持ってくれた彼女に、勇気を出して伝えてくれた簪に応えたかった。それを許される事にもなったって言うのも大きいけど。
「……やっぱり優しいね」
「そうかな? 優柔不断なだけだと思うけど」
もしくは気が多いか。本当に一途なら時間を掛けてでも一人を選べると思うし。
「ううん、あの時までの流れと状況だと、あの選択は普通だと思う」
「そう思ってもらえて嬉しいよ。それで……」
僕はこのタイミングで指輪を取り出す。簪のはラピスラズリ。偶然だけど、姉妹で青系統の宝石になった。
あの時の簪と同じ。ほんの少しの勇気を出して踏み出そう。
「僕はこれからずっと長い時間を掛けて簪の事を傍で見ていたい、知りたいって思う。これはその証。……受け取ってくれるかな?」
「私もずっと傍でもっと八雲君の事、見ていたいし知りたいって思うよ。だから……指輪はめてくれるかな」
「分かった。だけど」
「分かってるよ。本音と虚さんには言わない。でしょ?」
やっぱり、あれは女の子共通の感覚なのかね? そう思いながら簪の左手の薬指に指輪をはめる。
……しかし、初めて会った時は暗い雰囲気だったけど、今はかなり明るいよなあ。その一端を担えているのなら嬉しいな。
暗い雰囲気……というより影がある美人が好きって言う人もいるかもしれないけど、好きな人、大切な人は明るい雰囲気で居て欲しいと僕は思う。
「後……こ、これからマンガとかアニメとか私の好きな物を通して私色に染めていくから!」
顔を赤くしながらそう言う簪。やばい、凄い可愛い。このまま抱きしめてもっと赤面させたい!
「楽しみにしてるよ。あっ、でも皆に影響を受けるから簪色一色には染められないかな」
「なら、虹色になれば良いよ」
僕と彼女達七人の色って事か。これからが楽しみだねえ。
「無理に一色に染まる必要は無いもんね。皆の興味ある事とか好みとかを知って行って変わっていくのも醍醐味って事か」
「そういう事。それじゃ、頑張ってね八雲君」
「うん」
さて、後は本音と虚さんか……。どっちから来るんだろ?
八雲君の居る部屋を後にした私は嬉しさで緩む頬を引き締めようとしながら、お姉ちゃんの部屋に向かう。
お姉ちゃんの部屋に行くのは、今日八雲君の止まる部屋に一人ずつ来て欲しいと言われた後、お姉ちゃんが「それじゃあ、終わったら私の部屋に集まらない?」と言ったから。出来ればお姉ちゃんの部屋に着く前にこの緩んだ表情を何とかしたいんだけど……それは難しそうかなあ。まあ、見られるのはお姉ちゃんだけだろうし、それも少し恥ずかしいだけだから、別に良いか。
私が八雲君に出会ってまだ一カ月も経っていない。だけど、その一ケ月で私と八雲君の関係は大きく変わった。
会っていきなり一目惚れして、翌日にはタイミングがあったとはいえ、勇気を振り絞ってキスして告白して。……積極的過ぎやしないかな、あの時の私。短絡的かもしれないけど、あの時行動を起こして事は全然後悔していない。むしろ、あれで良かったと思う。
そこから私は八雲君と一緒の時間を過ごし、八雲君の人となりやそれまでの事を知ってあの日の選択は間違ってなかったと今ははっきり言える。
八雲君の過去や戦う意味を聞いて私はヒーローみたいだなと思った。
と言っても、八雲君は『世界を護る』とか『平和を護る』とかの王道のヒーローじゃない。自分の信じる、貫き通したい物を貫き通す、そしてそのための手段も選ばない、所謂ダークヒーローの方だけど。
八雲君は10人と1人なら10人を助けるって言うだろう。だけど、10人と私達の内のだれか1人だったら、躊躇なく1人の方を選ぶと思う。
10人という普通の答えでもなく、両方というヒーローの模範解答でもなく、場合によって変わるこの答えは普通に考えたらどうかなと思うかもしれない。だけど、私はこの答えをとても人間らしい答えだと思う。
冷たい考え方かもしれないけど、大切な人をそれ以外の人と区別する事って誰でも心の中で思っている普通の事だと思うし。
まあ、こんな事八雲君に面と向かって言ったら「ヒーローなんてがらじゃないよ」って笑いながら言いそうだけど。
でも、「私達の笑顔を護る」とか「そのためにもっと強くなる」って言うのはヒーローの言葉だと私は思うなあ。
今日を切っ掛けに私達はまた一歩進んだ。「恋人」から「婚約者」に。
これのゴールには後最低4年は掛かる。八雲君は高校卒業と同時に1年間の単身赴任でミッドチルダの方に行っちゃうから。それに戻ってきても私達も大学だったりの進んだ道もあるだろうし、実際は皆が落ち着いた、もっと後になるだろう。
だけど、そんな事はどうでもいい。八雲君と私達の繋がりを現わす名前がその内変わるだけで私達の関係がどうなる訳でもないのだから。
とりあえず今は色々勉強してお姉ちゃんに追いつき……ううん、追い越す事を頑張ろう。これは私の見つけた、私のやりたいものだから。
それと同時に家事とかも練習しないとね。だって、どういう道を選んでも最終的には八雲君のお嫁さんになるのがゴールなんだもん。
「お姉ちゃん、入るよ~?」
『どうぞ、簪ちゃん』
まあ、そんな事は今は置いておいて、私と同じ想いを持つ私の大切な人達との時間を大事にしよう。こういう時間も私達が望んだ幸せの時間だと思うから。
ドアを開けて部屋の中にいたお姉ちゃんの表情はすごく緩んでいた。私がその事を言ったら「簪ちゃんも人の事言えないわよ」って言い返された。その後、お互い顔を見合わせて心の底から笑った。
……今、こうやってお姉ちゃんと普通に話せて、笑えているのも八雲君のお蔭なんだよね。少しずつ返せたら良いなあ。八雲君が好きって言ってくれた、私の笑顔で。
という訳で簪回をお送りしました。
簪の一人語りでのヒーローのお話は僕個人の考えです。
八雲は結果的な行動の多くはヒーローと言える事をしているかもしれませんが、根本はダークヒーローに相応しいと思います。特にA`sの頃は。むしろ、根本だけならIFルートの最初の方がヒーローらしいかもしれません。
戦う理由がどこか人間臭い、それがダークヒーローの魅力だと僕は思います。異論はあるかもしれませんが、こういう考えもあると思ってもらえると嬉しいです。
次回は布仏姉妹のどちらかになります! また、明日会いましょう!