IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版) 作:ピーナ
注 かなり甘くなっています。
夏休みに入って数日。僕はバニングス社の社長、つまりはアリサの父親のロイさんと母親の杏奈さんに呼び出されて、バニングス社本社……ではなく、アリサの家に呼び出されていた。
「……緊張してる、八雲?」
僕の横に居たアリサが僕の顔を覗き込む。
「柄にもなくしてるね。朝食べた物吐きそう」
「しっかりしなさいよ。こういうのは覚悟してたでしょ?」
「……まあね。でも、二人に言ったのってアリサだろ?」
「だって、嬉しかったんだもん」
……それを言われると弱いなあ。僕としても嬉しいし。
さて、僕も覚悟を決めないと。
「よし、行くか」
「ええ、そうね」
いよいよ決戦ですね。腹括っていきますか。
鮫島さんに案内された部屋のソファには腕組みしているロイさんとその横でにこにこしている杏奈さんが座っていた。
ちなみにアリサは顔立ち的には杏奈さんにかなり似ている。だけど、髪の色や眼の色はロイさんのそれだし、外国人っぽい掘りの深さもロイさんの遺伝だろう。
「……お久しぶりです、ロイさん、杏奈さん」
「そうねえ、霧島君」
普通に僕を出迎えてくれる杏奈さん。ロイさんは変わらない、それが怖い。
「……君は私達に用があるのではないのかね」
話の展開が早い! その辺は世界に名だたる大企業・バニングス社のトップだからなのか⁉ でも、言うしかないだろ。ここで逃げてて、認めてもらえるか!
「はい。アリサを、娘さんを僕にください!」
簡潔かつ、ストレートに。その言葉と共に僕は頭を思いっきり下げる。
……静寂が部屋を包む。基本、静かなのは好きなんだけど、今この時だけはこの静かさが怖い。
「頭を上げなさい」
ロイさんの言葉を聞いて僕は頭を上げる。上げた時のロイさんの表情は……笑顔?
「そもそも、私達は君とアリサの交際やその先の事を反対するつもりは無いよ。そうでなければ、同じ部屋などにしないだろう?」
あ、そう言われてみれば確かに。
「私達も霧島君の事は良く知っているし、君ならアリサを任せられると思っているわ。この人がこうやってたのは、私の父親、アリサの祖父に挨拶に行った時にやられた事をやってみたいと前々から言ってたからなの」
「そ、そうですか」
……なんか、どっど疲れたよ。ロイさんは社長さんだし、何度かあった感じ真面目って感じだったイメージなんだけど、こういう茶目っ気もあったんだね。
「八雲君」
「はい」
そういや、ロイさんに名前で呼ばれたのって初めてだなあ。
「君の傍ならアリサはずっと幸せで居られるだろう。娘の幸せを願うのはどの親も同じだ。……アリサを頼む」
「八雲君の事を話すこの子は本当に幸せそうなのよ。特にこの前翠屋で会った時の夜なんて何年かぶりに心からの笑顔を見たわ。これからもよろしくね、八雲君」
「はい!」
重いなあ。だけど、心地いい重さだよなあ。この人たちの期待に応えれるように、……違うな、僕がやりたい事が出来ればこの人たちの期待にも応えられると思う。だから、精一杯頑張っていこう。
僕はロイさんと杏奈さんの勧めで今日はこの屋敷で過ごす事になった。まあ、この屋敷に訪れたのが三時過ぎでこのままだと帰るのが遅くなるから、僕達も受け入れた。
部屋に案内されるときに鮫島さんに「今日から若旦那様とお呼びしましょうか?」ってからかわれた。……そう言うのはもうちょっと後にしてください。
それで、案内された部屋でのんびりしていると、
「少しいいかな?」
ロイさんが現れた。何の用だろ?
「大丈夫ですよ。僕もただぼーっとしてただけですし」
「そうかい。それで、八雲君、君は将来どうするつもりだい? 卒業後一年だけあっちに行くとは聞いているが」
「……実はですね、夢、っていうか、やりたい事はあるんですよ」
「ほう。差し支えなければ教えてくれるかな?」
「えっとですね……小さくても良いんで喫茶店をやりたいんです。アリサを始めとした皆に僕が作った物を食べてもらって、笑顔になるのを見るたびに、良いな、楽しいなって思うようになったんですよね。だから、自分の店を開きたいです」
後、僕の中で夫婦で幸せそうにやっている翠屋が幸せな家庭像、夫婦像として頭の中に有るのも大きな理由だと思う。
「幸い、両親が遺してくれたお金もありますし、今こうやってバニングス社で雇ってもらってますし、管理局のお給料も手付かずですから、あっちで金や宝石を買ってこっちで換金も出来ます。だから、こっちに戻ってきて、ロイさんが許してくれるならテストパイロットとして数年働きながら勉強して、いずれは……って感じですね」
「ふむ……分かった。君が店を開く気になったらいつでも言いなさい。開店資金は私が出そう」
「えっ⁉ いやいや、良いですよ! ただでさえ、僕の身柄の安全とかで色々迷惑かけてるのに、これ以上迷惑を掛けれませんよ!」
「気にしなくてもいいよ。今日の事で私と杏奈の中では君はもう、私達の息子だ。息子の夢を応援するのは親の楽しみなのだよ」
……ストレートに凄い事言われちゃったなあ。だけど、すごく嬉しいや。こうやって受け入れてくれる人がいる事が。
「……その時になったら、お話に行きます。ロイさん」
「待っているよ。後、私の事はいつでもお義父さんっと呼んでくれ」
「……心の整理を付けたらいずれ必ず」
押されっぱなしだったけど、こういうのも悪くない、かな?
ロイさんが部屋を後にしてすぐ鮫島さんが夕食の支度が出来たと伝えに来て、夕食を済ませ(名前が分からず、とりあえず、ものすごい高級食材で作られたフレンチだとは理解した)、お風呂に入って、部屋でまた休んでいると、
「八雲、少し良い?」
アリサが僕の部屋にやって来た。
「うん良いよ。それで、どうしたのアリサ?」
「何もないわ。ただ、アンタと一緒に居たかっただけ」
「そっか」
僕はベットに腰掛け、アリサは僕が腰掛けている横に座った。そして、僕に半身を預ける。
お互い何も喋らない静かな空間。お昼と同じだけど、この静かさが心地良い。腕から伝わるアリサの温もりが、どうしようもなく嬉しい。
「そういや、ママがご飯の前にパパが八雲に会いに行ったって言ってたけど、何の話だったの?」
「僕の将来の話。まあ、管理局を辞めてからの話だね」
「ほとぼり冷めるまでは、ウチで働くでしょ? その後って事ね。まあ、アンタの事だから喫茶店したいとかでしょうけど」
「……何で分かるの?」
「女の勘。……っていうのは冗談で、ずっとアンタを見てたからね。最近、アンタが一番楽しそうにしてるのは、私達にお菓子を作って楽しそうにしているのを見てる時だったもん」
そんなにわかりやすかったかなあ? ここ数年のせいでポーカーフェイスには自信があったんだけど。
「まあ、そこが切っ掛けなのは否定はしないよ。あのおかげで僕は笑顔を護るだけじゃなくて、笑顔を作る事も出来るって分かったし」
「そう。……ねえ、八雲」
「何?」
「アンタはさ、あの日の病室で私が切っ掛けで押し切って今のようになったけど、良いの? この選択に後悔は無い?」
「無いね。今年の四月まで僕は真っ暗闇の中、ずっと座り込んでた。でも、それをはやてに立たせてもらって動き出して、皆に光を差してもらった。後悔なんてあるもんか。僕の幸せは僕が決めるよ」
関わる人は居るけど、僕の人生は僕の物だ。僕の生きたいように生きる。わがままかもしれないけどね。
「光ってそんな大げさな物じゃないと思うけど?」
「大げさじゃないよ。見えなかったものが皆の言葉で見えたんだもん。僕にとってはそうなんだよ」
「それなら、良かったわ」
これは……僕がこの前買いに行ったものを渡すチャンスって今なんじゃないかな?
「アリサ、受け取って欲しい物がある」
そう言って僕は叢雲の拡張領域にしまっておいた小箱を取り出し、それを開ける。中にはアリサの誕生石であるルビーをあしらった指輪。
「これって……エンゲージリング?」
「うん。こういう事になって、僕からちゃんと形にした物を送りたいなって思ってね。……アリサ、僕は一人に選びきれない優柔不断な男だよ。世間一般の常識から見たらとんでもないクズだよ。そんな僕だけど、アリサを愛していて、手放したくないって気持ちは本物で、この指輪はその気持ちを形にしたものです。……受け取ってくれますか?」
「そんなの、私の答えは決まってるわ。私も八雲を愛してる。でも、この前言った通りすずかも、刀奈も、簪も、本音も、虚も大切なの。だから、こういう形になるように動いたわがままな女よ。だけど、八雲はそれを受け入れてくれた。私の想いごと全部ね。だから、私も受け止めるわ。貴方の気持ち、全部。……はめてくれる?」
そう言って僕に左手を差し出すアリサ。僕はその左手の薬指に指輪をはめる。
「っていうか、冷静に考えたら、私はともかくアンタ結婚できないわよね、年齢的に」
「……あっ」
そう。僕は特別に重婚は認められたけど、それが出来るのは日本の法律と同じ18になってから。今は16なので当然出来ない。彼女達の中にも年齢が理由でまだ誕生日を迎えていない九月生まれのすずか、十二月生まれの簪、一月生まれの本音も出来なかったりする。
ちなみに刀奈さんは三月生まれ、虚さんは二月生まれで皆誕生月はバラバラだったりする。
「忘れてたのね」
「忘れてたし焦ってました。まあ、アリサを誰にも譲らないって意思表示と予約って事で」
「……そんな事しなくても私の身も心も八雲の物よ」
「普段は僕は皆の物だけど、今日はアリサだけの物だよ」
「今日は一緒に居てくれる?」
「今日はなんて言わず、ずっと一緒に居るよ」
「……ホント、何処でそんな気障なセリフ覚えたんだか」
「さあ?」
というより、僕が思うに男子は好きな女の子を口説いたり、喜ばせるためにそういう歯の浮くようなセリフを製造する回路が存在するんだと思う。六年間眠ってたそれが今はフル稼働しているだけ。
「今日は疲れたし、もう寝るよ」
「緊張してたし、仕方ないか。添い寝……してあげよっか?」
「お願いします」
ここでNOを言う奴は居ないだろ、普通。
八雲は疲れていたかもしれないけど、私はそうでもなかったから、彼が眠ってしまっても目は開いていた。
横で寝ている八雲を見ると、静かに寝息を立てている。普段は雰囲気あんまり感じないけど、寝顔と笑った時の顔は年相応って感じがするのよね。いや、割と童顔で小柄だから、年下に見えるかも。
しかも、こんな素敵な物までプレゼントしてくれてさ。そう思いながら私は自分の左手の薬指にはめたままの指輪を見る。
パパの会社関係でパーティーに呼ばれる事も小さい頃から多くて宝石がどれくらいするかっていうのも、同年代よりは詳しいと思う。だから、ちゃんとした指輪がそう簡単に用意できる物じゃない事も分かってるつもりだ。少なくとも普通の高校生がポンと買えはしない。八雲はウチの会社からかなりの額の給料を貰い、良いデータで追加報酬を貰っているから買えたのだとは思うけど。
まあ、夏休みの初日に出掛けた時に買ったのは分かっているんだけど。その日くらいしか買い物に出かけてないし。
さっき突然出された時は驚いたけど、それよりもやっぱり嬉しかった。だって好きな人からのプレゼント、しかも指輪よ? 喜ぶなって方が無理があるわよ。
貰った時は恥ずかしかったから我慢したけど、今は頬が緩みっぱなしだし。
「ホント、決めたら一直線なんだから……」
八雲の良い所で少し直して欲しい所で私が好きな所。ちょっと前まで度が過ぎて破滅へ一直線って感じだったけど、今はブレーキも休む事も覚えたから大丈夫だと思う。
もう一度八雲の寝顔を見る。今まであった隈が無くなって穏やかな寝顔。……やっぱり、今は凄く幸せ。その一言に限ると思う。
私の横で寝ているコイツは「皆の幸せが僕の幸せになる」って言うけど、それは私も同じ。私の、私達の幸せは八雲が幸せが大前提なの。それで、アンタと皆で過ごすなんでもない日常が幸せ。こんな日がずっと続くように私は私なりに頑張ろう。
……八雲のそばに居れるように料理やお菓子作りを勉強しようかしら? いや、そっちは八雲を含めて適任が何人も居るから任せて私は接客や経営面の勉強ね。何事も適材適所って事で。まあ、まだまだ高校生活は続くし、この事はゆっくり考えよう。
「おやすみ、八雲」
私は寝ている彼の唇にそっとキスをして、彼に抱きついて眠った。この暑さですら、心地いいと思えるんだから、本当に私は心の底から彼に惚れてるんだなあと思う。
あ、それと指輪の事は皆に内緒にしておく方が良いわよね。だって、その方が絶対に嬉しいもん。この気持ちを私だけの物にするのはもったいないもの。皆にも味わってもらいたいから。
ここから何話かはこんな感じの話が続きます。
ちなみに順番は八雲のハードルが低い順になっています。
最近、ISの機体ネタがいくつか思いつきました。これを使わないのはもったいない気がするので、その内新作を上げるかもです。