IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版)   作:ピーナ

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今回の相手は二つの名前を持っている彼女です。


第二十七話 僕の気持ち YtoKもしくはT ~寂しがり屋な僕から貴女へ~

一転して歓迎ムードの中で僕は更識家で一日を過ごす事になり、僕と彼女達に起こった事(主に魔法関係)を話し、夕食を頂き(素材の味を活かした和食。全体的に薄味で僕の好みだったけど、特に味噌汁が美味しかった)、案内された部屋で休んでいる。

……にしても和室、良いねえ。寮の部屋に畳を持ち込んで、気分だけでも味わうかな? その辺、寮監の織斑先生に聞いてみよ。

 

「八雲君、入るわよ~」

 

考え事をしていたら、扉の向こうから刀奈さんの声。

 

「どうぞ~」

 

実は夕食が終わった後、二人っきりで話したいから、僕が今夜泊まる部屋に来て欲しいと四人に言ったのだ。ちなみに順番は四人の方にお任せしてある。どうやって決めたかは知らないけど、最初は刀奈さんになったらしい。

刀奈さんは部屋の押し入れの中から座布団を二つ取り出し、並べた。膝を突き合わせて向き合う形でそれに僕達は座る。

 

「それで、二人っきりで話したい事って何かしら?」

「えっと、ちゃんと更識家の皆さんに認められたから、改めてちゃんと言葉にしようと思ってね」

 

僕自身そうしようと思っていたけど、これを後押ししてくれたのはアリサの言葉があったから。僕がアリサにちゃんと気持ちを伝えて指輪を渡した翌朝、「皆にも機会を作って二人っきりで気持ちを伝えてあげてね」と言われた。

確かにあの時僕は6人纏めての言葉しか言ってなかったしね。だから、恥ずかしくても自分の気持ちを一人一人に伝えようと思う。

 

「そっか。楽しみだな」

 

そう言う刀奈さんの手には開かれた扇子。そこには「期待度MAX!」の文字が。……ハードルがどんどん上がってくよ。

 

「それじゃあ、改めて。刀奈さん、僕は最近気付いた事があるんですよ。僕って結構寂しがり屋なんです。だからずっと一緒に居てください」

 

この事に気付けたのは今年度に入って刀奈さんと同じ部屋で同じ時間を過ごしたから。今になって思うとよく孤独を自分で望んでいれたと思うよ。

それに気付けてからこうやって刀奈さんと部屋で話す何気ない時間ってのが自分の中で大切な物になっていった。他の人から見たら普通の事だけど、目の前の人のお蔭で気付けた大きな事だ。

 

「もちろん、喜んで。ただ、八雲君のそばに居るのは私だけじゃなくて、皆一緒。誰一人外しちゃ駄目よ」

「当然です。皆と一緒に生きていく。その為に頑張るってあの日決めましたから。……これからよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね八雲君」

「それと、これ」

 

僕は指輪を取り出す。デザインは共通で使われている宝石はアクアマリン。

 

「ひょっとしてこれは……」

「まあ、刀奈さんの考えている物です」

 

僕の言葉を聞いて刀奈さんは抱きついてきた。やっぱり、柔らかいよなあ女の子の体って。……って、僕は変態か!

 

「ありがとう! すっごく嬉しい!」

「そこまで喜んでもらえて僕も嬉しいです。……というより、アリサやすずかに聞かなかったんですか?」

 

すずかの時にも思ったんだけど、何で知らないんだ?

 

「聞いてないわ。少なくとも私は。多分、みんな知らないと思う」

「そうですか……。なんで、内緒にしてんだろ?」

「二人の気遣いじゃない?」

「気遣いですか?」

「ええ。さっき、私はすっごく嬉しいって言ったでしょ? 知っていても嬉しかったけど、さっき以上って事は無いわ。アリサは自分だけの物にするのはもったいないって思ったんじゃないかしら? すずかちゃんはそれに乗っかった」

 

全然そういう事考えて無かったなあ。渡す事を考えるのでいっぱいいっぱいで。

 

「なるほど……。それなら」

「分かってる、まだ渡していない簪ちゃん達には言わないでおくわ。さて、次の人呼んで来るから、頑張って」

「はい」

 

さて、後三人。しっかりと僕の想いを伝えますか。

 

 

 

八雲君が今日泊まる部屋を後にした私はその部屋のドアにもたれかかって、自分の左手の薬指に嵌められた指輪をじっくりと眺めていた。

話したい事についてはなんとなく予想が付いていたんだけど、まさかここまで用意してくれているなんてね。

聞いた時は思わず抱きついちゃったけど、今思うとちょっと恥ずかしかったなあ。思わずそう動いちゃうくらい嬉しかったって事だよね。多分、今も顔は真っ赤。ひょっとしたら首筋まで赤いかも。

 

 

今日、私は正式にお父さんから『十七代目・更識楯無』の解任を言い渡された。といっても元々私が襲名した最大の理由が現在日本で一番狙われやすいであろうIS学園の防衛力強化のためだったから、高校の期間の間だけの予定だったのだけど。ちなみにこの期間に変更はない。

私自身、かなり目立ちたがり屋なのは自覚があったから暗部、防諜組織の色合いの濃い更識家の家業には向いていないと思っていた。

ただ、やっぱり強さも求められて、国家代表になれる実力のあった私は適任とまでは言えないけど、襲名出来るほどの能力はあるとお父さんや更識の長老衆には思われていたらしい。だから、禅譲という形で私がIS学園入学と共に襲名になった。

長老衆はこの三年間で私が暗部に向いた性格に変わればよし、変わらなければお父さんに戻して、適任者を探すとするつもりだったみたいだし、実は私も最初から三年間だけだと割り切っていた。

お父さんが言うには「お前は才能はあるが性格が合わん。適任なら分家に居るから、そいつを育てる」だったらしい。何人か親戚の名前が挙がって、その人達は年齢が私より少し上で、既に更識の仕事で活躍している人だったから、問題無いと思ったし、私よりも適任だとも感じだ。

ちなみに、このお父さんの言葉は当主としての言葉でその後に「まあ、お前が、いやお前たちがか。お前たちが自分たちの幸せを見つけて来たんだ。それを後押しするのも親の仕事だよ。更識の長老衆や私達が後継者と考えている子達だって私と同じ考えだよ」と言われた。

更識、布仏の中で近い年代の女の子って実は私達四人だけだったから、親戚の皆に結構可愛がられていたと思うけど、ここまでだったとは思わなかった。

 

 

どうやら長老衆のおじいやおばあ達は本当は私に継がせるつもりは無かったらしい。歴代で女性当主がいなかったわけではないけど、それはその時に最もふさわしい人材だったのがたまたま女性だったってだけ。私も実動部隊で動くならともかく、当主としては不適格だと思うしそれを決める長老衆やお父さんにもそう思われていた。

それが変わったのがISの登場。女性優位の社会になった事で経験豊富な長老衆もお父さんたちもどう動くか読みにくくなったと共に、日本はIS学園という爆弾を抱え込んでしまった。だから、今回政府の依頼もあって特例として私の期間限定の襲名に繋がったという訳だ。

 

 

私がこの名前、『更識楯無』を名乗るのは後大体一年半。最初の一年は私は仮初とはいえ当主なんだから、しっかりしないといけないと思って色々背負い込んで失敗して虚ちゃんにいつも通りで大丈夫と言われてしまった。今思うと更識楯無の名前に押しつぶされそうになっていたんだと思う。

でもその頃は何処か納得いかない感じで居た。だけど、ちょっと前の八雲君を見ていて虚ちゃんの気持ちが分かった気がする。

パンクしかけの無茶をしている八雲君を見て私は放っておけなかった。これは多分、去年の私を見ていた虚ちゃんの気持ちに近いと思う。

まあ……その気持ちが大きくなって、それが彼が大好きだという気持ちに変わっていって、八雲君が私にとってかけがえのない人になったんだけど。

彼に出会ったお蔭で、私は良い方向に変われたと思う。

無茶をしてた時の彼を反面教師に、無茶を止めて私達を包み込むような優しさに触れた時には、私に恋する事の喜びを教えてくれたし、強さと脆さを兼ね備えた彼を支えたいと思うようになった。

学園生活でそして公の場で求められるのはやっぱり『生徒会長・更識楯無』だったり『ロシア代表・更識楯無』。

だけど、八雲君と私と同じ想いを持つ皆の前ではただの『更識刀奈』で居れる。それは、何も気にせず入れるから当たり前なんだけど。つまり、八雲君を支えたい……と思っている私は実は八雲君や皆に支えられているって事だ。

まあ、そんな中でもやっぱり私は八雲君のそばが大好き。

 

 

今日の事を経て私はこれからずっと八雲君と一緒に居れる。皆と一緒に居れる。これだけで私のこの先は幸せな未来が決定されているのと同じ事だ。そう言い切れる。

だから、今はこの想いを抱きしめて指輪を貰った喜びをかみしめよう。愛する貴方から貰ったたくさんの喜びを。




ご都合主義全開の更識家の裏を書きつつの刀奈回となりました。

題名をYtoKにしちゃうとまだ出ていない簪と被るし、YtoTにすると本当の名前を教えて想い合っている関係にはふさわしくない気がしたので、このような表記になりました。

更識家について

原作で更識家は日本の対暗部用暗部となっていますが刀奈さんは自由国籍持ちでロシアの国家代表という矛盾を抱えた存在になっています。
原作では今後どうなるか分かりませんが本作では『日本政府の依頼によるIS学園の防衛能力強化のための期間限定の当主襲名』として、国家代表に関しては実力で勝ち取った物でその後、政府の依頼で更識家の当主を(高校の三年間だけではあるが)継いだという事にしています。
実際の仕事は本家で行われていて、刀奈さんはIS関連の情報を精査し学園の防衛を固めるのがメインの仕事になっているって感じです。


次回は誰になるでしょうか? 可能なら明日、少なくとも近日中には上げる予定です。

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