IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版) 作:ピーナ
「海か……」
僕はバスの外に見える景色を見てそう呟いた。海なんて見慣れたものだから、他の周りほど盛り上がれない。むしろ、海は良い記憶がない。戦いの記憶だけだ。初めて魔法に関わった、ジュエルシードの時も最後はそうだったし、僕は直接見ていないけど闇の書の時も最後は海だったらしい。
……そういや、しおりに僕の部屋がどこか書かれていなかったけど、何処になるんだろ?
旅館に着いて部屋に案内される。
僕の部屋は一人部屋。しかも泊まっている旅館で一番いい部屋だ。織斑先生が言うには会社側が用意してくれたらしい。後で社長にお礼を言っておこう。
今日のこの後の時間は自由時間で、大体の人間は海に行くみたいだけど、僕は行く気が無い。
だって疲れるし。それに、僕の傷だらけの体を見せて、気分を悪くしてしまうのもどうかと思うし。これが理由で僕のISスーツはダイビングのウエットスーツみたいな全身をすっぽり覆うタイプの物になっている。
「お土産でも見に行くか。アリサとすずかと楯無さんと虚さんに」
なのは達や海鳴の人はいつ会えるか分からないから、買えないなあ。
後ろ二人は去年おととしと来てるから、要るかが微妙だけど、まあ、普段のお礼って事で。しかし、何にしようか。とりあえず食べ物系統にしようとは思う。キーホルダーとかアクセサリーとかも売ってるけど、僕はセンスないし、好みに合わなかったら貰っても嬉しくないだろうし。
とりあえず、一番量の少ない物を全種類買っていく。
「きーりん、何してるの~?」
全部の商品をカゴに入れて、会計に行くタイミングで本音に話しかけられた。後ろには一人女の子がいる。見た事無いから、別のクラスの子だろう。……雰囲気は違うけど、顔のパーツは楯無さんに似てる気がする。
「お土産探し。自分がちゃんと勧めれるもの買わないとね」
「おねーちゃんとおじょーさまに?」
「うん。後、アリサとすずかにもね。本読みながら、これを食べて時間を潰そうかなって思って」
「海にはいかないの~?」
「面倒。それに僕が長袖ばっかの理由も知ってるでしょ?」
生徒会の皆は僕の体の傷の事を知っている。アリサが僕の事を全部話したから。
「たしかにね~。そんじゃ、かんちゃんの事任せるよ~」
そう言って、本音は海の方に行ってしまった。……僕にどうしろと?
「「……………」」
無言の室内。
あの後、あそこで立ち尽くしても仕方ないので、一人部屋だった事もあり、ゆっくり出来るから僕の部屋に誘った。が、無言。本音がかんちゃんといっていた、更識簪さん。一年四組の代表で、日本代表候補生で、楯無さんの妹さん。簪さん(苗字で呼んだら呼ばないでと拒否されたので名前で呼んでいる)は空間投影型のディスプレイとキーボードを使って作業をしている。
ミッドではかなり一般的に普及してるけど、地球ではかなり高くて持ってる人は少ないから、あんまり見かける事がない。持ち運びが便利だし、ここで作業するつもりで持って来たのかな?
「えーっと、簪さん?」
「……何?」
「お菓子あるから、どうそ」
「ありがとう……」
だーっ、会話が続かねえ~。つーか、何を話せばいいんだ?
……そっか、アリサもすずかも楯無さんも本音も虚さんも話題を振ってくれるから、会話に困らないんだな。その能力が僕には無い、と……。やばいよなあ……。
「何やってるかは知らないけど、根詰めてやってて疲れない? 少し休んだ方が良いよ」
「……姉さんや本音に何も聞いてないの?」
「いや、全然。僕自身今の生徒会の人とクラスの何人かしか交流ないし。その交流を本格化させたのもここ数週間くらいだし。もしかしたら言ってたかもだけど、その頃の僕は何にも興味無かった頃だしね」
でも、多分楯無さんも本音も虚さんも言ってなかったと思うんだけどな~。
「そう……。でも、これは私が今最優先でやらないと駄目な事だから」
「差し支えなければ教えてくれる?」
簪さんは少し考えた後、話し出した。
「……本当は私も霧島君みたいに、専用機が貰えるはずだったの。でも、織斑君の専用機の開発で私のは中止。私はそれを引き取って、自分で開発しているの」
「……いや、それって普通に凄いじゃん。代表候補生に選ばれる腕があって、それでなおかつ、開発できる能力もあるなんてさ。僕なんて、会社の人に付きっきりで最低限の整備の知識を教えてもらっただけでヒイヒイだよ」
この時、僕は技術者向きじゃないと本気で思った。どこまで行っても扱う事にしか適正は無い。
長期の任務で次元航行船に乗り込んだの時、持ち込んだ本を全部読んだ後にデバイスマスターの試験の参考書があったから目を通してみた時も頭が痛くなったし。
「でも、姉さんは独力で組み上げたし、私も負けたくない」
……ん? なにかおかしいぞ。
「ちょっと待って。僕が楯無さんから聞いた話だと、楯無さんの機体は七割は出来ていて、詰まっていた所を同級生や虚さんの協力があって作り上げた、努力の結晶って言ってたけど?」
「えっ?」
何故か、根本的な食い違い。これは何が正解なんだ? 今わかっている事を組み合わせていく。
「うーん……話を纏めて、考えると、楯無さんが自分の専用機の開発に関わったのは間違いない。だけど、独力じゃない。でも、噂に尾ひれが付いて、『楯無さんが開発した』になったって事かなあ。多分。もしくはロシアのプロパガンダか」
「……私は今まで思い違いをしてて、意固地になってたって事? じゃあ、これからどうすれば……」
思わぬ事実に動揺を隠せない簪さん。まあ、根本から崩す事だしな。
「うーん……、正直それは簪さん次第だと思うよ?」
「私次第?」
「うん。簪さんが何を一番したいかによると思う。例えば『ISを独力で作る事』なら、今まで通りで良いし、『ISの腕を磨きたい』なら、ここで止まっていられないだろうから、使える物は何でも使って一刻も早く完成させる、とかね」
でも、この『一番したい事』をはっきり決めるのは難しい。実際、あの日から数年の僕はこれを見つけられず、ひたすら戦い続けていたわけだし。今僕の一番したい事は……僕の次の人生の指針を見つけたい、かな?
「私が一番やりたい事……姉さんに追いつきたい。いや、追い抜きたい」
「ふむ、ハードル高いね。楯無さんに追いつくとなると……専用機の完成と国家代表になる事かな。これで追いつけたって言えると思うよ。追い抜くには……IS学園の公式戦で勝つか、専用機開発を自分だけでやり遂げるか」
もしくは両方なんだけど、それをするには時間が無さすぎると思う。だから、どっちかに絞った方が良い。
「確かに高い。でも、やみくもに何かをするよりもはっきり目標がある方が良い。努力のし甲斐がある。……なんか、霧島君、同い年って感じがしないね」
そういう、簪さんの目はまっすぐ前を向いていた。力になれたようで何よりです。
そりゃ、前世の記憶も持ってますし、今世でも色々経験してきましたからね。
「大人びてるっていう褒め言葉として受け止めておくよ。方向も決まったんだし、臨海学校の間はゆっくりすれば? リフレッシュと切り替えの意味も込めてさ」
「……うん、そうする。色々ありがとう、霧島君」
「僕も下の名前で良いよ。後、楯無さん関係で色々あるっぽいけど、楯無さんに言いたい事があるなら、言っておく方が良いよ。言わない後悔より、言って後悔した方が絶対良いから」
これは僕の経験。何時、その人と会えなくなるかは分からない。だから、胸の内に秘めている物はなるべく伝えた方が良い。伝えないで良い物もあるけど。僕はこの事で後悔をしたから、この言葉を言った。同じ思いはしてほしくないし。
「考えてみるよ」
「頑張ってね、簪さん。応援してるよ。僕が力になれる事ならいつでも言ってね」
「ありがとう。後、その……私も本音みたいに呼び捨てで良い」
「うん、分かった。よろしくね、簪」
「よろしくね、八雲君」
そう言って、簪さん改め簪は部屋を出ていった。
その日の夜、夕食の時に会った本音に「かんちゃんの雰囲気が柔らかくなってたけど、何かしたの~?」と聞かれたので今日会った事を簡単に話したら、「色々ありがとね~。ちょっと前のきーりんよりは酷くなかったけど、かんちゃんも思いつめてたから、何とかしたかったんだよね。きーりんに会わせて、良い方向に持ってければって考えてたけど、想像以上だよ~」と言っていた。
なるほど、あそこでの行動は本音の計算通りだったんだね。
本音は簪さんにとって、僕におけるアリサやすずかの立ち位置で、僕は楯無さんの位置に居る訳だ。
アリサとすずかは僕を立ち直らせるために、僕の交友関係に関係無くて信頼のおける人を近くに置いて、別の方向からのアプローチをやったみたいだけど、今回もそれに近い。
……まあ、丸く収まったわけだし、僕が少しでも力になれていたのなら、それでいいかと思う。
あ、そうそう。お土産はせんべいにしました。個人的に一番好きだったので。買ったら、お店の人にせんべいにあうお茶を紹介されたので、それもセットで買いました。
のんびりペースの艦これイベの合間に投稿です。今日中にE-2の突破を考えていたのですが、かなりスムーズに攻略できたので(出撃9回でゲージ破壊完了)この時間での投稿となりました。
今回はほとんど修正前7話と同じです。変わったのは細かい言い回しレベルです。
次回はほぼ新作になります。