IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版)   作:ピーナ

3 / 51
リメイク版第一話が完成しました。今日中にとりあえずもう一話は上げると思います。


第一話 モノクロデイズ

「霧島八雲……関わらないでくれると嬉しい」

 

クラスメイトは僕の自己紹介にざわざわしているけど、そこは無視だ。

あれから6年と少し、あの日僕は全てを失った。僕は何一つ守れなかった。

だから、あの日を境にしがらみも人の付き合いも全て棄てた。突き放してもアイツらは挫けなかったし、今もそうし続けるけど僕はそれを無視し続けている。

僕は今、死に場所を探している。僕は罪人だから、守って戦って、死んでいく。それが俺の贖罪。出来る事なら早く死にたい。でも、なまじ僕が強いから、そう簡単に死ねない。なら燃え尽きるその日まで戦い続けるだけだ。

一人目が動かした事で全世界的に行われた調査で僕がISが動かせる事が分かって、ここIS学園に入れられた。

小中と不登校で、管理局の仕事だけをしてきた。休む事は僕自身が許せない。だから戦い続けた。今回の事でも無視して、仕事をするつもりだったけど、管理局の上の方が消化してない数年分の有給+αを使わせるために、アリサに色々手回しして、僕はここに入る事になった。

多分、僕が送る最期の日常。死ぬのがちょっと遅くなっただけだ。

 

 

 

「更識楯無よ、よろしくね、霧島君」

 

彼女は生徒会長、更識楯無。アリサの友人で彼女が頼んで僕のルームメイトにしたらしい。……アリサは何を考えてこの人を僕のルームメイトに選んだんだろう?

僕にはもう何もいらないのに。

 

「よろしくです、会長さん」

 

たった二年だ。それだけの関係。卒業して、僕の事を忘れてくれればいい。

 

 

 

「よろしくです、会長さん」

 

私が彼、霧島八雲君の護衛に着くことになったのは、友人の一人で、彼を保護している企業の社長令嬢、アリサ・バニングスの頼みからだった。

そして、初対面の挨拶の時、彼の眼は見た事も無い位、深く暗い眼をしていた。立場上、色々な人間を見て来たと自負する私でも見た事も無い位、深く暗い眼。そこには感情を読み取れなかった。

霧島君はクラスでも、誰とも話さないと、彼のクラスメイトであり、私の幼馴染の布仏本音ちゃんは言う。彼女は感情の機微に鋭いので、彼の事を「多分、世界のすべてに絶望した眼ってああいうのを言うのだと思う」と言っていた。

確かに、調べると彼は小学生の時に家族を事故で失っている。しかし、その後も普通に生活をしている。彼が決定的に変わったのは小学三年のクリスマス、それ以来、彼は学校にすら行かなくなったらしい。まるで、世界から関わりを絶つかのように……。

 

 

 

関わらないでくれと言ったけど、クラスメイトはそれを許さない。僕は何故かクラス代表に推薦されてしまった。推薦の理由はとりあえず珍しい男性操縦者だから選んでおけば話題になる。だと思う。

それに噛みついたのは一人のイギリス人。もう一人の男子が何かを言っていたけど、僕にとってはどうでもいい。

イギリス人の方は何も言わない僕を「軟弱」だとか言ったけど、どうして喋らなければ軟弱になるのだろうか? その辺がよく分からない。無視を決め込むと勝手に逆上した。さらに訳が分からない。自己紹介の時に関わらないでくれって言ったのに。

結果的にクラス代表を決める戦いをする事になった。

これに近い事が別の時にもあった。もう一人の男子が話しかけた時の事、僕はいつも通り無視をしていた。すると、彼の横に居たポニーテールの女子が何故かキレた。人と関わりたくないと最初に言ったんだし、今まで誰かに話しかけられても無視をして来たんだから、それぐらい分かれと思う。その女子は竹刀を突然、取り出し振り回したけど、そんなんに当たるほど、僕は甘くない。魔力で拳にバリアを張って、迎撃して、竹刀をへし折った。もちろん、周りが見ていて正当防衛だったから、おとがめは無しだ。

しかも、都合よくほとんど話しかけられなくなった。これについてはラッキーだと思う。ただ一人、

 

「きーりん、一緒にご飯を食べようよ~」

 

僕に妙なあだ名を付け、間延びした喋り方をする女子だけ。どうして、彼女は僕なんかに話しかけるんだろう。それが一番分からない。

 

 

 

私、布仏本音が仕える家『更識』が政府やIS委員会、そして彼を保護している企業であるバニングス社から依頼されたのは、二人目の男性操縦者、霧島八雲の学内での護衛。寮内は当主であり幼馴染の楯無お嬢様がするから、私の担当はクラスでの護衛と様子を観察するのが仕事になる。

写真で顔はみていたんだけど、実際最初見た彼は他のクラスメイトと放つ雰囲気が違った。

私を含めたクラスメイトは、新しい生活、IS学園での高校生活への希望があった。それはいくら望んでなかったとはいえ、一人目の織斑一夏も変わらないと思う。

しかし、霧島八雲の持っている雰囲気は『無関心』であり、他の生徒とは真逆だった。まだ、始まったばかりだし、ゆっくり彼の人となりを知って仕事をすればいいかな。

 

「俺は織斑一夏、よろしくな」

 

そう考えていたらいきなり、二人の男性操縦者が接触した。クラス内。いや、クラスの外に来ている他クラスや上級生の注目が集中する。

 

「…………」

 

しかし、話しかけられた本人は何事も無かったかのように持ち込んだ本を読んでいる。取りつく島も無いとはこの事だ。私の感じた『無関心』はどうやら的中だったらしい。

そう思っていると事件が起こった。

 

「貴様!」

 

織斑一夏の横に居た一人の女子生徒―ISの開発者篠ノ之束の妹でこのクラスの重要人物の一人、篠ノ之箒―が切れて、竹刀を取り出し、襲い掛かったのだ。

次の瞬間、見ていた全員が驚くようなことが起こった。霧島八雲は、自分に振りかかってきた竹刀を殴ってへし折ったのだ。

家柄の問題で武術という物を見る機会が多々あったので、目の前で起こった出来事がそれがどれだけありえない事かを理解している私にとっては非常に興味が湧いた。あんな事はお嬢様も先代様もお父さんも出来ない。

しがらみ抜きで話しかけてみよう。『護衛対象』ではなく、一人の同い年の男の子霧島八雲、ううん、きーりんに。

 

「ねえ、きーりん。一緒にご飯食べようよ~」

 

彼と友達になりたいと思っている私としてはなんだかほっとけないんだよね。

 

 

 

新学期が始まって数日、今年の目玉の男子生徒二人の評価はたった数日でほぼ確定した。織斑一夏君は「イケメン」「男らしい」霧島八雲君は「近付きたくない」「気味が悪い」と両極端になった。

しかし、そんな評価すら、彼は意に返さない。

周りに何を言われようが、全く気にしない、いつも無視をする。彼には感情があるのだろうか? 私は本気でそう思う。

さらに、気味悪さに拍車を掛けたのは、篠ノ之博士の妹、篠ノ之箒ちゃんが起こした暴力未遂事件。

話しかけても返事をしない霧島君に怒った彼女は何故か持っていた竹刀で彼を攻撃。しかし、霧島君はあろう事かそれを拳で殴り、へし折った。

そもそも、竹刀はそう簡単に折れないし、折れたとしても手は重大な怪我を負うだろう。その事件の後、彼は何事も無かったように授業を受けている。つまりは無傷だったのだ。

この一件で、彼に関わろうとする人間はほぼ皆無になった。例外は本音ちゃんだけ。彼女曰く「なんだかほっとけないんだ~」との事だ。

 

 

 

僕はあの日から不眠症だ。たとえ薬を使っても寝れない。寝ようとすると、悪夢を見てしまう。僕が守れなかった人達が目の前で消えていく夢。いくら必死に手を伸ばしても僕の手は空を掴むだけ。それにうなされて目が覚める。睡眠時間が一時間程度なんて当たり前、寝れない日だってある。だから、僕の目の下の隅は取れた事は無い。多分、僕が終わるその日まで消える事は無いだろう。

でも、僕はこれを受け入れている。これは僕が受け入れるべき罰なんだから……。

 

 

 

彼と生活していて気付いた事がある。彼は夜、全くと言っていいほど眠っていない。私は寝付が悪い方なので、ベットに入っても中々眠りに入れない。そうしている時、横の霧島君はうなされて、起きて、そして、たまに泣いている。うなされている言葉と泣いている時に呟いている言葉は全部「ごめんなさい」。

彼は一体、何に謝っているのだろうか? 一つ分かるのは彼がその夢を長年見ているという事。それは、彼に刻み込まれた眼の下の隅が如実に語っている。




今作では複数人の視点から物語が進んで行きます。今までは主人公+ヒロイン+三人称の組み合わせばかりだったので、挑戦してみようと思いました。


本編にある修正前のIFルートに比べると八雲視点が若干減っています。
これはそれ以外の視点を増やした事と、現状世界に無関心な八雲ではなく、外から見た方が良いのでは? とリメイク版を書いていて思ったからです。

次回は一気にクラス代表決定戦です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。