IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版)   作:ピーナ

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福音戦の後半戦をお送りいたします。


第十六話 剣と魔を以って

(叢雲、福音の位置は掴んでるよね?)

(もちろん。先ほどの交戦地点から東南東に10キロの地点に佇んでいます)

(いざとなったら、飛行魔法で飛んで行って、戦闘時にIS纏う方法で行けばいいか)

 

今僕は昨日から泊まっている部屋でのんびりしている。作戦が失敗したので、待機と休息を命じられたからだ。部屋に戻る前に僕は戦闘した感じやそのデータを纏めて報告しておいた。作戦の一助になれば良いかな。

だから、昨日買ったお菓子とお茶を飲みながら、次の指示を待っている。……っと、来たな。

 

「何ですか?」

『お前以外の専用機持ちが無断で出撃した。連れ戻して欲しい』

「了解」

 

立ち上がって、すぐに外に出る。その時、ふと気になった事が有ったので織斑先生に聞いてみる。

 

「……あの、僕以外って言ってましたけど、まさか織斑君も?」

『そうだ』

 

あの怪我でどうやって? いくら操縦者保護があるって言ってもISの操縦の体への負担は半端ない。怪我がある状態で乗って良い物じゃない。怪我の悪化はほぼ確実。下手すりゃ命を落としすらする。

 

「分かりました、連れ戻してきます。……しかし、どうやって位置を把握したんですかね?」

『大方、ボーデヴィッヒがドイツの軍事衛星を使ったのだろう。そこそこの地位にある軍人だからな』

「なるほど」

 

職権乱用にもほどがあると思うけど、それは今は良いか。さっさと行こう。

 

 

 

織斑先生に教えてもらった位置に向かうと、もう福音戦は終わっていた。めでたしめでたしだね。さて、皆に……

 

(マスター、高魔力反応! 福音の地点からです)

(まさか、この前の学年別トーナメントみたいな事!?)

 

福音の残骸は見る見るうちに変化していき、異形の暴走体になった。まるで海坊主だな。……ってそんな事言ってる場合じゃないだろ! とりあえず、全員を逃がさないと……。

そう思った瞬間、暴走体の近くにいた織斑君に鋭い触手が襲い掛かる。織斑君は相手から目を離していたからよけきれない。

 

「クソッ」

 

僕は触手と織斑君の間に割って入り、それを受け止める。絶対防御、ISスーツを貫き、僕の体にそれは突き刺さった。そこから流れ出る僕の血。これは……結構深いかな。

 

「き、霧島……?」

「やあ、専用機持ちの皆さん。織斑先生の指示で引くように促せと言われて来たから、さっさと退いてくれないかな? どうせ、あの化け物と戦うエネルギーなんてないし、そこにいる福音のパイロットさんも連れてかないと駄目でしょ?」」

「でも、お前のその傷!」

「これ? 見た目ほど痛くないから、大丈夫。それより、さっさと退いて。仕事が出来ない」

 

無論、痛くないってのは嘘だ。メチャクチャ痛いし、今この瞬間も血は流れている。意識だけ失わない様に気を張らないとね。

 

「お前を放っておいて下がれるか!」

「そう言う問題じゃないんだよ。ここから先は僕の管轄。たとえ。織斑先生がなんと言おうとも、これを何とか出来るのは今は僕だけなんだよ」

 

事情の知らない、魔力を持たない人間が居た所で余計な被害が出るだけ。それに、僕にはそれを説明をする余裕も無い。だから、早く退いてほしい。

 

「でも!」

「……ああ、めんどくせえ。叢雲、僕と、アイツだけを切り取った結界を頼む」

「了解」

「なにを……」

 

全ての言葉を聞かぬまま、結界が展開される。これでこの結界内には僕と暴走体のみ。

 

「とりあえず、応急処置するか。キュア」

 

と言っても、傷が大きすぎるから、ほとんど効果がない。……何時まで持つかな?

 

「といっても、ここから先で暴走させるわけにはいかないよなあ」

 

この先には本音や簪を始めとした無関係な同級生たちが居る。なら、僕は持てるすべてを使って、守り抜こう。それが僕の選択だ。自分自身が後悔しないための選択だ。

 

「叢雲、オーバーリミッツで片を付ける」

「マスター、体の負担が大きすぎますし、隙も生まれます。今の状態ではあまりにも危険です」

 

相棒である叢雲の僕の体を慮った忠告。それは嬉しい。だけど……

 

「んなもん、知ってるけど知った事か。僕がやらないで、誰がやるっていうのさ。僕の魔と剣を以って人々を守る。これが今の僕の選択だ」

「……了解」

「ゴメンね、叢雲。こんな無茶しいのマスターでさ。……カートリッジフルロード。オーバーリミッツ強制解放!」

「Mode Release Over Limit」

 

オーバーリミッツの強制解放で、体が悲鳴を上げる。でも、この程度で!

 

「天光満ところに我はあり」

 

膨大な魔力を感知したのか、暴走体は僕に向けて攻撃を激しくする。隙だらけの僕はそれを受けるしかない。だけど、詠唱だけは止めない。

 

「黄泉の門開くところに汝あり」

 

正直、血の流し過ぎで意識が朦朧とするけど、それを意地と気合で堪える。

 

「出でよ神の雷! ……この勝負、僕の勝ちだ! インディグネイション!」

 

僕の最大級の魔法を発射する。絶対的な自信を持つ切り札。これで、沈んでくれよ。

 

「魔力反応なし。封印を確認」

 

よ……かった……。叢雲の報告を耳にして一安心する僕。やば……安心したら張り詰めてた気が……。

 

「叢雲、後はま…かせ……」

 

最後まで言い終わらず、僕は意識を失った。

 

 

 

きーりんがおりむーを助けて、その後モニターから化け物と一緒に消えてしまって作戦室内は混乱していた。

織斑先生は専用機持ちを退却させ、次の事態に備えようとしている。

多分、この事態をこの場で把握できているのは私だけ。

画面から消えたのは魔法の被害を減らすための結界。それを使ったという事は、きーりんはとても大きな魔法を使って決着を着けるつもりなんだろう。怪我の事もあるし、時間に余裕も無いだろうから。

決着を着けて、最速で帰ってくる手段は、転移魔法。これなら、ISみたいに体への負担も掛からないから、怪我人であるきーりんが選ぶ手段だろう。

私が出来る事はきーりんが来そうな所を予想して、すぐに織斑先生に報告する事。応急処置の医療班の用意は先生がしていたから、それだけでもしないと。

私は、自分の目の前のモニターに旅館近くの海岸を映して、その映像に集中する。……来た!

 

「織斑先生! きーりん、海岸に発見しました!」

「そうか。医療班! 急いで治療に行け!」

 

織斑先生の指示であわただしくなる、作戦室。

医療班の報告できーりんは病院に運ばれる事になった。

 

「更識、布仏」

 

救急車が来るまでの間に私とかんちゃんは織斑先生に呼ばれた。

 

「何ですか、織斑先生」

「事態が収束したか、まだ微妙な所なので、私はこの場から離れられない。後始末もあるしな。なので、お前たち二人には霧島に付き添って病院に行ってもらいたい。頼めるか?」

「「はい!」」

 

むしろ、きーりんの容体は私もかんちゃんも気になる所だったから、渡りに船といった所だった。

だけど、担架に横になって運ばれているきーりんを見て、私達は言葉を失った。

お腹にある大きな傷口からはもちろん、それ以外にも大小、いくつもの怪我がある。そこから流れ出た血でISスーツは赤茶色に染まっている。

それを見てからの事は私は全然覚えていない。それくらい、衝撃の光景だった。

 

 

 

大怪我を負っている八雲君の姿を見てから本音はずっと泣き続けている。救急車に乗っている間も、手術中も、病室に運ばれてからも。

私もショッキングだったけど、横で本音が泣いていてくれたから冷静になれた。だから、落ち着いて病院の先生に八雲君の容体を聞いて、それを旅館に居る織斑先生に報告した。とりあえず、私がやるべき事はこれで終わり。

病室の八雲君の枕元に座り、一息付く。する事が無くなったからなのか、やる事をやって気が抜けたのか、涙があふれ出してきた。一度そうなると、涙は止まってくれない。拭っても、どんどん流れてくる。

お願い……目を覚まして、八雲君。




これにて福音戦は終了です。いかがだったでしょうか?


傷付いた八雲を見た、本音と簪の描写を追加しました。前の話で作戦に参加しているようにしたので、このようにしても良いかな? と思いました。

次回は……リメイク前の事を知っている方なら、どうなるかご存知でしょう。お楽しみに。

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