IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版)   作:ピーナ

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二話連続投稿です


第十七話 少年の還りを待つ少女たちの想い

八雲君が瀕死の重傷を負った。

私がその連絡を織斑先生から受けたのは、いつも通り虚ちゃんと生徒会の仕事をしている時だった。

私と虚ちゃんが急いで病院に駆けつけると、この前の学年別トーナメントの時とは比べものにならないほどの大怪我を負って、ベットの上で眠っている八雲君が居た。その横では号泣の本音ちゃんと静かに涙を流す簪ちゃん。

涙ながらに二人が教えてくれた病院の先生の診断によると怪我は、腹部の大穴を始め大小の裂傷が数十か所。そこからの出血で4割ほど血が流れたらしい。診断した先生曰く「後、数分遅れていたら助からなかった。締め付けの強いISスーツのお蔭で繋ぎとめたようなもの」と言っていたほどの怪我だった。

病院の先生が部屋を出ていった後、私は本音ちゃんと簪ちゃんに今までの話の事を聞く事にした。簪ちゃんとはぎくしゃくしてたけど、今だけは無視だ。それは後で考える。

 

「本音ちゃんに簪ちゃん、何があったの? 福音暴走の一報はこっちに来てたけど」

「えっとね……きーりん以外の専用機持ちの皆が勝手に出撃したから、それを退却させるようにきーりんに命令が下りて」

「合流する直前に二次移行した福音は他の皆が落としたんだけど、その後、よく分からない事になって……」

 

よく分からない事? どういう事だろう?

 

「ここからは私が説明します」

 

病室に響く電子音。恐らく一番事情を知っている存在だ。

 

「だ、誰?」

 

そうだった。簪ちゃんは魔法の事を知らないんだった。私達は八雲君が変わった後から、生徒会室で叢雲とも話をしているから、気にはならない。

 

「簪ちゃん、今から簡単に八雲君の事説明するけど……聞く? 軽い気持ちなら後悔するくらい重い話だけど」

「……聞く。私だって皆と同じで八雲君の事好きだもん」

 

姉妹って好きな男の子まで同じになるのかな? 虚ちゃんと本音ちゃんもそうだから、ありえそうだよね。

 

「分かったわ。かなり信じられない内容が入ってるけど、全部事実だから聞いてね」

 

そう言って私達は簪ちゃんに八雲君の事についてのあらましを端折りながら説明していく。簪ちゃんはより暗い顔になっちゃったけど、それを受け入れたようだ。

 

「そう……なんだ。八雲君が大人びて見えるのもそれが理由なのかな?」

「そうかもね」

 

それはありそうだ。普通の人生じゃまず経験しない事を八雲君はこの短い間に経験している。だから、彼と話したりすると自分より年上の印象を受けるのだろう。

 

「お嬢様の説明が終わったので叢雲、お願いします」

 

そこから叢雲が映像を交えた説明を始めた。……八雲君の使った魔法の迫力にびっくりしたけど、叢雲が「あれがマスターの切り札ですから」と言っていたから、納得する事にした。

 

「ねえ、叢雲。八雲君はどうしてこんな怪我を?」

「暴走体を止めるためです。あの暴走体はISでは止めれません。と言うより、あれをあの時地球上で止めれたのはマスター一人です」

「きーりんは変わったんじゃないの~? もう自分から死ににいくような事をしなくなったんじゃないの?」

 

涙を拭いながらそう言う本音ちゃんの言葉通り、八雲君は前回の怪我の時を境にあんな真似をしないって言ったはずなのに……。

 

「マスターは確かに変わりましたよ。結果はこうなりましたけど、マスターには明確に戦う理由がありましたから」

「理由ですか?」

「ええ。マスターにとって、楯無を始めとした生徒会の皆さん、そして本音、簪を始めとした同級生の皆さんが危険にさらされているなら、それを黙って見逃すわけにはいかないんです。そしてマスターは止める手段も分かっている。それだけで命を懸けて退かずに戦う理由になるんです。管理局員のマスターにとっても個人のマスターにとっても。マスターにとっては自分が頑張った結果で誰かの笑顔が見れる事が護れたと思える事が何よりの報酬なのです」

 

それは言うなら八雲君のエゴ。他の人の気持ちも考えない、自分勝手な気持ち。

でも、それが八雲君の根本にあって、どんな時も、自分の命すら価値が見いだせなかった時ですら変わらなかった気持ち。

……本音を言うならこんな事は止めて欲しい。好きな人が傷付く姿なんで見たくない。これは私だけでなく、他の皆も同じだと思う。

でも、それを止めるという事は誰も出来ない。それを否定する事は多分、彼が彼じゃなくなる。そんな気がするから。

……今の私が彼の為に出来る事はあるのだろうか? 分からない。誰でもいい、答えを教えて欲しい。

そんな事を考えるとこの病室に近付いてくる足音が聞こえた。

 

「楯無! 八雲の容体は!」

 

病室に駈け込んで来た、さっきの足音の主であるアリサ。

 

「アリサちゃん、病院では静かにね?」

 

後ろにはすずかちゃんも居る。今の八雲君の身元引受人はアリサのお父さんであり、バニングス社そのものだ。だから、会社経由でアリサに連絡がいったのだろう。そこから、すずかちゃんにもいったんだと思う。

 

「落ち着いてください、アリサさん。重傷ですけど、危ない所は抜け出したみたいです。意識を取り戻せば大丈夫だそうです」

「そう……。ホント、ゴキブリみたいな生命力ね」

「それはちょっと酷くない? アリサちゃん。それで、そちらの楯無さんに似た子は?」

 

そこから、簪ちゃんとアリサ、すずかちゃんの自己紹介をしてもう一回叢雲が事情説明。取り乱した私達と違って、二人はそれを粛々と受け入れた。

多分、気持ちとしては私達とそこまで変わらないと思う。でも、それ以上に二人は彼らしさを尊重しているのだと思う。……強いなあ。

 

「なるほどね。事情は分かったわ。……それと、アンタ達四人は一度顔を洗ってきなさい」

「えっ?」

 

アリサに突然そう言われたので、理解が出来なかった。

 

「四人ともその方が良いですよ」

「アンタ達、今結構酷い顔してるわよ。そんな顔で目を覚ました八雲に会うつもり? それなら今のうちに顔を洗ってきなさい」

「……そうするわ」

 

そう言って、部屋を出て近くのトイレに入った。鏡に映った私達の顔は確かに酷い物だった。こんな顔で八雲君に会ったら心配かけるわね。

 

 

 

私の幼馴染で初恋の人、霧島八雲は、誰よりも愚直で、不器用。でも、そんな八雲が私はいつの間にか、好きになっていた。だからこそ、アイツが愛する人に、アイツの心に住み続けるはやてに嫉妬をした事もある。

アイツは死にかけて、アイツの最愛の人に短い時間だけだけど再会した事でようやく前を見て歩き出した。

それからの八雲は少しずつだけど、確実に昔に戻っているように思う。いや、八雲にとって辛かった数年間にも向き合って、消化する事でより魅力的になったと思う……のは、惚れている私のひいき目からだからかな?

でも、生き方はまだまだ変えれないらしい。……いや、たとえ生き方を変えれたとしてもあの状況では退かないと思う。それが霧島八雲の変えられない所だと思うから。

私の本音を言うなら、こんな危ない目に合う様な事は止めて欲しい。もう八雲は十分に傷付いたのだから、これ以上傷付いてほしくない。これは私だけじゃない。他の皆も同じ気持ちだと思う。

でも、それを止めてしまったら、否定してしまったら、きっと霧島八雲じゃなくなる。少なくとも私達の好きなアイツじゃなくなる。そんな気がする。だから、否定する事は出来ない。ならばどうすれば良い? 私に出来る事は? 病院までの道でひたすら考え続けた。

その結果……1つだけ思いついた。じっくり考えればもっと手段はあるだろうけど、今の私にはこれ以上の方法は思いつかない。ただ、これは『私の出来る事』じゃ無い。私のやりたい事、自分勝手な気持ちだ。

色々思う事はあるし、傍から見たら、ありえない選択。それにこれはアイツの事を何も考えない、ただの気持ちの押し付け。だけど、私は後悔をしたくない。だから、この時だけはやりたい事をやろう。




引っ張りますよ~。

というより、ノリノリで書いてたら文字数が8000字近く言ったので、二つに分けました。

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